0000_,16,982a01(00):敕修吉水大師御傳縁起序 0000_,16,982a02(00):圓光大師爲救火宅焚燒之苦開淨土易往之捷徑 0000_,16,982a03(00):普引羣萠令沐蓮池之淸凉能事已畢終北首于華 0000_,16,982a04(00):頂山頭焉奉事門人聖覺法印隆寬律師勢觀上人等各 0000_,16,982a05(00):紀大師之行實而雖行于世互具略不同未全備 0000_,16,982a06(00):時及澆季而不明宗義輩濫作爲僞傳混雜實 0000_,16,982a07(00):錄於是 0000_,16,982a08(00):後伏見上皇敕叡山功德院舜昌法印重令修撰之 0000_,16,982a09(00):欽奉 聖旨稽數編實錄削繁補缺事實精詳無 0000_,16,982a10(00):所遺闕且添以畵圖彰於其事如彼永明道蹟曁 0000_,16,982a11(00):列仙傳等其類尤多蓋不知文字者見繪則如親 0000_,16,982a12(00):逢其事感喜而敬仰不假解説而意趣自明此則誘 0000_,16,982a13(00):人善巧方便也亡慮四十八軸艸書已畢徹 0000_,16,982a14(00):天覽大愜 皇情乃令繪所畫圖之特行狀之詞 0000_,16,982a15(00):上皇洒宸翰後二條帝伏見法皇及尊圓法親王亦 0000_,16,982a16(00):同之且紳纓之中撰數人之能書令書寫傳文焉 0000_,16,982a17(00):於是大師一代之化儀燦然明也此則開佛日於聖日 0000_,16,982b18(00):轉絲綸於法輪寔是希世之法財淨家之龜鑑也亦別 0000_,16,982b19(00):有副本其外詳悉之事臨文可知茲不復矣獅子谷 0000_,16,982b20(00):忍澂上人留心淨土以弘法利生爲己任六時禮誦 0000_,16,982b21(00):暇著敕修繪詞傳縁起一卷同作目錄一卷而令便 0000_,16,982b22(00):於搜索附諸謙充長老此是先師之手澤如受寄 0000_,16,982b23(00):重寳笥之年已尚今年丁先師七回之諱日欲鋟 0000_,16,982b24(00):梓以酬法乳之恩而請余序余曰有書不弘通與 0000_,16,982b25(00):無書等今刻之傳于世可謂有功於澂公者也常 0000_,16,982b26(00):寂光中覽此盛擧點頭微笑必矣余與澂公有蓮 0000_,16,982b27(00):社之舊盟不顧老耄謾拈禿毫題數言爲之序 0000_,16,982b28(00):旹 0000_,16,982b29(00):享保二年丁酉佛歡喜日 0000_,16,982b30(00):憶佛居八十七翁如實合十書 0000_,16,983a01(00):敕修吉水圓光大師御傳縁起 0000_,16,983a02(00): 0000_,16,983a03(00):法然上人行狀畵圖一部四十八卷は。九十二代後伏見 0000_,16,983a04(00):上皇。叡山功德院舜昌法印に敕して。昔年吉水門人 0000_,16,983a05(00):の記する所の。數部の舊傳を集めて。大成せしめ給 0000_,16,983a06(00):ふにぞ侍る。これによつて世の人。敕集の御傳と稱 0000_,16,983a07(00):して。ことに尊重する事にはなりぬ。つらつらこれ 0000_,16,983a08(00):を拜閲するに。行狀の詳悉にして。文章の優美なる 0000_,16,983a09(00):事。諸傳に比類なし。安心起行の要義は。吉水の遺 0000_,16,983a10(00):訓玉をつらね。念佛往生の靈驗は。僧俗の先縱鏡を 0000_,16,983a11(00):かけたり。誠に大師一代の化儀を記すといへども。 0000_,16,983a12(00):兼てはまた發心の勝縁西方の良導なるものをや。昔 0000_,16,983a13(00):我大師御在世の時。常に左右に親炙しける門弟の中 0000_,16,983a14(00):に。聖覺法印隆寬律師勢觀上人など。をのをの。師 0000_,16,983a15(00):の行業を錄しとどめられける。傳記數編古より世に 0000_,16,983a16(00):行はれて。大師の道跡いちじるし。又まのあたり。 0000_,16,983a17(00):吉水の敎化に浴し給へる。君臣僧俗の行狀も。あひ 0000_,16,983b18(00):つゐで門人の記せる傳文。あまた世にとどまりて。 0000_,16,983b19(00):共に當時の實錄にして。後の世の鏡なりけり。しか 0000_,16,983b20(00):あれど。祖師を去こと。やや遠ざかりゆくままに。 0000_,16,983b21(00):背宗の徒又きをひをこりて。みだりに傳記を作爲せ 0000_,16,983b22(00):しより。玉石すこぶる色をあらそひ。眞僞ほとほと 0000_,16,983b23(00):跡をみだす。かくては。末の世の人のまよひ。法の 0000_,16,983b24(00):わざはひなるべし。爰に後伏見上皇。本より大師の 0000_,16,983b25(00):德行を。御信仰ましましけるが。叡慮もかたじけな 0000_,16,983b26(00):く。かかる事をや思召されけん。上人の道跡より。 0000_,16,983b27(00):弘敎の門弟。歸依の君臣等の行狀に至るまで。ただ 0000_,16,983b28(00):吉水門人の。をのをの記し置る。舊記をかんがへて 0000_,16,983b29(00):事の同じきをはぶき。跡の異なるをひろひ。數編の 0000_,16,983b30(00):傳記を總修して。一部の實錄となし。萬代の龜鑑に 0000_,16,983b31(00):そなへまうすべき旨。舜昌法印に仰下さる。法印つ 0000_,16,983b32(00):つしみ承りて近代杜撰の濫述をば擇びすて。ただ門 0000_,16,983b33(00):人舊記の實錄をのみ取用て。類聚して編をなせり。 0000_,16,983b34(00):しげきをかりては。要をあつめ。漢字を譯しては。 0000_,16,984a01(00):和語となし見る人ごとに。尋やすくさとりやすから 0000_,16,984a02(00):しむ。をよそ二百三十七段。段ごとに畫圖をあらは 0000_,16,984a03(00):し。卷を四十八軸にととのへて。奏進せらる。上皇 0000_,16,984a04(00):叡感かぎりなく。更に才臣に命じて。事實を校正 0000_,16,984a05(00):し。文章を潤色せしめ。繪所に仰てくはしく丹靑の 0000_,16,984a06(00):相を成しめ給ふ。しかのみならず。行狀の詞は。上 0000_,16,984a07(00):皇まづ宸翰を染させ賜へば。後二條帝伏見法皇も。 0000_,16,984a08(00):共に御隨喜ましまして。同じく宸筆を染させたまへ 0000_,16,984a09(00):り。又能書の人人。靑蓮院尊圓法親王。三條太政大 0000_,16,984a10(00):臣實重公。姊小路庶流從二位濟氏卿。世尊寺從三位 0000_,16,984a11(00):行尹卿從四位定成卿に敕して。をのをの傳文を書し 0000_,16,984a12(00):め給へり。所謂一二三七八の五卷は。後伏見上皇の 0000_,16,984a13(00):宸翰なり。十四十五但月輪禪閤より下は。尊圓親王筆廿二但或人より下は行尹卿筆廿 0000_,16,984a14(00):五廿六但上野國御家人より下は。濟氏卿筆卅三卅四卅五卅六但勝法房の一段。濟氏卿筆卅 0000_,16,984a15(00):七卅八卅九四十二の十三卷は。後二條帝の宸翰なり。 0000_,16,984a16(00):第四十は伏見法皇宸翰なり。九十十一十二十三十八 0000_,16,984a17(00):三十の七卷は。尊圓親王の筆なり。第卅一は實重公の 0000_,16,984b18(00):筆なり。十六十七廿四廿七廿八廿九卅二四十一四十 0000_,16,984b19(00):三四十四四十五四十六四十七四十八の十四卷は。濟 0000_,16,984b20(00):氏卿の筆なり。四五六廿一但又一紙より下は。濟氏卿筆廿三の五卷 0000_,16,984b21(00):は。行尹卿の筆なり。十九但仁和寺に栖尼より下は。行尹卿筆二十但遠江國より下 0000_,16,984b22(00):は。濟氏卿筆の二卷は定成卿の筆なり。かくて四十八卷の 0000_,16,984b23(00):繪詞。やうやく繕寫事をはりにしかば。上皇斜なら 0000_,16,984b24(00):ず悅ばせ給ひて。繕寫の御本をば。やがて官庫にぞ 0000_,16,984b25(00):納められける。上皇又思召れけるは。もしながく官 0000_,16,984b26(00):庫に秘藏せば。利益衆生のはかりごとにあらず。ま 0000_,16,984b27(00):たみだりに披露せば。紛失の恐れなきにしもあらず 0000_,16,984b28(00):と。依之重てまた。繪詞一本を調られて。副本にそ 0000_,16,984b29(00):なへ。かつは世間傳寫の因縁にもなさばやとて。更 0000_,16,984b30(00):に御草案の畫圖を。取用ひさせ賜ひて。又一部重寫 0000_,16,984b31(00):の叡願をおこさせたまひけるに。これも程なく功成 0000_,16,984b32(00):てけり。第一第十一第卅一の三卷は。伏見法皇の宸 0000_,16,984b33(00):翰。第八第廿の二卷は。世尊寺從三位行俊卿の筆。 0000_,16,984b34(00):殘り四十三卷は。後伏見上皇ことごとく宸筆を染さ 0000_,16,985a01(00):せ給ひけるとぞ。誠にためしなき。不可思議の御善 0000_,16,985a02(00):事なりけり。正本副本兩部の御傳。おのおの四十八 0000_,16,985a03(00):卷の繪詞。德治二年に初まり。十年あまりの春秋を 0000_,16,985a04(00):へて。其功ことごとく成就し給ひぬ。就中。伏見院 0000_,16,985a05(00):御落飾の後は。上皇世の政を知しめして。ことに御 0000_,16,985a06(00):いとまましまさざりける。比しも。なを衆生利益の 0000_,16,985a07(00):ために重寫の御沙汰まで思召入させ賜ひけん。御宿 0000_,16,985a08(00):善の程。よもおぼろけの事には侍らじ。さればいに 0000_,16,985a09(00):しへより。今の世まで。御傳の利益の。世に盛なる 0000_,16,985a10(00):を思へば。みな上皇の御賜なり。かたじけなきには 0000_,16,985a11(00):侍らずや。これぞげに。かの王身をもつて得度すべ 0000_,16,985a12(00):きものには王身を現じて。爲に説法すとなんいへ 0000_,16,985a13(00):る。普門示現の御跡なるべし。さらではいかにと。 0000_,16,985a14(00):すずろに感涙をもよほし侍る。さて重寫の御本を 0000_,16,985a15(00):ば。世間に流布して。衆生を利益すべしとて。舜昌 0000_,16,985a16(00):にぞ給はりける。これより世こぞりて。敕集の御傳 0000_,16,985a17(00):と稱して。展轉書寫して。ひろく京夷にひろまりけ 0000_,16,985b18(00):れば。諸人の尊重する事。はるかに。往昔門人の書 0000_,16,985b19(00):記にこえたり。されば道俗貴賤。御傳を拜見して。 0000_,16,985b20(00):念佛門にいる人はなはだおほく。法印の嘉名も。遠 0000_,16,985b21(00):近に聞えしかば。其比台徒の中に。いきどほりをな 0000_,16,985b22(00):す人出來て。舜昌名を我山の衆徒にかりなから。顯 0000_,16,985b23(00):密の行業をさしをきて。ひとへに念佛の興行を致し。 0000_,16,985b24(00):あまさへ他師の行狀を記せる事。はなはだ其いは 0000_,16,985b25(00):れなしと。そしりをなすともがら。山洛の間に聞え 0000_,16,985b26(00):ければ。法印又述懷鈔をつくりて。山門にぞをくら 0000_,16,985b27(00):れける。其略云老愚齡すでに八旬にせまりて。病し 0000_,16,985b28(00):きりに五内ををかす。なにのいさみありてか。身に 0000_,16,985b29(00):憍慢をいだき。心に偏執をおこさんや。非器不堪の 0000_,16,985b30(00):身は。永く聖道難行の研精に堪ざるゆへに。淨土易 0000_,16,985b31(00):行の悲願をたのむばかりなり。これまたく入聖得果 0000_,16,985b32(00):の敎を。いるかせにするにもあらず。又利智精進の 0000_,16,985b33(00):人を。さみするにもあらず。抑彌陀本願の念佛往生 0000_,16,985b34(00):は。一代敎主釋尊の誠諦の言なり。六方恒沙諸佛の 0000_,16,986a01(00):證誠の説なり。山王權現納受し給へる行なり。大師 0000_,16,986a02(00):先德依用したまへる勤なり。もし是をも難ぜらるべ 0000_,16,986a03(00):くは。まづ敎主釋尊を難じ。恒沙の諸佛を難じ。次 0000_,16,986a04(00):に山王權現を難じ。大師先德を難じ申さるべき歟。 0000_,16,986a05(00):其難またく老愚が身の上にはあづからじ。就中。非 0000_,16,986a06(00):器不堪の老愚は。一乘修學の窓。とこしなへにくら 0000_,16,986a07(00):して。眞常性の月。かげをかくし。五相成身の觀。 0000_,16,986a08(00):こらしがたくして。本不生の水。にごりをます。顯敎 0000_,16,986a09(00):にも密敎にも。進退ともに度をうしなひ。眞諦にも 0000_,16,986a10(00):俗諦にも。内外ともに忙然たり。もし易行をさしを 0000_,16,986a11(00):きて。難行に堪ずば。出離の道なにをもつてか。先 0000_,16,986a12(00):途とすべきやと。いとねんごろに曉諭し給ひけれ 0000_,16,986a13(00):ば。誹謗の輩も。さすがにことはりにやをれけん。 0000_,16,986a14(00):またさまたぐる人なかりけり。それ舜昌大德は。山門 0000_,16,986a15(00):の住侶にして。はやく僧綱にすすみ。學は顯密をき 0000_,16,986a16(00):はめ。德は智行をかねて。瑜伽の壇の上には。四曼 0000_,16,986a17(00):不離の花をながめ。觀念の窓の前には。三諦圓融の 0000_,16,986b18(00):月をすまして。台宗の名匠。一時の雄才たりといへ 0000_,16,986b19(00):ども。智惠のさきら。いみじくして。自力斷證のか 0000_,16,986b20(00):なひがたきをわきまへ。厭欣の思ひふかかりしかば。 0000_,16,986b21(00):他力往生の易行には歸せり。しかあるに。念佛弘通 0000_,16,986b22(00):の諸師おほかる中に。ひとり吉水の御勸化のみぞ。 0000_,16,986b23(00):上は彌陀の本願に順じ。下は衆生の機縁に應じて。 0000_,16,986b24(00):往生の靈驗。見聞殊におほく。末法の得脱。餘行に 0000_,16,986b25(00):超過しけるを見てこそ。顯密の修行をさしをきて。 0000_,16,986b26(00):專修の門には入給ひけめ。されば。御傳の惣修は。 0000_,16,986b27(00):もと上皇の嚴敕にかしこまるといへども。法印の折 0000_,16,986b28(00):衷は。しかしながら報恩の素懷をつくせるならし。 0000_,16,986b29(00):道心堅固にして。浮雲の名利をわすれ。慈悲廣大に 0000_,16,986b30(00):して。衆生の沈淪をあはれむにあらずば。たれの人 0000_,16,986b31(00):か。聖道の家にありながら。我大師の御化道をし 0000_,16,986b32(00):も。扶らるる事かくばかりねんごろならんやと。其 0000_,16,986b33(00):宿縁の程。いとたふとかりけり。さて舜昌法印をば。 0000_,16,986b34(00):御傳惣修の賞として。知恩院第九代の別當に補せら 0000_,16,987a01(00):る。其時官庫の御傳を。正本と名づけて。これを賜 0000_,16,987a02(00):はりて。ながく吉水の寶藏にぞ納められける。をよ 0000_,16,987a03(00):そ我朝に。諸師の傳記おほしといへども。いまだか 0000_,16,987a04(00):くばかり盛なるはなかりき。ゆゆしき我祖の眉目に 0000_,16,987a05(00):して。宗門の光華にぞ侍る。其後吉水十二世誓阿上 0000_,16,987a06(00):人宸翰を秘藏し。思ひたまひけるあまり。もしはか 0000_,16,987a07(00):らざるに。非常の災などにあひて。兩部の御傳。時 0000_,16,987a08(00):のまの烏有ともなりなば。いかばかり心うきわざな 0000_,16,987a09(00):るべければ。一部をば。いかにも世はなれたらん。 0000_,16,987a10(00):はるけき名山に藏して。末の代の寳券に殘さばや 0000_,16,987a11(00):と。常に遠き慮をめぐらされけるが。老後に和州當 0000_,16,987a12(00):麻の往生院に退居し給ひける時。御正本は。あまた 0000_,16,987a13(00):の宸翰名筆備足して。畫圖の彩色まで。殊に勝れて 0000_,16,987a14(00):嚴重なりしかば。これをば吉水の寶藏に留られ。副 0000_,16,987a15(00):本一部を隨身して。往生院の寶藏に納められけり。 0000_,16,987a16(00):今に相傳へて。かの寺第一の靈寳と崇むる是なり。 0000_,16,987a17(00):抑法皇も上皇も。年比吉水第八世の如一國師を。御 0000_,16,987b18(00):師範に召れて。淨土の三經五部一集の要義を。學ば 0000_,16,987b19(00):せ給ひしより。西方の御願ふかく。我大師の法恩を 0000_,16,987b20(00):感荷し思しけるによりて。かくまでは叡慮にかけさ 0000_,16,987b21(00):せ賜ひけるとぞ。しかしより以來。御代ごとに。吉 0000_,16,987b22(00):水御傳を叡覽まします事にはなりぬ。ちかくは寬文 0000_,16,987b23(00):七年の秋。後水尾法皇大師の行狀にいみじき事な 0000_,16,987b24(00):ど。仰出されければ。我門主尊光法親王。御傳の盛 0000_,16,987b25(00):事をいとねんごろに言上せさせ給ふ。法皇も。兼て 0000_,16,987b26(00):きこしめしをよばせ給ふなりとて。叡覽あるべきよ 0000_,16,987b27(00):し仰下さる。やがてたてまつり給ひけるに。久しく 0000_,16,987b28(00):御前にとどめられて。御愛敬淺からず。今更に大師 0000_,16,987b29(00):德行の高く。古代書畫の精しき事など叡感ましまし 0000_,16,987b30(00):て。これ誠に希代の名物なり。殊に數百年の星霜を 0000_,16,987b31(00):をくり應仁の兵火をものがれて。四十八卷具足して。 0000_,16,987b32(00):今の世まで傳りけるも。又奇なり。よろしく秘重し 0000_,16,987b33(00):て宗門萬代の規模に。そなふべしとぞ仰下されけ 0000_,16,987b34(00):る。法皇初て。御傳を叡覽ありしより。先代の帝の。 0000_,16,988a01(00):いとねんごろなりける護法の叡慮に。御心感ぜさせ 0000_,16,988a02(00):給ひて。今又あらたに四十八卷の繪詞を調られて。 0000_,16,988a03(00):尊光法親王になん。まいらせらるべしとて。延寳の 0000_,16,988a04(00):比。土佐法眼常照。住吉法眼具慶に仰せて。御傳の 0000_,16,988a05(00):畫圖をうつさせられけり。丹靑いまだ半ならざりけ 0000_,16,988a06(00):る程。門主はからざるに。かくれさせ賜ひにけれ 0000_,16,988a07(00):ば。本意なしとや思召れけん。其後はいつとなく。 0000_,16,988a08(00):其御沙汰もやみにけり。畫圖のならざりしは。いと 0000_,16,988a09(00):をしく侍れども。やんごとなき。護法の叡志は。ま 0000_,16,988a10(00):た後の世の模範なるべしと。かたじけなくぞ侍るめ 0000_,16,988a11(00):る。 0000_,16,988a12(00):つらつら御傳の縁起を按ずるに。誠に僧中の公傳に 0000_,16,988a13(00):して。今古に比類なき事にぞ侍る。其ゆへは。門人の 0000_,16,988a14(00):舊記は。上世の實錄なれども。をのをの知れる所を 0000_,16,988a15(00):のみ。記せられしかば。たがひに書もらせる事。な 0000_,16,988a16(00):きにしもあらず。さればあまねく。諸傳を通はしめ 0000_,16,988a17(00):ん事もわづらはしかるべきに。法印の總修は。數編 0000_,16,988b18(00):の傳記にのする所。ことごとくそなはりて。さらに 0000_,16,988b19(00):搜索のわづらひなし。いとめでたからずや。又惣修 0000_,16,988b20(00):の功は。さるものから。もし此宗の人の手になん 0000_,16,988b21(00):出たらましかば。猶うたがふ人も侍らんを。台宗の 0000_,16,988b22(00):法印。平等利益の公心より。ただ法のために記せら 0000_,16,988b23(00):れけん。其私なき程。また思ひやるべし。又たとひ 0000_,16,988b24(00):他門の人なりとも。專修の行者ならましかば。所弘 0000_,16,988b25(00):の法を執ずる習ひに。能弘の人師にも。過讃の詞や。 0000_,16,988b26(00):まじふらんと。猶いぶかしさを殘す人も侍るべき 0000_,16,988b27(00):に。かけまくも。かしこきみことのりにをそれて。舊 0000_,16,988b28(00):記の世にも事のしげく。また要ならざるをば。ある 0000_,16,988b29(00):をだにのぞかれて侍り。王事もろいことなし。法印あ 0000_,16,988b30(00):に私をいれめや。ただ舊記のままに書寫して。潤文 0000_,16,988b31(00):挍正の御再治をば。あふぎて天裁にゆづり奉られけ 0000_,16,988b32(00):る。法印の案げにかしこくぞ覺え侍る。これより文 0000_,16,988b33(00):章も。いまひとしほ色はへて。御傳の光いやまさり 0000_,16,988b34(00):ぬ。をよそ古今諸師の傳記おほかる中に事蹟のつま 0000_,16,989a01(00):びらかに。縁起のおほやけなる事。此御傳に過たる 0000_,16,989a02(00):は侍らず。時の人の。いまさらのやうにうやまひた 0000_,16,989a03(00):ふとひて。念佛門に入けんはげにさることにこそ。 0000_,16,989a04(00):されば其頃。澄圓上人といふ高僧あり。本は山門の 0000_,16,989a05(00):學匠にて。博學強記たぐひなかりければ。時の人讃 0000_,16,989a06(00):美して一切經藏とぞ名づけける。精義神にいり。靈辯 0000_,16,989a07(00):玉をはく。當代の龍象なりしが。つゐに淨土門に歸 0000_,16,989a08(00):依し。鎭西の流を汲て。專修の行者となり。淨土十 0000_,16,989a09(00):勝論十餘卷を撰述して。吉水の宗義を翼讃せらる。 0000_,16,989a10(00):其中に大師の法語を引證して。所立の義勢を成ぜら 0000_,16,989a11(00):れし事の侍りし時。或人なをその法語の眞僞をうた 0000_,16,989a12(00):がひしかば。澄圓ただ我ひとりこれを得たるにあら 0000_,16,989a13(00):ず。亦知恩院別當法印大和尚位舜昌も。これを得 0000_,16,989a14(00):て。祖師の行狀畫圖の詞とせりと答申されて。公論 0000_,16,989a15(00):の證據には此御傳を出されたり。澄圓は舜昌法師と 0000_,16,989a16(00):同時の人なりき。されば御傳のかくはや。時のため 0000_,16,989a17(00):に重ぜられし事。あに敕集のやんごとなく。作者の 0000_,16,989b18(00):おほやけなりしゆへならずや。上代の智者なをかく 0000_,16,989b19(00):のごとし。いはんや末代の人をや。かかれば。近代 0000_,16,989b20(00):聖道の學者の中にも。御傳をひらき見て。すずろに 0000_,16,989b21(00):深信を起し。念佛門におもむくともがらも。あまた 0000_,16,989b22(00):聞ゆめり。まして深閨の内に。いつかれ給ひて。聞 0000_,16,989b23(00):法の縁うとうとしからん婦人などのためには。これ 0000_,16,989b24(00):ぞげに。長夜を照す燈にして。苦海を渡る船なんめ 0000_,16,989b25(00):り。をよそ佛法廣しといへども。戒定惠の三學を具 0000_,16,989b26(00):せずして。轉凡入聖の解脱を得なんとは。大乘にも 0000_,16,989b27(00):小乘にも。自力の法門にはおもひ絶て侍り。たとひ 0000_,16,989b28(00):三學を一念に得といふなる。頓悟の輩も。そのうつ 0000_,16,989b29(00):は物。むかしの人に及ばねば。實に漸修の功を積 0000_,16,989b30(00):ざれば。聖果の跡はあらはれず。しかれば生涯はた 0000_,16,989b31(00):だ理悟の凡夫にとどこほりて。後有いまだほろびざ 0000_,16,989b32(00):れば。なを三界の流轉をまぬかれず。更に隔生即忘 0000_,16,989b33(00):の恐れありと。古人もふかくなげき給へり。然に濁 0000_,16,989b34(00):世末代の此頃は。道俗男女を論ぜず。あらがふ所な 0000_,16,990a01(00):き。三學無分のつたなき身なり。すでに定惠のつば 0000_,16,990a02(00):さなし。いかで二空の天にかけらん。爰に煩惱を斷 0000_,16,990a03(00):ぜずして。橫に三界の苦域をこえ。聖位をふまずし 0000_,16,990a04(00):て。すみやかに四德の樂邦にのぼる事は。ただ往生 0000_,16,990a05(00):極樂の一門にかぎれり。されば極樂の門にあらざれ 0000_,16,990a06(00):ば。生死を出るに路なく。念佛の行にあらざれば。 0000_,16,990a07(00):極樂に生ずるによしなしと。大師ものたまひき。し 0000_,16,990a08(00):かあれど。世もいよいよくだり。人もいろいろひが 0000_,16,990a09(00):めるままに。念佛の安心もまちまちにいひののしれ 0000_,16,990a10(00):ば。無智の人はまよひぬべし。ただ彌陀本願の稱 0000_,16,990a11(00):名。願行相續の正路をたどらん人は。常に心にかけ 0000_,16,990a12(00):て。一部の御傳をくりかへし。熟讀せんには過侍ら 0000_,16,990a13(00):じ。念佛の得脱。文理大に兼そなはり。往生の靈驗。 0000_,16,990a14(00):證跡また分明なれば誠にこれ心行を定むるの良規。 0000_,16,990a15(00):邪正をてらす明鏡なり。西方の行者みづからもよ 0000_,16,990a16(00):み。人にもをしへて化益展轉せばこれ佛恩を報ずる。 0000_,16,990a17(00):眞の佛弟子なるべし。いはんや念佛の法門は。ただ 0000_,16,990b18(00):當來の果報をよろこばしむるのみにはあらず。現在 0000_,16,990b19(00):の利益は求ざるにをのづから得る事になん侍る。ゆ 0000_,16,990b20(00):へはいかんとなれば。無量壽如來は。光明とこしな 0000_,16,990b21(00):へに照して。念佛の衆生を攝取して護念し。十方恒 0000_,16,990b22(00):沙の證誠諸佛は。慈悲神力を加へて。共に來て護念 0000_,16,990b23(00):し給へば。ましてもろもろの菩薩聖衆。諸天善神は。 0000_,16,990b24(00):かげのかたちにしたがふがごとく。晝夜につねに護 0000_,16,990b25(00):念し給ふと侍るゆへなり。されば善導大師も護念の 0000_,16,990b26(00):意は。諸惡鬼神に便を得せしめず。また橫病橫死な 0000_,16,990b27(00):く。橫に厄難ある事なく。一切の災障自然に消散す。 0000_,16,990b28(00):これ念佛の現生護念增上縁なりと。釋し給へり。末 0000_,16,990b29(00):代の行者道俗男女をえらばず。此世やすらかに。後 0000_,16,990b30(00):の世たのもしく二世の祈願に。功高く進みやすき 0000_,16,990b31(00):事。念佛の行に過たるは侍らず。たまたま受がたき 0000_,16,990b32(00):人身をうけ。さいはいにあひがたき本願にあへり。 0000_,16,990b33(00):此度生死をはなれずは。またいつをか期せむや。ゆ 0000_,16,990b34(00):めゆめ寳の山に入ながら。手をむなしくして。歸り 0000_,16,991a01(00):給ふ事なかれ。 0000_,16,991a02(00):抑宸翰の御本は。卷の内には題號なし。ただ表紙の 0000_,16,991a03(00):上に。法然上人行狀繪圖と題せられたり。今敕修吉 0000_,16,991a04(00):水大師御傳を標題し侍る事は。吉より相傳へて。敕 0000_,16,991a05(00):修の御傳と稱したる上。今又あらたに。圓光大師の 0000_,16,991a06(00):徽號ををくり給りてしゆへなり。かの唐の百丈淸規 0000_,16,991a07(00):は天下禪刹の通規なり。しかるに。此書久しく世に行 0000_,16,991a08(00):はれてし後。損益のあやまりおほく侍りければ。元 0000_,16,991a09(00):朝の德輝禪師。これをなげきて。挍正添削せばやと思 0000_,16,991a10(00):はれしかども。私の刪修は。天下の諸刹に通用しが 0000_,16,991a11(00):たき事をやはばかりけん。殊に朝廷に奏聞して。敕 0000_,16,991a12(00):許をかうふり。刪定すでにをはりしかば。やがて敕 0000_,16,991a13(00):修百丈淸規と題せられける。異國のためしも。思ひ 0000_,16,991a14(00):出られて侍り。いはんや此御傳の總修は。初め敕詔 0000_,16,991a15(00):より事をこりて。また敕裁に及び。終に敕筆に事成 0000_,16,991a16(00):てければ。敕修の中に。殊に勝れてかたじけなき物 0000_,16,991a17(00):なるをや。かれは諸寺の通用をはかりて。敕修の字 0000_,16,991b18(00):をそへ。これは萬人の信敬を思ひて敕修の字をくは 0000_,16,991b19(00):ふ。其おもむきは。やや異なれども。護法の叡功は。 0000_,16,991b20(00):はやく同じかりけり。からのやまとのいにしへも今 0000_,16,991b21(00):も。かくばかり國王大臣の。外護の力のとぼしから 0000_,16,991b22(00):ざるを思ふに付て。今さら。靈山の昔の附屬の驗し 0000_,16,991b23(00):あるに感じ。なを彌陀一敎。利物偏增の末代までも。 0000_,16,991b24(00):此御傳を見侍らん人人。俗諦の敬ひより。眞諦の信 0000_,16,991b25(00):をおこして。解脱の門にいりねかしと。思ひ侍るに 0000_,16,991b26(00):ぞ。古今の美號に任て。敕修吉水圓光大師御傳とは。 0000_,16,991b27(00):標題し侍るものならし源尊氏公。宸翰の御傳を拜覽して奉納の爲に。三合の唐を寄進せらる