0000_,17,592a01(00):向阿上人傳卷上 0000_,17,592a02(00): 0000_,17,592a03(00):それ本願念佛の心行は末世衆生の目足なり皂白貴賤 0000_,17,592a04(00):たれか歸せさらんこのゆへに光明大師震旦にあらは 0000_,17,592a05(00):れて本願ををしへ吉水尊者わか朝にいてて念佛をひ 0000_,17,592a06(00):ろめ給ひしよりこのかた願をあふき名をとなふるも 0000_,17,592a07(00):の四遠にみち穢をいとひ淨をねかふやから一天にあ 0000_,17,592a08(00):まねししかるに世くたり人をろかにして光明の餘輝 0000_,17,592a09(00):かつかつくらく吉水の淸流やうやうにこれりここに 0000_,17,592a10(00):向阿上人淨土一流の宗匠として正法の燈をかかけ邪 0000_,17,592a11(00):敎の闇をてらし給ふに其をしへ海内に流布して念佛 0000_,17,592a12(00):の弘通ふたたび正に歸せりまた末代の偏邪をかなし 0000_,17,592a13(00):み三部の正抄を述して行者の龜鑑に擬し給へりこれ 0000_,17,592a14(00):莫大の功勳なりまことにあふきたふとまさらめやさ 0000_,17,592a15(00):れとももとより實德の光をひそめ給にしかは其行化 0000_,17,592a16(00):の跡さたかならす今もし此ことをかんかへしるさす 0000_,17,592a17(00):は後の世の人いかてかこれをしるへきやこれにより 0000_,17,592b18(00):て粗その舊記をさくり所聞にまかせて道蹟の三五を 0000_,17,592b19(00):錄するところ也をろかなる人のさとりやすくみんも 0000_,17,592b20(00):のの信をすすめんかために和字をもてこれをしるし 0000_,17,592b21(00):繪圖にあらはしてこれを殘す實行の人たれかこのこ 0000_,17,592b22(00):ころをよみせさらむ。 0000_,17,592b23(00):そもそも上人諱は證賢字は向阿その氏族を詳にせす 0000_,17,592b24(00):龜山院の御宇文永二年に誕生し給へりしかるべき 0000_,17,592b25(00):宿善やもほようしけん幼稚にして恩愛の家をはなれ 0000_,17,592b26(00):花髮をそり法衣を着して天台の敎門に入大乘戒をう 0000_,17,592b27(00):け給にけり。 0000_,17,592b28(00):既に出家の本意をとくる上はよろしく佛法をならふ 0000_,17,592b29(00):へしとて園城寺に入て台敎を學し給ふに其性聰敏に 0000_,17,592b30(00):して出群のほまれあり螢雪の窓の裏には四敎五時の 0000_,17,592b31(00):廢立鏡をかけ修練の床の上には一心三觀の境智玉を 0000_,17,592b32(00):みかく餘力には文筆をまなひ和歌の道にたつさはり 0000_,17,592b33(00):てその心はせ幽玄なりしかは先達もふく加歎し衆徒 0000_,17,592b34(00):もこそりて推許してやんことなき碩學となり給へ 0000_,17,593a01(00):り。 0000_,17,593a02(00):されば寺門の棟梁となり衆徒の領袖たりといへとも 0000_,17,593a03(00):本よりこの世をはかなみ後生をおそるるこころふか 0000_,17,593a04(00):ふしてひそかに淨土の敎文をひらきしきりに西方の 0000_,17,593a05(00):資糧をたくはへ給ふ遂に弘安十年御とし二十三の秋 0000_,17,593a06(00):入相の鐘にうちさそはれていつちともなくさすら 0000_,17,593a07(00):ひいてて西の坂をのほり都のかたへ越へ給ふに如意 0000_,17,593a08(00):寺の前にいたりて野分の風はけしくふきてすすろに 0000_,17,593a09(00):あはれもまさりけれはしはしうちなかめて大門の柱 0000_,17,593a10(00):に 0000_,17,593a11(00):おもひたつ衣の色はあさくとも 0000_,17,593a12(00):かへらしものよ墨染の袖 0000_,17,593a13(00):と一首を書ととめてやかて洛陽にいて花開院にして 0000_,17,593a14(00):みつから交衆の花服をあらためて隱遁の墨衣となり 0000_,17,593a15(00):すなはち是心と改名し給へり。 0000_,17,593a16(00):さりけれは偏に菩提の直路にをもむき九重の外北白 0000_,17,593a17(00):川のほとりに寂寞の柴の扉をしめ法蓮上人のいにし 0000_,17,593b18(00):へをしたひてひたすら念佛し給ひにけり。 0000_,17,593b19(00):其後吉水の法流をしたひて禮阿和尚に謁しほとなく 0000_,17,593b20(00):宗脈をうけて向阿上人と號し淸淨花院に住して其義 0000_,17,593b21(00):をひろめ給ふ玄眞聖阿圓寂なといふ上人もみな門下 0000_,17,593b22(00):にありすへて洛中の貴賤あふきうやまひて化導ひろ 0000_,17,593b23(00):くさかんなりけり。 0000_,17,593b24(00):月にむら雲あり花に風あるならひにて正法すてに流 0000_,17,593b25(00):布すといへとも邪師なを徘徊してややもすれは無智 0000_,17,593b26(00):の道俗をまとはすことをかなしみ後世の龜鏡にせむ 0000_,17,593b27(00):かために五代相傳の正脈をしるし往生至要訣となつ 0000_,17,593b28(00):けて上足の玄眞上人にさつけ給へり時に延慶二年卯 0000_,17,593b29(00):月五日なり其後正和五年正月十一日にかさねて圓寂 0000_,17,593b30(00):のために要訣をさつけ元弘元年霜月廿九日聖阿のた 0000_,17,593b31(00):めにさつけ給へり親筆の本淨花院にありなを上人の 0000_,17,593b32(00):親跡世におほし筆躰まことに遒婉なり。 0000_,17,593b33(00):元亨のころ淨土門の餘流まちまちなるをあやしみ心 0000_,17,593b34(00):あらん人もかななけきあはせまほしとおほしていに 0000_,17,594a01(00):しへ白川にすみ給ひしこころわりなくおもひ入たる 0000_,17,594a02(00):同法のありしをたつね行給ふに其僧ははや去年の秋 0000_,17,594a03(00):往生せりさためなき世はさる事なれとも今さらあは 0000_,17,594a04(00):れにて臨終のありさまなとかたらひ給ふほとに日も 0000_,17,594a05(00):やうやう入なんとす立歸らん道もはるかなりさいは 0000_,17,594a06(00):ひけふは彌陀感應の日なれはとてそれより眞如堂に 0000_,17,594a07(00):まふてて通夜し給へり月さえ風さふくて小夜もよう 0000_,17,594a08(00):よう更行ままに心すこさもかきりなくしつかに念佛 0000_,17,594a09(00):し給ふにいつのほとよりかまふてにけん僧二人より 0000_,17,594a10(00):て物語す一人はしきりにしはふきたる聲いとおひた 0000_,17,594a11(00):りおのれからも世にたうとく思ひ入たる所さそふか 0000_,17,594a12(00):からんとみえたりちかくこのあたりよりまふてたる 0000_,17,594a13(00):人なるへしいま一人は初發心の者なめりいつくより 0000_,17,594a14(00):の修行者にかあらんとおほゆなつかしく居よりて何 0000_,17,594a15(00):事をか語らましと聞たまへは問答せらるるところ念佛 0000_,17,594a16(00):の法問にして年來の不審なこりなくはるけぬ誠に二 0000_,17,594a17(00):尊の化現ならてはと覺えて悲喜こもこもなかるかく 0000_,17,594b18(00):てなかき夜もややあけんとするほと二僧をのをの退 0000_,17,594b19(00):出し給ふその行末をしらんために上人も立出て見送 0000_,17,594b20(00):たまふに山あひの霧へたたりて見へすなりけり。 0000_,17,594b21(00): 0000_,17,594b22(00): 0000_,17,594b23(00): 0000_,17,594b24(00): 0000_,17,594b25(00): 0000_,17,594b26(00): 0000_,17,594b27(00): 0000_,17,594b28(00): 0000_,17,594b29(00): 0000_,17,594b30(00): 0000_,17,594b31(00): 0000_,17,594b32(00): 0000_,17,594b33(00): 0000_,17,594b34(00):向阿上人傳卷上 0000_,17,595a01(00):向阿上人傳卷下 0000_,17,595a02(00): 0000_,17,595a03(00):上人ひそかに思惟し給はくはからさるに一夜聞法の 0000_,17,595a04(00):得益はしかしなから二尊遣迎の方便なりそれ千鈞の 0000_,17,595a05(00):弩はひとり鼷鼠のために機を發せす大聖の慈悲なん 0000_,17,595a06(00):そ偏にわかためのみならんやよろしく所聞を筆記し 0000_,17,595a07(00):て遐代につたへむとおもふ此心さし冥慮にかなふや 0000_,17,595a08(00):いなや眞實の佛勅なりせは其しるしをしめし給へと 0000_,17,595a09(00):て重て極樂寺に一七日參籠して此事を慇禱し給へる 0000_,17,595a10(00):にたのもしきかな滿散の曉本尊出現し給ひてさきに 0000_,17,595a11(00):しめすところ實に大悲の本懷なりなを法門に不審あ 0000_,17,595a12(00):らは淸凉寺に參籠すへしとて筆をたまはるとおほえ 0000_,17,595a13(00):て夢さめけれは掌の中に現に一管の筆あり不思議な 0000_,17,595a14(00):りける事そかしかのもろこしの王珣か巨筆を夢見江 0000_,17,595a15(00):淹か彩毫を夢に見しにははるかにまさりてたうとく 0000_,17,595a16(00):そ覺え侍る。 0000_,17,595a17(00):翌年の秋なり月の廿日あまりに佛勅にまかせ嵯峨の 0000_,17,595b18(00):釋迦堂に參籠し給ふ砌かすかに時秋なれはとりあつ 0000_,17,595b19(00):めたる物のあはれいとと感思もきはまりなく七日の 0000_,17,595b20(00):ちきりも今宵はかりとふけゆくそらにいかなる人や 0000_,17,595b21(00):らん本尊の御前にまふて三たひぬかつきて南無恩德 0000_,17,595b22(00):廣大釋迦善逝ととなふるおとすなりまことに慈恩は 0000_,17,595b23(00):廣大にいますとすすろにきく心をもよほすにややし 0000_,17,595b24(00):はしありて釋迦は此方より發遣すとしのひて誦せる 0000_,17,595b25(00):をきくにその聲おいらかにして去年の秋眞如堂にし 0000_,17,595b26(00):て見うしなへる異人なりけりうれしくも此御前にし 0000_,17,595b27(00):もめくりあへるかな是そ釋迦の方便に今霄またたう 0000_,17,595b28(00):とき事とも聽聞せむとためらひ給ふに參籠の貴人か 0000_,17,595b29(00):の老僧を局の内へむかへて男女面面にいふかしき事 0000_,17,595b30(00):を請問せりしつかにこれを聞給ふに去年の所聞にも 0000_,17,595b31(00):れにし事とも殘なく演説せられたり化風既に度かさ 0000_,17,595b32(00):なれは蒙霧なこりなくはるけてさなから靈山會上に 0000_,17,595b33(00):侍るかと感涙ををさへ給ふかくて四衆の疑網はしお 0000_,17,595b34(00):ほくして三説の法輪ことをつくさるる程に東窓に曉い 0000_,17,596a01(00):たりて西戸に月殘れりさらはやうやうとて立出給へ 0000_,17,596a02(00):は群集の貴賤もさのみはいかかとてをのをの退散せ 0000_,17,596a03(00):り。 0000_,17,596a04(00):爰に上人去年の秋眞如堂にしてしめし給へる靈夢の 0000_,17,596a05(00):むなしからぬ事をかんしてますます佛恩をあふき兩 0000_,17,596a06(00):度の聞法をありのままにしるしてなかく迷方の指南 0000_,17,596a07(00):に殘すへしとて其夜さらに御堂にこもりてこのこと 0000_,17,596a08(00):をうかかひ給へるに尊像まのあたりあゆみよらせた 0000_,17,596a09(00):まひて氣たかき御聲して桃李は一旦の榮花松は千年 0000_,17,596a10(00):の綠これ彌陀一敎利物偏增のしるしなりとのたまひ 0000_,17,596a11(00):て松の枝を給はるとおもひておとろきぬれは現に一 0000_,17,596a12(00):朶の松ありき未曾有の事なりかしされはかの筆もこ 0000_,17,596a13(00):の松もみとりの色かはらすして淨花院の鴻寶となり 0000_,17,596a14(00):て近來まてありしとそ。 0000_,17,596a15(00):既に佛勅をうけ瑞物をたまはるうへははやく筆記す 0000_,17,596a16(00):へしとてやかてたちかへり靜室にこもりて所聞の法 0000_,17,596a17(00):をありのままにしるし給へりいはゆる歸命本願抄三 0000_,17,596b18(00):帖西要抄上下是なり他日さらに父子相迎上下をしる 0000_,17,596b19(00):して師承の旨を述し淨敎の本意をあかすこれをさき 0000_,17,596b20(00):の二抄にそへて一具とし給ふすへて三部七册をの 0000_,17,596b21(00):をの和字の抄なれは世に三部のかな書といひ又は松 0000_,17,596b22(00):筆の御抄と稱す眞如堂縁起にもおそらくは我朝の佛 0000_,17,596b23(00):説なるをやといへり。 0000_,17,596b24(00):ここに因人重法のことはりなれは渴仰の貴賤展轉し 0000_,17,596b25(00):てきそひうつし稱名の家には是をつたへて秘要とせ 0000_,17,596b26(00):り應永のころ隆堯法印ときこえしは緇林の翹楚台敎 0000_,17,596b27(00):の白眉なりといへとも道心深固にして淨土門に歸し 0000_,17,596b28(00):ことに三部の秘抄を信しふかく上人の德行をしたひ 0000_,17,596b29(00):瑞夢を得て此抄を開板しみづから後跋をしるし給ふ 0000_,17,596b30(00):かの師大要抄にもとりわきて上人の語をのせられた 0000_,17,596b31(00):りまた永正のころ山門花王坊の圓信阿闍梨もふかく 0000_,17,596b32(00):此抄を信し三部の要語を抄出し往生捷徑となつけて 0000_,17,596b33(00):世にひろめ給へり其外一心の稱念公藝陽の以八師飯 0000_,17,596b34(00):沼の鎭譽洛陽の騰蓮社なといへる道者學生おなしく 0000_,17,597a01(00):これを信用して他のためにさへ解説せられたりされ 0000_,17,597a02(00):はふるき書寫の本世におほく侍るしかるに近世の學 0000_,17,597a03(00):者ははしめより和字を辨髦してつやつやこれをよま 0000_,17,597a04(00):すむへなるかな心の優なき事すこふる田夫野人とい 0000_,17,597a05(00):ひつへしいやしくも言中の旨歸を得ぬれは漢字もま 0000_,17,597a06(00):た月をさす指にあらすや。 0000_,17,597a07(00):御よはひやうやうかたふきて後は花洛の憒閙をいと 0000_,17,597a08(00):ひ林下の幽閑を愛し並岡の東池上といふ所にかたは 0000_,17,597a09(00):かりなる庵をむすひてすみ給へりたまたま門人のた 0000_,17,597a10(00):めに西要をとき給へるころ障子のつまに書つけ給ひ 0000_,17,597a11(00):ける。 0000_,17,597a12(00):池上にわれたにすまは吉水の 0000_,17,597a13(00):なかれのすゑはたえしとそ思ふ 0000_,17,597a14(00):この歌つたへて里人の口にあり。 0000_,17,597a15(00):かなしきかな生者必滅のためしは賢愚をゑらはさる 0000_,17,597a16(00):ならひなれは 光明院の御宇貞和元年六月二日大漸 0000_,17,597a17(00):の期ここに臨てしきりに高聲念佛し給ふ時に昊天高 0000_,17,597b18(00):くはれて紫雲ななめにそひき彌陀照臨してひかり室 0000_,17,597b19(00):にみち聖衆羅列してかけ庭にしき異香ちかく薰し天 0000_,17,597b20(00):樂軒をめくるほと端坐して西にむかひ寂然として息 0000_,17,597b21(00):たえ給へり形容ことにすくれて眼口ゑめるに似たり 0000_,17,597b22(00):その春秋八十三なり嗚呼法燈すてにきえ宗脈たえな 0000_,17,597b23(00):んとす緇素の哀慟すること慈父を喪するかことし。 0000_,17,597b24(00):凡その平生の雅行臨終の靈相ほとほとたた人にあら 0000_,17,597b25(00):すかならす大士の應現なるへし今の西光菴はその歸 0000_,17,597b26(00):寂の地なりすへからく西方の行者この遺跡に參詣し 0000_,17,597b27(00):て恩德を報し像前に稽首して道心をいのるへきもの 0000_,17,597b28(00):なり。 0000_,17,597b29(00): 0000_,17,597b30(00):向阿上人傳卷下 0000_,17,597b31(00): 0000_,17,597b32(00):(本傳序、縁起、跋) 0000_,17,597b33(00):向阿上人繪詞傳序 0000_,17,597b34(00):上人行狀。載籍極博。而至其始末。則及史闕文。 0000_,17,598a01(00):識者憾焉池上西光蘭若。上人終焉之地。而深藏斯 0000_,17,598a02(00):傳。啓籥見之。識者所憾。瞭然始明。所謂千載闇 0000_,17,598a03(00):室。日至而頓有餘光者非邪。假令其文不詳撰者。 0000_,17,598a04(00):畵則古磵。書則雲竹。鑑識所許。誰云不然矣。伏 0000_,17,598a05(00):惟上人面受二尊指揮。撰三部鈔也。與彼證定疏。 0000_,17,598a06(00):異域同轍矣。導師彌陀化身也。上人何等權迹哉。 0000_,17,598a07(00):諸傳謂上人者。藝州之男。武田信宗也者疑矣。何 0000_,17,598a08(00):則剃度入寂。春秋大異也。斯傳闕疑。愼言其餘。 0000_,17,598a09(00):循循乎罄焉。可謂良史矣。夫覺王之設敎也。大藏 0000_,17,598a10(00):八萬。而後漢土飜經。最于楞嚴。 0000_,17,598a11(00):國朝譯敎。魁于三部。楞嚴者房融所筆。三部者上人 0000_,17,598a12(00):所述。或評以鬼神焉。或賛以佛説焉。古人云。文者 0000_,17,598a13(00):貫道之器也。不深於斯。道有至焉者不也。良有以哉。 0000_,17,598a14(00):今閲斯傳。簡而要。婉而順。能得三部體。事周一代。 0000_,17,598a15(00):自非鉅才碩筆。實上人之亞。而去其世未遠者。焉能 0000_,17,598a16(00):至於斯也。是故後世英俊之士。左提右揭。或取之後 0000_,17,598a17(00):素。或取之管城。而潤色其鴻業。又可以爲三絶矣。 0000_,17,598b18(00):然猶不敢公傳之通邑大都。而藏之名山。待後識者。 0000_,17,598b19(00):深矣哉。松溪義柳和尚者。高仰上人風。獅吼大振。 0000_,17,598b20(00):三部指掌。四衆提耳。日課誓受之弟子。六萬餘人。 0000_,17,598b21(00):其上足某者。現住西光蘭若。於是師資相遇。啓其金 0000_,17,598b22(00):縢。遂授剞劂氏。於戲天將假手彼師資。以補上人闕 0000_,17,598b23(00):畧。備遐代弘通哉。何其湮古見今耶。頃間和尚來請 0000_,17,598b24(00):序於余。余苟住淨華巨刹。則亦無所辤矣。矧乎上人 0000_,17,598b25(00):挑五代燈。藏往生至要訣於我山。余雖不肖。既業相 0000_,17,598b26(00):承其訣。則亦豈可默而止耶。因題數言。冠其篇首。 0000_,17,598b27(00):天明七年丁未夏五月 0000_,17,598b28(00):淸淨華院賜紫沙門 仰譽聖道拜首撰 0000_,17,598b29(00):向阿上人繪詞傳刊行の縁起 0000_,17,598b30(00):向阿上人池上に住たまひし頃。池上にわれたにす 0000_,17,598b31(00):まは吉水の。流の末はたえしとぞおもふと。詠した 0000_,17,598b32(00):まひて。上は祖訓を護りて正義をつたへ。下は遐代 0000_,17,598b33(00):を憐みて邪路をふさき玉ふ。在世の利益はいふも 0000_,17,598b34(00):さらなり。滅後の今に至るまて。其化風の盛んな 0000_,17,599a01(00):るにて。彼述懷もむなしからす。悲願の深きもい 0000_,17,599a02(00):と貴くなん侍りぬ。予幸に幼年より家を出て蓮門 0000_,17,599a03(00):の衆に列るといへとも。其性痴鈍なれは。安心の 0000_,17,599a04(00):徑路一方におもひ定めかたかりしに。壯年に至て 0000_,17,599a05(00):引接室關通老師の講筵に詣て。此上人の感得し給 0000_,17,599a06(00):ひたる。三部の秘抄を聽聞して。吉水の流れはか 0000_,17,599a07(00):く社と汲得て。安心の一すちも澄渡りしやふに覺 0000_,17,599a08(00):へはへりぬ。しかありしより已來。華夷の處處に 0000_,17,599a09(00):おいて。時とき彼秘抄を講説して。有縁の道俗を 0000_,17,599a10(00):勸誘すること三十年に過たり。其中にはからすも 0000_,17,599a11(00):眞如堂諸衆の請に逢て。彼靈像前において。歸命 0000_,17,599a12(00):本願抄を講する事三會。又此上人の遺跡池上西光 0000_,17,599a13(00):庵に。予か弟子なるもの住持する事今已に二世に 0000_,17,599a14(00):續り。不思議の縁といふへし。しかのみならす講 0000_,17,599a15(00):筵に詣來て。日課稱名を誓受する人六萬にあまれ 0000_,17,599a16(00):り。喜へきの甚しきにあらすや。予つらつらこれ 0000_,17,599a17(00):をおもふに。解といひ行といひ。無下に愚に拙き 0000_,17,599b18(00):身の自といひ他といひ。かく過分の大利を得たり 0000_,17,599b19(00):しは。偏に是此上人に有縁ありて。彼加被力のな 0000_,17,599b20(00):さしむるなるへし。實に一世ならぬ深恩。何を以 0000_,17,599b21(00):てか報するに堪んや。これによりて。年ころ上人 0000_,17,599b22(00):の事跡を尋るに。諸書に擧て散在すといへとも其 0000_,17,599b23(00):文いつれも略にして。上人の始末窺ひ得難し。按 0000_,17,599b24(00):するにこれ上人の光をつつみ跡を晦して過たまひ 0000_,17,599b25(00):にし故なるへし。我輩においては遺る憾なきにし 0000_,17,599b26(00):もあらさりしに。西光庵の什寶の中に二卷の繪詞 0000_,17,599b27(00):傳あり。何人の撰述とはしらされとも。繪は報恩 0000_,17,599b28(00):古磵和尚。書は林觀雲竹法師の筆跡にて脩飾し轉 0000_,17,599b29(00):寫し。廣澤の末葉孝源大僧正跋文を附置きたまへ 0000_,17,599b30(00):り。これ尚上人を盡せるにはあらされとも。餘書 0000_,17,599b31(00):に比すれはいとつまひらかなり。予此傳を得て喜 0000_,17,599b32(00):に堪す。あまねく世にひろうし。深恩の萬一を酬 0000_,17,599b33(00):んかため。梓にのほし西光庵に藏む。言を同志の 0000_,17,599b34(00):輩に寄す。此傳に據て粗上人の事跡を知り。因人 0000_,17,600a01(00):重法の道理に順ひて。彼感得の三部の秘抄及ひ。 0000_,17,600a02(00):當時につたはる法語を尊信して。心行の龜鑑とな 0000_,17,600a03(00):さは。往生の要路明らかなるのみならす。上人の 0000_,17,600a04(00):咏したまひしことく。ますます永く。吉水の流れ 0000_,17,600a05(00):の末もたえしと。我喜のこころをかいつけぬるな 0000_,17,600a06(00):り。穴賢穴賢。 0000_,17,600a07(00):天明七とせの夏 0000_,17,600a08(00):小松溪の僧承柳謹て記す花押 0000_,17,600a09(00):(跋) 0000_,17,600a10(00):右向阿上人傳記一覽了實殊勝高德之上人也或得文 0000_,17,600a11(00):毛於佛手著述三部書或感松葉使命壽勇徤於厭離穢 0000_,17,600a12(00):土精進於欣求淨土宜後人結縁於上人早擲名利之心 0000_,17,600a13(00):速赴菩提之門者也。 0000_,17,600a14(00):廣澤末葉前大僧正孝源