0000_,09,468a01(00):黑谷上人語燈錄第十一并序
0000_,09,468a02(00):
0000_,09,468a03(00):厭欣沙門了惠集錄
0000_,09,468a04(00):
0000_,09,468a05(00):しつかにおもむみれば。良醫のくすりはやまひのし
0000_,09,468a06(00):なによてあらはれ。如來の御のりは機の熟するにま
0000_,09,468a07(00):かせてさかりなり。日本一州淨機純熟して朝野遠近
0000_,09,468a08(00):みな淨土に歸し。緇素貴賤ことことく往生を期す。そ
0000_,09,468a09(00):の濫觴をたつぬれは。天國排開廣庭天 皇欽明の御世
0000_,09,468a10(00):に。百濟國より釋迦彌陀の靈像はしめてこの國にわ
0000_,09,468a11(00):たり給へり。釋迦は撥遣の敎主。彌陀は來迎の本尊
0000_,09,468a12(00):なれは。二尊心をおなしくして。往生のみちをひろ
0000_,09,468a13(00):めむがためなるへし。しかれは小墾田天皇推古の御
0000_,09,468a14(00):時。聖德太子二佛の御意にしたかはせ給ひて。七日
0000_,09,468a15(00):彌陀の名號を稱して。祖王欽明の恩を報じ。御文を善
0000_,09,468a16(00):光寺の如來へたてまつり給ひしかは。如來みつから
0000_,09,468a17(00):御返事ありき。太子の御消息にいはく
0000_,09,468a18(00):名號穪揚七日已此是爲報廣大恩
0000_,09,468b19(00):仰願本師彌陀尊 助我濟度常護念
0000_,09,468b20(00):如來の御返事にいはく
0000_,09,468b21(00):一念穪揚恩無留 何况七日大功德
0000_,09,468b22(00):我待衆生心無間 汝能濟度豈不護
0000_,09,468b23(00):太子つゐに往生の瑞相をあらはして。利益を四海に
0000_,09,468b24(00):しめし給ひき。そののち大炊の天皇の御時。彌陀觀
0000_,09,468b25(00):音化し來りて。極樂の曼陀羅ををりあらはして。往
0000_,09,468b26(00):生の本尊とさためをき給ふ。ここに六字の功德粗あ
0000_,09,468b27(00):らはれて。二尊の本意やうやくひろまりしかは。慈
0000_,09,468b28(00):覺慈惠等の聖人。みな極樂をねがひてさり給ひき。
0000_,09,468b29(00):惠心僧都は楞嚴の月の前に往生の要文をあつめ。永
0000_,09,468b30(00):觀律師は禪林の花の下に念佛の十因を詠して。をの
0000_,09,468b31(00):をの淨土の敎行をひろめ給ひしかとも。往生の化道
0000_,09,468b32(00):いまたさかりならさりしに。中比黑谷の上人勢至菩
0000_,09,468b33(00):薩の化身として。はじめて彌陁の願意をあきらめ。
0000_,09,468b34(00):もはら稱名の行をすすめ給ひしかは。勸化一天にあ
0000_,09,468b35(00):まねく。利生万人にをよふ。淨土宗といふ事は。こ
0000_,09,469a01(00):の時よりひろまりけるなり。しかれは往生の解行を
0000_,09,469a02(00):まなふ人みな上人をもて祖師とす。ここにかのなが
0000_,09,469a03(00):れをくむ人おほき中に。をのをの義をとることまち
0000_,09,469a04(00):まちなり。いはゆる餘行は本願か本願にあらざるか。
0000_,09,469a05(00):往生するやせすや。三心のありさま二修のすがた。
0000_,09,469a06(00):一念多念のあらそひなり。まことに金鍮しりがたく。
0000_,09,469a07(00):邪正いかてかわきまふへきなれは。きくものをほく
0000_,09,469a08(00):源をわすれて流にしたがひ。新を貴て舊をしらず。尚
0000_,09,469a09(00):書にいへることあり。人貴舊器貴新。予この文に
0000_,09,469a10(00):おどろきて。薄上人のふるきあとをたつねて。寢近
0000_,09,469a11(00):代のあたらしきみちをすてんとおもふ。よて或はか
0000_,09,469a12(00):の書狀をあつめ。或は書籍にのするところの詞を拾
0000_,09,469a13(00):ふ。やまとことははその文見やすく。その意さとり
0000_,09,469a14(00):やすし。ねかはくはもろもろの往生をもとめん人
0000_,09,469a15(00):これをもて燈として。淨土のみちをてらせと也。も
0000_,09,469a16(00):しおつるところの書あらは。後賢かならすこれにつ
0000_,09,469a17(00):げ。時に文永十二年正月廿五日。上人遷化の日。報
0000_,09,469b18(00):恩の心ざしをもていふことしか也
0000_,09,470a01(00):和語第二之一當卷有三章
0000_,09,470a02(00):
0000_,09,470a03(00):三部經釋第一
0000_,09,470a04(00):御誓言書第二
0000_,09,470a05(00):往生大要抄第三
0000_,09,470a06(00):三部經釋
0000_,09,470a07(00):雙卷經。觀經。阿彌陀經。これを淨土三部經とい
0000_,09,470a08(00):ふ。雙卷經には。まづあみたほとけの四十八願をと
0000_,09,470a09(00):き。のちに願成就をあかせり。その四十八願といふ
0000_,09,470a10(00):は。法藏比丘。世自在王佛の御まへにして。菩提心
0000_,09,470a11(00):ををこして。淨佛國土成就衆生の願をたて給ふ。そ
0000_,09,470a12(00):の四十八願に。あるひは無三惡趣ともたて。あるひ
0000_,09,470a13(00):は不更惡趣ともとき。あるひは悉皆金色ともいふ
0000_,09,470a14(00):はみな。第十八の願のためなり。その第十八願とい
0000_,09,470a15(00):は。設我得佛。十方衆生。至心信樂欲生我國。乃至
0000_,09,470a16(00):十念。若不生者不取正覺といへり。四十八願の中
0000_,09,470a17(00):に。この願ことに勝たりとす。そのゆへは。かの國
0000_,09,470b18(00):にもしむまるる衆生なくは。悉皆金色無有好醜等の
0000_,09,470b19(00):願も。なにによてか成就せん往生する衆生のあるに
0000_,09,470b20(00):つきてこそ。身のいろも金色に好醜ある事もなく。
0000_,09,470b21(00):五通をも具し。宿命をもさとるべけれ。これによて
0000_,09,470b22(00):善導釋しての給はく。法藏比丘四十八願をたて給へ
0000_,09,470b23(00):るに。若我得佛十方衆生穪我名號願生我國下
0000_,09,470b24(00):至十念若不生者不取正覺。四十八願に一一に
0000_,09,470b25(00):みなこの意ありと釋し給へり。をよそ諸佛の願とい
0000_,09,470b26(00):ふは。上求菩提下化衆生の心なり。大乘經にいは
0000_,09,470b27(00):く。菩薩願有二種一上求菩提二下化衆生也。其上
0000_,09,470b28(00):求菩提本意爲易濟度衆生。云云しかれはたた本意
0000_,09,470b29(00):は。下化衆生の願にあり。いま彌陀如來の國土を成
0000_,09,470b30(00):就し給ふも。衆生を引接せんがためなり。總してい
0000_,09,470b31(00):つれのほとけも成佛已後は内證外用の功德。濟度利
0000_,09,470b32(00):生の方便みなふかくましまして。勝劣ある事なけれ
0000_,09,470b33(00):ども。菩薩の道を行し給ひし時の。善巧方便のちか
0000_,09,470b34(00):ひはこれまちまちなる事也。その中に彌陀如來は。
0000_,09,471a01(00):因位の時。もはらわが名號を念せんものをむかへん
0000_,09,471a02(00):とちかひ給ひて。兆載永劫の修行を衆生に廻向し給
0000_,09,471a03(00):ふ。濁世のわれらが依怙。末代の衆生の出離。これ
0000_,09,471a04(00):にあらずはなにをか期せんや。これによてかのほと
0000_,09,471a05(00):けも。みつから我建超世願となのり給へり。三世の
0000_,09,471a06(00):諸佛も。いまたかくのこときの願をはをこし給は
0000_,09,471a07(00):す。十方の薩埵もいまたこれらの願はましまさす。
0000_,09,471a08(00):斯願若尅果大千應感動虚空諸天人當雨珍妙花とちか
0000_,09,471a09(00):ひしかば。大地六種に震動し。天より花ふりて。な
0000_,09,471a10(00):んぢまさに正覺なり給ふへしとつけたりき。法藏比
0000_,09,471a11(00):丘いまた成佛し給はすとも。この願うたがふへから
0000_,09,471a12(00):す。いかにいはんや成佛已後十劫になり給へり。信
0000_,09,471a13(00):ぜすはあるへからす。彼佛今現在世成佛當知本誓
0000_,09,471a14(00):重願不虚衆生稱念必得往生と釋したまへるはこ
0000_,09,471a15(00):れなり。諸有衆生聞其名號信心歡喜乃至一念至
0000_,09,471a16(00):心廻向願生彼國即得往生住不退轉唯除五
0000_,09,471a17(00):逆誹謗正法文これは即第十八の願成就の文なり。
0000_,09,471b18(00):願には乃至十念ととくといへとも。まさしく願成就
0000_,09,471b19(00):の中には。一念にありとあかせり。又次に三輩往生の
0000_,09,471b20(00):文あり。これは第十九の臨終現前の願成就の文な
0000_,09,471b21(00):り。發菩提心等の業をもて三輩をわかつといへと
0000_,09,471b22(00):も。往生の業は通してみな一向專念無量壽佛といへ
0000_,09,471b23(00):り。これすなはちかのほとけの本願なるかゆへ也。
0000_,09,471b24(00):また其佛本願力聞名欲往生皆悉到彼國自致不
0000_,09,471b25(00):退轉といふ文あり。漢朝に玄通律師といふものあ
0000_,09,471b26(00):りき。小戒をたもてるものなり。遠行て野寺に宿
0000_,09,471b27(00):したりけるに。隣房に人ありてこの文を誦す。玄通
0000_,09,471b28(00):これをききて一兩遍誦してのち。をもひいだす事も
0000_,09,471b29(00):なくてわすれにけり。そののちこの玄通律師戒をや
0000_,09,471b30(00):ふれり。そのつみによて閻魔の廳にいたる時。閻魔
0000_,09,471b31(00):法王の給はく。なんぢ佛法流布のところにむまれた
0000_,09,471b32(00):りき。所學の法あらばすみやかにとくへしとて。高
0000_,09,471b33(00):座にのぼせ給ひき。その時玄通高座にのぼりておも
0000_,09,471b34(00):ひめくらすに。すへて心におほゆる事なし。野寺に
0000_,09,472a01(00):宿してききし文あり。これを誦せんとおもひいで
0000_,09,472a02(00):て。其佛本願力といふ文を誦したりしかは。閻魔法
0000_,09,472a03(00):王たまのかふりをかたふけて。これはこれ西方極樂
0000_,09,472a04(00):の彌陀如來の功德をとく文なりといひて。禮拜し給
0000_,09,472a05(00):ひき。願力不思議なる事この文に見へたり。佛語
0000_,09,472a06(00):彌勒其有得聞彼佛名號信心歡喜乃至一念當知
0000_,09,472a07(00):此人爲得大利即是具足無上功德文彌勒菩薩に
0000_,09,472a08(00):この經を付屬し給ふには。乃至一念するをもて。大利
0000_,09,472a09(00):無上の功德との給へり。經の大意これらの文にあき
0000_,09,472a10(00):らかなるものなり
0000_,09,472a11(00):次に觀經には。定善散善をときて念佛をもて阿難に
0000_,09,472a12(00):付屬し給ふ。汝好持是語といへるはこれなり。第九の
0000_,09,472a13(00):眞身觀に。光明徧照十方世界念佛衆生攝取不捨とい
0000_,09,472a14(00):ふ文あり。濟度衆生の願は平等にして差別ある事な
0000_,09,472a15(00):けれとも。無縁の衆生は利益をかうふる事あたは
0000_,09,472a16(00):ず。このゆへは彌陀善逝平等の慈悲にもよほされ
0000_,09,472a17(00):て。光明あまねく十方世界をてらして。一切衆生に
0000_,09,472b18(00):ことことく縁をむすはしめんがために。光明無量の
0000_,09,472b19(00):願をたて給へり。第十二の願これなり。又名號をも
0000_,09,472b20(00):て因として衆生を引接し給ふ事を。一切衆生にあま
0000_,09,472b21(00):ねくきかしめむがために。第十七の願に、十方世界
0000_,09,472b22(00):の無量の諸佛。ことことく咨嗟してわか名を稱せす
0000_,09,472b23(00):といはは正覺をとらしと誓給ひて。次に第十八の願
0000_,09,472b24(00):に。乃至十念若不生者不取正覺とたて給へり。これ
0000_,09,472b25(00):によて釋迦如來この土にしてとき給ふがことく。十
0000_,09,472b26(00):方にも。をのをの恒河沙のほとけましましておなし
0000_,09,472b27(00):くこれをしめし給へるなり。しかれは光明の縁はあ
0000_,09,472b28(00):まねく十方世界をてらしてもらすことなく。又十方世
0000_,09,472b29(00):界の無量の諸佛。みな名號を稱讃し給へは。きこえ
0000_,09,472b30(00):すといふところなし。我至成佛道名聲超十方
0000_,09,472b31(00):究竟靡所聞誓不成正覺とちかひ給ひしはこの
0000_,09,472b32(00):ゆへなり。しかれは光明の縁と。名號の因と和合せ
0000_,09,472b33(00):は。攝取不捨の益をかうふらんことうたがふへから
0000_,09,472b34(00):ず。このゆへに往生禮讃の序にいはく。諸佛所證平
0000_,09,473a01(00):等是一若以願行來收非無因縁然彌陀世尊本發
0000_,09,473a02(00):深重誓願以光明名號攝化十方といへり。又こ
0000_,09,473a03(00):の願ひさしく衆生を濟度せんがために。壽命無量の
0000_,09,473a04(00):願をたて給へり。第十三の願これなり。惣しては光
0000_,09,473a05(00):明無量の願は。橫に一切衆生をひろく攝取せんがた
0000_,09,473a06(00):めなり。壽命無量の願は。竪に十方世界をひさしく
0000_,09,473a07(00):利益せんがためなり。かくのこときの因縁和合すれ
0000_,09,473a08(00):ば。攝取の光明の中に又化佛菩薩ましまして、この
0000_,09,473a09(00):人を常に攝護して。百重千重に圍繞し給ふに。信心
0000_,09,473a10(00):いよいよ增長し。衆苦ことことく消滅す。又臨終の
0000_,09,473a11(00):時ほとけみつから來迎し給ふに。もろもろの邪業繫
0000_,09,473a12(00):よくさふるものなし。これは衆生いのちをはる時に
0000_,09,473a13(00):のぞみて。百苦きたりせめて。身心やすき事なく。
0000_,09,473a14(00):惡縁ほかにひき。妄念うちにもよほして。境界自躰
0000_,09,473a15(00):當生の三種の愛心きをひをこる。第六天の魔王この
0000_,09,473a16(00):時にあたりて。威勢ををこしてもてさまたげをな
0000_,09,473a17(00):す。かくのこときの種種のさはりをのぞかんかため
0000_,09,473b18(00):に。かならす臨終の時にはみつから菩薩聖衆に圍繞
0000_,09,473b19(00):せられて。その人のまへに現ぜんとちかひ給へり。
0000_,09,473b20(00):第十九の願これ也。これによて臨終の時いたれば。
0000_,09,473b21(00):ほとけ來迎し給ふ。行者これを見たてまつりて。心
0000_,09,473b22(00):に歡喜をなして。禪定にいるがことくして。たちま
0000_,09,473b23(00):ちに觀音の蓮臺に乘して。安養の寳ちにいたる也
0000_,09,473b24(00):これらの益あるがゆへに。念佛衆生攝取不捨といふ
0000_,09,473b25(00):なり。又この經に具三心者必生彼國ととけり。三心
0000_,09,473b26(00):といは。一には至誠心。二にに深心。三には廻向發
0000_,09,473b27(00):願心なり。三心はまちまちにわかれたりといへと
0000_,09,473b28(00):も。要をとり詮をえらんてこれをいへは。深心にお
0000_,09,473b29(00):さめたり。善導和尚釋しての給はく。至といは眞な
0000_,09,473b30(00):り。誠といは實なり。一切衆生の身口意業に。修す
0000_,09,473b31(00):るところの解行。かならす眞實心の中になすへき事
0000_,09,473b32(00):をあかさんとす。ほかに賢善精進の相を現して。う
0000_,09,473b33(00):ちに虚假をいだく事をえざれといへり。その解行と
0000_,09,473b34(00):いは。罪惡生死の凡夫。彌陀の本願によて。十聲一
0000_,09,474a01(00):聲决定してむまると眞實に解て行するこれなり。ほ
0000_,09,474a02(00):かには本願を信する相を現し。うちには疑心をいた
0000_,09,474a03(00):く。これは不眞實の心なり。深心はふかく信する心
0000_,09,474a04(00):也。决定してふかく自身は現にこれ罪惡生死の凡夫
0000_,09,474a05(00):なり。曠劫よりこのかたつねに流轉して出離の縁な
0000_,09,474a06(00):しと信じ、决定してふかくこの阿彌陀如來。四十八
0000_,09,474a07(00):願をもて衆生を攝取し給ふ事。うたかひなくおもん
0000_,09,474a08(00):ばかりなけれは。かの願力に乘してさためて往生す
0000_,09,474a09(00):る事をうと信すへしといへり。はしめにまづ罪惡生
0000_,09,474a10(00):死の凡夫。曠劫よりこのかた出離の縁ある事なしと
0000_,09,474a11(00):信せよといへるは。これすなはち斷善闡提のことく
0000_,09,474a12(00):なるもの也。かかる衆生の一念十念すれは。無始よ
0000_,09,474a13(00):りこのかたいまだいでさる生死の輪廻をいでて。か
0000_,09,474a14(00):の極樂世界の不退の國土にむまるといふによりて信
0000_,09,474a15(00):心はおこるべきなり。をよそほとけの別願の不思議
0000_,09,474a16(00):はこれ凡心のはかるところにあらす。唯佛と佛との
0000_,09,474a17(00):みよくしり給へり。阿彌陀佛の名號をとなふるによ
0000_,09,474b18(00):て。五逆十惡ことことくむまるといふ別願の不思議
0000_,09,474b19(00):のちからまします。たれかこれをうたがふべき。善
0000_,09,474b20(00):導の疏にいはく。あるひは人ありて。なんち衆生曠劫
0000_,09,474b21(00):よりこのかた。をよひ今生の身口意業に。一切の凡聖
0000_,09,474b22(00):の身のうへにをいて。つぶさに十惡五逆四重謗法闡
0000_,09,474b23(00):提破戒破見等のつみをつくりて。いまたのぞきつく
0000_,09,474b24(00):す事あたはす。しかもこれらのつみは三界惡道に繫
0000_,09,474b25(00):屬す。いかんそ一生の修福念佛をもて。すなはちか
0000_,09,474b26(00):の無漏無生の國にいりて。ながく不退のくらゐを證
0000_,09,474b27(00):悟する事をえんやといはば。いふべし。諸佛の敎行
0000_,09,474b28(00):はかす塵沙にこえたり。禀識の機縁隨情ひとつにあ
0000_,09,474b29(00):らず。たとへは世間の人のまなこに見つへく信しつ
0000_,09,474b30(00):へきがこときは。明よく暗を破し。空よく有をふく
0000_,09,474b31(00):む。地よく載養し。水よく生潤し。火よく成壞する
0000_,09,474b32(00):がことし。かくのごときらの事ことことく待對の法
0000_,09,474b33(00):となづく。すなはちみつから見るべし千差萬別な
0000_,09,474b34(00):り。いかにいはんや佛法不思議のちから。あに種種
0000_,09,475a01(00):の益なからんやといへり。極樂世界に水鳥樹林の微
0000_,09,475a02(00):妙の法をさへつるは不思議なれとも。これらはほと
0000_,09,475a03(00):けの願力なれはと信して。なんそたた第十八の乃至
0000_,09,475a04(00):十念といふ願をのみうたがふべきや。惣して佛説を
0000_,09,475a05(00):信せは。此も佛説なり。かの花嚴の三無差別。般若
0000_,09,475a06(00):の盡淨虚融。法花の諸法實相。涅槃の悉有佛性。た
0000_,09,475a07(00):れか信せさらんや。かれも佛説なり。これも佛説
0000_,09,475a08(00):也。いづれをか信じ。いつれをか信ぜさらんや。それ
0000_,09,475a09(00):三字の名號はすくなしといへとも。如來所有の内證
0000_,09,475a10(00):外用の功德。万億恒沙の甚深の法門をこのうちにお
0000_,09,475a11(00):さめたり。たれかこれをはかるへきや。疏の玄義分
0000_,09,475a12(00):にこの名號を釋していはく。阿彌陀佛といは。これ
0000_,09,475a13(00):天竺の正音、ここには翻して無量壽覺といふ。無量
0000_,09,475a14(00):壽といは。これ法。覺といは。これ人。人法ならへ
0000_,09,475a15(00):てあらはす。かるがゆへに阿彌陀佛といふ。人法と
0000_,09,475a16(00):いは所觀の境也、これにつゐて依報あり正報ありと
0000_,09,475a17(00):いへり。しかれははしめ彌陀如來。万德無漏の所證の
0000_,09,475b18(00):法門より。觀音勢至。普賢文殊。地藏龍樹。乃至か
0000_,09,475b19(00):の土の菩薩聲聞等にいたるまて。そなへ給へるとこ
0000_,09,475b20(00):ろの事理の觀行。定惠の功力。内證の智惠外用の功
0000_,09,475b21(00):德。みなことことく三字の中におさまれり。されば
0000_,09,475b22(00):極樂界にいづれの法門か。もれたるところあらん。
0000_,09,475b23(00):しかるにこの三字の名號をは。諸宗をのをのわか宗
0000_,09,475b24(00):に釋しいれたり。眞言には阿字本不生の義。四十二
0000_,09,475b25(00):字を出生せり。一切の法は阿字をはなれる事なきか
0000_,09,475b26(00):ゆへに功德甚深の名號といへり。天台宗には空假中
0000_,09,475b27(00):の三諦。正了縁の三義。法報應の三身。如來所有の
0000_,09,475b28(00):功德。これをいでざるがゆへに功德莫大なりといへ
0000_,09,475b29(00):り。かくのことく諸宗をのをのわか存するところの
0000_,09,475b30(00):法につゐて。阿彌陀の三字を釋せり。いまこの宗の
0000_,09,475b31(00):意は。眞言の阿字本不生の義も、天台の三諦一理の
0000_,09,475b32(00):法も。三論の八不中道の旨も法相の五重唯識の意
0000_,09,475b33(00):も。惣して森羅の万法ひろくこれを攝すとならふ。
0000_,09,475b34(00):極樂世界にもれたる法門なきかゆへに。たたしいま
0000_,09,476a01(00):彌陀本願の意は。かくのことくさとれとにはあら
0000_,09,476a02(00):す。ただふかく信心をいたしてとなふるものをむか
0000_,09,476a03(00):へんとなり。耆婆扁鵲か万病をいやすくすりは。も
0000_,09,476a04(00):ろもろの木。よろづの草をもて合藥せりといへと
0000_,09,476a05(00):も。病者これをさとりて。その藥木何分。その藥草
0000_,09,476a06(00):何兩和合せりとしらす。しかれとも是を服するに万
0000_,09,476a07(00):病ことことくいゆるかことし。たたうらむらくはこ
0000_,09,476a08(00):のくすりを信ぜすして。わかやまひはきはめてをも
0000_,09,476a09(00):し。いかかこの藥にてはいゆる事あらんとうたかひ
0000_,09,476a10(00):て服せすんは。耆婆か醫術も。扁鵲か秘方も。むな
0000_,09,476a11(00):しくしてその益あるべからざるがことく。彌陀の名
0000_,09,476a12(00):號もかくのことし。それ煩惱惡業のやまひきはめて
0000_,09,476a13(00):をもし。いかかこの名號をとなへてむまるることあ
0000_,09,476a14(00):らんと。うたかひてこれを信ぜすは。彌陀の誓願。
0000_,09,476a15(00):釋尊の所説むなしくして。そのしるしあるべから
0000_,09,476a16(00):ず。たたあふきて信ずべし。良藥をえて服さすして
0000_,09,476a17(00):死することなかれ。崑崙の山にゆきて。玉をとらず
0000_,09,476b18(00):してかへり。栴檀のはやしにいりて枝をよぢすして
0000_,09,476b19(00):いでなは後悔いかかせん。みつからよく思量すべ
0000_,09,476b20(00):し。そもそもわれら曠劫よりこのかた佛の出世にも
0000_,09,476b21(00):あひけん。菩薩の化道にもあひけん。過去の諸佛も
0000_,09,476b22(00):現在の如來もみなこれ宿世の父母也。多生の朋友な
0000_,09,476b23(00):り。しかるにかれはすてに菩提を證し給へるに。わ
0000_,09,476b24(00):れはなにによて生死にはととまれるそと。はつべし
0000_,09,476b25(00):はつべし。かなしむべしかなしむべし。本師釋迦如
0000_,09,476b26(00):來の衆生大罪のやまにいり。邪見のはやしにかくれ
0000_,09,476b27(00):て。三業放逸に。六情縱蕩ならん者を。わか國土に
0000_,09,476b28(00):とりをきて。敎化度脱せしめむとちかひ給ひたりし
0000_,09,476b29(00):は。そもそもいかにしてかかる衆生をは。度脱せし
0000_,09,476b30(00):めむとちかひたもふぞとたづぬれは。阿彌陀如來の
0000_,09,476b31(00):因位無諍念王と申せし時菩提心ををこし。衆生をし
0000_,09,476b32(00):て生死を過度せしめんとちかひ給ひて。すなはち國
0000_,09,476b33(00):をもくらゐをもすてて。攝取衆生の願ををこし給
0000_,09,476b34(00):ひしに。釋迦如來は其時寳海梵志と申て。無諍念王
0000_,09,477a01(00):の臣下なりしが。同じく菩提心ををこして。われか
0000_,09,477a02(00):ならす穢土にして正覺をなりて。惡業の衆生を引導
0000_,09,477a03(00):せんとちかひ給ひてこの願ををこし給へる也。曠劫
0000_,09,477a04(00):よりこのかた諸佛出世して。縁にしたかひ機をはか
0000_,09,477a05(00):りて。をのをの衆生を化度し給ふ事。かづ塵沙にす
0000_,09,477a06(00):きたり。あるひは大乘をとき。小乘をとき。あるひ
0000_,09,477a07(00):は實敎をひろめ。權敎をひろむ。有縁の機はみなこ
0000_,09,477a08(00):とことくその益をう。ここに釋尊八相成道を五濁惡
0000_,09,477a09(00):世にとなへて。放逸邪見の衆生の出離その期なきを
0000_,09,477a10(00):あはれみて。これより西に極樂世界あり。佛ましま
0000_,09,477a11(00):す阿彌陀となづけたてまつる。この佛は乃至十念若
0000_,09,477a12(00):不生者不取正覺とちかひ給ひて。佛になり給へり。
0000_,09,477a13(00):すみやかに念せよ。出離生死のみちをほしといへと
0000_,09,477a14(00):も。惡業煩惱の衆生の。とく生死をはなるる事。こ
0000_,09,477a15(00):の門にすぎたるはなしとをしへて。ゆめゆめうたか
0000_,09,477a16(00):ふ事なかれ。六方恒沙の諸佛も證誠し給ふなりと。
0000_,09,477a17(00):ねんころにをしへ給ひて。われもしひさしく穢土に
0000_,09,477b18(00):あらは。邪見放逸の衆生。われをそしりわれをそむ
0000_,09,477b19(00):きて。かへりて惡道におちなん。濁世にいでたる事
0000_,09,477b20(00):は。本意たたこの事を衆生にきかしめんかためなり
0000_,09,477b21(00):とて。阿難尊者に。なんちよくこの事を遐代に流通
0000_,09,477b22(00):せよとねんころに約束しをきて。跋提河のほとり。
0000_,09,477b23(00):沙羅林のもとにして。八十の春の天。二月十五の夜
0000_,09,477b24(00):半に。頭北面西にして滅度に入給ひき。その時に日
0000_,09,477b25(00):月ひかりをうしなひ。草木いろを變し。龍神八部禽
0000_,09,477b26(00):獸鳥類にいたるまて。天にあふきてなき。地にふし
0000_,09,477b27(00):てさけふ。阿難目連等のもろもろの大弟子等。悲泣
0000_,09,477b28(00):のなみたををさへてあひ議していはく。釋尊の恩に
0000_,09,477b29(00):なれたてまつりて。そこはくの春秋ををくりき。化
0000_,09,477b30(00):縁ここにつきて。黄金のはだへたちまちにへたたり
0000_,09,477b31(00):給ひぬ。あるひはわれら世尊に問たてまつるに答へ
0000_,09,477b32(00):給へる事もあり。あるひは釋尊みつから告給ふ事も
0000_,09,477b33(00):ありき。濟度利生の方便。いまはたれにむかひてか
0000_,09,477b34(00):問たてまつるべき。すべからく如來の御ことはをし
0000_,09,478a01(00):るしをきて未來にもつたへ。御かた見ともせんとい
0000_,09,478a02(00):ひて。多羅葉をひろひて。ことことく是をしるしを
0000_,09,478a03(00):きしを。三藏たちこれを譯して唐土にひろめ。本朝
0000_,09,478a04(00):へつたへたまふ。諸宗に學するところの一代聖敎こ
0000_,09,478a05(00):れ也。しかるに阿彌陀如來。善導和尚となのりて。
0000_,09,478a06(00):唐土にいてて。如來出現於五濁隨宜方便化群萠
0000_,09,478a07(00):或説多聞而得度或説小解證三明或敎福惠雙除
0000_,09,478a08(00):障或敎禪念坐思量種種法門皆解脱無過念佛往
0000_,09,478a09(00):西方上盡一形至十念三念五念佛來迎直爲彌陀
0000_,09,478a10(00):弘誓重致使凡夫念即生との給へり。釋尊出世の
0000_,09,478a11(00):本懷。たたこの事にありといふべし。自信敎人信
0000_,09,478a12(00):難中轉更難大悲傳普化眞成報佛恩といへは釋尊
0000_,09,478a13(00):の恩を報するも。また唯この念佛にありといふべ
0000_,09,478a14(00):し。もしこのたひむなしくすきなは。出離いつれの時
0000_,09,478a15(00):をか期せんとする。すみやかに信心ををこして生死
0000_,09,478a16(00):を過度すべし。次に廻向發願心といは。人ことに具
0000_,09,478a17(00):しつべき事なり。國土の快樂をききてたれかねかは
0000_,09,478b18(00):さらんや。そもそもかの國土に九品の差別あり。われ
0000_,09,478b19(00):らいつれの品をか期すへき。善導和尚の御意は極樂
0000_,09,478b20(00):は是報土。彌陀は是報佛なり。されは未斷惑の凡夫
0000_,09,478b21(00):は。すべてむまるへからすといへとも。彌陀別願の
0000_,09,478b22(00):不思議にて。罪惡生死の凡夫。一念十念してすなは
0000_,09,478b23(00):ちむまると釋し給へり。しかるを上古よりこのかた。
0000_,09,478b24(00):おほく下品といふとも足ぬべしといひて上品をねが
0000_,09,478b25(00):はす。これは惡業のをもきををそれて心を上品に
0000_,09,478b26(00):かけさる也。もしそれ惡業によらは惣て往生すへか
0000_,09,478b27(00):らず。願力によてむまれなはなんそ上品にすすまん
0000_,09,478b28(00):事をかたしとせん。それ彌陀淨土をまうけ給事は。願
0000_,09,478b29(00):力の成就するゆへなり。しかれはこれ念佛の衆生の
0000_,09,478b30(00):むまるべきくになり。乃至十念若不生者不取正覺と
0000_,09,478b31(00):たて給ひて。此願によて感得し給ふところなるかゆ
0000_,09,478b32(00):へなり。今此觀經の九品の業をいはは。下品は五逆
0000_,09,478b33(00):十惡の罪人。臨終の時はしめて善知識のすすめによ
0000_,09,478b34(00):て。あるひは十聲。あるひは一聲。稱念してむまる
0000_,09,479a01(00):る事をえたり。しかるにわれら罪業をもしといへと
0000_,09,479a02(00):も五逆をはつくらす。行業をろそかなりといへとも
0000_,09,479a03(00):一聲十聲にすぎたり。臨終よりさきに彌陀の誓願を
0000_,09,479a04(00):聞得て。隨分に信心をいたす。されは下品まてはく
0000_,09,479a05(00):だるべからず。中品は小乘の持戒の行者。及世間の
0000_,09,479a06(00):孝養父母仁義禮智信等の行人なり。この品には中
0000_,09,479a07(00):なかにむまれかたし。小乘の行人にもあらず。また
0000_,09,479a08(00):たもちたる戒もなけれはわれらか分にあらず。上品
0000_,09,479a09(00):は大乘の凡夫。菩提心等の行なり。菩提心は諸宗を
0000_,09,479a10(00):のをの其意へ同じからず。淨土宗の意は。淨土にむ
0000_,09,479a11(00):まれんとねかふを菩提心といふ。又念佛はすなはち
0000_,09,479a12(00):これ大乘の行なり。無上功德なり。しかれば上品往
0000_,09,479a13(00):生は手をひくべからず。又本願に乃至十念とたて給
0000_,09,479a14(00):ひて。臨終現前の願に大衆に圍繞せられてその人の
0000_,09,479a15(00):まへに現せんとたて給へり。中品は聲聞衆の來迎。
0000_,09,479a16(00):下品は化佛の三尊。あるひは金蓮花等の來迎なり。
0000_,09,479a17(00):しかるを大衆に圍繞せられて現せんとたて給へる本
0000_,09,479b18(00):願の意趣は。上品の來迎をまうけ給へり。なんぞあ
0000_,09,479b19(00):なかちにあひすまはんや。又善導和尚。三萬已上は
0000_,09,479b20(00):上品上生の業との給へり。數遍によて上品にむまる
0000_,09,479b21(00):へし。又三心につゐて九品あるへし。信心によて上
0000_,09,479b22(00):品にむまるへしと見えたり。上品をねかふ事は。わ
0000_,09,479b23(00):か身のためにはあらず。かのくににむまれをはり
0000_,09,479b24(00):て。かへりてとく衆生を化せんかためなり。これあ
0000_,09,479b25(00):にほとけの御意にかなはさらんや。次に阿彌陀經
0000_,09,479b26(00):は。まつ極樂の依正の功德をとく。これ衆生の願樂
0000_,09,479b27(00):の心をすすめんかためなりのちに往生の行をあかす
0000_,09,479b28(00):に。少善根をもては。むまるる事をうべからず。阿
0000_,09,479b29(00):彌陀佛の名號を執持して一日七日すれは。往生する
0000_,09,479b30(00):事をうとあかせり。衆生これを信せさらん事ををそ
0000_,09,479b31(00):れて。六方にをのをの恒河沙の諸佛ましまして。大
0000_,09,479b32(00):千に舌相をのへて證誠し給へり。善導釋していは
0000_,09,479b33(00):く。この證によてむまるる事をえすは。六方如來のの
0000_,09,479b34(00):へ給へる舌。ひとたひ口よりいてをわりて。ながくく
0000_,09,480a01(00):ちに還りいらすして。自然に壞爛せんとの給へり。し
0000_,09,480a02(00):かれは是をうたかはんものは。彌陀の本願をうたか
0000_,09,480a03(00):のふみにあらす。釋尊の所説をうたかふなり。釋尊の
0000_,09,480a04(00):所説をうたかふは。六方恒沙の諸佛の所説をうたか
0000_,09,480a05(00):ふなり。すなはち是大千にのへ給へる舌相を壞爛す
0000_,09,480a06(00):る也。もし又是を信せは。たた彌陀の本願を信するの
0000_,09,480a07(00):みにあらす釋尊の所説を信するなり。釋尊の所説を
0000_,09,480a08(00):信するは。六方恒沙の諸佛の所説を信する也。一切の
0000_,09,480a09(00):諸佛を信するは。一切の法を信するになる。一切の法
0000_,09,480a10(00):を信するは。一切の菩薩を信するになる。これすなは
0000_,09,480a11(00):ち一切の三寳を信するなり。この信ひろくして廣大
0000_,09,480a12(00):の信心なり。善導和尚のいわく。爲斷凡夫疑見執
0000_,09,480a13(00):皆舒舌相覆三千共證七日稱名號又表釋迦言
0000_,09,480a14(00):説眞六方如來舒舌證專稱名號至西方到彼花
0000_,09,480a15(00):開聞妙法十地願行自然彰心心念佛莫生疑六方如
0000_,09,480a16(00):來證不虚三業專心無雜亂百寳蓮花應時見文
0000_,09,480b17(00):御誓言の書
0000_,09,480b18(00):もろこしわか朝に。もろもろの智者たちの沙汰し申
0000_,09,480b19(00):さるる。觀念の念にもあらす。又學問をして念の心
0000_,09,480b20(00):をさとりて申す念佛にもあらす。たた往生極樂のた
0000_,09,480b21(00):めには。南無阿彌陀佛と申して。うたかひなく往生
0000_,09,480b22(00):するそとおもひとりて。申すほかには別の子細候は
0000_,09,480b23(00):す。たたし三心四種なと申す事の候は。みな决定し
0000_,09,480b24(00):て。南無阿彌陀佛にて往生するそと思うちにこもり
0000_,09,480b25(00):候なり。このほかにおくふかき事を存せは。二尊の
0000_,09,480b26(00):御あはれみにはつれ。本願にもれ候へし。念佛を信
0000_,09,480b27(00):せん人は。たとひ一代の御のりをよくよく學すと
0000_,09,480b28(00):も。一文不知の愚鈍の身になして。尼入道の無智の
0000_,09,480b29(00):ともからにおなしくして。智者のふるまひをせすし
0000_,09,480b30(00):てたた一向に念佛すへし
0000_,09,480b31(00):これは御自筆の書なり。勢觀聖人にさづけら
0000_,09,480b32(00):れき
0000_,09,481a01(00):往生大要抄
0000_,09,481a02(00):いまわか淨土宗には。二門をたてて釋迦一代の説敎
0000_,09,481a03(00):をおさむるなり。いはゆる聖道門。淨土門なり。は
0000_,09,481a04(00):しめ花嚴阿含より。をはり法花涅槃にいたるまで。
0000_,09,481a05(00):大小乘の一切の諸經にとくところの。この娑婆世界
0000_,09,481a06(00):にありなから。斷迷開悟のみちを。聖道門とは申す
0000_,09,481a07(00):なり。是につきて大乘の聖道あり。小乘の聖道あ
0000_,09,481a08(00):り。大乘に二あり。即佛乘と。菩薩乘と也。小乘に
0000_,09,481a09(00):二あり。即聲聞と。縁覺との二乘なり。これをすへ
0000_,09,481a10(00):て四乘となつく。佛乘とは即身成佛の敎なり。眞言
0000_,09,481a11(00):達磨天台花嚴等の四宗にあかすところなり。すなは
0000_,09,481a12(00):ち眞言宗には。父母所生身速證大覺位と申して。こ
0000_,09,481a13(00):の身なから。大日如來のくらいにのほるとならふ
0000_,09,481a14(00):也。佛心宗には。前佛後佛以心傳心とならひて。た
0000_,09,481a15(00):たちに人の心をさしてほとけと申なり。かるがゆへ
0000_,09,481a16(00):に即心是佛の法となつけて。成佛とは申さぬなり。
0000_,09,481a17(00):この法は釋尊入滅の時涅槃經をときをはりてのち。
0000_,09,481b18(00):たた一偈をもちて迦葉尊者に付囑し給へる法なり。
0000_,09,481b19(00):天台宗には。煩惱即菩提。生死即涅槃と觀して。觀
0000_,09,481b20(00):心にてほとけになるとならふ也。八歳の龍女か南方
0000_,09,481b21(00):無垢世界にして。すみやかに正覺をなりしその證
0000_,09,481b22(00):なり。花嚴宗には。初發心時便成正覺とて。また即身
0000_,09,481b23(00):成佛とならふなり。これらの宗にはみな即身頓證の
0000_,09,481b24(00):むねをのぶれは。佛乘となつくる也。つきに菩薩乘
0000_,09,481b25(00):といは。歷劫修行成佛の敎なり。三論法相の二宗に
0000_,09,481b26(00):ならふところなり。すなはち三論宗には。八不中道
0000_,09,481b27(00):の無相の觀に住して。しかも心には四弘誓願ををこ
0000_,09,481b28(00):し。身には六波羅蜜を行して。三阿僧祇に菩薩の行
0000_,09,481b29(00):を修してのちほとけになると申す也。法相宗には。
0000_,09,481b30(00):五重唯識の觀に住して。しかも四弘ををこし。六度
0000_,09,481b31(00):を行して三祇劫をへて。佛になると申す也。これら
0000_,09,481b32(00):を菩薩乘となつく。つきに縁覺乘といは。飛花落葉
0000_,09,481b33(00):を見て。ひとり諸法の無常をさとり。あるひは十二因
0000_,09,481b34(00):縁を觀して。ときは四生。をそきは百劫にさとりを
0000_,09,482a01(00):ひらくなり。つきに聲聞乘といは。はしめ不淨數息
0000_,09,482a02(00):を觀するより。をはり四諦の觀にいたるまて。とき
0000_,09,482a03(00):は三生。をそきは六十劫に。四向三果のくらゐをへ
0000_,09,482a04(00):て。大阿羅漢の極位にいたる也。此二乘の道は。成
0000_,09,482a05(00):實倶舍の兩宗にならふところ也。又聲聞につきて戒
0000_,09,482a06(00):行をそなふべし。比丘は二百五十戒を受持し。比丘
0000_,09,482a07(00):尼は五百戒を受持するなり。これを五篇七聚の戒と
0000_,09,482a08(00):なつくる也。又沙彌沙彌尼の十戒式沙摩尼の六法。
0000_,09,482a09(00):優婆塞優婆夷の五戒みなこれ律宗の中にあかすとこ
0000_,09,482a10(00):ろ也。をよそこの四乘の聖道は大小乘をえらはず。
0000_,09,482a11(00):われらか身にたへ。時にかなひたる事にてはなき
0000_,09,482a12(00):也。もし聲聞のみちにをもむかは。二百五十戒たも
0000_,09,482a13(00):ちかたく。苦集滅道の觀成しかたし。もし縁覺の觀
0000_,09,482a14(00):をもとむとも。飛花落葉のさとり。十二因縁の觀。
0000_,09,482a15(00):ともに心もをよばぬ事也。又菩薩の行にをゐては。
0000_,09,482a16(00):三聚十重の戒發得しかたく。四弘六度の願行成就し
0000_,09,482a17(00):かたし。されは身子は六十劫まて修行して。乞眼の
0000_,09,482b18(00):惡縁にあひて。たちまちに菩薩の廣大の心をひるか
0000_,09,482b19(00):へしき。いはんや末法のこのころをや。下根のわれ
0000_,09,482b20(00):らをや。たとひ即身頓證の理を觀すとも。眞言の入
0000_,09,482b21(00):我我入。阿字本不生の觀。天台の三觀六即中道實相
0000_,09,482b22(00):の觀。花嚴宗の法界唯心の觀。佛心宗の即心是佛の
0000_,09,482b23(00):觀。理はふかく。解はあさし。かるかゆへに末代の
0000_,09,482b24(00):行者その證をうることきはめてかたし。このゆへに道
0000_,09,482b25(00):綽禪師は聖道の一種は今の時は證しかたしとのたま
0000_,09,482b26(00):へり。すなはち大集月藏經をひきて。そのありさま
0000_,09,482b27(00):をあかせり。こまかにのふるにをよはず
0000_,09,482b28(00):つきに淨土門は。まづこの娑婆世界をいとひすて
0000_,09,482b29(00):て。いそぎてかの極樂淨土にむまれて。かのくにに
0000_,09,482b30(00):して佛道を行する也。しかれはかつかつ淨土にいた
0000_,09,482b31(00):るまての願行をたてて。往生をとぐへき也。かの國
0000_,09,482b32(00):にむまるる事は。すべて機の善惡をえらはす。たた
0000_,09,482b33(00):ほとけのちかひを信し。信せさるによる。五逆十惡
0000_,09,482b34(00):をつくれるものも。たた一念十念に往生するは。す
0000_,09,483a01(00):なはちこのことはり也。このゆへに道綽は。たた淨
0000_,09,483a02(00):土の一門のみありて。通入すべきみちなりと釋し給
0000_,09,483a03(00):へり。通しているべしといふにつきて。わたくしに
0000_,09,483a04(00):意うるに二つの心あるべし。一にはひろく通し。二
0000_,09,483a05(00):にはとをく通す。ひろく通ずといは。五逆の罪人を
0000_,09,483a06(00):あけてなを往生の機におさむ。いはんや餘の輕罪を
0000_,09,483a07(00):や。いかにいはんや善人をやと意えつれは。往生の
0000_,09,483a08(00):うつはものにきらはるるものなし。かるかゆへにひ
0000_,09,483a09(00):ろく通すといふ也。とをく通すとい。末法萬年の
0000_,09,483a10(00):のち法滅百歳まて。この敎ととまりて。その時きき
0000_,09,483a11(00):て。一念するみな往生すといへり。いはんや末法の
0000_,09,483a12(00):なかをや。いかにいはんや正法像法をやと意つれ
0000_,09,483a13(00):は。往生の時にもるる世なし。かるがゆへにとをく
0000_,09,483a14(00):通すといふなり。しかれはこのころ生死をはなれん
0000_,09,483a15(00):とおもはんものは。難證の聖道をすてて。易往の淨
0000_,09,483a16(00):土をねかふへき也。又この聖道淨土をは。難行道易
0000_,09,483a17(00):行道となつけたり。たとへをとりてこれをいふに。
0000_,09,483b18(00):難行道とは。さかしきみちをかちよりゆかんかこと
0000_,09,483b19(00):し。易行道とは。海路をふねよりゆくかことしとい
0000_,09,483b20(00):へり。しかるに目しゐ足なえたらんものは。陸地に
0000_,09,483b21(00):はむかふへがらず。たたふねにのりてのみ。むかひ
0000_,09,483b22(00):のきしにはつくへきなり。しかるにこのころのわれ
0000_,09,483b23(00):らは。智惠のまなこしゐ。行法のあしなえたるとも
0000_,09,483b24(00):から也。聖道難行のさかしきみちには。すへてのそ
0000_,09,483b25(00):みをたつべし。たた彌陀本願のふねにのりてのみ。
0000_,09,483b26(00):生死のうみをわたりて。極樂のきしにはつくべきな
0000_,09,483b27(00):り。いまこのふねといは。すなはち彌陀の本願にた
0000_,09,483b28(00):とふる也。其本願といは。四十八願也。そのなか
0000_,09,483b29(00):に。第十八の願をもて。衆生の行とさためたるな
0000_,09,483b30(00):り。二門の大旨略してかくのことし。聖道の一門を
0000_,09,483b31(00):さしをきて。淨土の一門にいらんとおもわん人は。
0000_,09,483b32(00):道綽善導の釋をもて。所依の三部經を習ふへきな
0000_,09,483b33(00):り。さきには聖道淨土の二門を分別して。淨土門に
0000_,09,483b34(00):いるべきむねを申ひらきつ。いまは淨土の一門につ
0000_,09,484a01(00):きて。修行すへきやうを申すへし。それ淨土に往生
0000_,09,484a02(00):せんとおもはは。心と行とのふたつ相應すへきな
0000_,09,484a03(00):り。かるかゆへに善導の釋に。たたしその行のみあ
0000_,09,484a04(00):るは。行すなはちひとりにして。またいたるところ
0000_,09,484a05(00):なし。たたその願のみあるは。願すなはちむなしく
0000_,09,484a06(00):して。またいたるところなし。かならす願と行とあ
0000_,09,484a07(00):ひたすけて。なすところみな剋すといへり。をよそ
0000_,09,484a08(00):往生のみにかきらず。聖道門の得道をもとめんにも
0000_,09,484a09(00):心と行とを具すへしといへり。發心修行となづくる
0000_,09,484a10(00):これなり。今此淨土宗に善導のこときは。安心起行
0000_,09,484a11(00):となつけたり。まづその安心といは。觀無量壽經に
0000_,09,484a12(00):といていはく。若衆生ありてかのくににむまれむ
0000_,09,484a13(00):とねかはんものは。三種の心ををこして即往生すへ
0000_,09,484a14(00):し。なにをか三とする。一には至誠心。二には深
0000_,09,484a15(00):心。三には迥向發願心也。三心を具するものはかな
0000_,09,484a16(00):らすかのくににむまるといへり。善導和尚の觀經の
0000_,09,484a17(00):疏。ならひに往生禮讃の序に。此三心を釋し給へ
0000_,09,484b18(00):り。一に至誠心といは。まづ往生禮讃の文をいださ
0000_,09,484b19(00):は。一には至誠心。いはゆる身業にかのほとけを禮
0000_,09,484b20(00):拜せんにも。口業にかのほとけを讃嘆稱揚せんにも。
0000_,09,484b21(00):意業にかの佛を專念觀察せんにも。をよそ三業をを
0000_,09,484b22(00):こすには。かならず眞實をもちゐよ。かるがゆへに
0000_,09,484b23(00):至誠心となつくといへり。つぎに觀經の疏の文をい
0000_,09,484b24(00):たさは。一に至誠心といは。至といは。眞也。誠と
0000_,09,484b25(00):いは。實なり。一切衆生の身口意業の所作の解行。
0000_,09,484b26(00):かならず眞實心の中になすべき事をあかさんとおも
0000_,09,484b27(00):ふ。外には賢善精進の相を現して。内には虚假をい
0000_,09,484b28(00):だく事なかれ。善の三業ををこすはかならず眞實心
0000_,09,484b29(00):の中になすべし。内外明闇をえらはず。みな眞實を
0000_,09,484b30(00):もちひよといへり。此二つの釋を。わたくしに料簡
0000_,09,484b31(00):するに。至誠心といは。眞實の心なり。その眞實と
0000_,09,484b32(00):いは。内外相應の心也。身にふるまひ。口にいひ。
0000_,09,484b33(00):意におもはん事。みな人めをかざる事なく。まこと
0000_,09,484b34(00):をあらはす也。しかるを人つねに。この至誠心を。
0000_,09,485a01(00):熾盛心と意得て。勇猛強盛の心ををこすを。至誠心
0000_,09,485a02(00):と申すは。此釋の心にはたかふ也。文字もかはり。意
0000_,09,485a03(00):もかはりたるものを。されはとてその猛利の心は。
0000_,09,485a04(00):すへて至誠心をそむくと申にはあらず。それは至誠
0000_,09,485a05(00):心のうへの。熾盛心にてこそあれ。眞實の至誠心を
0000_,09,485a06(00):地にして。熾盛なるはすぐれ。熾盛ならぬはおとる
0000_,09,485a07(00):にてある也。是につきて九品の差別まてもこころう
0000_,09,485a08(00):べき也。されは善導の觀經の疏に九品の文を釋する
0000_,09,485a09(00):下に。一一の品ことに。辨定三心以爲正因とさため
0000_,09,485a10(00):て。此三心は九品に通すべしと釋し給へり。惠心も
0000_,09,485a11(00):是をひきて。禪師の釋のこときは。理九品に通すへ
0000_,09,485a12(00):しとこそはしるされたれ。此三心の中の至誠心なれ
0000_,09,485a13(00):は。至誠心すなはち九品に通すへき也。又至誠心
0000_,09,485a14(00):は。深心と廻向發願心とを體とす。この二をはなれ
0000_,09,485a15(00):ては。なにによりてか。至誠心をあらはすへき。ひ
0000_,09,485a16(00):ろくほかをたつぬへきにあらす。深心も廻向發願心
0000_,09,485a17(00):もまことなるを至誠心とはなつくる也。三心すてに
0000_,09,485b18(00):九品に通すへしと意えてのうへには。その差別のあ
0000_,09,485b19(00):るやうをこころうるに。三心の淺深強弱によるへき
0000_,09,485b20(00):也。かるかゆへに上品上生には。經に。精進勇猛な
0000_,09,485b21(00):かるかゆへにととき。釋には日數すくなしといへと
0000_,09,485b22(00):も。作業はげしきかゆへにといへり。又上品中生を
0000_,09,485b23(00):は。行業ややよはくしてと釋し。上品下生をは。行
0000_,09,485b24(00):業こわからすなと釋せられたれは。三心につきて。
0000_,09,485b25(00):こわきもよはきもあるへしとこそこころえられた
0000_,09,485b26(00):れ。よはき三心具足したん人は。くらゐこそさから
0000_,09,485b27(00):んすれ。なを往生はうたかふべからさる也。それに
0000_,09,485b28(00):強盛の心ををこさすは。至誠心かけて。ながく往生
0000_,09,485b29(00):すへからすと意えて。みだりに身をもくだし。あま
0000_,09,485b30(00):さへ人をもかろしむる人ひとの不便におぼゆる也。
0000_,09,485b31(00):さらなり強盛の心のをこらんはめてたき事なり。善
0000_,09,485b32(00):導の十德の中に。はしめの至誠念佛の德をいだすに
0000_,09,485b33(00):も。一心に念佛してちからのつくるにあらされはや
0000_,09,485b34(00):ます。乃至寒冷にもまたあせをなかす。この相狀を
0000_,09,486a01(00):もて至誠をあらはすなとあるなれは。たれたれもさ
0000_,09,486a02(00):こそははけむへけれ。たたしこの定なるをのみ至誠
0000_,09,486a03(00):心と意えて。是にたがわんをは至誠心かけたりとい
0000_,09,486a04(00):はんには。善導のことく至誠心至極して。勇猛なら
0000_,09,486a05(00):ん人はかりぞ往生はとぐへき。われらかこときの尫
0000_,09,486a06(00):弱の心にては。いかか往生すべきと臆せられぬへき
0000_,09,486a07(00):也。かれは別して善導一人の德をほむるにてこそあ
0000_,09,486a08(00):れ。これは通して一切衆生の往生を决するにてあれ
0000_,09,486a09(00):は。たくらふべくもなき事也。所詮はたたわれらか
0000_,09,486a10(00):こときの凡夫。をのをの分につけて。強弱の眞實の
0000_,09,486a11(00):心ををこすを至誠心となづけたるとこそ。善導の釋
0000_,09,486a12(00):の意は見えたれ。文につきてこまかに意うれは。外に
0000_,09,486a13(00):は賢善精進の相を現し。内には虚假をいたくことな
0000_,09,486a14(00):かれといふは内には愚にして。外には賢相を現し。
0000_,09,486a15(00):内には惡をのみつくりて。外には善人の相を現し。
0000_,09,486a16(00):うちには懈怠にして。ほかには精進の相を現する
0000_,09,486a17(00):を。虚假とは申す也。外相の善惡をはかへりみず。
0000_,09,486b18(00):世間の謗譽をはわきまへず。内心に穢土をもいとひ
0000_,09,486b19(00):淨土をもねかひ。惡をもととめ。善をも修して。
0000_,09,486b20(00):まめやかに佛の意にかなはん事をおもふを。眞實と
0000_,09,486b21(00):は申也。眞實は虚假に對することは也。眞と假と對
0000_,09,486b22(00):し。虚と實と對するゆへなり。この眞實虚假につき
0000_,09,486b23(00):てくはしく分別するに。四句の差別あるべし。一に
0000_,09,486b24(00):は外をかさりて内にはむなしき人。二には外をもか
0000_,09,486b25(00):さらす内もむなしき人。三には外はむなしく見えて
0000_,09,486b26(00):内はまことある人。四には外にもまことをあらはし内
0000_,09,486b27(00):にもまことある人。かくのこときの四人の中には。前
0000_,09,486b28(00):の二人をはともに虚假の行者といふへし。後の二人
0000_,09,486b29(00):をはともに眞實の行者といふべし。しかれはたた外
0000_,09,486b30(00):相の賢愚善惡をはえらはす。内心の邪正迷悟による
0000_,09,486b31(00):へき也。をよそこの眞實の心は。人ことに具しかたく。
0000_,09,486b32(00):事にふれてかけやすき心ばへなり。をろかにはかな
0000_,09,486b33(00):しといましめられたるやうもあることはり也。無始
0000_,09,486b34(00):よりこのかた今身にいたるまて。おもひならはして。
0000_,09,487a01(00):さしもひさしく心をはなれぬ名利の煩惱なれは。た
0000_,09,487a02(00):たんとするにやすらかに離かたきなりけりと。お
0000_,09,487a03(00):もひゆるさるかたもあれとも。又ゆるしはんへる
0000_,09,487a04(00):へき事ならねは。わか心をかへりみて。誡なをすへ
0000_,09,487a05(00):き事なり。しかるにわか心の程もおもひしられ。人
0000_,09,487a06(00):のうへをも見るに。この人目をかさる心はへの。い
0000_,09,487a07(00):かにもいかにもおもひはなれぬこそ。返かえす心うくかな
0000_,09,487a08(00):しくおぼゆれ。この世はかりをふかく執する人は。
0000_,09,487a09(00):たたまなこのまへのほまれ。むなしき名をもあげん
0000_,09,487a10(00):とおもはんをは。いふにたらぬ事にてをきつ。うき
0000_,09,487a11(00):世をそむきて。まことのみちにをもむきたる人ひと
0000_,09,487a12(00):の中にも。かへりてはかなくよしなき事かなとおほ
0000_,09,487a13(00):ゆる事もある也。むかしこの世を執する心のふかか
0000_,09,487a14(00):りしなこりにて。ほどほどにつけたる名利をふりす
0000_,09,487a15(00):てたるばかりを。ありかたくいみじき事におもひ
0000_,09,487a16(00):て。やかてそれを。この世さまにも心のいろのうる
0000_,09,487a17(00):さきにとりなしてさとりあさき世間の人の。心のそ
0000_,09,487b18(00):こをはしらす。うへにあらはるるすがた事がらばか
0000_,09,487b19(00):りを。たとかりいみしかるをのみ本意におもひて。
0000_,09,487b20(00):ふかき山路をたつね。幽なるすみかをしむるまて
0000_,09,487b21(00):も。ひとすぢに心のしづまらんためとしもおもは
0000_,09,487b22(00):で。をのつからたづねきたらん人。もしはつたへきか
0000_,09,487b23(00):ん人のおもはん事をのみさきだてて。まがきのうち
0000_,09,487b24(00):庭のこだち。菴室のしつらひ。道塲の莊嚴なと。た
0000_,09,487b25(00):とくめてたく。心ぼそく物あはれならむ事がらをの
0000_,09,487b26(00):み。ひきかまへんと執するほとに。罪の事も。ほと
0000_,09,487b27(00):けのおほしめさん事をもかへりみす。人のそしりに
0000_,09,487b28(00):ならぬ樣をのみおもひいとなむ事よりほかにはおも
0000_,09,487b29(00):ひまじふる事もなくて。まことしく往生をねがふ
0000_,09,487b30(00):へきかたをは思もいれぬ事なとのあるが。やかて至
0000_,09,487b31(00):誠心かけて。往生せぬ心ばへにてある也又世をそむ
0000_,09,487b32(00):きたる人こそ。中なかひじり名聞もありてさやうに
0000_,09,487b33(00):もあれ。世にありながら往生をねかはん人は。此心
0000_,09,487b34(00):は何ゆへにかあるへきと申す人のあるは。なをこま
0000_,09,488a01(00):やかに心えざる也。世のほまれをおもひ。人めをか
0000_,09,488a02(00):ざる心はなに事にもわたる事なれは。ゆめまほろし
0000_,09,488a03(00):の榮花重職をおもふのみにはかきらぬ事にてある
0000_,09,488a04(00):也。中なか在家の男女の身にて後世をおもひたるを
0000_,09,488a05(00):は。心ある事のいみしくありかたきとこそは人も申
0000_,09,488a06(00):す事なれは。それにつけて。外をかざりて人にいみ
0000_,09,488a07(00):じがられんとおもふ人のあらんもかたかるへくもな
0000_,09,488a08(00):し。まして世をすてたる人なとにむかひては。さな
0000_,09,488a09(00):からん心をも。あはれをしりかほにあひしらはんた
0000_,09,488a10(00):めに。後世のおそろしさ。此世のいとはしさなんと
0000_,09,488a11(00):は申すへきぞかし。又か樣に申せは。ひとへにこの
0000_,09,488a12(00):世の人めはいかにもありなんとて。人のそしりをも
0000_,09,488a13(00):かへりみす。ほかをかさらねはとて。心のままにふ
0000_,09,488a14(00):るまふがよきと申すにてはなきなり。菩薩の譏嫌戒
0000_,09,488a15(00):とて。人のそしりになりぬへき事をはなせそとこそ
0000_,09,488a16(00):いましめられたれ。さればはうにまかせてふるまへ
0000_,09,488a17(00):は。放逸とてわろき事にてあるなり。それに時にの
0000_,09,488b18(00):ぞみたる譏嫌戒のためはかりに。いささか人めをつ
0000_,09,488b19(00):つむかたは。わさともさこそあるへき事を。人目を
0000_,09,488b20(00):のみ執してまことのかたをもかへり見す。往生のさ
0000_,09,488b21(00):はりになるまでに。ひきなさるる事の返かえすもくち
0000_,09,488b22(00):おしき也。譏嫌戒となづけて。やかて虚假になる事
0000_,09,488b23(00):もありぬへし。眞實といひなして。あまり放逸なる
0000_,09,488b24(00):事もありぬべし。これをかまへてかまへて。よくよく意
0000_,09,488b25(00):えとくへし。詞なをたらぬ心ちする也。又此眞實に
0000_,09,488b26(00):つきて。自利の眞實利他の眞實あり。又三界六道の
0000_,09,488b27(00):自他の依正をいとひすてて。かろしめいやしめんに
0000_,09,488b28(00):も。阿彌陀佛の依正二報を。禮拜讃嘆憶念せんにも。
0000_,09,488b29(00):をよそ厭離穢土欣求淨土の三業にわたりて。みな眞
0000_,09,488b30(00):實なるへきむね。疏の文につぶさ也。その文しげく
0000_,09,488b31(00):して。ことことく出すことあたはず。至誠心のあり
0000_,09,488b32(00):さま略してかくのことし
0000_,09,488b33(00):二に深心といは。まづ禮讃の文にいはく。二者深
0000_,09,488b34(00):心。すなはち眞實の信心なり。自身は是煩惱を具足
0000_,09,489a01(00):せる凡夫なり。善根薄少にして。三界に流轉して。
0000_,09,489a02(00):火宅をいてすと信知して。いま彌陀の本弘誓願の名
0000_,09,489a03(00):號を穪する事。下十聲一聲にいたるまて。さためて
0000_,09,489a04(00):往生する事をうと信知して。乃至一念もうたかふ心
0000_,09,489a05(00):ある事なかれ。かるかゆへに深心となつくといへ
0000_,09,489a06(00):り。次に觀經の疏の文にいはく。二に深心といは。
0000_,09,489a07(00):すなはちこれ深信の心なり。又二種あり。一には决
0000_,09,489a08(00):定して。ふかく自身は現に是罪惡生死の凡夫也。曠
0000_,09,489a09(00):劫より此かた常沒常流轉して。出離の縁ある事なし
0000_,09,489a10(00):と信せよ。二には决定してふかく彼阿彌陀佛の四十
0000_,09,489a11(00):八願をもて。衆生を攝受し給ふ事うたかひなくおも
0000_,09,489a12(00):んはかりなけれは。かの願力に乘して。さためて往
0000_,09,489a13(00):生する事をうと信し。又决定してふかく釋迦佛。こ
0000_,09,489a14(00):の觀經の三福九品定散二善をときて。かのほとけの
0000_,09,489a15(00):依正二報を證讃して。人をして欣慕せしめ給ふ事を
0000_,09,489a16(00):信し。又决定してふかく彌陀經の中に。十方恒沙の
0000_,09,489a17(00):諸佛の。一切の凡夫决定してむまるる事をうと證勸
0000_,09,489b18(00):し給へり。ねかはくは一切の行者。一心にたた佛語
0000_,09,489b19(00):を信して身命をかへりみす。决定して依行じて。佛
0000_,09,489b20(00):の捨しめ給はん事をは即すて。ほとけの行せしめ給
0000_,09,489b21(00):はん事をは即行し。ほとけの去しめ給はんところを
0000_,09,489b22(00):は即され。これを佛敎に隨順し。佛意に隨順すとな
0000_,09,489b23(00):づけ。これを眞の佛弟子となつく。又深心を深信と
0000_,09,489b24(00):いは。决定して自心を建立して。敎に順して修行し
0000_,09,489b25(00):て。なかく疑錯をのぞきて。一切の別解別行。異學
0000_,09,489b26(00):異見異執のために。退失し傾動せられされといへ
0000_,09,489b27(00):り。わたくしに此二つの釋を見るに。文に廣略あ
0000_,09,489b28(00):り。言に同異ありといへともまづ二種の信心をたつ
0000_,09,489b29(00):る事は。そのおもむきこれひとつなり。すなはち二
0000_,09,489b30(00):の信心といは。はしめにわか身は煩惱罪惡の凡夫
0000_,09,489b31(00):也。火宅をいです。出離の縁なしと信せよといひ。
0000_,09,489b32(00):つきには决定往生すへき身なりと信して一念もうた
0000_,09,489b33(00):かふへからす。人にもいひさまたけらるへからずな
0000_,09,489b34(00):といへる。前後のこと葉相違して。意得がたきに似
0000_,09,490a01(00):たれとも。心をととめて是を案するにはしめにはわ
0000_,09,490a02(00):が身のほとを信じ。のちにはほとけの願を信する也。
0000_,09,490a03(00):たたしのちの信心を决定せしめんかために。はしめ
0000_,09,490a04(00):の信心をばあくる也。そのゆへは。もし初のわか身
0000_,09,490a05(00):を信する樣をあげすして。たたちに後のほとけのち
0000_,09,490a06(00):かひばかりを信すへきむねをいだしたらましかは。
0000_,09,490a07(00):もろもろの往生をねかはん人。雜行を修して本願を
0000_,09,490a08(00):たのまざらんをはしはらくをく。まさしく彌陀の本
0000_,09,490a09(00):願の念佛を修しなからも。なを心にもし貪欲瞋恚の
0000_,09,490a10(00):煩惱をもをこし。身にをのつから十惡破戒等の罪業
0000_,09,490a11(00):をもをかす事あらは。みたりに自身を怯弱して。返
0000_,09,490a12(00):りて本願を疑惑しなまし。まことに此彌陀の本願
0000_,09,490a13(00):に。十聲一聲にいたるまて往生すといふ事は。おほ
0000_,09,490a14(00):ろけの人にてはあらじ。妄念をもをこさす。つみを
0000_,09,490a15(00):もつくらぬ人の。甚深のさとりををこし。強盛の心
0000_,09,490a16(00):をもちて申したる念佛にてぞあるらん。われらごと
0000_,09,490a17(00):きのえせものともの。一念十念にてはよもあらじと
0000_,09,490b18(00):こそおほえんもにくからぬ事也。是は善導和尚。未
0000_,09,490b19(00):來の衆生このうたかひををこさん事をかへりみて。
0000_,09,490b20(00):此二種の信心をあげて。われらがごとき煩惱をも斷
0000_,09,490b21(00):ぜす。罪惡をもつくれる凡夫なりとも。ふかく彌陀の
0000_,09,490b22(00):本願を信して念佛すれは。十聲一聲にいたるまて决
0000_,09,490b23(00):定して往生するむねをは釋し給へる也。かくだに釋
0000_,09,490b24(00):し給はさらましかは。われらが往生は不定にそおほ
0000_,09,490b25(00):えまし。あやうくおほゆるにつけても。此釋の。こ
0000_,09,490b26(00):とに心にそみておほえはんへる也。されは此義を心
0000_,09,490b27(00):えわかぬ人にこそあるめれ。ほとけの本願をはうた
0000_,09,490b28(00):かはねとも。わか心のわろけれは往生はかなはしと
0000_,09,490b29(00):申あひたるが。やがて本願をうたがふにて侍るな
0000_,09,490b30(00):り。さやうに申したちなは。いかほとまでか佛の本
0000_,09,490b31(00):願にかなはず。さほとの心こそ本願にはかなひたれ
0000_,09,490b32(00):とはしり侍るへき。それをわきまへさらんにとりて
0000_,09,490b33(00):は。煩惱を斷ぜさらんほとは。心のわろさはつきせ
0000_,09,490b34(00):ぬ事にてこそあらんずれば。いまは往生してんとお
0000_,09,491a01(00):もひたつ世はあるまし。又煩惱を斷してそ。往生は
0000_,09,491a02(00):すべきと申すになりなば。凡夫の往生といふ事は
0000_,09,491a03(00):みなやふれなん。すでに彌陀の本願力といふとも。
0000_,09,491a04(00):煩惱罪惡の凡夫をは。いかてかたすけ給ふべき。え
0000_,09,491a05(00):むかへ給はじ物をなと申すになるぞかし。佛の御ち
0000_,09,491a06(00):からをばいかほどどしるぞ。それにすぎてほとけの
0000_,09,491a07(00):願をうたがふ事はいかかあるべき。又ほとけにたち
0000_,09,491a08(00):あひまいらするとかありなんと申すへき事にてこそ
0000_,09,491a09(00):あれ。すべてわか心の善惡をはからひて佛の願にか
0000_,09,491a10(00):なひかなはざるを意得あはせん事は。佛智ならては
0000_,09,491a11(00):かなふまじき事也。されは善導は觀經の疏の一のま
0000_,09,491a12(00):きに。弘願を釋するに。一切善惡の凡夫むまるるこ
0000_,09,491a13(00):とをうる事は。阿彌陀佛の大願業力に乘して增上縁
0000_,09,491a14(00):とせずといふ事なしといひをきて。ほとけの密意弘
0000_,09,491a15(00):深にして敎門さとりかたし。三賢十聖もはかりてう
0000_,09,491a16(00):かがふところにあらず。いはんやわれ信外の輕毛な
0000_,09,491a17(00):り。あへて旨趣を知んやとこそは釋し給ひたれば。
0000_,09,491b18(00):善導だにも十信にだにもいたらぬ身にて。いかてか
0000_,09,491b19(00):ほとけの御意をしるべきとこそは。おほせられたれ
0000_,09,491b20(00):ば。ましてわれらが解にて。ほとけの本願をはからひ
0000_,09,491b21(00):しる事は。ゆめゆめおもひよるましき事也。たた心
0000_,09,491b22(00):の善惡をもかへりみす。罪の輕重をもわきまへす。
0000_,09,491b23(00):意に往生せんとをもひて口に南無阿彌陀佛ととなへ
0000_,09,491b24(00):は。こえについて决定往生のをもひをなすへし。
0000_,09,491b25(00):その决定によりて。すなはち往生の業はさたまる
0000_,09,491b26(00):也。かく意えつれはやすき也。往生は不定にをもへ
0000_,09,491b27(00):はやかて不定なり。一定とをもへはやかて一定する
0000_,09,491b28(00):事なり。所詮は深信といは。かの佛の本願は。いか
0000_,09,491b29(00):なる罪人をもすてす。たた名號をとなふる事一聲ま
0000_,09,491b30(00):てに。决定して往生すと。ふかくたのみて。すこし
0000_,09,491b31(00):のうたがひもなきを申す也。觀經の下品下生を見る
0000_,09,491b32(00):に。十惡五逆の罪人も。一念十念に往生すととかれ
0000_,09,491b33(00):たり。十惡五逆等貪瞋四重偸僧謗正法。未曾慚愧悔
0000_,09,491b34(00):前といへるは。在生の時の惡業をあかす。忽遇往
0000_,09,492a01(00):生善知識急勸專稱彼佛名化佛菩薩尋聲到一念傾心入
0000_,09,492a02(00):寳蓮といへるは。臨終の時の行相をあかす也又雙卷
0000_,09,492a03(00):經のおくに。三寶滅盡の後の衆生。乃至一念に往生
0000_,09,492a04(00):すととかれたり。善導釋していはく。万年三寶滅此
0000_,09,492a05(00):經住百年爾時聞一念皆當得生彼といへり。此二
0000_,09,492a06(00):つの意をもて。彌陀の本願のひろく攝し。とをくを
0000_,09,492a07(00):よふほとをはしるへき也。重をあげて輕をおさめ。
0000_,09,492a08(00):惡人をあけて善人をおさめ。遠きをあけて近きをお
0000_,09,492a09(00):さめ。後をあけて前をおさむるなるへし。まことに
0000_,09,492a10(00):大悲誓願の深廣なる事たやすく言をもてのふへから
0000_,09,492a11(00):す。心をととめておもふへき也抑此ころ末法にいれ
0000_,09,492a12(00):りといへとも。いまた百年にみたず。われら罪業を
0000_,09,492a13(00):もしといへとも。いまた五逆をつくらす。しかれは
0000_,09,492a14(00):はるかに百年法滅ののちをすくひ給へり。いはんや
0000_,09,492a15(00):此ころをや。ひろく五逆極重のつみをすて給はす。
0000_,09,492a16(00):いはんや十惡のわれらをや。たた三心を具して。も
0000_,09,492a17(00):はら名號を稱すへし。たとひ一念といふともみだり
0000_,09,492b18(00):に本願をうたかふ事なかれ。たたしかやうのことは
0000_,09,492b19(00):りを申つれはつみをもすて給はねは。心にまかせて
0000_,09,492b20(00):つみをつくらんもくるしかるまし。又一念にも一定
0000_,09,492b21(00):往生すなれは。念佛はおほく申さずともありなん
0000_,09,492b22(00):と。あしく意うる人のいできてつみをはゆるし。念
0000_,09,492b23(00):佛をは制するやうに申しなすが。返返もあさましく
0000_,09,492b24(00):候也。惡をすすめ善をととむる佛法はいかかあるへ
0000_,09,492b25(00):き。されは善導は。貪瞋煩惱をきたしましへざれとい
0000_,09,492b26(00):ましめ。又念念相續していのちのをはらんを期とせ
0000_,09,492b27(00):よとをしへ。又日所作は五万六万乃至十万なととこ
0000_,09,492b28(00):そすすめ給ひたれ。たたこれは大悲本願の一切を攝
0000_,09,492b29(00):するなを十惡五逆をももらさす。稱名念佛の餘行に
0000_,09,492b30(00):すぐれたる。すてに一念十念にあらはれたるむねを
0000_,09,492b31(00):信せよと申すにてこそあれ。かやうの事はあしく意
0000_,09,492b32(00):うれは。いつかたもひが事になる也つよく信ずるか
0000_,09,492b33(00):たをすすむれは邪見ををこし。邪見ををこさせしと
0000_,09,492b34(00):こしらふれは。信心つよからすなるが術なき事にて
0000_,09,493a01(00):侍る也。かやうの分別は。此ついてには事ながけれ
0000_,09,493a02(00):ば起行の下にてこまかに申ひらくべし。又ひくとこ
0000_,09,493a03(00):ろの疏の文を見るに。後の信心につゐて二つの心あ
0000_,09,493a04(00):り。即佛につゐてふかく信し。經につゐてふかく信
0000_,09,493a05(00):すべきむねを釋し給へるにやと意得らるる也。まづ
0000_,09,493a06(00):ほとけにつゐて信すといは。一には彌陀の本願を信
0000_,09,493a07(00):し。二には釋迦の所説を信し。三には十方恒沙の證
0000_,09,493a08(00):勸を信すへき也。經につゐて信すといは。一には無
0000_,09,493a09(00):量壽經を信し。二には觀經を信し。三には阿彌陀經
0000_,09,493a10(00):を信するなり。すなはちはしめに决定してふかく阿
0000_,09,493a11(00):彌陀佛の四十八願といへる文は。彌陀を信し。又無
0000_,09,493a12(00):量壽經を信する也。つきに又决定してふかく釋迦佛
0000_,09,493a13(00):の觀經といへる文は。釋迦を信し。觀經を信するな
0000_,09,493a14(00):り。つきに决定してふかく彌陀經の中といへる文
0000_,09,493a15(00):は。十方諸佛を信し。又阿彌陀經を信する也。又つ
0000_,09,493a16(00):きの文に。佛の捨しめ給はんをはすてよといふは。
0000_,09,493a17(00):雜修雜行なり。ほとけの行せしめ給はん事をは行せ
0000_,09,493b18(00):よといふは。專修正行也。ほとけの去しめたまはん
0000_,09,493b19(00):事をはされといふは。異學異解雜縁亂動の處なり。
0000_,09,493b20(00):善導の。みつからもさへ他の往生の正行をもさふと
0000_,09,493b21(00):釋し給へる事。まことにをそるべき物なり。又佛敎
0000_,09,493b22(00):に隨順すといは。釋迦の御をしへにしたかひ。佛願
0000_,09,493b23(00):に隨順すといは。彌陀の願にしたかふ也。佛意に隨
0000_,09,493b24(00):順すといは。二尊の御意にかなふなり。いまの文
0000_,09,493b25(00):の意はさきの文に。三部經を信すべしといへるにた
0000_,09,493b26(00):かはす。詮してはたた雜修をすてて。專修を行する
0000_,09,493b27(00):が。ほとけの御意にかなふとこそはきこえたれ。又
0000_,09,493b28(00):つきの文に。別解別行のためにやぶられされといふ
0000_,09,493b29(00):は。解異に行異ならん人の。難じやふらんにつゐ
0000_,09,493b30(00):て。念佛をもすて。往生をもうたかふ事なかれと申
0000_,09,493b31(00):す也。さとりことなる人と申すは。天台法相等の諸
0000_,09,493b32(00):宗の學生これなり。行ことなる人と申すは。眞言止
0000_,09,493b33(00):觀等の一切の行者是なり。これらはみな聖道門の解
0000_,09,493b34(00):行也。淨土門の解行にことなるかゆへに。別解別行
0000_,09,494a01(00):とはなつけたり。かくのこときの人に。いひやぶら
0000_,09,494a02(00):るましきことはりは。此文のつぎにこまかに釋し給
0000_,09,494a03(00):へり。すなはち人につきて信をたて。行につきて信
0000_,09,494a04(00):をたつといふ二の信をあげたり。はしめの人につ
0000_,09,494a05(00):きて信をたつといへるこれなり。その文廣博にして
0000_,09,494a06(00):つふさに出すことあたはす。しかれともその義至要
0000_,09,494a07(00):にしてまたすてがたきによりて。ことはを畧し意を
0000_,09,494a08(00):とりてそのをもむきをあかさは。解行不同の人あり
0000_,09,494a09(00):て。經論の證據ををひきて。一切の凡夫往生するこ
0000_,09,494a10(00):とをえすといはは。すなはちこたえていへ。なんぢ
0000_,09,494a11(00):かひくところの經論を信せさるにはあらす。みな
0000_,09,494a12(00):ことことくあふひて信すといへとも。さらになんぢ
0000_,09,494a13(00):か破をはうけず。そのゆへは。なんぢかひくところ
0000_,09,494a14(00):の經論と。わか信するところの經論と。すてに各
0000_,09,494a15(00):別の法門なり。ほとけ此觀經彌陀經等をとき給ふ
0000_,09,494a16(00):事。時も別にところも別に對機も別に利益も別なり。
0000_,09,494a17(00):佛の説敎は。機にしたかひ。時にしたかひて不同な
0000_,09,494b18(00):り。かれは通して人天菩薩の解行をとき。是は別し
0000_,09,494b19(00):て往生淨土の解行をとく。即佛の滅後の。五濁極增
0000_,09,494b20(00):の一切の凡夫。决定して往生する事をうととき給へ
0000_,09,494b21(00):り。われいま一心に此佛敎によりて。决定して奉行
0000_,09,494b22(00):す。たとひなんぢ百千万億ありてむまれずといふと
0000_,09,494b23(00):も。たたわか往生の信心を增長し成就せんとこたへ
0000_,09,494b24(00):よといへり。又行者さらに難破の人にむかひてとき
0000_,09,494b25(00):ていへ。なんちよくきけ。われいまなんちかため
0000_,09,494b26(00):に。さらに决定の信相をとかんといひて。はしめは
0000_,09,494b27(00):地前菩薩及羅漢辟支佛等より。をはり化佛報佛まで
0000_,09,494b28(00):たてあけて。たとひ化佛報佛十方にみちみちて。を
0000_,09,494b29(00):のをのひかりをかがやかし。したをいだして十方に
0000_,09,494b30(00):おほひて。一切の凡夫念佛して一定往生すといふ事
0000_,09,494b31(00):は。ひが事なり信すへからすとの給はんに。われこ
0000_,09,494b32(00):れらの諸佛の所説をきくとも。一念も疑退の心をを
0000_,09,494b33(00):こして。かの國にむまるる事をえさらん事ををそれ
0000_,09,494b34(00):じ。なにをもてのゆへにとならは。一佛は一切佛也。
0000_,09,495a01(00):大悲等同にしてすこしの差別なし。同體の大悲のゆ
0000_,09,495a02(00):へに。一佛の所説はすなはち是一切佛の化なり。こ
0000_,09,495a03(00):こをもてまづ彌陀如來。稱我名號下至十聲若不生者
0000_,09,495a04(00):不取正覺と願して。その願成就してすてに佛になり
0000_,09,495a05(00):給へり。又釋迦如來は。この五濁惡世にして。惡衆生
0000_,09,495a06(00):惡見惡煩惱惡邪無信さかりなる時。彌陀の名號をほ
0000_,09,495a07(00):め。衆生を勸勵して稱念すれはかならず往生する事
0000_,09,495a08(00):をうととき給へり。又十方の諸佛は。衆生の釋迦一
0000_,09,495a09(00):佛の所説を信せさらん事ををそれて。すなはちとも
0000_,09,495a10(00):に同心同時にをのをの舌相を出して。あまねく三千
0000_,09,495a11(00):世界におほひて。誠實のことはをとき給ふ。なんだ
0000_,09,495a12(00):ち衆生。みな釋迦の所説所讃所證を信すべし。一切
0000_,09,495a13(00):の凡夫罪福の多少時節の久近をとはす。たたよく上
0000_,09,495a14(00):は百年をつくし。下は一日七日十聲一聲にいたるま
0000_,09,495a15(00):で。心をひとつにしてもはら彌陀の名號を念すれは。
0000_,09,495a16(00):さためて往生する事をうといふ事を信すへし。か
0000_,09,495a17(00):ならすうたかふことなかれと證誠し給へり。かる
0000_,09,495b18(00):がゆへに人につゐて信をたつといへり。かくの
0000_,09,495b19(00):こときの。一切諸佛の。一佛ものこらず同心に。あ
0000_,09,495b20(00):るひは願ををこし。あるひはその願をとき。あるひ
0000_,09,495b21(00):はその説を證して。一切の凡夫念佛して决定往生す
0000_,09,495b22(00):へきむねをすすめ給へるうへには。いかなるほとけ
0000_,09,495b23(00):の又きたりて往生すへらすとはの給ふべきぞとい
0000_,09,495b24(00):ふことはりをもて。ほとけきたりての給ふともおと
0000_,09,495b25(00):ろくへからすとは信する也。ほとけなをしかり。いは
0000_,09,495b26(00):んや地前地上の菩薩をや。いはんや小乘の羅漢をや
0000_,09,495b27(00):と意えつれは。まして凡夫のとかく申さんにより
0000_,09,495b28(00):て。一念もうたかひおとろく心あるへからすとは申
0000_,09,495b29(00):なり。おほかた此信心の樣を。人の意えわかぬとお
0000_,09,495b30(00):ほゆる也。心のそみそみと身のけもいよだち。なみ
0000_,09,495b31(00):たもおつるをのみ信のおこると申すはひが事にてあ
0000_,09,495b32(00):る也。それは歡喜隨喜悲喜とぞ申へき。信といは
0000_,09,495b33(00):うたかひに對する意にて。うたかひをのぞくを信と
0000_,09,495b34(00):は申すへき也。みる事につけても。きく事につけて
0000_,09,496a01(00):も。その事一定さぞとおもひとりつる事は。人いか
0000_,09,496a02(00):に申せとも。不定におもひなす事はなきぞかし。こ
0000_,09,496a03(00):れをこそ物を信するとは申せ。その信のうへに歡喜
0000_,09,496a04(00):隨喜なともをこらんは。すぐれたるにてこそあるへ
0000_,09,496a05(00):けれ。たとへはとしころ心のほとをもみとりて。そ
0000_,09,496a06(00):ら事せぬたしかならん人そとたのみたらん人の。さ
0000_,09,496a07(00):まさまにおそろしき誓言をたて。なをさりならすね
0000_,09,496a08(00):んころにちきりをきたる事のあらんを。ふかくたの
0000_,09,496a09(00):みてわすれすたもちて。心のそこにふかくたくはへ
0000_,09,496a10(00):たらんに。いと心の程もしらざらん人のそれなたの
0000_,09,496a11(00):みそ。そら事をするそとさまさまにいひさまたげん
0000_,09,496a12(00):につきて。すこしもかはる心はあまるしきぞかし。
0000_,09,496a13(00):それがやうに彌陀の本願をもふかく信して。いひや
0000_,09,496a14(00):ふらるへからす。いはんや一代の敎主も付囑し給へ
0000_,09,496a15(00):るをや。いはんや十方の諸佛も證誠し給へるをやと
0000_,09,496a16(00):意うへきにや。まことにことはりをききひらかざら
0000_,09,496a17(00):んほとこそあらめ。ひとたひも是をききて信ををこ
0000_,09,496b18(00):してんのちは。いかなる人とかくいふとも。なにかは
0000_,09,496b19(00):みたるる心あるへきとこそはおほえ候へ。つきに行
0000_,09,496b20(00):につゐて信をたつといふは。即行に二つあり。一に
0000_,09,496b21(00):は正行。二には雜行なりといへり。此二行につゐ
0000_,09,496b22(00):て。あるひは行相。あるひは得失。文ひろく義おほ
0000_,09,496b23(00):しといへとも。しはらく略を存す。つふさには下の
0000_,09,496b24(00):起行の中にあかすへし。深心の大要をとるに是に
0000_,09,496b25(00):あり
0000_,09,496b26(00):この文に下卷あるへしとみゆるが。いつくにかく
0000_,09,496b27(00):れて侍るにか。いまたたつねえず。もしたつねう
0000_,09,496b28(00):る人あらはこれにつけ。
0000_,09,496b29(00):
0000_,09,496b30(00):
0000_,09,496b31(00):
0000_,09,496b32(00):
0000_,09,496b33(00):
0000_,09,496b34(00):黑谷上人語燈錄卷第十一
0000_,09,497a01(00):黑谷上人語燈錄卷第十二
0000_,09,497a02(00):
0000_,09,497a03(00):厭欣沙門了惠集錄
0000_,09,497a04(00):
0000_,09,497a05(00):和語第二之二當卷有五章
0000_,09,497a06(00):念佛往生要義抄第四
0000_,09,497a07(00):三心義第五
0000_,09,497a08(00):七箇條起請文第六
0000_,09,497a09(00):念佛大意第七
0000_,09,497a10(00):淨土宗畧抄第八
0000_,09,497a11(00):念佛往生要義抄
0000_,09,497a12(00):それ念佛往生は。十惡五逆をえらはす。迎接するに
0000_,09,497a13(00):十聲一聲をもてす。聖道諸宗の成佛は。上根上智を
0000_,09,497a14(00):もととするゆへに。聲聞菩薩を機とす。しかるに世
0000_,09,497a15(00):すてに末法になり。人みな惡人なり。はやく修しか
0000_,09,497a16(00):たき敎を學せんよりは。行じやすき彌陀の名號をと
0000_,09,497a17(00):なへて。このたび生死の家をいつへき也ただしいづ
0000_,09,497a18(00):れの經論も。釋尊のときをき給へる經敎なり。しか
0000_,09,497b19(00):れば法華涅槃等の大乘經を修行して。ほとけになる
0000_,09,497b20(00):になにのかたき事かあらん。それにとりてことに法
0000_,09,497b21(00):華經は三世の諸佛もこの經によりてほとけになり。
0000_,09,497b22(00):十方の如來もこの經によりて正覺をなり給ふ。しか
0000_,09,497b23(00):るに法華經なとをよみたてまつらんに。なにの不足
0000_,09,497b24(00):かあらん。かやうに申す日はまことにさるへき事な
0000_,09,497b25(00):れとも。われらか器量はこの敎にをよばさるなり。
0000_,09,497b26(00):そのゆへは。法華には菩薩聲聞を機とするゆへに。わ
0000_,09,497b27(00):れら凡夫はかなふへからすとおもふへき也。しかる
0000_,09,497b28(00):に阿彌陀ほとけの本願は。末代のわれらかためにを
0000_,09,497b29(00):こし給へる願なれは。利益いまの時に决定往生すへ
0000_,09,497b30(00):き也。わか身は女人なれはとおもふ事なく。わか身
0000_,09,497b31(00):は煩惱惡業の身なれはといふ事なかれ。もとより阿
0000_,09,497b32(00):彌陀佛は罪惡深重の衆生の。三世の諸佛も十方の如
0000_,09,497b33(00):來もすてさせ給ひたるわれらをむかへんと。ちかひ
0000_,09,497b34(00):給ひける願にあひたてまつれり。往生うたかひなし
0000_,09,497b35(00):とふかくをもひいれて。南無阿彌陀佛南無阿彌陀佛と申せは
0000_,09,498a01(00):善人も惡人も。男子も女人も。十人は十人なから百
0000_,09,498a02(00):人は百人なから。みな往生をとくる也 問ていはく。
0000_,09,498a03(00):稱名念佛申す人はみな往生すへしや 答ていはく。
0000_,09,498a04(00):凡念佛に他力の念佛あり。自力の念佛あり。他力の
0000_,09,498a05(00):念佛は往生すへし。自力の念佛は本より往生の志し
0000_,09,498a06(00):にて申念佛にあらされば。またく往生すべからず。
0000_,09,498a07(00):問ていはく。その他力の樣いかむ 答ていはく。
0000_,09,498a08(00):ただひとすぢに佛の本願を信し。わが身の善惡を
0000_,09,498a09(00):かへり見ず。决定往生せんとをもひて申すを。他力
0000_,09,498a10(00):の念佛といふ。たとへは騏麟の尾につきたる蠅の。
0000_,09,498a11(00):ひとはねに千里をかけり。輪王の御ゆきにあひぬる
0000_,09,498a12(00):卑夫の。一日に四天下をめくるがごとし。これを他
0000_,09,498a13(00):力と申す也。又巨なる石をふねにいれつれは。時の
0000_,09,498a14(00):ほとにむかひのきしにとづくがごとし。これはまた
0000_,09,498a15(00):く石のちからにあらず。ふねのちからなり。それがや
0000_,09,498a16(00):うにわれらがちからにてはなし。阿彌陀ほとけの御
0000_,09,498a17(00):ちから也。これすなはち他力なり 問ていはく。自
0000_,09,498b18(00):力といふはいかん 答ていはく。煩惱具足してわろ
0000_,09,498b19(00):き身をもて。煩惱を斷し。さとりをあらはして。成
0000_,09,498b20(00):佛すと意えて。晝夜にはけめとも。無始より貪瞋具
0000_,09,498b21(00):足の身なるがゆへに。ながく煩惱を斷する事かたき
0000_,09,498b22(00):なり。かく斷しがたき無明煩惱を。三毒具足の心に
0000_,09,498b23(00):て斷せんとする事。たとへは須彌を針にてくだき。大
0000_,09,498b24(00):海を芥子のひさくにてくみつくさんがことし。たと
0000_,09,498b25(00):ひはりにて須彌をくだき。芥子のひさくにて大海を
0000_,09,498b26(00):くみつくすとも。われらが惡業煩惱の心にては。曠劫
0000_,09,498b27(00):多生をふるとも。ほとけにならん事かたし。そのゆ
0000_,09,498b28(00):へは。念念步步にをもひと思ふ事は。三途八難の
0000_,09,498b29(00):業。ねてもさめても案じと案する事は。六趣四生の
0000_,09,498b30(00):きづな也。かかる身にては。いかてか修行學道を
0000_,09,498b31(00):して成佛はすべきや。このを自力とは申す也 問て
0000_,09,498b32(00):いはく。聖人の申す念佛と。在家のものの申す念佛
0000_,09,498b33(00):と勝劣いかむ 答ていわく。聖人の念佛と世間者の
0000_,09,498b34(00):念佛と。功德ひとしくして。またくかはりめあるへ
0000_,09,499a01(00):からす 疑ていはく。この條なを不審也。そのゆへ
0000_,09,499a02(00):は。女人にもちかづかす。不淨の食もせずして。申
0000_,09,499a03(00):さん念佛はたとかるへし。朝夕に女境にむつれ。酒
0000_,09,499a04(00):をのみ不淨食をして申さん念佛は。さためておと
0000_,09,499a05(00):るへし功德いかてかひとしかるへきや 答ていは
0000_,09,499a06(00):く。功德ひとしくして勝劣あるへからず。そのゆへ
0000_,09,499a07(00):は。阿彌陀佛の本願のゆへをしらさるものの。かか
0000_,09,499a08(00):るおかしきうたがひをはするなり。しかるゆへは。
0000_,09,499a09(00):むかし阿彌陀佛。二百一十億の諸佛の淨土の。莊嚴
0000_,09,499a10(00):寶樂等の誓願利益にいたるまて。世自在王佛の御ま
0000_,09,499a11(00):へにしてこれを見給ふに。われらごときの妄想顚倒
0000_,09,499a12(00):の凡夫の淨土にむまるへき法のなき也。されは善導
0000_,09,499a13(00):和尚釋していはく。一切佛土皆嚴淨凡夫亂想恐難生
0000_,09,499a14(00):といへり。この文の心は一切の佛土はたへなれと
0000_,09,499a15(00):も亂想の凡夫はむまるる事なしと釋し給ふ也。をの
0000_,09,499a16(00):をのの御身をはからひて御らんずべきなり。そのゆ
0000_,09,499a17(00):へは。口には經をよみ。身には佛を禮拜すれとも。
0000_,09,499b18(00):心には思はし事のみおもはれて。一時もととまる事
0000_,09,499b19(00):なし。しかれは我らか身をもて。いかてか生死をは
0000_,09,499b20(00):なるべき。かかりけるほどに曠劫よりこのかた三途
0000_,09,499b21(00):八難をすみかとして。烔燃猛火に身をこがしていづ
0000_,09,499b22(00):る期なかりける也。かなしきかなや。善心はとし
0000_,09,499b23(00):としにしたかひてうすくなり。惡心は日日にしたか
0000_,09,499b24(00):ひていよいよまさる。されば古人のいへる事あり。
0000_,09,499b25(00):煩惱は身にそへる影。さらむとすれともさらす。菩
0000_,09,499b26(00):提は水にうかへる月。とらむとすれともとられす
0000_,09,499b27(00):と。このゆへに阿彌佛ほとけ。五劫に思惟してたて
0000_,09,499b28(00):給ひし。深重の本願と申すは。善惡をへたてず。持
0000_,09,499b29(00):戒破戒をきらはず。在家出家をもえらはす。有智無
0000_,09,499b30(00):智をも論せず。平等の大悲ををこしてほとけになり
0000_,09,499b31(00):給ひたれは。ただふかく本願を信して念佛申さは。
0000_,09,499b32(00):一念須臾のあたひに。阿彌陀ほとけの來迎にあづか
0000_,09,499b33(00):るへき也。むまれてよりこのかた女人を目に見ず。
0000_,09,499b34(00):酒肉五辛ながく斷して。五戒十戒等かたくたもち
0000_,09,500a01(00):てやむ事なき聖人も。念佛に不足のをもひなして。
0000_,09,500a02(00):餘行をましえ申さんにをきては。佛の來迎にあづか
0000_,09,500a03(00):らん事。千人が中に一人。萬人が中に五三人なとや
0000_,09,500a04(00):候はんすらん。それも善導和尚は千中無一とをほせ
0000_,09,500a05(00):られて候へば。いかがあるべく候らんとをほえ候。
0000_,09,500a06(00):をよそ阿彌陀佛の本願と申す事はやうもなく。わか
0000_,09,500a07(00):心をすませとにもあらず。不淨の身をきよめよとに
0000_,09,500a08(00):もあらず。ただねてもさめても。ひとすぢに御名をと
0000_,09,500a09(00):なふる人をは。臨終にはかならずきたりてむかへ給
0000_,09,500a10(00):ふなるものをといふ心に住して申せは。一期のをは
0000_,09,500a11(00):りには。佛の來迎にあづからん事うたがひあるべか
0000_,09,500a12(00):らず。わか身は女人なれは。又在家のものなればと
0000_,09,500a13(00):いふ事なく往生は一定とおほしめすべき也。問てい
0000_,09,500a14(00):はく。心のすむ時の念佛と。妄心の中の念佛と。そ
0000_,09,500a15(00):の勝劣いかむ 答ていはく。その功德ひとしくし
0000_,09,500a16(00):て。あへて差別なし。疑ていはく。この條なほ不審
0000_,09,500a17(00):なり。そのゆへは。心のすむ時の念佛は。餘念もな
0000_,09,500b18(00):く一向極樂世界の事のみ。おもはれ。彌陀の本願
0000_,09,500b19(00):のみ案せらるるがゆへに。ましふるものなければ。
0000_,09,500b20(00):淸淨の念佛なり。心の散亂する時は。三業不調にし
0000_,09,500b21(00):て。口には名號をとなへ。手には念珠をまはすばか
0000_,09,500b22(00):りにてはこれ不淨の念佛也。いかてかひとしるべ
0000_,09,500b23(00):き。答ていはく。このうたかひをなすは。いまた本
0000_,09,500b24(00):願のゆへをしらざるなり。阿彌陀佛は惡業の衆生を
0000_,09,500b25(00):すくはんために。生死の大海に弘誓のふねをうかへ
0000_,09,500b26(00):給へる也。たとへはおもき石。かろきあさからをひ
0000_,09,500b27(00):とつふねにいれて。むかひのきしにとづくがこと
0000_,09,500b28(00):し。本願の殊勝なることは。いかなる衆生も。ただ
0000_,09,500b29(00):名號をとなふるほかは。別の事なき也 問ていは
0000_,09,500b30(00):く。一聲の念佛と。十聲の念佛と。功德の勝劣いか
0000_,09,500b31(00):む 答ていはく。ただおなし事也 疑ていはく。こ
0000_,09,500b32(00):の事又不審なり。そのゆへは。一聲十聲すてにかず
0000_,09,500b33(00):の多少あり。いかてかひとしかるべきや 答一聲十
0000_,09,500b34(00):聲と申す事は最後の時の事なり。死する時一聲申す
0000_,09,501a01(00):ものも往生す。十聲申すものも往生すといふ事な
0000_,09,501a02(00):り。往生だにもひとしくは。功德なんそ劣ならん。
0000_,09,501a03(00):本願の文に。設我得佛十方衆生至心信樂欲生我
0000_,09,501a04(00):國乃至十念若不生者不取正覺この文の意は。
0000_,09,501a05(00):法藏比丘。われほとけになりたらん時。十方の衆生
0000_,09,501a06(00):極樂にむまれんとおもひて。南無阿彌陀佛と。もしは
0000_,09,501a07(00):十聲。もしは一聲申さん衆生をむかへずは。ほとけ
0000_,09,501a08(00):にならじとちかひ給ふ。かるかゆへにかずの多少を
0000_,09,501a09(00):論せず。往生の得分はをなじき也。本願の文顯然な
0000_,09,501a10(00):り。なんぞうたがはんや 問ていはく。最後の念佛
0000_,09,501a11(00):と。平生の念佛といつれかすぐれたるや 答ていは
0000_,09,501a12(00):く。たたをなじ事也。そのゆへは。平生の念佛。臨
0000_,09,501a13(00):終の念佛とてなんのかはりめかあらん。平生の念佛
0000_,09,501a14(00):の死ぬれは。臨終の念佛となり。臨終の念佛ののぶ
0000_,09,501a15(00):れは。平生の念佛となる也 難していはく。最後の
0000_,09,501a16(00):一念は百年の業にすくれたりと見えたり。いかむ
0000_,09,501a17(00):答ていはく。このうたがひは。この文をしらさる難
0000_,09,501b18(00):なり。いきのとどまる時の一念は。惡業こはくして
0000_,09,501b19(00):善業にすぐれたり。善業こはくして惡業にすくれた
0000_,09,501b20(00):りといふ事也。ただしこの申す人は念佛者にてはな
0000_,09,501b21(00):し。もとより惡人の沙汰をいふ事也。平生より念佛
0000_,09,501b22(00):申て往生をねがふ人の事をは。ともかくもさらに沙
0000_,09,501b23(00):汰にをよはぬ事也 問ていはく。攝取の益をかうふ
0000_,09,501b24(00):る事は。平生か臨終か。いかむ 答ていはく。平生
0000_,09,501b25(00):の時なり。そのゆへは。往生の心まことにて。わか
0000_,09,501b26(00):身をうたがふ事なくて。來迎をまつ人は。この三心
0000_,09,501b27(00):具足の念佛申す人なり。この三心具足しぬれば。か
0000_,09,501b28(00):ならず極樂にうまるといふ事は。觀經の説なり。
0000_,09,501b29(00):かかる心さしある人を。阿彌陀佛は八萬四千の光明
0000_,09,501b30(00):をはなちててらし給ふ也。平生の時てらしはじめ
0000_,09,501b31(00):て。最後まて捨給はぬなり。かるかゆへに不捨の誓
0000_,09,501b32(00):約と申す也 問ていはく智者の念佛と。愚者の念
0000_,09,501b33(00):佛と。いづれも差別なしや 答ていはく。ほとけの
0000_,09,501b34(00):本願にとづかは。すこしの差別もなし。そのゆへは
0000_,09,502a01(00):阿彌陀佛ほとけになり給はざりしむかし。十方の
0000_,09,502a02(00):衆生わか名をとなへは。乃至十聲まてもむかへん
0000_,09,502a03(00):と。ちかひをたて給ひけるは。智者をえらひ。愚
0000_,09,502a04(00):者をすてんとにはあらす。されは五會法事讃にいは
0000_,09,502a05(00):く。不簡多聞持淨戒不簡破戒罪根深但使廻心多念佛
0000_,09,502a06(00):能令瓧礫變成金。この文の意は。智者も愚者も。持
0000_,09,502a07(00):戒も破戒も。たた念佛申さは。みな往生すといふ事
0000_,09,502a08(00):也。此心に住して。わか身の善惡をかへりみず。ほ
0000_,09,502a09(00):とけの本願をたのみて念佛申すへき也。此たび輪廻
0000_,09,502a10(00):のきづなをはなるる事。念佛にすぎたる事はあるへ
0000_,09,502a11(00):からず。このかきをきたるものを見て。そしり謗
0000_,09,502a12(00):せんともがらも。かならず九品のうてなに縁をむす
0000_,09,502a13(00):び。たがひに順逆の縁むなしからずして。一佛淨土
0000_,09,502a14(00):のともたらむ。抑機をいへは。五逆重罪をえらは
0000_,09,502a15(00):ず。女人闡提をもすてす。行をいへは。一念十念を
0000_,09,502a16(00):もてす。これによて五障三從をうらむへからず。こ
0000_,09,502a17(00):の願をたのみ。この行をはげむへき也。念佛のちか
0000_,09,502b18(00):らにあらすは。善人なをむまれかたし。いはんや惡
0000_,09,502b19(00):人をや。五念に五障を消し。三念に三從を滅して。
0000_,09,502b20(00):一念に臨終の來迎をかうふらんと。行住坐臥に名號
0000_,09,502b21(00):をとなふべし。時處諸縁に此願をたのむべし。あな
0000_,09,502b22(00):かしこあなかしこ
0000_,09,502b23(00):南無阿彌陀佛 南無阿彌陀佛
0000_,09,502b24(00):
0000_,09,502b25(00):三心義
0000_,09,502b26(00):觀無量壽經には。若有衆生願生彼國發三種心
0000_,09,502b27(00):即便往生何等爲三一者至誠心二者深心三者廻向發
0000_,09,502b28(00):願心具三心者必生彼國といへり。禮讃には。三心
0000_,09,502b29(00):を釋しをはりて。具三心者必得往生也若少一
0000_,09,502b30(00):心即不得生といへり。しかれば三心を具すへき
0000_,09,502b31(00):なり。一に至誠心といふは。眞實の心なり。身に禮
0000_,09,502b32(00):拜を行し。くちに名號をとなへ。心に相好をおもふ
0000_,09,502b33(00):みな眞實をもちひよ。すへてこれをいふに。穢土を
0000_,09,502b34(00):いとひ淨土をねかひて。もろもろの行業を修せんも
0000_,09,503a01(00):の。みな眞實をもてつとむへし。是を勤修せんに。
0000_,09,503a02(00):ほかには賢善精進の相を現し。うちには愚惡懈怠の
0000_,09,503a03(00):心をいだきて修するところの行業は。日夜十二時に
0000_,09,503a04(00):ひまなく。これを行ずとも往生をえす。ほかには愚
0000_,09,503a05(00):惡懈怠のかたちをあらはし。うちには賢善精進のを
0000_,09,503a06(00):もひに住してこれを修行するもの。一時一念なりと
0000_,09,503a07(00):も。その行むなしからすかならす往生をう。これを
0000_,09,503a08(00):至誠心となづく。二に深心といふは。ふかく信する心
0000_,09,503a09(00):なり。是につゐて又二あり。一にはわれはこれ罪惡
0000_,09,503a10(00):不善の身。無始よりこのかた六道に輪迴して。出離
0000_,09,503a11(00):の縁なしと信し。二には罪人なりといへともほとけ
0000_,09,503a12(00):の願力をもて強縁として。かならず往生を得と信
0000_,09,503a13(00):す。これにつゐて又二あり。一には人につきて信を
0000_,09,503a14(00):たつ。二には行につきて信をたつ。人につきて信を
0000_,09,503a15(00):たつといふは。出離生死のみちをほしといへとも。
0000_,09,503a16(00):大きにわかちて二あり。一には聖道門。二には淨土
0000_,09,503a17(00):門なり。聖道門といふは。此娑婆世界にて煩惱を斷
0000_,09,503b18(00):し。菩提を證するみちなり。淨土門といふは。この
0000_,09,503b19(00):娑婆世界をいとひ。かの極樂をねかひて。善根を修
0000_,09,503b20(00):する門なり。二門ありいへとも。聖道門をさしをき
0000_,09,503b21(00):て淨土門に歸すべし。しかるにもし人ありてをほく
0000_,09,503b22(00):經論をひきて。罪惡の凡夫往生する事をえじといは
0000_,09,503b23(00):ん。このことばをききて退心をなさす。いよいよ信心
0000_,09,503b24(00):をますへし。ゆへいかんとなれは。罪障の凡夫の淨土
0000_,09,503b25(00):に往生すといふ事は。これ釋尊の誠言也。凡夫の妄
0000_,09,503b26(00):執にあらず。われすでに佛の言を信してふかく淨土
0000_,09,503b27(00):を欣求す。たとひ諸佛菩薩きたりて。罪障の凡夫淨
0000_,09,503b28(00):土にむまるへからずとの給ふとも。これを信すへか
0000_,09,503b29(00):らず。ゆへいかんとなれは。菩薩は佛の弟子なり。も
0000_,09,503b30(00):しまことにこれ菩薩ならは。佛説をそむくべから
0000_,09,503b31(00):ず。しかるにすてに佛説にたがひて。往生をえずと
0000_,09,503b32(00):の給ふ。まことの菩薩にあらず。又佛はこれ同體の大悲
0000_,09,503b33(00):なり。まことに佛ならは。釋迦の説にたかふべから
0000_,09,503b34(00):ず。しかれはすなはち。阿彌陀經に。一日七日彌陀の
0000_,09,504a01(00):名號を念して。かならすむまるる事をうととけり。こ
0000_,09,504a02(00):れを六方恒沙の諸佛。釋迦佛におなしく。これを證誠
0000_,09,504a03(00):し給へり。しかるにいま釋迦の説にそむきて往生せ
0000_,09,504a04(00):すといふ。かるがゆへにしりぬ。これまことのほと
0000_,09,504a05(00):けにあらす。天魔の變化なり。この義をもてのゆへ
0000_,09,504a06(00):に。佛菩薩の説なりとも信すへからす。いかにい
0000_,09,504a07(00):はんや餘説をや。なんちか執するところの經論大小
0000_,09,504a08(00):ことなりといへとも。みな佛果を期する穢土の修行。
0000_,09,504a09(00):聖道門の意なり。われらか修するところは。正雜不
0000_,09,504a10(00):同なれとも。ともに極樂をねかふ。徃生の行業。淨
0000_,09,504a11(00):土門の意なり。聖道門はこれ汝が有縁の行。淨土門
0000_,09,504a12(00):はこれわれらが有縁の行。これをもてかれを難すへ
0000_,09,504a13(00):からす。かれをもてこれを難すへからず。かくのこ
0000_,09,504a14(00):とく。信ずるものをば。就人立信となづく。つきに行
0000_,09,504a15(00):につきて信をたつといふは。往生極樂の行まちまち
0000_,09,504a16(00):なりといへども二種をばいです。一には正行。二に
0000_,09,504a17(00):は雜行也。正行といふは。阿彌陀佛にをきて。した
0000_,09,504b18(00):しき行なり。雜行といふ阿彌陀佛にをきてうとき行
0000_,09,504b19(00):なり。まづ正行といふは。是につきて五あり。一に
0000_,09,504b20(00):はいはく讀誦。いはゆる三部經をよむなり。二には
0000_,09,504b21(00):觀察。いはゆる極樂の依正を觀する也。三には禮
0000_,09,504b22(00):拜。いはゆる阿彌陀佛を禮拜する也。四には稱名。
0000_,09,504b23(00):いはゆる彌陀の名號を稱する也。五には讃嘆供養。
0000_,09,504b24(00):いはゆる阿彌陀佛を讃嘆し供養する也。この五を
0000_,09,504b25(00):もてあはせてく二とす。一には一心にもはら彌陀の
0000_,09,504b26(00):名號を念して。行住坐臥に時節の久近をとはず。念
0000_,09,504b27(00):念にすてざる。これを正定業となづく。かのほとけ
0000_,09,504b28(00):の願に順するがゆへに二にはさきの五が中に。第四
0000_,09,504b29(00):の稱名をのぞひてほかの禮拜讀誦等をみな助業とな
0000_,09,504b30(00):づく。つきに雜行といふは。さきの五種の正助二
0000_,09,504b31(00):業をのぞきて已外の。もろもろの讀誦大乘發菩提
0000_,09,504b32(00):心持戒勸進等の一切の行なり。此正雜二行につきて
0000_,09,504b33(00):五種の得失あり。一には親疎對。いはゆる正行は阿
0000_,09,504b34(00):彌陀佛にしたしく雜行はうとし。二には近遠對。い
0000_,09,505a01(00):はゆる正行は阿彌陀佛にちかく。雜行は阿彌陀佛に
0000_,09,505a02(00):とをし。三には有間無間對。いはゆる正行はおもひ
0000_,09,505a03(00):をかくるに無間也。雜行は思をかくるに間斷あり。
0000_,09,505a04(00):四に廻向不廻向對。いはゆる正行は廻向をもちひさ
0000_,09,505a05(00):れともをのつから往生の業となる。雜行は廻向せさ
0000_,09,505a06(00):る時は往生の業とならす。五には純雜對。いはゆる
0000_,09,505a07(00):正行は純極樂の業也。雜行はしからず。十方の淨土
0000_,09,505a08(00):乃至人天に通する業也。かくのことく信するを就行
0000_,09,505a09(00):立信となつく。三に廻向發願心といふは。過去をよ
0000_,09,505a10(00):び今生の身口意業に。修するところの一切の善根を
0000_,09,505a11(00):眞實の心をもて極樂に廻向して往生を欣求する也。
0000_,09,505a12(00):これを廻向發願心となづく。この三心を具しぬれは。
0000_,09,505a13(00):かならす往生する也
0000_,09,505a14(00):
0000_,09,505a15(00):七箇條起請文
0000_,09,505a16(00):をよそ往生淨土の人の要法は。おほしといへとも。
0000_,09,505a17(00):淨土宗の大事は。三心の法門にある也。もし三心を
0000_,09,505b18(00):具せさるものは。日夜十二時に。かうべの火をはら
0000_,09,505b19(00):ふがことくにすれとも。つひに往生をえすといへり
0000_,09,505b20(00):極樂をねがはん人は。いかにもして三心のやうを心
0000_,09,505b21(00):えて念佛すへき也。三心といふは。一には至誠心。
0000_,09,505b22(00):二には深心。三には廻向發願心なり。まづ至誠心と
0000_,09,505b23(00):いふは大師釋しての給はく。至といふは眞也。誠とい
0000_,09,505b24(00):ふは實也といへり。ただ眞實心を。至誠心と善導は
0000_,09,505b25(00):おほせられたる也。眞實といふはもろもろの虚假の
0000_,09,505b26(00):心のなきをいふ也。虚假といふは。貪瞋等の煩惱をを
0000_,09,505b27(00):こして。正念をうしなふを。虚假心と釋する也。す
0000_,09,505b28(00):べてもろもろの煩惱のをこる事は。みなもと貪瞋を
0000_,09,505b29(00):母として出生するなり。貪といふにつゐて喜足小欲
0000_,09,505b30(00):の貪あり。不喜足大欲の貪あり。いま淨土宗に制
0000_,09,505b31(00):するところは。不喜足大欲の貪煩惱也。まづ行者か
0000_,09,505b32(00):やうの道理を心えて念佛すへき也。これが眞實の念
0000_,09,505b33(00):佛にてある也。喜足小欲の貪はくるしからず。瞋煩
0000_,09,505b34(00):惱も敬上慈下の心をやふらずして。道理を心えんほ
0000_,09,506a01(00):と也。癡煩惱といふは。をろかなる心なり。此心を
0000_,09,506a02(00):かしこくなすへき也。まづ生死をいとひ淨土をねか
0000_,09,506a03(00):ひて往生を大事といとなみてもろもろの家業を事と
0000_,09,506a04(00):せされは。癡煩惱なき也。少少の癡は往生のさはり
0000_,09,506a05(00):にはならず。このほとに心えつれは。貪瞋等の虚假
0000_,09,506a06(00):の心はうせて。眞實心はやすくおこる也。これを淨
0000_,09,506a07(00):土の菩提心といふなり。詮するところ。生死の報を
0000_,09,506a08(00):かろしめ。念佛の一行をはげむがゆへに眞實心とは
0000_,09,506a09(00):いふ也。二に深心といふは。ふかく念佛を信する心な
0000_,09,506a10(00):り。ふかく念佛を信すといふは。餘行なく一向に念
0000_,09,506a11(00):佛になる也。もし餘行をかぬれは。深心かけたる行
0000_,09,506a12(00):者といふ也。詮するところ。釋迦の淨土三部經はひと
0000_,09,506a13(00):へに念佛の一行をとくと心え。彌陀の四十八願は。
0000_,09,506a14(00):稱名の一行を本願とすと心えて。ふた心なく念佛す
0000_,09,506a15(00):るを。深心具足といふなり。三に廻向發願心といふ
0000_,09,506a16(00):は。無始よりこのかたの所作のもろもろの善根を。ひ
0000_,09,506a17(00):とへに往生極樂といのる也。又つねに退する事なく
0000_,09,506b18(00):念佛するを。廻向發願心といふなり。これは惠心の
0000_,09,506b19(00):御義なり。此心ならは至誠心深心具足してのうへ
0000_,09,506b20(00):につねに。念佛の數遍をなすへし。もし念佛退轉せ
0000_,09,506b21(00):は。廻向發願心かけたるもの也。淨土宗の人は。三
0000_,09,506b22(00):心のやうをよくよく心えて念佛すべき也。三心の中
0000_,09,506b23(00):に。ひとつもかけなは往生はかなふまじき也。三心
0000_,09,506b24(00):具足しぬれは往生は無下にやすくなるなり。すべて
0000_,09,506b25(00):われらが輪廻生死のふるまひは。ただ貪瞋癡の煩惱
0000_,09,506b26(00):の絆によりて也。貪瞋癡をこらは。なを惡趣へゆく
0000_,09,506b27(00):へきまとひのをこりたるぞと意えて。是をとどむへ
0000_,09,506b28(00):き也。しかれともいまだ煩惱具足のわれらなれは。
0000_,09,506b29(00):かくは意えたれともつねに煩惱はをこる也。をこれ
0000_,09,506b30(00):とも煩惱をは心のまらう人とし念佛をは心のある
0000_,09,506b31(00):しとしつれは。あなかちに往生をはさへぬ也。煩惱
0000_,09,506b32(00):を心のあるしとして念佛を心のまらう人とする事
0000_,09,506b33(00):は。雜毒虚假の善にて往生にはきらはるる也。詮す
0000_,09,506b34(00):るところ。前念後念のあひたには。煩惱をまじふと
0000_,09,507a01(00):いふとも。かまへて南無阿彌陀佛の六字の中に。貪
0000_,09,507a02(00):等の煩惱ををこすまじき也
0000_,09,507a03(00):一われは阿彌陀佛をこそたのみたれ。念佛をこそ信
0000_,09,507a04(00):じたれとて。諸佛菩薩の悲願をかろしめたてまつ
0000_,09,507a05(00):り。法華般若等の。めてたき經ともを。わろくおも
0000_,09,507a06(00):ひそしる事はゆめゆめあるへからず。よろづのほと
0000_,09,507a07(00):けたちを。そしり。もろもろの聖敎をうたかひそし
0000_,09,507a08(00):りたらんずるつみは。まづ阿彌陀佛の御心にかなふ
0000_,09,507a09(00):まじければ。念佛すとも悲願にもれん事は一定也
0000_,09,507a10(00):一つみをつくらじと身をつつしみてよからんとする
0000_,09,507a11(00):は。阿彌陀ほとけの願をかろしむるにてこそあれ。
0000_,09,507a12(00):又念佛をおほく申さんとて。日日に六萬遍などをく
0000_,09,507a13(00):りゐたるは。他力をうたがふにてこそあれといふ事
0000_,09,507a14(00):のおほくきこゆる。かやうのひが事ゆめゆめもちふ
0000_,09,507a15(00):へからずまづいづれのところにか。阿彌陀佛はつみ
0000_,09,507a16(00):つくれとすすめ給ひける。ひとへにわが身に惡をも
0000_,09,507a17(00):とどめえず。つみのみつくりゐたるままに。かかる
0000_,09,507b18(00):ゆくゑほとりもなき虚言をたくみいだして。物もし
0000_,09,507b19(00):らぬ男女のともからを。すかしほらかして。罪業を
0000_,09,507b20(00):すすめ。煩惱ををこさしむる事。返返天魔のたぐひ
0000_,09,507b21(00):なり。外道のしわざ也。往生極樂のあたかたきなり
0000_,09,507b22(00):とおもふべし。又念佛のかすをおほく申すものを。自
0000_,09,507b23(00):力をはげむといふ事。これ又ものもおほえずあさま
0000_,09,507b24(00):しきひが事也。ただ一念二念をとなふとも。自力の
0000_,09,507b25(00):心ならん人は。自力の念佛とすへし。千遍萬遍をと
0000_,09,507b26(00):なふとも。百日千日よるひるはげみつとむとも。ひ
0000_,09,507b27(00):とへに願力をたのみ。他力をあふきたらん人の念佛
0000_,09,507b28(00):は。聲聲念念しかしなから他力の念佛にてあるへし。
0000_,09,507b29(00):されば三心ををこしたる人の念佛は。日日夜夜時時
0000_,09,507b30(00):剋剋にとなふれとも。しかしなから願力をあふき。
0000_,09,507b31(00):他力をたのみたる心にてとなへゐたれは。かけても
0000_,09,507b32(00):ふれても。自力の念佛とはいふへからす
0000_,09,507b33(00):一三心と申す事をしりたる人の念佛に。三心具足し
0000_,09,507b34(00):てあらん事は左右にをよばず。つやつや三心の名を
0000_,09,508a01(00):だにもしらぬ。無智のともからの念佛には。よも三
0000_,09,508a02(00):心は具し候はじ。三心かけは往生し候なんやと申す
0000_,09,508a03(00):事。きはめたる不審にて候へとも。これは阿彌陀ほ
0000_,09,508a04(00):とけの法藏菩薩のむかし五劫のあひた。よるひる心
0000_,09,508a05(00):をくだきて案じたてて。成就せさせ給ひたる本願の
0000_,09,508a06(00):三心なれば。あだあだしくいふべき事にあらず。い
0000_,09,508a07(00):かに無智ならん者もこれを具し。三心の名をしらぬ
0000_,09,508a08(00):ものまても。かならすそらに具せんずる樣を擇はせ
0000_,09,508a09(00):給ひたる三心なれば。阿彌陀佛をたのみたてまつり
0000_,09,508a10(00):て。すこしもうたかふ心なくして。この名號をとな
0000_,09,508a11(00):ふれは。あみたほとけかならずわれをむかへて。極
0000_,09,508a12(00):樂にゆかせ給ふとききて。これをふかく信して。す
0000_,09,508a13(00):こしもうたかふ心なく。むかへさせ給へとおもひて
0000_,09,508a14(00):念佛すれは。この心がすなはち三心具足の心にてあ
0000_,09,508a15(00):れば。ただひらに信じてだにも念佛すれば。すずろ
0000_,09,508a16(00):に三心はあるなり。さればこそよにあさましき一文
0000_,09,508a17(00):不通のともからのなかに。ひとすちに念佛するもの
0000_,09,508b18(00):は。臨終正念にして。めてたき往生をするは。現に
0000_,09,508b19(00):證據あらたなる事なれば。つゆちりもうたかふべか
0000_,09,508b20(00):らず。中なかよくもしらぬ三心沙汰して。あしさま
0000_,09,508b21(00):に心えたる人ひとは。臨終のわろくのみありあひた
0000_,09,508b22(00):る。それにてたれたれも心うへきなり
0000_,09,508b23(00):一ときとき別時の念佛を修して。心をも身をもはげ
0000_,09,508b24(00):ましととのへすすむへき也。日日に六萬遍を申せは
0000_,09,508b25(00):七萬遍をとなふればとて。ただ在もいはれたる事
0000_,09,508b26(00):にてはあれとも。人の心さまは。いたく目もなれ。
0000_,09,508b27(00):耳もなれぬれは。いそいそとすすむ心もなく。あ
0000_,09,508b28(00):けくれ心いそかしき樣にてのみ。疎略になりゆく
0000_,09,508b29(00):也。その心をためなをさん料に。時時別時の念佛は
0000_,09,508b30(00):すへき也。しかれは善導和尚も。ねんころにすすめ
0000_,09,508b31(00):給ひ。惠心の往生要集にも。すすめさせ給ひたる
0000_,09,508b32(00):也。道塲をもひきつくろひ。花香をもまいらせん
0000_,09,508b33(00):事。ことにちからのたへむにしたかひてかざりまい
0000_,09,508b34(00):らせて。わが身をもことにきよめて道塲にいりて。
0000_,09,509a01(00):あるひは三時あるひは六時などに念佛すべし。もし
0000_,09,509a02(00):同行などあまたあらん時は。かはるかはるいりて不斷
0000_,09,509a03(00):念佛にも修すべし。かやうの事はをのをのことがら
0000_,09,509a04(00):にしたかひてはからふべし。さて善導のおほせられ
0000_,09,509a05(00):たるは。月の一日より八日にいたるまで。或は八日よ
0000_,09,509a06(00):り十五日にいたるまで。或は十五日より廿三日にい
0000_,09,509a07(00):たるまて。或は廿三日より晦日にいたるまでと。お
0000_,09,509a08(00):ほせられたり。をのをのさしあはざらん時をはから
0000_,09,509a09(00):ひて。七日の別時をつねに修すへし。ゆめゆめすず
0000_,09,509a10(00):ろ事ともいふものにすかされて。不善の心あるべか
0000_,09,509a11(00):らず
0000_,09,509a12(00):一いかにもいかにも最後の正念を成就して目には阿彌陀
0000_,09,509a13(00):ほとけを見たてまつり。口には彌陀の名號をとな
0000_,09,509a14(00):へ。心には聖衆の來迎をまちたてまつるへし。と
0000_,09,509a15(00):しころ日ころいみじく念佛の功をつみたりとも。臨
0000_,09,509a16(00):終に惡縁にもあひ。あしき心もをこりぬるものなら
0000_,09,509a17(00):ば順次の往生しはづして。一生二生なりとも。三生
0000_,09,509b18(00):四生なりとも。生死のながれにしたがひてくるしか
0000_,09,509b19(00):らん事はくちをしき事ぞかし。されば善導和尚すす
0000_,09,509b20(00):めておほせられたる樣は。願弟子等臨命終時乃至上
0000_,09,509b21(00):品往生阿彌陀佛國とあり。いよいよ臨終の正念は
0000_,09,509b22(00):いのりもし。ねがふべき事也。臨終の正念をいのる
0000_,09,509b23(00):は。彌陀の本願をたのまぬ者ぞなど申すは。善導に
0000_,09,509b24(00):は。いかほどまさりたる學生ぞとおもふべき也。あ
0000_,09,509b25(00):なあさましおそろしおそろし
0000_,09,509b26(00):一念佛は。つねにおこたらぬが。一定往生する事に
0000_,09,509b27(00):てある也。されば善導すすめての給はく。一發心已
0000_,09,509b28(00):後誓畢此生無有退轉唯以淨土爲期又云一心
0000_,09,509b29(00):專念彌陀名號行住坐臥不問時節久近念念不捨
0000_,09,509b30(00):者是名正定之業順彼佛願故といへり。かやうに
0000_,09,509b31(00):すすめましましたる事はあまたおほけれとも。こと
0000_,09,509b32(00):ことくにかきのせす。たとむへし。あふぐへし。さ
0000_,09,509b33(00):らにうたがふべからず
0000_,09,509b34(00):一げにげにしく念佛を行して。げにげにしき人にな
0000_,09,510a01(00):りぬれば。よろづの人を見るに。みなわが心にはをと
0000_,09,510a02(00):りたり。あさましくわろければ。わが身のよきまま
0000_,09,510a03(00):には。ゆゆしき念佛者にてある物かな。たれたれに
0000_,09,510a04(00):もすぐれたりと思ふ也。この事をはよくよく意えて
0000_,09,510a05(00):つつしむべき也。世もひろし。人もおほければ。山の
0000_,09,510a06(00):奧林の中にこもりゐて。人にもしられぬ念佛者の。
0000_,09,510a07(00):貴くめてたき。さすがにおほくあるを。わがきかず
0000_,09,510a08(00):しらぬにてこそあれ。されば。われほどの念佛者
0000_,09,510a09(00):よもあらじと思ふはひが事也。大憍慢にてあれは。そ
0000_,09,510a10(00):れをたよりにて。魔縁の付て。往生をさまたくる
0000_,09,510a11(00):也。さればわが身のいみじくて。つみをも滅し極樂
0000_,09,510a12(00):へもまいらばこそあらめ。ひとへに阿彌陀佛の願力
0000_,09,510a13(00):にてこそ煩惱をも罪業をもほろぼしうしなひて。か
0000_,09,510a14(00):たしけなく彌陀ほとけの。てつからみづからむかへ
0000_,09,510a15(00):とりて。極樂へかへらせましますことなれ。さればわ
0000_,09,510a16(00):がちからにて往生する事ならばこそわれかしこしと
0000_,09,510a17(00):いふ慢心をばをこさめ。若憍慢の心だにもをこりな
0000_,09,510b18(00):ば。たちところに阿彌陀ほとけの願にはそむきぬる
0000_,09,510b19(00):ものなれば。彌陀も諸佛も護念し給はすなりぬれば。
0000_,09,510b20(00):惡魔のためにもなやまさるる也。返返も憍慢の心を
0000_,09,510b21(00):をこすへからず。あなかしこあなかしこ
0000_,09,510b22(00):
0000_,09,510b23(00):念佛大意
0000_,09,510b24(00):末代惡世の衆生。往生の心さしをいたさんにをきて
0000_,09,510b25(00):は。又他のつとめあるへからず。ただ善導の釋につ
0000_,09,510b26(00):ゐて。一向專修の念佛門にいるへきなり。しかるを一
0000_,09,510b27(00):向に信をいたして。その門にいる人はきはめてあり
0000_,09,510b28(00):かたし。そのゆへにあるひは他の行に心をそめ。ある
0000_,09,510b29(00):ひは念佛の功德ををもくせざるなるへし。つらつら
0000_,09,510b30(00):これをおもふに。まことしく往生淨土の願。ふかき
0000_,09,510b31(00):心をもはらにする人ありかたきゆへか。まづこの道
0000_,09,510b32(00):理をよくよく意得べき也。すべて天台法相の經論聖
0000_,09,510b33(00):敎も。そのつとめをいたさんに。一つとしてあだな
0000_,09,510b34(00):るべきにはあらず。ただし佛道修行は。よくよく身
0000_,09,511a01(00):をはかり。時をはかるへきなり。佛の滅後第四の五
0000_,09,511a02(00):百年にだに。智惠をみがきて煩惱を斷する事かたく
0000_,09,511a03(00):心をすまして禪定をえん事かたきがゆへに。人をほ
0000_,09,511a04(00):く念佛門にいりけり。すなはち。道綽善導等の。淨
0000_,09,511a05(00):土宗の聖人この時の人なり。いはんやこのころは。
0000_,09,511a06(00):第五の五百年鬪諍堅固の時也。他の行法さらに成就
0000_,09,511a07(00):せん事かたし。しかのみならず念佛にをきては。末
0000_,09,511a08(00):法ののちなを利益あるべし。いはんやいまの世は末
0000_,09,511a09(00):法萬年のはじめ也。一念も彌陀を念ぜんに。なんぞ
0000_,09,511a10(00):往生をとげざらんや。たとひわれらそのうつは物に
0000_,09,511a11(00):あらずといふとも。末法のすへの衆生にはさらにに
0000_,09,511a12(00):るへからず。かつは又釋尊在世の時すら。即身成佛
0000_,09,511a13(00):にをきては。龍女のほかはいとありがたし。たとひ
0000_,09,511a14(00):又即身成佛までにあらずといふとも。この聖道門を
0000_,09,511a15(00):をこなひあひ給ひけん。菩薩聲聞たち。そのほかの
0000_,09,511a16(00):權者ひじりたち。そののちの比丘比丘尼等。いまに
0000_,09,511a17(00):いたるまで經論の學者。法華經の持者いくそばく
0000_,09,511b18(00):ぞや。これみな上根上智の人なり。ここにわれらこと
0000_,09,511b19(00):きは。たとひ聖道をまなぶといふとも。かの人ひと
0000_,09,511b20(00):にはさらにをよふへからず。かくのごときの末代の
0000_,09,511b21(00):衆生を。阿彌陀ほとけかねてさとり給ひて。五劫の
0000_,09,511b22(00):あひた思惟して。四十八願をおこし給へり。その中
0000_,09,511b23(00):の第十八の願にいはく。十方の衆生。至心に信樂し
0000_,09,511b24(00):て。わが國にむまれんとねがひて乃至十念せんに。も
0000_,09,511b25(00):しむまれずは。正覺をとらじとちかひ給ひて。すで
0000_,09,511b26(00):に正覺をなり給へり。これを釋尊のとき給へる經。
0000_,09,511b27(00):すなはち觀無量壽等の三部經なり。しかればすなは
0000_,09,511b28(00):ち今日の我等ごときの衆生は。もはら念佛を行して
0000_,09,511b29(00):往生を期すべきものなり。たとひ惡業の衆生等。彌
0000_,09,511b30(00):陀のちかひばかりに。なを信をいたさずといふと
0000_,09,511b31(00):も。釋迦のこれを一一にとき給へる三部經。あにひ
0000_,09,511b32(00):とことばもむなしからんや。そのうへ又十方諸佛の
0000_,09,511b33(00):證誠もただこの經に見えたり。他の行にをきては。
0000_,09,511b34(00):かくのこときの證誠見えず。しかれば時もすぎ。身も
0000_,09,512a01(00):こらふましからん。禪定智惠を修せんよりは。利益
0000_,09,512a02(00):現在して。しかもそこばくのほとけたち。證誠し給
0000_,09,512a03(00):へる彌陀の名號を稱念すべき也。又後世者の中に。
0000_,09,512a04(00):極樂はあさく。彌陀はくだれり。期するところ蜜嚴
0000_,09,512a05(00):華藏の世界なりと。心をかくる人も侍るにや。それ
0000_,09,512a06(00):はなはたおほけなし。かの土は斷無明の菩薩のほか
0000_,09,512a07(00):はいる事なし。又一向專修の念佛門にいりて。日別
0000_,09,512a08(00):に三萬遍もしは五万遍。六万遍。乃至十万遍なと稱
0000_,09,512a09(00):ふといふとも。これをつとめをはりなんのち。年來受
0000_,09,512a10(00):持讀誦の功つもりたる諸經をもよみたてまつらで
0000_,09,512a11(00):は。つみになるべきかと不審をなすともがらもあ
0000_,09,512a12(00):り。それはいかでかつみになるべきにては侍るべき。
0000_,09,512a13(00):末代の衆生。その行成就しかたきによりて。まづ彌
0000_,09,512a14(00):陀の願力に乘して。念佛往生をとげてのち。淨土に
0000_,09,512a15(00):て阿彌陀如來。觀音勢至にあひたてまつりて。もろ
0000_,09,512a16(00):もろの聖敎をも學し。さとりをもひらくへきなり。
0000_,09,512a17(00):又末代の衆生念佛をもはらにすべき事。その釋おほ
0000_,09,512b18(00):かろ中に。觀經の疏の第三に。善導釋しての給は
0000_,09,512b19(00):く。自餘衆行雖名是善若比念佛全非比挍也
0000_,09,512b20(00):是故諸經中處處廣讃念佛功能如無量壽經四十八
0000_,09,512b21(00):願中唯明專念彌陀名號得生又如彌陀經中一
0000_,09,512b22(00):日七日專念彌陀名號得生又十方恒沙諸佛證誠不
0000_,09,512b23(00):虚也又此經定散文中唯標專念名號得生此例非
0000_,09,512b24(00):一也廣顯念佛三昧竟とあり。又善導の往生禮讃
0000_,09,512b25(00):の中の。專修雜修の文等にも。雜修のものは。往生を
0000_,09,512b26(00):うる事千が中に一二なをかたし專修のものは。百は
0000_,09,512b27(00):即百なからむまるといへり。これらは何事もその門
0000_,09,512b28(00):にいりなんには。一向にもはら他の心あるへからざ
0000_,09,512b29(00):るゆへなり。たとへは今生にも主君につかへ。人を
0000_,09,512b30(00):あひたのむみち。他人に心さしをわくると一向にあ
0000_,09,512b31(00):ひたのむと。ひとしからざる事也。ただし家ゆたか
0000_,09,512b32(00):にして。のり物僮僕もかなひ。面面に心さしをいた
0000_,09,512b33(00):すちからもたへたるともからは。かたかたに心さし
0000_,09,512b34(00):をわくといへとも。その功むなしがらず。かくのご
0000_,09,513a01(00):ときのちからにたへざるものは。所所をかぬるあひ
0000_,09,513a02(00):だ。身はつかるといへとも。そのしるしをえかた
0000_,09,513a03(00):し。一向に人一人をたのめは。まつしき者もかなら
0000_,09,513a04(00):ずそのあはれみをうる也。すなはち末代惡世の無智
0000_,09,513a05(00):の衆生はかのまつしき者のことしむかしの權者聖人
0000_,09,513a06(00):は。家ゆたかなる衆生のことし。しかれは無智の身を
0000_,09,513a07(00):もて。智者の行をまなはんにをきては。貧しきもの
0000_,09,513a08(00):の得人をまなばんがことく也。又なをたとへをとら
0000_,09,513a09(00):ば。たかき山の人もかよふべくもなからん。巖石
0000_,09,513a10(00):を。ちからたへさらんもの。石のかど木の根にと
0000_,09,513a11(00):りすがりてのほらんとはげまんは。雜行を修して往
0000_,09,513a12(00):生をねがはんがことくなり。かの山のみねより。つ
0000_,09,513a13(00):よきつなをおろしたらんにすがりてのほらんは。彌
0000_,09,513a14(00):陀の願力をふかく信して。一向に念佛をつとめて。往
0000_,09,513a15(00):生せんがことくなるべし。又一向專修には。三心は
0000_,09,513a16(00):ことにをのつから具足すへき也。三心といふは。一に
0000_,09,513a17(00):は至誠心。二には深心。三には廻向發願心也。至誠
0000_,09,513b18(00):心といふは餘佛を禮せず彌陀を禮し。餘行を修せす
0000_,09,513b19(00):彌陀を念して。もはらにしてもはらならしむる也。
0000_,09,513b20(00):深心といふは。彌陀の本願をふかく信してわが身は
0000_,09,513b21(00):無始よりこのかた罪惡生死の凡夫として生死をまぬ
0000_,09,513b22(00):かるへきみちなきを。彌陀の本願不可思議なるによ
0000_,09,513b23(00):りて。かの名號を一向に稱念して。うたがひをなす
0000_,09,513b24(00):心なけれは。一念のあひだに八十億劫の生死のつみ
0000_,09,513b25(00):を滅して。最後臨終の時。かならず彌陀の來迎にあづ
0000_,09,513b26(00):かるなり。廻向發願心といふは。自他の行を眞實の
0000_,09,513b27(00):心の中に廻向發願する也。この三心一つもかけぬれ
0000_,09,513b28(00):は往生をとげがたし。しかれば他の行をまじへんに
0000_,09,513b29(00):よりて。罪になるへからずといへとも。そのこころを
0000_,09,513b30(00):はかり見るに。なを念佛往生を不定におもひて。いさ
0000_,09,513b31(00):さかのうたかひをのこして。他事をくはふるにて侍
0000_,09,513b32(00):るべき也。又この三心の中に。至誠心をやうやうに心
0000_,09,513b33(00):えて。ことに誠を至すへきことを。かたく申しなす
0000_,09,513b34(00):ともからも侍るにや。それは彌陀の本願の本意に
0000_,09,514a01(00):もたがひて。信心はかけぬるにてあるへき也。いか
0000_,09,514a02(00):に誠を至すといふともからも。造惡の凡夫の身の。己
0000_,09,514a03(00):がちからにて往生を成就せんほとのことはいかでか
0000_,09,514a04(00):侍るへき。ただ本願の不思議にて往生はし侍るへけ
0000_,09,514a05(00):れ。さやうに誠もふかくよからん人のためには。かく
0000_,09,514a06(00):あなからに不思議の本願ををこし給ふべきにあら
0000_,09,514a07(00):ず。この道理を存して。まことしく專修念佛の一行
0000_,09,514a08(00):にいる人はよにありかたき也。されは曇鸞法師は智
0000_,09,514a09(00):惠高遠なりといへとも。四論の講説をすててひとへ
0000_,09,514a10(00):に往生の業を修して。一向にもはら彌陀を念じ。相
0000_,09,514a11(00):續無間にして現に往生し給へり。道綽もまた講説を
0000_,09,514a12(00):やめて念佛を修し。善導は雜修をきらひて專修をつ
0000_,09,514a13(00):とめ給ひき。又道綽禪師のすすめによりて并州の三
0000_,09,514a14(00):縣の人。七歳已後一向に念佛を修せしといへり。しか
0000_,09,514a15(00):れば。わが朝の末法の衆生。なんぞあなかちに雜修
0000_,09,514a16(00):をこのまむや。ただすみやかに彌陀如來の願。釋迦如
0000_,09,514a17(00):來の説。道綽善導の釋をまなぶへし。雜修をして極
0000_,09,514b18(00):樂の果を不定にせんよりは。專修の業を行して往生
0000_,09,514b19(00):ののそみを决定すべきなり。かの道綽善導等は。念
0000_,09,514b20(00):佛門の人ひとなれば左右にをよぶべからず。法相宗
0000_,09,514b21(00):にをきても。慈恩大師の西方要决にいはく。末法万
0000_,09,514b22(00):年餘經悉滅彌陀一敎利物偏增と釋し給へり。又おな
0000_,09,514b23(00):しき書にいはく。三空九斷之文十地五修之敎生期分
0000_,09,514b24(00):促死路非遙不如息多聞之廣業專念佛之單修とい
0000_,09,514b25(00):へり。しかのみならす又大聖竹林寺の記にいはく。
0000_,09,514b26(00):五臺山竹林寺の大講堂の中にして。普賢文殊東西に
0000_,09,514b27(00):對座して。もろもろの衆生のために妙法をとき給ふ
0000_,09,514b28(00):時。法照禪師ひさまつきて文殊に問たてまつりき。
0000_,09,514b29(00):未來惡世の凡夫いつれの法ををこなひてか。ながく
0000_,09,514b30(00):三界をいてて淨土にむまるる事をうべきと。文殊こ
0000_,09,514b31(00):たへての給はく。往生淨土のはかりこと。彌陀の名號
0000_,09,514b32(00):にすぎたるはなく。頓證菩提のみち。ただ稱念の一
0000_,09,514b33(00):門にあり。これによて釋迦一代の聖敎に。おほくほ
0000_,09,514b34(00):むるところみな彌陀にあり。いかにいはんや未來惡
0000_,09,515a01(00):世の凡夫をやとこたへ給へり。かくのこときの要文
0000_,09,515a02(00):等智者たちのをしへをみても。なを信心なくして。
0000_,09,515a03(00):うけかたき人界に生れて。ゆきやすき淨土にいらざ
0000_,09,515a04(00):らん事。後悔なに事かこれにしかんや。しかるに當
0000_,09,515a05(00):世專修念佛の行者にをゐて。もはら難をくはへてあ
0000_,09,515a06(00):ざけりをなすともからおほくきこゆるにや。これ又
0000_,09,515a07(00):むかしの權者たち。かねてまづさとりしり給へる事
0000_,09,515a08(00):也。善導の法事讃にいはく。世尊説法時將了慇懃付
0000_,09,515a09(00):囑彌陀名五濁增時多疑謗道俗相嫌不用聞見
0000_,09,515a10(00):有修行起瞋毒方便破壞竸生怨如此生盲闡提
0000_,09,515a11(00):輩毀滅頓敎永沈淪超過大地微塵劫未可得離
0000_,09,515a12(00):三途身大衆同心皆懺悔所有破法罪因縁云云叉平等
0000_,09,515a13(00):覺經にいはく。もし善男子善女人ありて。かくのこと
0000_,09,515a14(00):きらの淨土の法門をとくをききて。悲喜をなして身
0000_,09,515a15(00):の毛いよたちてぬきいだすがごとくなるは。しるへ
0000_,09,515a16(00):しこの人過去にすでに佛道をなしてきたれる也。も
0000_,09,515a17(00):し又これをきくといふとも。すべて信樂せさらん
0000_,09,515b18(00):にをきては。しるへしこの人ははしめて三惡道の中
0000_,09,515b19(00):よりきたれる也。しかれはかくのこときの謗難のと
0000_,09,515b20(00):もからは。左右なき罪人のよしをしりて。論談にを
0000_,09,515b21(00):よぶべからざる事也。又十善かたくたもたすして。
0000_,09,515b22(00):忉利都率をねがはんは。きはめてかなひかたし。極
0000_,09,515b23(00):樂は五逆のものも念佛によりてむまる。いはんや十
0000_,09,515b24(00):惡にをいてはさはりとなるべからず。又慈尊の出世
0000_,09,515b25(00):を期せんにも。五十六億七千万歳いとまちとを也。い
0000_,09,515b26(00):まだしらず。他方の淨土そのところところにかくのこ
0000_,09,515b27(00):ときの本願あることを。極樂は彌陀の願力はなはた
0000_,09,515b28(00):ふかし。なんそほかをもとむへき。又このたひ佛法
0000_,09,515b29(00):に縁をむすひて。三生四生に得脱せんとのそみをか
0000_,09,515b30(00):くるともからあり。この願きはめて不定也。大通結
0000_,09,515b31(00):縁の人。信樂懺愧のころものうらに一乘無價の玉を
0000_,09,515b32(00):かけなから。隔生即忘して三千塵點があひた。六趣
0000_,09,515b33(00):に輪廻せしにあらすや。たとひ又三生四生に必定得
0000_,09,515b34(00):脱すべきにても。それをまちつけん輪廻のあひだの
0000_,09,516a01(00):くるしみ。いとたへかたくまちとをなるへし。ここに
0000_,09,516a02(00):われらこのたひはしめて人界の生をうけたるにもあ
0000_,09,516a03(00):らじ。世世生生をへて。如來の敎化にも。菩薩の弘
0000_,09,516a04(00):經にも。いくばくかあひたてまつりけん。ただ不信
0000_,09,516a05(00):にして敎化にもれきたれるなるべし。三世の諸佛十
0000_,09,516a06(00):方の菩薩思へはみなこれむかしのとも也。釋迦も五
0000_,09,516a07(00):百塵點のさき。彌陀も十劫成道のさきは。かたしけ
0000_,09,516a08(00):なく父母師弟ともたがひになり給ひけん。ほとけは
0000_,09,516a09(00):前佛の敎をうけ。善知識のをしへを信して。はやく
0000_,09,516a10(00):發心修行し給ひて。成佛してひさしくなり給にけ
0000_,09,516a11(00):る。われらは信心おろかなるゆへに。いまに生死に
0000_,09,516a12(00):とどまれるなるへし。過去の輪轉をおもへは。未來
0000_,09,516a13(00):も又かくのことし。たとひ二乘の心をはをこすと云と
0000_,09,516a14(00):も。菩提心をばをこしかたし。ここをもて如來勝方
0000_,09,516a15(00):便をたれて他力往生の法を敎へ給へり。濁世の衆生
0000_,09,516a16(00):自力をはけまさんには。百千萬劫難行苦行をいたす
0000_,09,516a17(00):といふとも。その勤をよぶところにあらず。又かの
0000_,09,516b18(00):聖道門は。よく淸淨にしてそのうつはものにたれら
0000_,09,516b19(00):ん人のつとむべき行也。懈怠不信にしては中なか行
0000_,09,516b20(00):ぜざらんよりもつみとなるかたもありぬへし。念佛
0000_,09,516b21(00):門にをいては。行住坐臥。ねてもさめても持念するに
0000_,09,516b22(00):そのたよりありてとがなく。そのうつはものをきら
0000_,09,516b23(00):はず。ことことく往生の因となる事うたがひなし。
0000_,09,516b24(00):されは
0000_,09,516b25(00):彼佛因中立弘誓聞名念我總來迎
0000_,09,516b26(00):不簡貧窮將富貴不簡下智與高才
0000_,09,516b27(00):不簡多聞持淨戒不簡破戒罪根深
0000_,09,516b28(00):但使廻心多念佛能令瓧礫變成金
0000_,09,516b29(00):といへり。又いみじき經論聖敎も。最後臨終の時に至
0000_,09,516b30(00):ては。智者といへともその文を暗誦することあたはす。
0000_,09,516b31(00):念佛にをいては。いのちをきはむるにいたるまで。
0000_,09,516b32(00):稱念するに。そのわつらひなし。又諸のほとけの誓
0000_,09,516b33(00):願のためしをひかんにも。藥師の十二の誓願には。
0000_,09,516b34(00):不取正覺の願なく。千手の願は不取正覺とちかひ給
0000_,09,517a01(00):へとも。いまだ正覺をなり給はず。彌陀は不取正覺
0000_,09,517a02(00):の願ををこして。正覺をなりてすでに十劫を經給へ
0000_,09,517a03(00):り。かくのこときのちかひに信をいたさざらん人
0000_,09,517a04(00):は。又他の法門をも信仰するにをよはず。しかれば
0000_,09,517a05(00):返かえすも一向專修の念佛に信をいたして他の心な
0000_,09,517a06(00):く。日夜朝暮行住坐臥にをこたる事なく。稱念すへ
0000_,09,517a07(00):き也。專修念佛をいたすともから。當世にも往生をと
0000_,09,517a08(00):ぐるきこえそのかすおほし。雜修の人にをいてはそ
0000_,09,517a09(00):のきこえきはめてありかたし。そもそもこれを見聞
0000_,09,517a10(00):ても。なをよこさまのひかゐんにいりて。物難せんと
0000_,09,517a11(00):おもはんともからは。さためていよいよいきとをり
0000_,09,517a12(00):をなして。しからばむかしよりほとけのときをき給
0000_,09,517a13(00):へる經論聖敎。みなもて無益のいたつら物にてうせ
0000_,09,517a14(00):なんとするにこそなどあさけり申さんすらん。それ
0000_,09,517a15(00):は天台法相の本寺本山に修學をいとなみて名をもあ
0000_,09,517a16(00):け。おほやけにもつかへて官位をものそまんとおも
0000_,09,517a17(00):はんにをいては左右にをよぶへからず。又上根利智
0000_,09,517b18(00):の人はそのかきりにあらず。この心をえてよく了簡
0000_,09,517b19(00):する人はあやまりても聖道門をことにをもくするゆ
0000_,09,517b20(00):へと存ずべき也。しかるをなを念佛にあひかねてつ
0000_,09,517b21(00):とめをいたさん事は。聖道門を既に念佛の助行に用
0000_,09,517b22(00):へきか。その條こそ返返聖道門をうしなふにては侍
0000_,09,517b23(00):るめれ。ただこの念佛門は。返返も他の心なく後世
0000_,09,517b24(00):を思はんともからの。よしなき僻胤にをもむきて。
0000_,09,517b25(00):時をも身をもはからず。雜行を修して。このたびたま
0000_,09,517b26(00):たまうけかたき人界にむまれて。さばかりあひがた
0000_,09,517b27(00):き彌陀のちかひをすてて。復三途の舊里にかへりて。
0000_,09,517b28(00):生死に輪轉して。多百千劫をへんかなしさを思ひし
0000_,09,517b29(00):らぬ人のために申にて候也。さらば諸宗のいきとお
0000_,09,517b30(00):りおもふへき事にはあらさる也
0000_,09,517b31(00):
0000_,09,517b32(00):淨土宗略抄
0000_,09,517b33(00):このたひ生死をはなるるみち。淨土にむまるるにす
0000_,09,517b34(00):ぎたるはなし。淨土にむまるるをこなひ。念佛に
0000_,09,518a01(00):すぎたるはなし。おほよそうき世をいでで佛道にい
0000_,09,518a02(00):るにおほくの門ありといへとも。おほきにわかちて
0000_,09,518a03(00):二門を出す。すなはち聖道門と淨土門と也。はしめ
0000_,09,518a04(00):に聖道門といは。此娑婆世界にありながら。まどひ
0000_,09,518a05(00):をたちさとりをひらく道也。これにつきて大乘の聖
0000_,09,518a06(00):道あり。小乘の聖道あり。大乘に又二あり。すなは
0000_,09,518a07(00):ち佛乘と菩薩乘と也。小乘に又二あり。聲聞乘と縁
0000_,09,518a08(00):覺乘と也。これらを總して四乘となづく。ただしこ
0000_,09,518a09(00):れらはみな。このころのわれらが身にたへたる事に
0000_,09,518a10(00):あらず。このゆへに道綽禪師は。聖道の一種は今時
0000_,09,518a11(00):に證しかたしとの給へり。さればをのをののをこな
0000_,09,518a12(00):ふやうを申して詮なし。ただ聖道門は聞とをくして
0000_,09,518a13(00):さとりかたく。まとひやすくしてわが分にはおもひ
0000_,09,518a14(00):よらぬみちなりと。おもひはなつへき也
0000_,09,518a15(00):つきに淨土門といは。この娑婆世界をいとひすてて
0000_,09,518a16(00):いそきて極樂にむまるる也。かの國にむまるる事は
0000_,09,518a17(00):阿彌陀佛のちかひにて人の善惡をえらはず。ただほ
0000_,09,518b18(00):とけのちかひをたのみたのまさるによる也。このゆ
0000_,09,518b19(00):へに道綽は。淨土の一門のみありて通入すへきみち
0000_,09,518b20(00):なりとのたまへり。さればこのころ生死をはなれん
0000_,09,518b21(00):と思はむ人は。證じかたき聖道をすてて。ゆきやすき
0000_,09,518b22(00):淨土をねかふへき也。この聖道淨土をは。難行道易行
0000_,09,518b23(00):道となづけたり。たとへをとりてこれをいふに。難行
0000_,09,518b24(00):道はけはしきみちをかちにてゆくかことし。易行道
0000_,09,518b25(00):は。海路をふねにのりてゆくかごとしといへり。あし
0000_,09,518b26(00):なえ目しゐたらん人は。かかるみちにはむかふへか
0000_,09,518b27(00):らず。ただふねにのりてのみむかひのきしにはつく
0000_,09,518b28(00):なり。しかるにこのころのわれらは。智惠のまなこし
0000_,09,518b29(00):ゐ。行法のあしなへたるともから也。聖道難行のけ
0000_,09,518b30(00):はしきみちには。總してのそみをたつへし。ただ彌陀
0000_,09,518b31(00):の本願のふねにのりて。生死のうみをわたり。極樂
0000_,09,518b32(00):のきしにつくへき也。いまこのふねは。すなはち彌
0000_,09,518b33(00):陀の本願にたとふる也。その本願といは。彌陀のむか
0000_,09,518b34(00):しはしめて道心ををこして。國王のくらゐをすてて
0000_,09,519a01(00):出家して。ほとけになりて衆生をすくはんとおほし
0000_,09,519a02(00):めしし時。淨土をまうけむために。四十八願ををこ
0000_,09,519a03(00):し給ひし中に。第十八の願にいはく。もしわれほと
0000_,09,519a04(00):けにならんに。十方の衆生。わがくににむまれんとね
0000_,09,519a05(00):かひて。わか名號をとなふる事。下十聲にいたるま
0000_,09,519a06(00):てわが願力に乘して。もしむまれすは。われほとけ
0000_,09,519a07(00):にならじとちかひ給ひて。その願ををこなひあらは
0000_,09,519a08(00):して。いますてにほとけになりて十劫を經給へり。
0000_,09,519a09(00):されは善導の釋には。かのほとけいま現に世にまし
0000_,09,519a10(00):まして。成佛し給へり。まさにしるへし本誓重願む
0000_,09,519a11(00):なしからず。衆生稱念すれは。かならす往生する事
0000_,09,519a12(00):を得との給へり。このことはりをおもふに。彌陀の
0000_,09,519a13(00):本願を信して念佛申さん人は。往生うたがふへから
0000_,09,519a14(00):ず。よくよくこのことはりを思日ときて。いかさまに
0000_,09,519a15(00):もまづ阿彌陀佛のちかひをたのみて。ひとすちに念
0000_,09,519a16(00):佛を申して。ことさとりの人の。とかくいひさまたけ
0000_,09,519a17(00):むにつきて。ほとけのちかひをうたかふ心ゆめゆめ
0000_,09,519b18(00):あるへからず。かやうに心えて。さきの聖道門は。わ
0000_,09,519b19(00):か分にあらすと思ひすてて。この淨土門にいりて。ひ
0000_,09,519b20(00):とすちにほとけのちかひをあふきて。名號をとなふ
0000_,09,519b21(00):るを。淨土門の行者とは申す也。これを聖道淨土の
0000_,09,519b22(00):二門と申すなり
0000_,09,519b23(00):つきに淨土門にいりてをこなふへき行につきて申さ
0000_,09,519b24(00):は心と行と相應すへき也。すなはち安心起行となづ
0000_,09,519b25(00):く。その安心といは。心つかひのありさま也。すな
0000_,09,519b26(00):はち觀無量壽經に説ていはく。もし衆生ありて。か
0000_,09,519b27(00):のくににむまれんと願するものは。三種の心ををこ
0000_,09,519b28(00):して。すなはち往生すべし。何等をか三とする。一に
0000_,09,519b29(00):は至誠心。二には深心。三には廻向發願心也。三心
0000_,09,519b30(00):を具するものは。かならすかのくににむまるといへ
0000_,09,519b31(00):り。善導和尚この三心を釋しての給はく。はしめの
0000_,09,519b32(00):至誠心といは。至といは。眞也。誠といは。實也。
0000_,09,519b33(00):一切衆生の身口意業に。修せんところの解行。かなら
0000_,09,519b34(00):ず眞實心の中になすべき事をあかさんとをもふ。外
0000_,09,520a01(00):には賢善精進の相を現して。内には虚假をいだく事
0000_,09,520a02(00):を得され。又内外明闇をきらはず。かならず眞實をも
0000_,09,520a03(00):ちゐるがゆへに至誠心となづくといへり。かるがゆ
0000_,09,520a04(00):へに至誠心ととかれたるは。すなはち眞實の心を云
0000_,09,520a05(00):なり。眞實といふは。身にふるまひ口にいひ心に思
0000_,09,520a06(00):はん事も。内むなしくして外をかざる心なきをいふ
0000_,09,520a07(00):なり。詮してはまことに穢土をいとひ淨土をねかひ
0000_,09,520a08(00):て。外相と内心と相應すへき也。ほかにはかしこき
0000_,09,520a09(00):相を現して。うちには惡をつくり。外には精進の相
0000_,09,520a10(00):を現して。内には懈怠なる事なかれといふ意也。か
0000_,09,520a11(00):るがゆへにほかには賢善精進の相を現して。うちに
0000_,09,520a12(00):は虚假をいだく事なかれといへり。念佛を申さんに
0000_,09,520a13(00):つゐて。人目には六万七万申すと披露してまことに
0000_,09,520a14(00):はさ程も申さすや。又人のみるおりはたうとけにし
0000_,09,520a15(00):て。念佛申すよしを見え。人も見ぬところにては念
0000_,09,520a16(00):佛申さずなどするやうなる心はへ也。されはとて。わ
0000_,09,520a17(00):ろからん事をもほかにあらはさんがよかるへき事に
0000_,09,520b18(00):てはなし。ただ詮するところは。まめやかにほとけの
0000_,09,520b19(00):御意にかなはん事をおもひて。内にまことををこし
0000_,09,520b20(00):て。外相をは機嫌にしたがふへき也。機嫌にしたが
0000_,09,520b21(00):ふがよき事なれはとて。やがて内心のまこともやふ
0000_,09,520b22(00):るるまてふるまはは。又至誠心かけたる心になりぬ
0000_,09,520b23(00):へし。ただうちの心をまことにて。ほかをはとて
0000_,09,520b24(00):もかくてもあるへき也。かるがゆへに至誠心となつ
0000_,09,520b25(00):く。二に深心といは。すなはち善導釋しての給は
0000_,09,520b26(00):く深心といは。ふかく信する心也。これに二つあり。
0000_,09,520b27(00):一には決定して。わか身はこれ煩惱を具足せる罪惡
0000_,09,520b28(00):生死の凡夫也。善根薄少にして。曠劫よりこのかた
0000_,09,520b29(00):つねに三界に流轉して。出離の縁なしと。ふかく信
0000_,09,520b30(00):すへし。二には。ふかくかの阿彌陀佛。四十八願を
0000_,09,520b31(00):もて衆生を攝取し給ふ。すなはち名號をとのふる事。
0000_,09,520b32(00):下十聲にいたるまて。かのほとけの願力に乘して。
0000_,09,520b33(00):さためて往生を得と信して。乃至一念もうたかふ心
0000_,09,520b34(00):なきがゆへに深心となづく。又深心といは。决定し
0000_,09,521a01(00):て心を建。佛の敎に順して修行して。ながくうたか
0000_,09,521a02(00):ひをのぞきて。一切の別解別行。異學異見。異執の
0000_,09,521a03(00):ために。退失傾動せられされといへり。この釋の意
0000_,09,521a04(00):は。はしめにわが身の程を信して。のちにはほとけ
0000_,09,521a05(00):のちかひを信するなり。のちの信心のために。はし
0000_,09,521a06(00):めの信をはあくる也。そのゆへは。往生をねがはん
0000_,09,521a07(00):もろもろの人。彌陀の本願の念佛を申しながら。わ
0000_,09,521a08(00):が身に貪欲瞋恚の煩惱をもをこし。十惡破戒の罪惡
0000_,09,521a09(00):をもつくるにをそれて。みたりにわが身をかろしめ
0000_,09,521a10(00):てかへりてほとけの本願をうたがふ。善導はかねて
0000_,09,521a11(00):このうたがひをかかみて。二つの信心のやうをあげ
0000_,09,521a12(00):てわれらがごときの煩惱をもをこし。罪をもつくる
0000_,09,521a13(00):凡夫なりとも。ふかく彌陀の本願をあふきて念佛す
0000_,09,521a14(00):れは。十聲一聲にいたるまで。决定して往生するむね
0000_,09,521a15(00):を釋し給へり。まことにはしめのわが身を信する樣
0000_,09,521a16(00):を釋し給はさりせは。われらが心ばへのありさまに
0000_,09,521a17(00):ては。いかに念佛申すともかのほとけの本願にかな
0000_,09,521b18(00):ひがたく。いま一念十念に往生するといふは。煩惱を
0000_,09,521b19(00):もをこさず。つみをもつくらぬめでたき人にてこそ
0000_,09,521b20(00):あるらめ。われらこときのともからにてはよもあら
0000_,09,521b21(00):しなど。身の程思ひしられて。往生もたのみかたき
0000_,09,521b22(00):まてあやうくおほえなましに。この二つの信心を釋
0000_,09,521b23(00):し給ひたる事は。いみじく身にしみておもふへき
0000_,09,521b24(00):也。この釋を心えわけぬ人は。みなわが心のわろけ
0000_,09,521b25(00):れは。往生はかなはじなとこそは申あひたれ。その
0000_,09,521b26(00):うたかひをなすは。やがて往生せぬ心はへ也。此む
0000_,09,521b27(00):ねを意えて。なかくうたかふ心あるましき也。心の
0000_,09,521b28(00):善惡をもかへり見づ。つみの輕重をも沙汰せず。た
0000_,09,521b29(00):た口に南無阿彌陀佛と申せは。佛のちかひにより
0000_,09,521b30(00):て。かならず往生するぞと。决定の心ををこすへき
0000_,09,521b31(00):也。その決定の心によりて。往生の業はさだまる
0000_,09,521b32(00):也。往生は不定におもへは不定也。一定とおもへは
0000_,09,521b33(00):一定する事也。詮してはふかく佛のちかひをたのみ
0000_,09,521b34(00):て。いかなる過をもきらはず。一定むかへ給ぞと信
0000_,09,522a01(00):して。うたかふ心のなきを深心とは申候也。いかな
0000_,09,522a02(00):るとがをもきらはねばとて。法にまかせてふるまふ
0000_,09,522a03(00):べきにはあらず。されば善導も不善の三業をば。眞
0000_,09,522a04(00):實心の中にすつべし。善の三業をは。眞實心の中に
0000_,09,522a05(00):なすへしとこそは釋し給ひたれ。又善業にあらざる
0000_,09,522a06(00):をば。うやまてこれをとをさかれ。又隨喜せされな
0000_,09,522a07(00):ど釋し給ひたれば。心のをよはん程はつみをもをそ
0000_,09,522a08(00):れ。善にもすすむべき事とこそは心えられたれ。た
0000_,09,522a09(00):だ彌陀の本誓の善惡をもきらはす。名號をとなふれ
0000_,09,522a10(00):は。かならすむかへ給そと信し。名號の功德のいか
0000_,09,522a11(00):なるとがをも除滅して。一念十念もかならず往生を
0000_,09,522a12(00):うる事の。めてたき事をふかく信して。うたかふ心一
0000_,09,522a13(00):念もなかれといふ意也。又一念に往生すればとて。か
0000_,09,522a14(00):ならずしも一念にかきるへからず。彌陀の本願の意
0000_,09,522a15(00):は。名號をとなへん事。もしは百年にても。十二十
0000_,09,522a16(00):年にても。もしは四五年にても。もしは一二年にて
0000_,09,522a17(00):も。もしは七日一日十聲一聲までも。信心ををこし
0000_,09,522b18(00):て南無阿彌陀佛と申せは。かならすむかへ給なり。
0000_,09,522b19(00):惣してこれをいへは。上は念佛申さんと思ひはしめ
0000_,09,522b20(00):たらんより。いのちをはるまても申也。中は七日一
0000_,09,522b21(00):日も申し。下は十聲一聲まても彌陀の願力なれば。
0000_,09,522b22(00):かならず往生すへしと信して。いくら程こそ本願な
0000_,09,522b23(00):れとさだめず。一念までも定めて往生すと思ひて。
0000_,09,522b24(00):退轉なくいのちをはらんまで申すべき也。又まめや
0000_,09,522b25(00):かに往生の心さしありて。彌陀の本願をたのみて念
0000_,09,522b26(00):佛申さん人。臨終のわろき事は何事にかあるへき。
0000_,09,522b27(00):そのゆへは。佛の來迎し給ふゆへは。行者の臨終正
0000_,09,522b28(00):念のため也。それを意えぬ人は。みなわか臨終正念
0000_,09,522b29(00):にて念佛申したらんおりそ。ほとけはむかへ給ふへ
0000_,09,522b30(00):きとのみ意えたるは。佛の本願を信せず。經の文を
0000_,09,522b31(00):意えぬ也。稱讃淨土經には。慈悲をもて加へ祐けて
0000_,09,522b32(00):心をしてみだらざらしめ給ふととかれたる也。たた
0000_,09,522b33(00):の時よくよく申しをきたる念佛によりて。かならす
0000_,09,522b34(00):ほとけは來迎し給ふ也。佛のきたりて現し給へるを
0000_,09,523a01(00):見て。正念には住すと申すへき也。それにさきの念
0000_,09,523a02(00):佛をはむなしく思ひなして。よしなき臨終正念をの
0000_,09,523a03(00):みいのる人のおほくある。ゆゆしき僻胤の事也。さ
0000_,09,523a04(00):れは佛の本願を信せん人は。かねて臨終をうたかふ
0000_,09,523a05(00):心あるへからず。當時申さん念佛をぞ。いよいよ心
0000_,09,523a06(00):を至して申へき。いつかは佛の本願にも。臨終の時
0000_,09,523a07(00):念佛申たらん人をのみ。むかへんとはたて給ひた
0000_,09,523a08(00):る。臨終の念佛にて。往生すと申事は。もとは往生
0000_,09,523a09(00):をもねがはずして。ひとへにつみをつくりたる惡人
0000_,09,523a10(00):の。すでに死なんとする時。はしめて善知識のす
0000_,09,523a11(00):すめにあひて。念佛して往生すとこそ。觀經にも
0000_,09,523a12(00):とかれたれ。もとより念佛を信せん人は。臨終の沙
0000_,09,523a13(00):汰をばあながちにすへき樣もなき事なり。佛の來迎
0000_,09,523a14(00):一定ならは。臨終の正念は。また一定とこそはをも
0000_,09,523a15(00):ふへきことはりなれ。この意をよくよく心をとどめ
0000_,09,523a16(00):て。意うべき事なり。又別解別行の人に。やぶられ
0000_,09,523a17(00):ざれといは。さとりことに。をこなひことならん人
0000_,09,523b18(00):の。いはん事につきて。念佛をもすて。往生をもう
0000_,09,523b19(00):たがふ心なかれといふ事也。さとりことなる人と申
0000_,09,523b20(00):すは。天台法相等の。八宗の學匠なり。行ことなる
0000_,09,523b21(00):人と申すは。眞言止觀の一切の行者也。これらは聖
0000_,09,523b22(00):道門をならひをこなふ也。淨土門の解行には異なる
0000_,09,523b23(00):がゆへに。別解別行となづくる也。又惣しておなし
0000_,09,523b24(00):く念佛を申す人なれとも。彌陀の本願をばたのます
0000_,09,523b25(00):して。自力をはけみて。念佛はかりにてはいかか往
0000_,09,523b26(00):生すへき。異なる功德をつくり。ことなる佛にもつか
0000_,09,523b27(00):へて。ちからをあはせてこそ。往生程の大事をばと
0000_,09,523b28(00):ぐべけれ。たた阿彌陀佛はかりにては。かなはしも
0000_,09,523b29(00):のをなどうたがひをなし。いひさまたけん人のあら
0000_,09,523b30(00):んにも。けにもと思ひて。一念もうたがふ心なくて。
0000_,09,523b31(00):いかなることはりをきくとも。往生决定の心をう
0000_,09,523b32(00):しなふ事なかれと申す也。人にいひやふらるまじき
0000_,09,523b33(00):ことはりを。善導こまかに釋し給へり。意をとりて
0000_,09,523b34(00):申さば。たとひ佛ましまして。十方世界にあまねく
0000_,09,524a01(00):みちみちて。光をかかやかし舌をのへて。煩惱罪惡
0000_,09,524a02(00):の凡夫。念佛して一定往生すといふ事ひが事なり。
0000_,09,524a03(00):信すへからずとの給ふとも。それによりて。一念も
0000_,09,524a04(00):うたかふへからず。そのゆへは。佛はみな同心に衆
0000_,09,524a05(00):生を引導し給に。すなはちまづ。阿彌陀佛淨土をま
0000_,09,524a06(00):うけて。願ををこしての給はく。十方衆生わが國に
0000_,09,524a07(00):むまれんとねかひて。わが名號をとなへんもの。も
0000_,09,524a08(00):しむまれすは。正覺をとらじとちかひ給へるを。釋
0000_,09,524a09(00):迦佛この世界にいでで。衆生のためにかの佛の願を
0000_,09,524a10(00):とき給へり。六方恒沙の諸佛は。舌相を三千世界に
0000_,09,524a11(00):おほふて。虚言せぬ相を現して。釋迦佛の彌陀の本
0000_,09,524a12(00):願をほめて。一切衆生をすすめて。かのほとけの名
0000_,09,524a13(00):號をとなふれば。さためて往生すとの給へるは。决
0000_,09,524a14(00):定にしてうたがひなき事也。一切衆生みなこの事を
0000_,09,524a15(00):信すへしと證誠し給へり。かくのことく一切諸佛一
0000_,09,524a16(00):佛ものこらず。同心に一切凡夫念佛して。决定して
0000_,09,524a17(00):往生すへきむねをすめめ給へるうへには。いつれの
0000_,09,524b18(00):佛の又往生せずとはの給ふへきぞといふことはりを
0000_,09,524b19(00):もて。佛きたりての給ふともおどろくへからずとは
0000_,09,524b20(00):申す也。佛なをしかり。いはむや菩薩聲聞縁覺を
0000_,09,524b21(00):や。いかにいはんや凡夫をやと心えつれは。一度こ
0000_,09,524b22(00):の念佛往生を信してんのちは。いかなる人とかくい
0000_,09,524b23(00):ひさまたぐとも。うたかふ心あるへからずと申事な
0000_,09,524b24(00):り。これを深心とは申すなり
0000_,09,524b25(00):三に廻向發願心とは。善導これを釋しての給はく。
0000_,09,524b26(00):過去をよひ今生の。身口意業に修するところの。世
0000_,09,524b27(00):出世の善根。をよひ他の一切の凡聖の。身口意業に
0000_,09,524b28(00):修するところの世出世の善根を隨喜して。この自他
0000_,09,524b29(00):所修の善根をもて。ことことく眞實深心の中に廻向
0000_,09,524b30(00):して。かのくににむまれんとねかふなり。かるが
0000_,09,524b31(00):ゆへに廻向發願心となづくる也。又廻向發願して。
0000_,09,524b32(00):むまれんと願はむものは。かならづ决定して。眞實心
0000_,09,524b33(00):の中に廻向して。むまるまま事をうる想をなす也。こ
0000_,09,524b34(00):の心ふかくして。なをし金剛のことくして。一切の
0000_,09,525a01(00):異見異學。別解別行の人のために。動亂破壞せられ
0000_,09,525a02(00):ざれといへり。この釋の意はまつわが身につきて。
0000_,09,525a03(00):前世にもつくりとつくりたらん功德をみなことこと
0000_,09,525a04(00):く極樂に廻向して往生をねかふ也。わが身の功德の
0000_,09,525a05(00):みならず。一切凡聖の功德をも廻向するなり。凡と
0000_,09,525a06(00):いは。凡夫のつくりたらん功德をも。聖といは。佛
0000_,09,525a07(00):菩薩のつくり給はん功德をも。隨喜すれはわが功德
0000_,09,525a08(00):となるをもて。みな極樂に廻向して往生をねがふな
0000_,09,525a09(00):り。詮するところ。往生をねがふよりほかに。異事
0000_,09,525a10(00):をばねかふまじき也。わが身にも人の身にも。この界
0000_,09,525a11(00):の果報をいのり。又おなしく後世の事なれとも。極樂
0000_,09,525a12(00):ならぬ淨土にむまれんともねがひ。もしは人中天上
0000_,09,525a13(00):にむまれんともねかひ。かくのことくかれこれに廻
0000_,09,525a14(00):向する事なかれと也。もしこのことはりを思ひさだ
0000_,09,525a15(00):めざらんさきに。この土の事をもいのり。あらぬか
0000_,09,525a16(00):たへ廻向したらん功德をも。みなとり返して。いま
0000_,09,525a17(00):は一すぢに極樂に廻向して往生せんとねかふへき
0000_,09,525b18(00):也。一切の功德をみな極樂に廻向せよといへはと
0000_,09,525b19(00):て。又念佛の外に。わさと功德をつくりあつめて廻
0000_,09,525b20(00):向せよといふにはあらす。ただすぎぬるかたの功德
0000_,09,525b21(00):をも。今は一向に極樂に廻向し。こののちなりとも
0000_,09,525b22(00):をのつからたよりにしたかひて僧をも供養し。人に
0000_,09,525b23(00):物をもほどこしあたへたらんをも。つくらんにした
0000_,09,525b24(00):かひて。みな往生のために廻向すへしといふ意也。
0000_,09,525b25(00):この心金剛のことくして。あらぬさとりの人にをし
0000_,09,525b26(00):へられて。かれこれに廻向する事なかれといふ也。
0000_,09,525b27(00):金剛はいかにもやふれぬものなれは。たとへにとり
0000_,09,525b28(00):てこの心をもて廻向發願してむまると申也。三心の
0000_,09,525b29(00):ありさまあらあらかくのことし。この三心を具すれは
0000_,09,525b30(00):かならす往生す。もし一心もかけぬれはむまるる事
0000_,09,525b31(00):をえすと。善導は釋し給ひたれは。もともこの心を
0000_,09,525b32(00):具足すへき也。しかるにかやうに申たつる時は。別
0000_,09,525b33(00):別にして事事しきやうなれとも。意えとけばやすく
0000_,09,525b34(00):具しぬへき心也。詮してはまことの心ありて。ふか
0000_,09,526a01(00):く佛のちかひをたのみて。往生をねかはんする心な
0000_,09,526a02(00):り。深き淺き事こそかはりめありとも。たれも往生
0000_,09,526a03(00):をもとむる程の人は。さ程の心なき事やはあるへ
0000_,09,526a04(00):き。かやうの事は疎く思へは大事におほえ。とりよ
0000_,09,526a05(00):りて沙汰すれはさすかにやすき事也。かやうにこま
0000_,09,526a06(00):かに沙汰し。しらぬ人も具しぬへく。又よくよく知
0000_,09,526a07(00):たる人も少る事ありぬへし。されはこそいやしくを
0000_,09,526a08(00):ろかなるものの中にも往生する事もあり。いみじく
0000_,09,526a09(00):たとけなるひじりの中にも臨終わろく往生せぬもあ
0000_,09,526a10(00):り。されともこれを具足すへき樣をもよくよく意え
0000_,09,526a11(00):わけて。わが意に具したりともしり。又少たりとも
0000_,09,526a12(00):思はんをはかまへてかまへて具足せんとはけむへきこと
0000_,09,526a13(00):なり。これを安心となづくる也。これぞ往生する心
0000_,09,526a14(00):のありさまなり。これをよくよく意えわくへきな
0000_,09,526a15(00):り。次に起行といは。善導の御意によらは。往生の
0000_,09,526a16(00):行おほしといへとも。おほきにわかちて二とす。一
0000_,09,526a17(00):には正行。二には雜行也。正行といは。これに又あ
0000_,09,526b18(00):またの行あり。讀誦正行。觀察正行。禮拜正行。稱
0000_,09,526b19(00):名正行。讃嘆供養正行。これらを五種の正行となづ
0000_,09,526b20(00):く。讃嘆と供養とを二行とわかつ時には。六種の正
0000_,09,526b21(00):行とも申也。この正行につきて。ふさねて二とす。
0000_,09,526b22(00):一には一心にもはら彌陀の名號をとなへて。行住坐
0000_,09,526b23(00):臥によるひるわするる事なく。念念にすてさるを正
0000_,09,526b24(00):定の業となづく。かのほとけの願に順するがゆへに
0000_,09,526b25(00):といひて。念佛をもてまさしくさためたる往生の
0000_,09,526b26(00):業にたてて。もし禮誦等によるをは。なづけて助業
0000_,09,526b27(00):とすといひて。念佛の外に阿彌陀佛を禮し。もしは
0000_,09,526b28(00):三部經をよみ。もしは極樂のありさまを觀するも。
0000_,09,526b29(00):讃嘆供養したてまつる事も。みな稱名念佛をたす
0000_,09,526b30(00):けんがためなり。まさしくさためたる往生の業は。
0000_,09,526b31(00):ただ念佛はかりといふ也。この正と助とをのそきて
0000_,09,526b32(00):外の諸行をは。布施をせんも。戒をたもたんも。精
0000_,09,526b33(00):進ならんも。禪定を修せんも。かくのことくの六度
0000_,09,526b34(00):萬行。法華經をよみ。眞言ををこなふ。もろもろの
0000_,09,527a01(00):をこなひをは。ことことくみな雜行となづく。ただ
0000_,09,527a02(00):極樂に往生せんとおもはは。一向に稱名の正定業を
0000_,09,527a03(00):修すへき也。これすなはち彌陀本願の行なるがゆへ
0000_,09,527a04(00):に。われらが自力にて生死をはなれぬへくは。かな
0000_,09,527a05(00):らすしも本願の行にかきるへからすといへとも。他
0000_,09,527a06(00):力によらずは往生をとげかたきかゆへに。彌陀の本
0000_,09,527a07(00):願のちからをかりて。一向に名號をとなへよと。善導
0000_,09,527a08(00):はすすめ給へる也。自力といは。わがちからをはげ
0000_,09,527a09(00):みて往生をもとむる也。他力といは。たた佛のちか
0000_,09,527a10(00):らをたのみたてまつる也。このゆへに正行を行する
0000_,09,527a11(00):ものをは。專修の行者といひ。雜行を行するをは。
0000_,09,527a12(00):雜修の行者と申也。正行を修するは。心つねにかの
0000_,09,527a13(00):國に親近して。憶念ひまなし。雜行を行するもの
0000_,09,527a14(00):は。心つねに間斷す。廻向してむまるる事をうへし
0000_,09,527a15(00):といへとも。疎雜の行となづくといひて。極樂にう
0000_,09,527a16(00):とき。行といへり。又專修のものは。十人は十人な
0000_,09,527a17(00):からむまれ。百人は百人なからむまる。なにをもて
0000_,09,527b18(00):のゆへに。外に雜縁なくして正念をうるがゆへに。
0000_,09,527b19(00):彌陀の本願と相應するがゆへに。釋迦の敎に順する
0000_,09,527b20(00):がゆへ也。雜修のものは。百人の中に一二人むま
0000_,09,527b21(00):れ。千人の中に四五人むまる。なにをもてのゆへ
0000_,09,527b22(00):に。彌陀の本願と相應せさるがゆへに。釋迦の敎に
0000_,09,527b23(00):順せさるがゆへに。憶想間斷するがゆへに。名利と
0000_,09,527b24(00):相應するがゆへに。自もさへ他の往生をもさふるが
0000_,09,527b25(00):ゆへにと釋し給ひたれは。善導を信して淨土宗にい
0000_,09,527b26(00):らん人は。一向に正行を修して。日日の所作に。一
0000_,09,527b27(00):万二万乃至五万六万十万をも。器量のたへんにした
0000_,09,527b28(00):かひて。いくらなりともはげみて申すへきなりとこ
0000_,09,527b29(00):そ意えられたれ。それにこれをききなから。念佛の
0000_,09,527b30(00):外に餘行をくはふる人のおほくあるは。意えられぬ
0000_,09,527b31(00):事也。そのゆへは。善導のすすめ給はぬ事をは。す
0000_,09,527b32(00):こしなりともくはふへき道理ゆめゆめなき也。すす
0000_,09,527b33(00):め給へる正行をたにも。なをものうき身にて。いま
0000_,09,527b34(00):たすすめ給はぬ雜行をくはふへき事は。まことしか
0000_,09,528a01(00):らぬかたもありぬへし。又つみつくりたる人たにも
0000_,09,528a02(00):往生すれは。まして功德なれは法華經なとをよまん
0000_,09,528a03(00):は。なにかはくるしかるへきなと申す人もあり。そ
0000_,09,528a04(00):れらはむげにきたなき事也。往生をたすけはこそい
0000_,09,528a05(00):みじからめ。さまたげにならぬばかりを。いみじき
0000_,09,528a06(00):事とてくはへをこなはん事は。なにかは詮あるへき。
0000_,09,528a07(00):惡をはされは佛の御意にこのみてつくれとやすすめ
0000_,09,528a08(00):給へる。かまへてとどめよとこそいましめ給へと
0000_,09,528a09(00):も。凡夫のならひ。當時のまよひにひかれて惡をつ
0000_,09,528a10(00):くる事はちからをよはぬ事なれは。慈悲ををこして
0000_,09,528a11(00):すて給はぬにてこそあれ。まことに惡をつくる人の
0000_,09,528a12(00):やうに。餘行どもをくはへたからんは。ちからをよ
0000_,09,528a13(00):はす。ただし經なとをよまん事を。惡つくるにいひ
0000_,09,528a14(00):ならべて。それもくるしからねは。ましてこれも
0000_,09,528a15(00):なとといはんは不便の事也。ふかき御のりもあしく
0000_,09,528a16(00):意うるものにあひぬれは。返りて物ならすあさまし
0000_,09,528a17(00):くかなしき事也。ただあらぬさとりの人の。ともか
0000_,09,528b18(00):くも申さん事をはききいれすして。すすみぬへから
0000_,09,528b19(00):ん人をは誘すすむへし。さとりたがひてあらぬさま
0000_,09,528b20(00):ならん人なとに。論しあふ事なとはゆめゆめあるま
0000_,09,528b21(00):しき事也。ただわが身一人まづよくよく往生をねか
0000_,09,528b22(00):ひて。念佛をはげみて。位たかく往生して。いそき
0000_,09,528b23(00):返りきたりて。人人を引導せんとおもふへき也。又
0000_,09,528b24(00):善導の往生禮讃に。問ていはく。阿彌陀佛を稱念禮
0000_,09,528b25(00):觀するに。現世にいかなる功德利益かある。答てい
0000_,09,528b26(00):はく。阿彌陀佛をとなふる事一聲すれは。すなはち
0000_,09,528b27(00):八十億劫の重罪を除滅す。又十往生經にいはく。も
0000_,09,528b28(00):し衆生ありて。阿彌陀佛を念して往生をねかふもの
0000_,09,528b29(00):は。かのほとけすなはち二十五の菩薩をつかはし
0000_,09,528b30(00):て。行者を護念し給ふ。もしは行。もしは坐。もし
0000_,09,528b31(00):は住。もしは臥。もしはよる。もしはひる。一切の
0000_,09,528b32(00):時。一切のところに。惡鬼惡神をしてそのたよりを
0000_,09,528b33(00):えせしめ給はすと。又觀經にいふこときは。阿彌陀
0000_,09,528b34(00):佛を稱念して。かのくにに往生せんとおもへは。か
0000_,09,529a01(00):の佛すなはち無數の化佛。無數の化觀音勢至菩薩を
0000_,09,529a02(00):つかはして。行者を護念し給ふ。さきの二十五の菩
0000_,09,529a03(00):薩と。百重千重に行者を圍繞して。行住坐臥をとは
0000_,09,529a04(00):ず。一切の時處に。もしはひる。もしはよる。つねに
0000_,09,529a05(00):行者をはなれ給はすと。又いはく彌陀を念して往生
0000_,09,529a06(00):せんとおもふものは。つねに六方恒沙等の諸佛のた
0000_,09,529a07(00):めに護念せらる。かるがゆへに護念經となづく。い
0000_,09,529a08(00):ますてにこの增上縁の。誓願のたのむへきあり。も
0000_,09,529a09(00):ろもろの佛子等。いかでか心をはけまささらんやと
0000_,09,529a10(00):いへり。かの文の意は彌陀の本願をふかく信して。
0000_,09,529a11(00):念佛して往生をねかふ人をは。彌陀佛よりはしめた
0000_,09,529a12(00):てまつりて。十方の諸佛菩薩。觀音勢至無數の菩薩
0000_,09,529a13(00):この人を圍繞して。行住坐臥。よるひるをもきらは
0000_,09,529a14(00):ず。かげのことくにそひて。もろもろの橫惱をな
0000_,09,529a15(00):す。惡鬼惡神のたよりをはらひのそき給ひて。現世
0000_,09,529a16(00):にはよこさまなるわづらひなく。安穩にして。命終
0000_,09,529a17(00):の時は。極樂世界へむかへ給ふ也。されは念佛を信
0000_,09,529b18(00):して往生をねかふ人は。ことさらに惡魔をはらはん
0000_,09,529b19(00):ために。よろつのほとけかみにいのりをもし。つつ
0000_,09,529b20(00):しみをもする事は。なしかはあるへき。いはんや佛
0000_,09,529b21(00):に歸し。法に歸し。僧に歸する人には。一切の神
0000_,09,529b22(00):王。恒沙の鬼神を眷屬として。つねにこの人をまも
0000_,09,529b23(00):り給ふといへり。しかれはかくのこときの諸佛諸
0000_,09,529b24(00):神。圍繞してまもり給はんうへは。又いつれの佛神
0000_,09,529b25(00):かありて。なやまし。さまたくる事あらん。又宿業
0000_,09,529b26(00):かきりありて。うくべからんやまひは。いかなるも
0000_,09,529b27(00):ろもろのほとけかみにいのるとも。それによるまし
0000_,09,529b28(00):き事也。いのるによりてやまひもやみ。いのちものふ
0000_,09,529b29(00):る事あらは。たれかは一人としてやみしぬる人あら
0000_,09,529b30(00):ん。いはんや又佛の御ちからは。念佛を信するもの
0000_,09,529b31(00):をは。轉重輕受といひて。宿業かきりありて。をも
0000_,09,529b32(00):くうくへきやまひを。かろくうけさせ給ふ。いはん
0000_,09,529b33(00):や非業をはらひ給はん事ましまさざらんや。されは
0000_,09,529b34(00):念佛を信する人は。たとひいかなるやまひをうくれ
0000_,09,530a01(00):とも。みなこれ宿業也。これよりもをもくこそうく
0000_,09,530a02(00):へきに。ほとけの御ちからにて。これほともうくる
0000_,09,530a03(00):なりとこそは申す事なれ。われらが惡業深重なるを
0000_,09,530a04(00):滅して。極樂に往生する程の大事をすらとげさせ給
0000_,09,530a05(00):ふ。ましてこのよにいくほどならぬいのちをのべ。や
0000_,09,530a06(00):まひをたすくるちからましまさざらんやと申事也。
0000_,09,530a07(00):されば後生をいのり。本願をたのむ心もうすき人
0000_,09,530a08(00):は。かくのことく圍繞にも護念にもあつかる事なし
0000_,09,530a09(00):とこそ善導はの給ひたれ。おなしく念佛すとも。ふ
0000_,09,530a10(00):かく信ををこして。穢土をいとひ極樂をねかふへき
0000_,09,530a11(00):事也。かまへて心をとめて。このことはりをおもひ
0000_,09,530a12(00):ほときて。一向に信心を至して。つとめさせ給ふへ
0000_,09,530a13(00):き也。かやうにこまかに申のべたるをは。わたくし
0000_,09,530a14(00):のことはおほくして。あやまりあらんなと。あなつ
0000_,09,530a15(00):りおほしめす事ゆめゆめあるへからず。ひとへに善
0000_,09,530a16(00):導の御ことばをまなび。ふるき文釋の意をぬきいだ
0000_,09,530a17(00):して申す事也。うたかひをなす心なくて。かまへて心
0000_,09,530b18(00):をとどめて御らんじときて。意えさせ給ふへき也。
0000_,09,530b19(00):あなかしこあなかしここの定に意えて。念佛申さんにすき
0000_,09,530b20(00):たる往生のきはあるましき事にて候なり
0000_,09,530b21(00):本にいはく。この書はかまくらの二位の禪尼の
0000_,09,530b22(00):請によて。しるし進せらるる書也云云
0000_,09,530b23(00):
0000_,09,530b24(00):
0000_,09,530b25(00):
0000_,09,530b26(00):
0000_,09,530b27(00):
0000_,09,530b28(00):
0000_,09,530b29(00):
0000_,09,530b30(00):
0000_,09,530b31(00):
0000_,09,530b32(00):
0000_,09,530b33(00):
0000_,09,530b34(00):黑谷上人語燈錄卷第十二
0000_,09,531a01(00):黑谷上人語燈錄卷第十三
0000_,09,531a02(00):
0000_,09,531a03(00):厭欣沙門了惠集錄
0000_,09,531a04(00):
0000_,09,531a05(00):和語第二之三當卷有四章
0000_,09,531a06(00):九條殿下の北政所へ進する御返事第九
0000_,09,531a07(00):鎌倉の二位の禪尼へ進する御返事第十
0000_,09,531a08(00):要義問答第十一
0000_,09,531a09(00):大胡太郞へつかはす御返事第十二
0000_,09,531a10(00):九條殿下の北政所へ進する御返事
0000_,09,531a11(00):かしこまりて申あけ候。さては御念佛申させおはし
0000_,09,531a12(00):まし候なるこそ。よにうれしく候へ。まことに往生
0000_,09,531a13(00):の行には、念佛かめてたき事にて候也。そのゆへ
0000_,09,531a14(00):は。念佛は。是彌陀本願の行なれは也。餘行は眞言
0000_,09,531a15(00):止觀のたかき行なりといへとも。彌陀の本願にあら
0000_,09,531a16(00):す。又念佛は。釋迦付屬の行なり。餘行は。定散兩
0000_,09,531a17(00):門のめてたき行なりといへとも。釋尊是を付屬し給
0000_,09,531a18(00):はす。又念佛は。六方諸佛の證誠の行なり。餘行
0000_,09,531b19(00):は。顯密事理のやむごとなき行也といへとも。諸佛
0000_,09,531b20(00):これを證誠し給はす。此ゆへに。樣樣の行おほしと
0000_,09,531b21(00):いへとも。往生のみちには。ひとへに念佛がすぐれ
0000_,09,531b22(00):たる事にて候なり。しかるを。往生のみちにうとき
0000_,09,531b23(00):人の申すやうは。念佛は餘の眞言止觀の行にたへざ
0000_,09,531b24(00):るやすきままのつとめにてこそあれと申は。きはめ
0000_,09,531b25(00):たるひか事にて候也。そのゆへは。餘行をは彌陀の
0000_,09,531b26(00):本願にあらすときらひすて。又餘行は釋尊の付屬に
0000_,09,531b27(00):あらざれはえらひととめ。又餘行は諸佛の證誠にあ
0000_,09,531b28(00):らさるをもてやめをさめて。いまはたた彌陀の本願
0000_,09,531b29(00):にまかせ。釋尊の付屬により。諸佛の證誠にしたか
0000_,09,531b30(00):ひて。をろかなるわたくしのはからひをはやめて。こ
0000_,09,531b31(00):れらのゆへつよき念佛の行を信じつとめて。往生を
0000_,09,531b32(00):ばいのるへしと申事にて候也。されは惠心の僧都の
0000_,09,531b33(00):往生要集に。往生の業には。念佛を本とすと申たる
0000_,09,531b34(00):は此意也。今はたた餘行をととめ給て。一向に念佛
0000_,09,531b35(00):になら勢給ふへし。念佛にとりても。一向專修の念
0000_,09,532a01(00):佛がめてたき事にて候也。そのむねは。三昧發得の
0000_,09,532a02(00):善導和尚の觀經の疏にみえて候。されは雙卷經に
0000_,09,532a03(00):は。一向專念無量壽佛ととき給ひて候。をよそ一向
0000_,09,532a04(00):のことはは。二向三向に對して。ひとへに餘行をえ
0000_,09,532a05(00):らひすて。きらひのぞく意にて候なり。往生要集に
0000_,09,532a06(00):も。諸行の中に念佛すぐれたるよし見へて候。又傳
0000_,09,532a07(00):敎大師の。七難消滅の法にも。念佛をつとむへしと
0000_,09,532a08(00):みえて候。されは君達なとのをいのりの料にも。念
0000_,09,532a09(00):佛かめてたき事にて候。をよそ十方の諸佛。三界の
0000_,09,532a10(00):天衆の擁護し給ふ行にて候へは。現世後生の御つと
0000_,09,532a11(00):め。何事かこれにすき候はん。いまはたた。一向專
0000_,09,532a12(00):修の但念佛にならせ給ふへく候
0000_,09,532a13(00):
0000_,09,532a14(00):鎌倉の二位の禪尼へ進する御返事
0000_,09,532a15(00):御文のやうくはしくうけ給候ぬ。さては念佛の功
0000_,09,532a16(00):德は。佛もときつくしがたしとの給ひて候。され
0000_,09,532a17(00):は智惠第一の舍利弗。多聞第一の阿難も念佛の功德
0000_,09,532b18(00):はしりがたしとの給て候ひし也。かくのことく廣大
0000_,09,532b19(00):の善根にて候へは。まして源空なとは申つくすへく
0000_,09,532b20(00):も候はす。源空。此朝にわたりて候聖敎を。隨分に
0000_,09,532b21(00):ひらき見候へとも。淨土の敎文は。わたりはてすと
0000_,09,532b22(00):かんかへて候。わずかに震旦よりとりわたして候。
0000_,09,532b23(00):敎文をたにも。一年二年なとには。申つくすへくも
0000_,09,532b24(00):おほえ候はす。さりなからも。おほせをかうふりて
0000_,09,532b25(00):候へは。少少申のへ候へし。先念佛を信せさる人
0000_,09,532b26(00):ひと候ひて。申候なる事は。くまかへの入道。つの
0000_,09,532b27(00):との三郞なとは。無智のものなれはこそ。餘行をはせ
0000_,09,532b28(00):させすして。念佛はかりをは。法然房はすすめたれ
0000_,09,532b29(00):と申候なる事。きはまりなきひが事にて候。其ゆへ
0000_,09,532b30(00):は。念佛の行は。本より有智無智をえらはす。彌陀
0000_,09,532b31(00):のむかしちかひ給ひし本願は。あまねく十方世界の
0000_,09,532b32(00):一切衆生のためなり。無智のためには念佛を願と
0000_,09,532b33(00):し。有智のためには餘行を願とし給ふ事なし。され
0000_,09,532b34(00):は有智無智。善人惡人。持戒破戒。貴も賤も。男も
0000_,09,533a01(00):女もへだてす。若は佛の在世の衆生。若は佛の滅後
0000_,09,533a02(00):の衆生。若は末法萬年の後。三寳みなうせたる時の
0000_,09,533a03(00):衆生迄も。たた念佛ばかりこそ。現當の祈禱とはな
0000_,09,533a04(00):り候はめ。善導和尚は彌陀の化身にて。殊に一切衆
0000_,09,533a05(00):生をあはれみ給ひて。諸の聖敎をかんがへて。專修
0000_,09,533a06(00):念佛をすすめ給へるも。ひろく一切衆生のためにて
0000_,09,533a07(00):候也。されは彌陀の本願により。善導の御心にした
0000_,09,533a08(00):がひて。念佛の一門をすすめ候はんに。いかてか無智
0000_,09,533a09(00):の人のみにかきりて。有智の人をへたてて往生せさ
0000_,09,533a10(00):せじととし候はんや。若しからは。彌陀の本願にも
0000_,09,533a11(00):そむき。善導の御意にもかなふへからす。然は此邊
0000_,09,533a12(00):にまうてきて。往生の道をたつね候人には。有智無
0000_,09,533a13(00):智を論ぜす。ひとへに專修念佛をすすめ候なり。さ
0000_,09,533a14(00):やうに專修念佛を申候をととめんとつかまつる人
0000_,09,533a15(00):は。先世に念佛三昧得道の法門をきかずして。後の
0000_,09,533a16(00):世にさためてまた三惡道にかへるへき者の。しかる
0000_,09,533a17(00):へくてさやうに申也。そのゆへは聖敎にひろくみえ
0000_,09,533b18(00):て候也。是即修行するをみては毒心ををこし。方便
0000_,09,533b19(00):してきをひてあたをなす。かくのごときの生盲闡提
0000_,09,533b20(00):のともからは。頓敎を毀滅してながく沈淪す。大地
0000_,09,533b21(00):微塵劫を超過すとも。いまた三途の身をはなれん事
0000_,09,533b22(00):を得へからすと。とき給へり。此文の意は。淨土をね
0000_,09,533b23(00):がひ念佛を行ずる人を見ては。毒心ををこしひか事
0000_,09,533b24(00):をたくみめくらして。樣樣の方便をなして。專修
0000_,09,533b25(00):念佛の行をやぶり。あたをなして。申ととむる也。
0000_,09,533b26(00):かくのごときの人は。むまれてより佛法のまなこし
0000_,09,533b27(00):ゐて。善根のたねをうしなへり。闡提のともからな
0000_,09,533b28(00):り。是彌陀の名號をとなへて。なかく生死をはなれ
0000_,09,533b29(00):て。常住の極樂に往生すへけれとも。この敎法をそ
0000_,09,533b30(00):しりほろぼすつみによりて。ながく三惡道にしつ
0000_,09,533b31(00):む。かくのこときの人は。大地微塵劫をつくすと
0000_,09,533b32(00):も。ながく三途の身をはなれんこと有へからすとい
0000_,09,533b33(00):ふ也。しかれは則さやうにひが事を申さん人をは。か
0000_,09,533b34(00):へりてあはれみ給ふへき也。左程の罪人の申さんに
0000_,09,534a01(00):よりて。專修念佛に懈怠をなし。念佛往生にうたが
0000_,09,534a02(00):ひをなし。不審をいたさん人は。いふにかひなき事
0000_,09,534a03(00):にこそ候はめ。をよそ彌陀に縁あさく。往生の時い
0000_,09,534a04(00):たらぬものは。きけとも信ぜす。念佛の者をみては
0000_,09,534a05(00):腹をたち。聲をききてはいかりをなして。念佛はあ
0000_,09,534a06(00):しき事なりなと申すは。すへて經論にも見へさる事
0000_,09,534a07(00):を申にて候也。御意をえさせ給ひて。いかに申す
0000_,09,534a08(00):とも。御心はかりは御變改候へからす。あながちに信
0000_,09,534a09(00):ぜざらん人をは。御すすめ候へからす。佛なを力を
0000_,09,534a10(00):よびたまはす。いかにいはんや凡夫のちからはをよ
0000_,09,534a11(00):ふましく候。かかる不信の衆生をも。過去の父母兄弟
0000_,09,534a12(00):親類なりと思召候て。慈悲ををこして念佛申て。極
0000_,09,534a13(00):樂の上品上生にまいりてさとりをひらき。すみやか
0000_,09,534a14(00):に生死にかへりいりて。誹謗不信の人をも。むかへ
0000_,09,534a15(00):んとおほしめすへき事にて候なり。此由を御意得候
0000_,09,534a16(00):へきなり
0000_,09,534a17(00):一異解の人の餘の善根を修せんには。財寶をあひ助
0000_,09,534b18(00):成しておほしめすへき樣は。我これ一向專修にて决
0000_,09,534b19(00):定して往生すへき身なり。他人のとをきみちを。わ
0000_,09,534b20(00):か近き道に結縁せさせんとおほしめすへき也。其う
0000_,09,534b21(00):へ專修をさまたけ候はさらんは結縁せんにとがなし
0000_,09,534b22(00):一人ひとの堂をつくり。佛を作り。經をかき。僧を供
0000_,09,534b23(00):養せんをは。能能心をこたらすして信ををこして。
0000_,09,534b24(00):かくのことくの雜善根をも修せしめ給へと。御すすめ
0000_,09,534b25(00):候へし
0000_,09,534b26(00):一念佛の意をしらずして。此世のいのりに佛にも神
0000_,09,534b27(00):にも申し。經をも誦しかき堂をも作らは。それも先
0000_,09,534b28(00):のことくおほしめすへく候。せめては又後世のため
0000_,09,534b29(00):にせばこそあらめ。其要なしなとをほせ候へから
0000_,09,534b30(00):す。專修をさふる人にはあらざりけりと思召候へし
0000_,09,534b31(00):一念佛を申事樣樣の義候へとも。只六字をとなふる
0000_,09,534b32(00):はかりに一切はをさまりて候也。意には本願をたの
0000_,09,534b33(00):み。口には名號をとなへ。手には數珠をとり。つね
0000_,09,534b34(00):に心にかくるが。きはめたる決定の業にて候也。念
0000_,09,535a01(00):佛の行は。本より行住坐臥時處諸縁をえらはす。身
0000_,09,535a02(00):口の不淨をもきらはぬ行にて候へは。易行往生とは
0000_,09,535a03(00):申候なり。但其中にも。心をきよくして申をは。第
0000_,09,535a04(00):一の行と申候也。只淨土を心にかくれは。心淨の行
0000_,09,535a05(00):法にて候也。人をもかやうに御すすめ候へし。さや
0000_,09,535a06(00):うにつねに申させ給はんをは。とかく申へき樣候は
0000_,09,535a07(00):す。我身もしかるへくて。此度往生すへしとおほし
0000_,09,535a08(00):召候べし。ゆめゆめ此心能能つよくならせ給へし
0000_,09,535a09(00):一念佛の行を信ぜぬ人にあひて論し。又あらぬ行の
0000_,09,535a10(00):人人にむかひて執論候へからす。あなかちに別解異
0000_,09,535a11(00):學の人を見て。あなづりそしる事候まし。いよいよ重
0000_,09,535a12(00):罪の人となさん事不便に候。をなし心に極樂をねが
0000_,09,535a13(00):ひ。念佛を申さん人をは。たとひ卑賤の人なりとも父
0000_,09,535a14(00):母師匠にもをとらすおほしめすへし。今生の財寶の
0000_,09,535a15(00):ともしからんにも。ちからをくはへ給へし。またすこ
0000_,09,535a16(00):しも念佛に心をかけ候はんをは。能能すすめたまふ
0000_,09,535a17(00):へく候。是も彌陀如來への御みやつへかと思召候へ
0000_,09,535b18(00):し釋迦如來入滅よりこのかた。次第に小智小行にな
0000_,09,535b19(00):りて候に。我も我もと智惠ありがほに申す人人は過
0000_,09,535b20(00):にて候へし。勢めては錄内の經敎をたにも。きかずみ
0000_,09,535b21(00):ず。いかにいはんや錄の外の經敎を見ざる人の。智
0000_,09,535b22(00):惠有かほに申すは。ゐのうちのかへるに似たり。隨
0000_,09,535b23(00):分に震旦日本の聖敎を取あつめてひらきかんかへて
0000_,09,535b24(00):候に念佛を信ぜぬ人は。先世に重罪をつくりて。地
0000_,09,535b25(00):獄に久しく有て。又地獄へはやく歸るへき人なり。
0000_,09,535b26(00):たとひ千佛世にいてて。念佛はまたく往生の業にあ
0000_,09,535b27(00):らすとをしへ給ふとも。信すへからす。是は釋迦如
0000_,09,535b28(00):來よりはしめて。恒河沙の佛の證誠し給へる事なれ
0000_,09,535b29(00):はと思召て。御心ざし金剛よりもかたくして。一向
0000_,09,535b30(00):專修は御變改候へからず。若論じ申さん人をはこれ
0000_,09,535b31(00):へつかはされて。たて申さんやうをきけと仰候へ
0000_,09,535b32(00):し。樣樣の要文書しるしてまいらすへく候へとも。
0000_,09,535b33(00):たたこれにすき候まし。又娑婆世界の人は。餘の淨
0000_,09,535b34(00):土をねかはん事は。弓なくして天の鳥をとり。足な
0000_,09,536a01(00):くしてたかき木すゑのはなをおらんとせんかこと
0000_,09,536a02(00):し。必專修念佛は。現當のいのりと成候也。これも
0000_,09,536a03(00):經の説にて候也。又御内の人ひとには。九品の業を。
0000_,09,536a04(00):人にしたかひて。はしめをはりたへ候ひぬへきやう
0000_,09,536a05(00):に。御すすめ候へし。あなかしこあなかしこ
0000_,09,536a06(00):
0000_,09,536a07(00):要義問答
0000_,09,536a08(00):まことに此身には道心のなき事と病はかりやなけき
0000_,09,536a09(00):にて候らん。世をいとなむ事なけれは。四方に馳走
0000_,09,536a10(00):せず。衣食ともにかけたりといへとも。身命をおし
0000_,09,536a11(00):む心切ならねは。あなかちにうれへとするにをよは
0000_,09,536a12(00):す。心をやすくせん爲にも。捨候へき世にこそ候め
0000_,09,536a13(00):れ。いはんや無常のかなしみは目の前にみてり。い
0000_,09,536a14(00):つれの月日をかをはりの時の期せん。さかへあるも
0000_,09,536a15(00):のも久しからず。いのちあるものも又うれへあり。
0000_,09,536a16(00):すべていとふへきは六道生死のさかひ。ねがふへき
0000_,09,536a17(00):は淨土の菩提也。天上にむまれてたのしみにほこる
0000_,09,536b18(00):といへとも。五衰退沒のくるしみあり。人間にむま
0000_,09,536b19(00):れて國王の身をうけて。一天下をしたがふといへと
0000_,09,536b20(00):も。生老病死。愛別離苦。怨憎會苦。一事もまぬか
0000_,09,536b21(00):るる事なし。たとひこれらの苦なからんすら。三惡
0000_,09,536b22(00):道に歸るをそれあり。心あらん人はいかかいとはざ
0000_,09,536b23(00):るべき。うけがたき人界の生をうけて。あひがたき
0000_,09,536b24(00):佛敎にあふ。此たひ出離をもとめさせ給へ。
0000_,09,536b25(00):問おほかたさこそ思ふ事にて候へとも。か樣に仰ら
0000_,09,536b26(00):るること葉につきて。左右なく出家をしたりとも。心
0000_,09,536b27(00):に名利をはなれたる事もなく。無道心にて人に謗を
0000_,09,536b28(00):なされん事いかかとをぼへ候。在家にありておほく
0000_,09,536b29(00):の輪迴の業をまさんよりは。よき事にてや候へき
0000_,09,536b30(00):答。たはぶれにあさの衣をき。酒にゑひて出家をし
0000_,09,536b31(00):たる人。みな佛道の因となりきと。舊き物にも書つ
0000_,09,536b32(00):たへられて候。往生十因と申す文には勝如聖人の父
0000_,09,536b33(00):母ともに出家せし時。おとこはとし四十一。妻は三
0000_,09,536b34(00):十三也。修行の僧をもて師としき。師ほめていは
0000_,09,537a01(00):く。衰老にもいたらず病患にものぞまず。今出家を
0000_,09,537a02(00):もとむ是最上の善根也とこそはいひけれ。釋迦如來
0000_,09,537a03(00):當來導師の慈尊に付屬し給ふにも。破戒重惡のとも
0000_,09,537a04(00):からなりといふとも。頭をそり衣をそめ袈婆をかけ
0000_,09,537a05(00):たらんものをは。みななんぢにつくとこそは仰られ
0000_,09,537a06(00):て候へ。されは破戒なりといへとも三會得脱なをた
0000_,09,537a07(00):のみあり。ある經の文には。在家の持戒には出家の
0000_,09,537a08(00):破戒はすぐれたりとこそは申て候へ。誠に佛法流布
0000_,09,537a09(00):の世にむまれて。出離の道をしりて。解脱幢相の衣
0000_,09,537a10(00):をかたにかけ。釋氏につらなりて。佛法修行せざら
0000_,09,537a11(00):んは。實にたからの山に入て。手をむなしくしてか
0000_,09,537a12(00):へるためしなり
0000_,09,537a13(00):問。誠に出家なとしては。さすがに生死をはなれ。
0000_,09,537a14(00):菩提にいたらん事をこそはいとなみ候へけれ。如何
0000_,09,537a15(00):樣にかつとめ。いかやうにかねがひ候へき
0000_,09,537a16(00):答。安樂集に云。大乘の聖敎によるに二種の勝法あ
0000_,09,537a17(00):り。一には聖道。二には往生淨土也。穢土の中にし
0000_,09,537b18(00):てやかて佛果をもとむるはみな聖道門也。諸法の實
0000_,09,537b19(00):相を觀して證をえんとし。法花三昧を行して六根淸
0000_,09,537b20(00):淨をもとめ。三密の行法をこらして即身に成佛せん
0000_,09,537b21(00):とおもひ。あるひは四道の果をもとめ。又三明六通
0000_,09,537b22(00):をねがふ。これみな難行道也。往生淨土門といふ
0000_,09,537b23(00):は。まつ淨土へむまれて。かしこにてさとりをもひ
0000_,09,537b24(00):らき。佛にもならんとおもふ也。是をは易行道とい
0000_,09,537b25(00):ふ。生死をはなるる道みちおほし。いつれよりもい
0000_,09,537b26(00):らせ給へ
0000_,09,537b27(00):問。さてはわれらがこときのをろかなるものは。淨土
0000_,09,537b28(00):の往生をねかひ候へきかいかん
0000_,09,537b29(00):答。安樂集に云。聖道の一種は今の時には證じがた
0000_,09,537b30(00):し。一には大聖をさる事はるかにとをきにより。二
0000_,09,537b31(00):には理はふかくしてさとりはすくなきによる。此故
0000_,09,537b32(00):に大集月藏經に云。我末法の時の中の。億億の衆生行
0000_,09,537b33(00):ををこし道を修するに。いまた一人もうる者あらじ
0000_,09,537b34(00):と。まさに今末法五濁惡世也。たた淨土の一門のみあ
0000_,09,538a01(00):りて通入すべき道也。ここをもて諸佛の大悲。淨土
0000_,09,538a02(00):に歸せよとすすめ給ふ。たとひ一形惡をつくるとも。
0000_,09,538a03(00):ただよく心をかけてまことをもはらにして。つねに
0000_,09,538a04(00):よく念佛せよ。一切のもろもろのさはり自然にのぞ
0000_,09,538a05(00):こりて。さためて往生をう。なんぞ思ひはからずし
0000_,09,538a06(00):て。さる心なきやといへり。永觀のいはく。眞言止
0000_,09,538a07(00):觀は理ふかくしてさとりかたく。三論法相は道かす
0000_,09,538a08(00):かにしてまどひやすしとなと候。實に觀念にもたへ
0000_,09,538a09(00):ず。行法にも得いたらざらん人は。淨土の往生をと
0000_,09,538a10(00):げて一切の法門をもやすくさとらせ給はんは。よく
0000_,09,538a11(00):候ひなんとおほし候
0000_,09,538a12(00):問。十方に淨土おほし。何れをかねがひ候へき。兜率
0000_,09,538a13(00):の往生をねがふ人もおほく候。いかか思ひ定候へき
0000_,09,538a14(00):答。妙樂大師の給はく。諸敎所讃多在彌陀故以
0000_,09,538a15(00):西方而爲一准と。又顯密の敎法の中に。もはら
0000_,09,538a16(00):極樂をすすむる事稱計へからす。惠心の往生要集
0000_,09,538a17(00):に。十方に對して西方をすすめ。兜率に對しておほ
0000_,09,538b18(00):くの勝劣をたて。難易相違の證據ともをひけり。尋
0000_,09,538b19(00):御覽勢させたまへ。極樂は此土に縁ふかし。彌陀は
0000_,09,538b20(00):有縁の敎主也。宿因のゆへ。本願のゆへあり。ただ
0000_,09,538b21(00):西方をねかはせ給へきとぞおほえ候
0000_,09,538b22(00):問。さてはひとすぢに極樂をねがふへきにこそ候な
0000_,09,538b23(00):れ。極樂をねかはんには。いづれの行かすぐれて候
0000_,09,538b24(00):へき
0000_,09,538b25(00):答。善導釋しての給はく。行に二種あり。一には正
0000_,09,538b26(00):行。二には雜行なり。正の中に五種あり。一には禮
0000_,09,538b27(00):拜の正行。二には讃嘆供養の正行。三には讀誦の正
0000_,09,538b28(00):行。四には稱名の正行。五には觀察の正行也。一に
0000_,09,538b29(00):禮拜の正行といは。禮せんには。即かの佛を禮し
0000_,09,538b30(00):て。餘の禮をまじへざれ。二に讚嘆供養の正行とい
0000_,09,538b31(00):は。讃嘆せんには。即かの佛を讃嘆供養して。餘の
0000_,09,538b32(00):讚嘆をまじへざれ。三に讀誦の正行といは。讀誦せ
0000_,09,538b33(00):んには。彌陀經等の三部經を讀誦して。餘の讀誦をま
0000_,09,538b34(00):じへざれ。四に稱名の正行といは。稱せんには。即
0000_,09,539a01(00):かの佛を稱して。餘の稱名をまじへざれ。五に觀察
0000_,09,539a02(00):の正行といは。憶念觀察せんには。かの土の二報莊
0000_,09,539a03(00):嚴等を觀察して。餘の觀察をまじへざれ。此五種を
0000_,09,539a04(00):往生の正行とす。此正行の中に又二あり。一には
0000_,09,539a05(00):正。二には助也。稱名をもて正とし。禮誦等をもて
0000_,09,539a06(00):助業となづく。此正助二行をのぞきて。自餘の修善
0000_,09,539a07(00):をはみな雜行となづく。又釋していはく。自餘の衆
0000_,09,539a08(00):善はみな善となづくといへとも。念佛にたくらふれ
0000_,09,539a09(00):はまたく比挍にあらずとのたまへり。淨土をねがは
0000_,09,539a10(00):せ給はは。一向に念佛をこそは申させたまはめ
0000_,09,539a11(00):問。餘行を修して往生せん事はかなひ候ましや。さ
0000_,09,539a12(00):れとも法華經に。即往安樂世界阿彌陀佛所といひ。密
0000_,09,539a13(00):敎の中にも決定往生の眞言あり。諸敎の中に淨土に
0000_,09,539a14(00):往生すべき功力をとけり。又穢土の中にして佛果に
0000_,09,539a15(00):いたるといふ。かたき德をたに具せる敎を修行して
0000_,09,539a16(00):やすき往生極樂に廻向せは。佛果にかなふまてこそ
0000_,09,539a17(00):かたくとも。往生はやすく候へきとこそおほえ候へ。
0000_,09,539b18(00):又をのづから聽聞なとにうけ給はるにも。法花念佛
0000_,09,539b19(00):は。ひとつ物と釋せられ候。ならべて修せんに。な
0000_,09,539b20(00):にかくるしく候へき
0000_,09,539b21(00):答。雙卷經に。三輩往生の業をときて。ともに一向
0000_,09,539b22(00):專念無量壽佛との給へり。觀無量壽經に。もろもろ
0000_,09,539b23(00):の往生の行をあつめてとき給ふに。をはりに阿難に
0000_,09,539b24(00):付屬し給ふ所には。なんぢ此語をたもて。此語をた
0000_,09,539b25(00):もてといふは無量壽佛の名をたもつなりととき給
0000_,09,539b26(00):ふ。善導觀經を釋してのまふに。定散兩門の益をと
0000_,09,539b27(00):くといへとも。佛の本願にのぞむれは。一向にもは
0000_,09,539b28(00):ら彌陀の名號を稱せしむるにありといふ。おなしき
0000_,09,539b29(00):經の文に。一一の光明十方世界の念佛の衆生をて
0000_,09,539b30(00):らして。攝取してすてたまはすととけり。善導釋し
0000_,09,539b31(00):ての給はく。餘の雜業のものをてらし攝取すといふ
0000_,09,539b32(00):事をは論ぜすと候。されはとて餘行のものは。ふつ
0000_,09,539b33(00):とむまれすといふにはあらす。善導も。廻向してむま
0000_,09,539b34(00):るへしといへとも。すへて疎雜の行となづくとこそ
0000_,09,540a01(00):はをほせられたれ。往生要集の序にも。顯密の敎法
0000_,09,540a02(00):其文ひとつにあらす。事理の業因其行これおほし。利
0000_,09,540a03(00):智精進の人はいまたかたしとせず。予がごときの頑
0000_,09,540a04(00):魯の者あにたやすからんや。此ゆへに念佛の一門に
0000_,09,540a05(00):よりて。經論の要文をあつむ。是をひらき是を修す
0000_,09,540a06(00):るに。さとりやすく行じやすしといふ。これらの證
0000_,09,540a07(00):據あきらめつへし。敎をえらふにはあらず。機をはか
0000_,09,540a08(00):らふなり。我ちからにて生死をはなれん事。はげみが
0000_,09,540a09(00):たくして。偏に他力の彌陀の本願をたのむ也。先德
0000_,09,540a10(00):たちおもひはからひてこそは。道綽は聖道をすてて
0000_,09,540a11(00):淨土の門にいり。善導は雜行をととめて一向に念佛
0000_,09,540a12(00):して三昩をえ給ひき。淨土宗の祖師次第にあひつけ
0000_,09,540a13(00):り今わづかに一兩をあぐ。この朝にも惠心永觀なと
0000_,09,540a14(00):いふ。自宗他宗の人師ひとへに念佛の一門をすすめ
0000_,09,540a15(00):たまへり。專雜二修の義はしめて申にをよはす。淨
0000_,09,540a16(00):土宗の文おほし。こまかに御覽すへし。又即身得道
0000_,09,540a17(00):の行。往生極樂にをよばさらんやと候は。まこと
0000_,09,540b18(00):にいはれたるやうに候へとも。いつれにも宗と申す
0000_,09,540b19(00):事の候ぞかし。善導の觀經の疏には。般若經のこと
0000_,09,540b20(00):きは。空惠をもて宗とし。維摩經のこときは。不思
0000_,09,540b21(00):議解脱をもて宗とす。今此觀經は觀佛三昧をもて宗
0000_,09,540b22(00):とし。念佛三昧をもて宗とすといへり。法花は。眞
0000_,09,540b23(00):如實相平等の妙理を觀して證をとり。現身に五品六
0000_,09,540b24(00):根の位にもかなふ。これらをもて宗とす。又法花に
0000_,09,540b25(00):は。おほくの功力をあけて經をほむるついでに。即
0000_,09,540b26(00):往安樂ともいひ。又即往兜率天上ともいふ。これは
0000_,09,540b27(00):便宜の説也。往生をむねとするにはあらす。眞言又
0000_,09,540b28(00):かくのことし。法花念佛一つなりといひて。ならべ
0000_,09,540b29(00):て修せよといはは。善導和尚は。法花維摩等を誦し
0000_,09,540b30(00):き。淨土の一門にいりにしよりこのかた一向に念佛
0000_,09,540b31(00):して。あへて餘の行をましふる事なかりき。しかのみ
0000_,09,540b32(00):ならす淨土宗の祖師あひついで。みな一向に名號を
0000_,09,540b33(00):稱して。餘業をまじへされとすすむ。これらを案し
0000_,09,540b34(00):て專修の一行にいら勢給へと申すなり
0000_,09,541a01(00):問。淨土の法門に。まづ何何を見て心づき候なん
0000_,09,541a02(00):答。經には。雙卷。觀無量壽。小阿彌陀經等。是を
0000_,09,541a03(00):淨土三部經となづく。文には。善導の觀經の疏。六
0000_,09,541a04(00):時禮讃。觀念法門。道綽の安樂集。慈恩の西方要
0000_,09,541a05(00):决。懷感の群疑論。天台の十疑論。わか朝の人師に
0000_,09,541a06(00):は惠心の往生要集なとこそは。つねに人のみるもの
0000_,09,541a07(00):にて候へ。たたし何を御覽ぜすとも。よく御意えあり
0000_,09,541a08(00):て念佛申させ給ひなんに。往生何事かうたかひ候へ
0000_,09,541a09(00):き
0000_,09,541a10(00):問。ざては念佛の安心をは。如何樣にかこころへ候
0000_,09,541a11(00):へき
0000_,09,541a12(00):答。三心を具足せさせ給へ。その三心と申すは。一
0000_,09,541a13(00):には至誠心。二には深心。三には廻向發願心也。一
0000_,09,541a14(00):に至誠心といふは。眞實の心也。善導釋しての給は
0000_,09,541a15(00):く。至といふは眞の義。誠といふと實の義。眞實の
0000_,09,541a16(00):心の中に。此三界六道の自他の依正二報をいとひす
0000_,09,541a17(00):てて。三業に修するところの行業に。かならす眞實
0000_,09,541b18(00):をもちひよ。外に賢善精進の相を現して。内に虚假
0000_,09,541b19(00):をいだくものは。日夜十二時につとめをこなふ事。
0000_,09,541b20(00):かうべの火をはらふがことくにするとも。往生をえず
0000_,09,541b21(00):と也。ただ内外明闇をえらはす。眞實をもちゆるゆ
0000_,09,541b22(00):へに至誠心となつく。二に深心といふは。ふかき信
0000_,09,541b23(00):也。决定してふかく信せよ。自身は現に是罪惡生死
0000_,09,541b24(00):の凡夫也。曠劫よりこのかたつねに沒し。つねに流轉
0000_,09,541b25(00):して出離の縁ある事なしと。又决定してふかく信せ
0000_,09,541b26(00):よ。彼阿彌陀佛。四十八願をもて衆生を攝受し給
0000_,09,541b27(00):ふ。うたかひなくうらおもひなけれは。かの願力に
0000_,09,541b28(00):乘してさためて往生すと。あふぎねかはくは。佛の
0000_,09,541b29(00):ことはをはふかく信せよ。若一切の智者百千万人きた
0000_,09,541b30(00):りて。經論の證をひきて。一切の凡夫念佛して往生
0000_,09,541b31(00):する事をえすといはんに。一念の疑退の心を。をこす
0000_,09,541b32(00):へからす。たたこたへていふへし。なんぢかひくと
0000_,09,541b33(00):ころの經論はなんちか。有縁の敎なり。わか信する
0000_,09,541b34(00):ところは。わか有縁の敎なり。今ひく所の經論は。
0000_,09,542a01(00):菩薩人天等に通してとけり。此觀經等の三部は。濁
0000_,09,542a02(00):惡不善の凡夫のためにとき給ふ。しかれはかの經を
0000_,09,542a03(00):とき給ふ時は。所も別に。時も別に。對機も別に。
0000_,09,542a04(00):利益も別なりき。今君か妨難をきくに。いよいよ信
0000_,09,542a05(00):心を增長す。若羅漢辟支佛初地十地の菩薩十方にみ
0000_,09,542a06(00):ち。化佛報佛ひかりをかかやかし。虚空にしたをは
0000_,09,542a07(00):きてむまれすとの給はは。又こたへていふへし。一
0000_,09,542a08(00):佛の説は一切佛の説におなし。釋迦如來のとき給ふ
0000_,09,542a09(00):敎をあらためは。制し給ふところの殺生十惡等のつ
0000_,09,542a10(00):みをあらためて又をかすへしや。さきの佛そらこと
0000_,09,542a11(00):し給はは。後の佛も又そらことし給ふへし。おなし
0000_,09,542a12(00):事ならは。只しそめたる法をはあらためじといひ
0000_,09,542a13(00):て。なかく退する事なき。これを深心といふ也。三
0000_,09,542a14(00):に廻向發願心といふは。一切の善根をことことくみ
0000_,09,542a15(00):な廻向して。往生極樂のためとす。决定眞實の心のう
0000_,09,542a16(00):ちに廻向してむまるるおもひをなす也。此心ふかく
0000_,09,542a17(00):信する事金剛のことくにして。一切の異見異學。別
0000_,09,542b18(00):解別行人等に。動亂破壞せられざれ。いまさらに行
0000_,09,542b19(00):者のために。一つのたとへをときて。外邪異見の難
0000_,09,542b20(00):をふせかん。人ありて西にむかひて百里千里をゆく
0000_,09,542b21(00):に。忽然として中路に二つの河あり。一つにはこれ火
0000_,09,542b22(00):の河南にあり。二つにはこれ水のかは北にあり。
0000_,09,542b23(00):をのをの廣さ百步。ふかくしてそこなし。まさに
0000_,09,542b24(00):水火の中間に一つの白き道あり。ひろさ四五寸ば
0000_,09,542b25(00):かりなるへし。此道ひんかしのきしより西の岸にい
0000_,09,542b26(00):たるまて。長さ百步。その水の波浪交過して道をう
0000_,09,542b27(00):るほし。その火の燄亦きたりて道をやく。水火あひ
0000_,09,542b28(00):まじはりてつねにやむ事なし。此人すてに空曠のは
0000_,09,542b29(00):るかなるところにいたるに人なくして。群賊惡獸あ
0000_,09,542b30(00):り。此人のひとりゆくをみて。きをひきたりてころ
0000_,09,542b31(00):さんとす。此人死ををそれてたたちにはしりて西に
0000_,09,542b32(00):むかふ。忽然として此大河をみるに。すなはち念言
0000_,09,542b33(00):すらく。此河南北ともにほとりなし。中間に一つの
0000_,09,542b34(00):白道をみる。きはめて狹少也。二つの岸あひさる事
0000_,09,543a01(00):ちかしといへとも。いかかゆくへき。今日さためて死
0000_,09,543a02(00):せん事うたかひなし。まさに歸らんとおもへは。群
0000_,09,543a03(00):賊惡獸やうやくきたりせまる。まさに南北にさりは
0000_,09,543a04(00):しらんとおもへは。惡獸毒蟲きをひきたりて我にむ
0000_,09,543a05(00):かふ。まさに西にむかひて道をたつねてさらんとお
0000_,09,543a06(00):もへは。復をそらくは此二つの河にをちぬへしと。
0000_,09,543a07(00):此時をそるる事いふへからす。即みづから思念すら
0000_,09,543a08(00):く。われいまかへるとも死し。またさるとも死せ
0000_,09,543a09(00):ん。一種として死をまぬかれさるものなり。われむ
0000_,09,543a10(00):しろ此道を尋ねてさきにむかひてさらん。すてに此
0000_,09,543a11(00):みちありかならすわたるへし。此思をなす時。東の
0000_,09,543a12(00):岸にたちまちに人のすすむる聲をきく。きみたた决
0000_,09,543a13(00):定して此道を尋ねてゆけ。かならす死の難なけん。
0000_,09,543a14(00):もし住せは即死なんと。又西の岸のうへに人ありて
0000_,09,543a15(00):よはひていはく。なんぢ一心にたたしく念して。み
0000_,09,543a16(00):ちをたづねて直にすすみて。疑怯退の心をなさざれ
0000_,09,543a17(00):と。あるひは一分二分ゆくに群賊等よはひていは
0000_,09,543b18(00):く。きみかへりきたれ。この道ははけしくあしき道
0000_,09,543b19(00):なり。すくる事をうへからす。死なん事うたかひな
0000_,09,543b20(00):し。我等すべて惡心なしと。此人よはふこゑを聞と
0000_,09,543b21(00):いへとも。かへりみず。直にすすみて道を念してゆ
0000_,09,543b22(00):くに。須臾にすなはち西の岸にいたりて。ながくも
0000_,09,543b23(00):ろもろの難をはなる。善友あひむかひてよろこひ
0000_,09,543b24(00):やむ事なし。是はたとへ也。次にたとへを合すとい
0000_,09,543b25(00):ふは。東の岸といふは。即此娑婆の火宅にたとふる
0000_,09,543b26(00):也。西の岸といふは。即極樂寳國にたとふるなり。
0000_,09,543b27(00):群賊惡獸いつはりしたしむといふは。即衆生の六根
0000_,09,543b28(00):六識六塵五陰四大なり。人なき空逈の澤といふは。
0000_,09,543b29(00):即つねに惡友にしたがひて。眞の善知識にあはざる
0000_,09,543b30(00):也。水火の二河といふは。即衆生の貪愛は水のこと
0000_,09,543b31(00):く。瞋恚は火のことくなるにたとふる也。中間の白
0000_,09,543b32(00):道四五寸といふは。即衆生の貪瞋惱煩の中に。よく
0000_,09,543b33(00):淸淨の願往生の心を生する也。。貪瞋こはきによるか
0000_,09,543b34(00):ゆへに。すなはち水火のことしとたとふるなり。願
0000_,09,544a01(00):心すくなきがゆへに。白道のことしとたとふるな
0000_,09,544a02(00):り。水波つねに道をうるほすといふは。愛心つねに
0000_,09,544a03(00):をこりて善心を染汙する也。又火㷔つねに道をやく
0000_,09,544a04(00):といふは。瞋嫌の心よく功德の法財をやく也。人み
0000_,09,544a05(00):ちの上をゆきて直に西にむかふといふは。即もろ
0000_,09,544a06(00):もろの行業をめくらして直に西にむかふにたとふる
0000_,09,544a07(00):也。東の岸に人のこゑありてすすめやるをききて。
0000_,09,544a08(00):道をたつねて直に西にすすむといふは。即釋迦すで
0000_,09,544a09(00):に滅し給ひてのち。人見たてまつらされとも。なを
0000_,09,544a10(00):敎法ありてたつねつへし。是を聲のことしとたとふ
0000_,09,544a11(00):る也。あるひはゆく事一分二分するに。群賊等よひ
0000_,09,544a12(00):かへすといふは。別解別行惡見人等。みだりに見解を
0000_,09,544a13(00):ときてあひ惑亂し。をよひみづから罪をつくりて退
0000_,09,544a14(00):失するにたとふる也。西の岸のうへに人ありてよは
0000_,09,544a15(00):ふといふは。即彌陀の願の意にたとふる也。須臾に
0000_,09,544a16(00):すなはちにしの岸にいたりて。善友あひ見てよろこ
0000_,09,544a17(00):ふといふは。すなはち衆生ひさしく生死にしづみて
0000_,09,544b18(00):曠劫に輪迴し迷倒し。みつからまよひて解脱するに
0000_,09,544b19(00):よしなし。あふきて釋迦發遣して西方にむかはしめ
0000_,09,544b20(00):給ふことをかふふり。又彌陀の悲心まねきよばひ給
0000_,09,544b21(00):によりて。二尊の意に信順して。水火の二河をかへ
0000_,09,544b22(00):りみず。念念にわするる事なく。かの願力の道に乘
0000_,09,544b23(00):していのちをすてをはりてのち。かの國にむまるる
0000_,09,544b24(00):ことをえて。ほとけをみたてまつりて。慶喜する事
0000_,09,544b25(00):きはまりなからんにたとふる也。行者行住坐臥の三
0000_,09,544b26(00):業に修するところ。晝夜時節を問ことなくつねに此
0000_,09,544b27(00):解をなし。此想ひをなすを。廻向發願心といふ。又
0000_,09,544b28(00):廻向といふは。かの國にむまれをはりて。大悲をを
0000_,09,544b29(00):こして。生死にかへりいりて。衆生を敎化するを廻
0000_,09,544b30(00):向となづく。三心すてに具すれは。行として成ぜす
0000_,09,544b31(00):といふ事なし。願行すてに成して。もしむまれすと
0000_,09,544b32(00):いはは。此ことはりある事なけんと。已上善導の釋
0000_,09,544b33(00):の文なり
0000_,09,544b34(00):問。阿彌陀經の中には。一心不亂と候はこれ阿彌陀
0000_,09,545a01(00):佛を稱申さん時。餘事を少もおもひませ候まじきに
0000_,09,545a02(00):や。一聲念佛申さん程。物をおもひまぜさらん事は
0000_,09,545a03(00):やすく候へは。一念往生にはもるる人候はしと覺え
0000_,09,545a04(00):候又いのちのをはるを期として。餘念なからん事
0000_,09,545a05(00):は。凡夫のあるましきことなれは。往生すへき事とも
0000_,09,545a06(00):思はれず。此義いかか心え候へき
0000_,09,545a07(00):答。善導此事を釋しての給はく。ひとたび三心を具
0000_,09,545a08(00):足してのち。見だれやぶれやぶれざる事金剛のことく
0000_,09,545a09(00):にて。いのちをはるを期とするを。なづけて一心と
0000_,09,545a10(00):いふと候。阿彌陀佛の本願の文に。設我得佛十方衆
0000_,09,545a11(00):生至心信樂欲生我國乃至十念若不生者不取正覺とい
0000_,09,545a12(00):ふ。此文に至心といふは。觀經にあかすところの。
0000_,09,545a13(00):三心の中の至誠心にあたれり。信樂といふは。深心
0000_,09,545a14(00):にあたれり。欲生我國は。廻向發願心にあたれり。
0000_,09,545a15(00):これらをふさねて。命をはるを期としてみたれぬ
0000_,09,545a16(00):を。一心とは申す也。此心を具せんもの。もしは一
0000_,09,545a17(00):日二日。乃至十聲一聲。かならず往生する事をうと
0000_,09,545b18(00):いふ。いかてか凡夫の心に散亂なき事候べき。され
0000_,09,545b19(00):はこそ易行道とは申す事にて候へ。雙卷經の文には
0000_,09,545b20(00):橫截五惡趣。惡趣自然閇。昇道無窮極。易往而無人
0000_,09,545b21(00):とけり。まことにゆきやすきこと。是にすぎたる
0000_,09,545b22(00):や候へき。劫をつみてむまるといはは。いのちもみ
0000_,09,545b23(00):しかく。身も堪さらん人いかかとおもふへきに。本願
0000_,09,545b24(00):に乃至十念といひ。願成就の文に。乃至一念も彼佛
0000_,09,545b25(00):を念して。至心に廻向すれは。即かの國にむまるる
0000_,09,545b26(00):ことをうといふ。造惡のものむまれずといはは。觀
0000_,09,545b27(00):經の文に。五逆の罪人むまるととく。もし世もくだ
0000_,09,545b28(00):り人の心もをろかなる時は。信心うすくしてむまれ
0000_,09,545b29(00):かたしといはは。雙卷經の文に。當來之世經道滅盡
0000_,09,545b30(00):我以慈悲哀愍特留此經止住百歳其有衆生値斯
0000_,09,545b31(00):經者隨意所願可得度云云その時の衆生は。三寶
0000_,09,545b32(00):の名をたに聞ことなし。もろもろの聖敎は龍宮にか
0000_,09,545b33(00):くれて一卷もととまる物なし。たた邪惡無信のさか
0000_,09,545b34(00):りなる衆生のみありて。皆惡道に落ちぬへし。彌陀
0000_,09,546a01(00):の本願をもく。釋迦の大悲ふかきゆへに。此敎をと
0000_,09,546a02(00):とめ給へる事百年なり。いはんや此ころは。これ末
0000_,09,546a03(00):法の始也。萬年の後の衆生にをとらんや。かるか
0000_,09,546a04(00):ゆへに易往といふ。しかりといへとも。此敎にあふ
0000_,09,546a05(00):者はかたし。又をのつから聞といへとも。信するこ
0000_,09,546a06(00):とかたきかゆへにしかも無人といふ。まことにこと
0000_,09,546a07(00):はりなるへし。阿彌陀經に。もしは一日。もしは二
0000_,09,546a08(00):日乃至七日。名號を執持して一心不亂なれは。その
0000_,09,546a09(00):人命終の時に。阿彌陀佛もろもろの聖衆と現に其人
0000_,09,546a10(00):のまへにましまして。をはる時心顚倒せずして。阿彌
0000_,09,546a11(00):陀佛の極樂國土に往生する事をうといふ。此事をと
0000_,09,546a12(00):きたもふ時に。釋迦一佛の所説を信せさらんことを
0000_,09,546a13(00):をそれて。六方の如來同心同時に。各廣長の舌相を
0000_,09,546a14(00):いだして。あまねく三千大千世界におほひて。もし
0000_,09,546a15(00):この事虚言ならは。わか出すところの廣長の舌。や
0000_,09,546a16(00):ぶれだだれて口にいる事あらじとちかひ給ひき。經
0000_,09,546a17(00):文釋文あらは也。又大事を成じ給ひし時はみな證明
0000_,09,546b18(00):ありき。法花をとき給ひし時は。多寳一佛證明し。般
0000_,09,546b19(00):若をときたまひし時は。四方四佛證明し給ふ。しか
0000_,09,546b20(00):りといへとも一日七日の念佛のことく證誠のさかり
0000_,09,546b21(00):なる事はなし。ほとけも此事を實に大事におぼし召
0000_,09,546b22(00):たるにこそ候めれ
0000_,09,546b23(00):問。信心のやうはうけ給はりぬ。行の次第いかか候
0000_,09,546b24(00):へき
0000_,09,546b25(00):答。四修をこそは本とする事にて候へ。一には長時
0000_,09,546b26(00):修乃至四には無餘修也。一には長時修といふは。慈
0000_,09,546b27(00):恩の西方要决にいはく。初發心より此かた。菩提に
0000_,09,546b28(00):至るまて常に退轉なき也。善導は命のをはるを期と
0000_,09,546b29(00):して。誓て中止せざれといふ。二に恭敬修といは。極
0000_,09,546b30(00):樂の佛法僧寶にをいて。つねに憶念して尊重をなす
0000_,09,546b31(00):也。これ往生要集の意なり。又要决にいはく。恭敬
0000_,09,546b32(00):修これにつきて五あり。一には有縁の聖人をうやま
0000_,09,546b33(00):ふ。二には有縁の像敎をうやまふ。三には有縁の善
0000_,09,546b34(00):知識をうやまふ。四には同縁の伴をうやまふ。五に
0000_,09,547a01(00):は三寳をうやまふ。一に有縁の聖人をうやまふとい
0000_,09,547a02(00):ふは。行住坐臥に西方にそむかず。涕涶便痢に西方に
0000_,09,547a03(00):むかはざれといふ。二に有縁の像敎をうやまふとい
0000_,09,547a04(00):ふは。阿彌陀佛の像をつくりもかきもせよ。ひろく
0000_,09,547a05(00):する事あたはずは。一佛二菩薩をつくれ。又敎をう
0000_,09,547a06(00):やまふといふは。彌陀經等を五色のふくろにいれ
0000_,09,547a07(00):て。みづからもよみ。他にをしへてもよましめよ。
0000_,09,547a08(00):像と經とを室のうちに安置して。六時に禮讃し。香
0000_,09,547a09(00):花を供養すへし。三に有縁の善知識をうやまふとい
0000_,09,547a10(00):ふは。淨土の敎をのへんものをは。もしは千由旬よ
0000_,09,547a11(00):りこのかた。ならびに敬重し。親近供養すへし。別
0000_,09,547a12(00):學のものをも。總してうやまふ心ををこすへし。も
0000_,09,547a13(00):し憍慢をなさは。罪をうることきはまりなし。すす
0000_,09,547a14(00):みても衆生のために善知識と成て。かならす西方に
0000_,09,547a15(00):歸する事をもちひよ。この火宅に住せは。退沒あり
0000_,09,547a16(00):ていでかたきかゆへ也。火界の修道ははなはたかた
0000_,09,547a17(00):きゆへに。西方に歸せしむ。彌陀の淨國は造惡の地
0000_,09,547b18(00):なし。ひとたび往生をえつれは。三學自然に勝進し
0000_,09,547b19(00):て。万行ならひにそなはるかゆへ也。四に同縁のと
0000_,09,547b20(00):もをうやまふといふは。おなしき業を修するもの
0000_,09,547b21(00):也。みずからはさはりをもくして。獨業成せずと
0000_,09,547b22(00):いへとも。かならずよきともによりてまさによく行
0000_,09,547b23(00):をなす。あやうきをたすけ。あやうきをすくふ事。
0000_,09,547b24(00):同伴の善縁也。ふかくあひたのみてをもんすへし。
0000_,09,547b25(00):五に三寶をうやまふといふは。繪像木佛。三乘の敎
0000_,09,547b26(00):旨。聖僧菩薩。破戒のともからまて。うやまひををこ
0000_,09,547b27(00):し。慢を生する事なかれ。木のかたふきたるは。た
0000_,09,547b28(00):をるるにまがれるによるがことし。事のさはりあり
0000_,09,547b29(00):て西にむかふにをよはずは。たた西にむかふおもひ
0000_,09,547b30(00):をなすへし。三に無間修といふは。要决にいはく。つ
0000_,09,547b31(00):ねに念佛して往生の心をなせ。一切の時にをいて。
0000_,09,547b32(00):心につねに思ひたたむへし。たとへは若人他に抄掠
0000_,09,547b33(00):せられて。身下賤となりて艱辛をうく。たちまちに父
0000_,09,547b34(00):母をおもひて本國にはしり歸らんと思ふ。ゆくへき
0000_,09,548a01(00):はかりこといまたわきまへずして他郷にあり。日夜
0000_,09,548a02(00):に思惟するくるしみたへしのふへからず。時として
0000_,09,548a03(00):父母をおもはすといふことなし。はかりことすてに
0000_,09,548a04(00):なりて。すなはちかへり達する事をえて。父母に親
0000_,09,548a05(00):近し。ほしきままに歡娛するかことし。行者もまた
0000_,09,548a06(00):しか也。むかし煩惱によりて善心を壞亂して。福智
0000_,09,548a07(00):の珍財ならひにみな散失せり。ひさしく生死にしづ
0000_,09,548a08(00):みて。つねに魔王のやつことなりて。六道に駈馳せ
0000_,09,548a09(00):られてくるしみ身心をせむ。今善縁にあひて彌陀の
0000_,09,548a10(00):慈父をききて。日夜に發心して往生をねかふ。まさ
0000_,09,548a11(00):に佛恩を念して。報盡を期として。心につねに思ふ
0000_,09,548a12(00):へし。信心相續して餘業をましへざれ。四に無餘修
0000_,09,548a13(00):といふは。要决にいはく。もはら極樂をもとめて。
0000_,09,548a14(00):彌陀を禮念するなり。但諸餘の行業を雜起せざれ。
0000_,09,548a15(00):所作の業は日別に念佛すへし。善導のの給はく。も
0000_,09,548a16(00):はらかの佛の名號を念し。もはらかの佛をよひかの
0000_,09,548a17(00):土の一切の聖衆等をほめて餘業をましへざれ。專修
0000_,09,548b18(00):のものは。百はすなはち百なからむまれ。雜修のも
0000_,09,548b19(00):のは百か中にわつかに一二也。雜縁にちかづきぬれ
0000_,09,548b20(00):はみつからもさへ他の往生の正行をもさふる也。我
0000_,09,548b21(00):みづから諸方をみきくに。道俗の解行不同にして專
0000_,09,548b22(00):雜こと也。たた心をもはらになすは。十は即十なか
0000_,09,548b23(00):らむまる。雜修のものは千か中に一つもえずとい
0000_,09,548b24(00):ふ。又善導の御弟子釋しての給はく。西方淨土の業
0000_,09,548b25(00):を修せんとおもはんものは。四修おつる事なく。三
0000_,09,548b26(00):業まじはる事なくして。一切の諸願諸行を廢して。
0000_,09,548b27(00):たた西方の一行一願を修せよとこそ候へ
0000_,09,548b28(00):問。一切の善根は。魔王のためにさまたげらると。
0000_,09,548b29(00):是はいかがして對治し候へき
0000_,09,548b30(00):答。魔波旬といふ物は。衆生をたぶらかすものな
0000_,09,548b31(00):り。一切の行業は。自力をたのむゆへ也。念佛の行
0000_,09,548b32(00):者は。身をは罪惡生死の凡夫とおもへは。自力をた
0000_,09,548b33(00):のむ事なくして。唯彌陀の願力に乘して往生せんと
0000_,09,548b34(00):ねがふに。魔縁たよりをうる事なし。觀惠をこらす
0000_,09,549a01(00):人には。なを九境の魔事ありといふ。彌陀の一事に
0000_,09,549a02(00):はもとより魔事なし。果人淸淨なるかゆへにといへ
0000_,09,549a03(00):り。佛をたぶらかす魔縁なけれは。念佛のものをは
0000_,09,549a04(00):さまたぐへからす。他力をたのむによるかゆへ也。
0000_,09,549a05(00):百丈の石を船にをきつれは。万里の大海をすくるか
0000_,09,549a06(00):ことし。又念佛の行者のまへには。彌陀觀音等つね
0000_,09,549a07(00):にきたり。二十五の菩薩百重千重に圍繞護念し給へ
0000_,09,549a08(00):は。魔縁たよりをうへからす
0000_,09,549a09(00):問。阿彌陀佛を念するに。いかはかりのつみをか滅
0000_,09,549a10(00):し候
0000_,09,549a11(00):答。一念によく八十億劫の生死の罪を滅すといひ。
0000_,09,549a12(00):又但聞佛名二菩薩名除無量劫生死之罪なと申候
0000_,09,549a13(00):そかし
0000_,09,549a14(00):問。念佛と申候は佛の色相を念し候か
0000_,09,549a15(00):答。佛の色相光明を念するは觀佛三昧なり。報身を
0000_,09,549a16(00):念じ。同躰の佛性を觀するは。智あさく。心せはき
0000_,09,549a17(00):我等が境界にあらす。善導の給はく。相を觀せずし
0000_,09,549b18(00):て。たた名字を稱ぜよ。衆生さはりをもくして。觀成
0000_,09,549b19(00):する事かたし。此ゆへに大聖あはれみをたれて稱名
0000_,09,549b20(00):をもはらにすすめ給へり。心かすかにしてたましゐ
0000_,09,549b21(00):十方にとびちるかゆへ也といへり。又本願の文を善
0000_,09,549b22(00):導釋しての給はく。若我成佛十方衆生願生我國
0000_,09,549b23(00):稱我名號下至十聲乘我願力若不生者不取
0000_,09,549b24(00):正覺彼佛今現在世成佛當知本誓重願不虚衆生稱
0000_,09,549b25(00):念必得往生とおほせられて候。とくとく安樂淨土
0000_,09,549b26(00):に。往生せさせおはしまして。彌陀觀音を師として。
0000_,09,549b27(00):法花の眞如實相平等の妙理。般若の第一義空。眞言
0000_,09,549b28(00):の即身成佛。一切の聖敎。心のままにさとらせおは
0000_,09,549b29(00):しますへし云云
0000_,09,549b30(00):
0000_,09,549b31(00):大胡太郞實秀へつかはす御返事
0000_,09,549b32(00):さきの便にはさしあふ事候て。御返事こまかに申さ
0000_,09,549b33(00):す候ひき。さためて不審におほし召候らんと思給
0000_,09,549b34(00):候。さてはたつねおほせられ候し事とも。御文なと
0000_,09,550a01(00):にては。たやすく申ひらきがたき事にて候。あはれ
0000_,09,550a02(00):京に久しく御逗留候し時。こまかに御沙汰候はまし
0000_,09,550a03(00):かは。よく候ひなまし。大方は念佛して往生すと申
0000_,09,550a04(00):事ばかり。わつかに見およひ候。我心一つにふかく
0000_,09,550a05(00):信したるはかりにてこそ候へ。人まてつまびらか
0000_,09,550a06(00):に申きかせなとする程の身にて候はねは。まして立
0000_,09,550a07(00):いりたる事共の。不審なと。御文にて申ひらくへし
0000_,09,550a08(00):ともおほへ候はねとも。わづかにみをよび候程の事
0000_,09,550a09(00):を。はばかりまいらせて。ともかくも御返事申候は
0000_,09,550a10(00):さらんことの。をそれにて候へは。心のをよぶ程
0000_,09,550a11(00):は。かたのごとく申候はんと存候也。まづ三心具足
0000_,09,550a12(00):して往生すと申候事は。實にその名目はかりをうち
0000_,09,550a13(00):きく時には。いかなる心を申やらんと。事事しく
0000_,09,550a14(00):おほえ候ひぬへけれとも。善導の御意にては。心え
0000_,09,550a15(00):やすきことにて候也。かならすならひ沙汰せざらん
0000_,09,550a16(00):無智の人。さとりなからん女人などの。え具せぬほ
0000_,09,550a17(00):との心はえにては候はぬ也。たたまめやかに往生せ
0000_,09,550b18(00):んと思ひて。念佛申さん人は。自然に具足しぬへき
0000_,09,550b19(00):心にて候物を。其ゆへは。三心と申すは。觀無量壽
0000_,09,550b20(00):經にとかれて候やうは。もし衆生ありて。かの國に
0000_,09,550b21(00):むまれんとねかはんものは。三種の心ををこして。
0000_,09,550b22(00):すなはち往生すへし。何等をか三とする。一には至
0000_,09,550b23(00):誠心。二には深心。三には廻向發願心也。この三心
0000_,09,550b24(00):を具するものは。かならすかのくににむまるととか
0000_,09,550b25(00):れたり。しかるに善導和尚の御意によらは。はしめ
0000_,09,550b26(00):に至誠心といふは。眞寶の心也。眞實といふは。い
0000_,09,550b27(00):はく。内はむなしくして。外をかさる心のなきを申
0000_,09,550b28(00):也。すなはち觀經疏に釋していはく。外には賢善精
0000_,09,550b29(00):進の相を現し。内には虚假をいだく事をえされとい
0000_,09,550b30(00):へり。この釋の心は。内はをろかにして。外にはかし
0000_,09,550b31(00):こき人とおもはれんとふるまひ。内には惡をもつく
0000_,09,550b32(00):り。外には善人のよしをしめし。内には懈怠の心を
0000_,09,550b33(00):懷きて。外には精進の相を現するを眞實ならぬ心と
0000_,09,550b34(00):は申也。外も内もありのままにて。かざる心のなき
0000_,09,551a01(00):を。至誠心となづくるにてこそ候めれ
0000_,09,551a02(00):二に深心といふは。すなはちこれ深く信する心也。
0000_,09,551a03(00):何事をふかく信するぞといふに。まづもろもろの煩
0000_,09,551a04(00):惱を具足し。おほくのつみをつくりて。餘の善根な
0000_,09,551a05(00):となからん凡夫。阿彌陀佛の大悲本願をあふきて。
0000_,09,551a06(00):その佛の大悲の名號をとなへて。もしは百年にても
0000_,09,551a07(00):もしは四五十年にても。もしは十二十年にても。乃至
0000_,09,551a08(00):一二年にてもあれ。すべて往生せんとおもひはじめ
0000_,09,551a09(00):たらん時よりして。最後臨終の時にいたるまて懈怠
0000_,09,551a10(00):せず。もしは七日一日。十聲一聲にても。をほくもす
0000_,09,551a11(00):くなくも。稱名念佛の人は。决定して往生すへしと
0000_,09,551a12(00):信して。乃至一念もうたがふ心なきを深心とは申
0000_,09,551a13(00):也。しかるにもろもろの往生をねがふ人。本願の名
0000_,09,551a14(00):號をたもちながら。なを内に妄念のをこるををそれ。
0000_,09,551a15(00):外に餘善のすくなきによりても。ひとへにわか身を
0000_,09,551a16(00):かろしめて。往生を不定におもはば。すてに本願を
0000_,09,551a17(00):うたがふなり。されは善導は。はるかに未來の行者
0000_,09,551b18(00):の。此うたかひをのこさん事をかがみて。其疑心を
0000_,09,551b19(00):のぞきて。决定の心をすすめむがために。煩惱を具足
0000_,09,551b20(00):して。罪業をつくり。善根すくなく智解なからん
0000_,09,551b21(00):凡夫。十聲一聲まての念佛によりて。决定して往生
0000_,09,551b22(00):すへきことはりを。くはしく釋しをしへ給へる也。
0000_,09,551b23(00):たとひおほくの佛。空の中に充滿して。光をはなち。
0000_,09,551b24(00):舌をのべて。造罪の凡夫。念佛して往生すといふ事
0000_,09,551b25(00):はひが事なり。信ずへからずとの給ふとも。それに
0000_,09,551b26(00):よりて。一念もおどろきうたがふ心あるへからす。
0000_,09,551b27(00):そのゆへは。阿彌陀ほとけ。いまた佛になり給はさ
0000_,09,551b28(00):りしむかし。もし我佛になりたらん時。十方の衆生。
0000_,09,551b29(00):わか名號を十たひとなへ。一こゑもとなへむ。とな
0000_,09,551b30(00):ふることかみ百年より。しも十聲一聲までも。もし
0000_,09,551b31(00):わか國にむまれずといはば。われ佛にならしとちか
0000_,09,551b32(00):ひ給ひたりしに。その願むなしからずして。佛にな
0000_,09,551b33(00):りて。すてに久しくなり給へり。知るへしかの名號
0000_,09,551b34(00):をとなへむ人は。かならず往生すへしといふ事を。
0000_,09,552a01(00):又釋迦佛。此娑婆世界にいで給ひて。一切衆生のた
0000_,09,552a02(00):めに。かの彌陀の本願をときて。念佛往生をすすめ
0000_,09,552a03(00):給へり。又六方恒沙の諸佛。をのをの廣長の舌をい
0000_,09,552a04(00):だして。釋迦の念佛して往生すととき給ふは决定也。
0000_,09,552a05(00):もろもろの衆生。ふかく信じてすこしもうたがふ心
0000_,09,552a06(00):あるへからずと。爾許の佛たちの。一佛ものこらす。
0000_,09,552a07(00):一味同心に證誠し給へり。すでに阿彌陀ほとけは。
0000_,09,552a08(00):その願をたて給ふ。釋迦ほとけは。その願のむなし
0000_,09,552a09(00):からざる事をときすすめ給ふ。六方恒沙の諸佛は。
0000_,09,552a10(00):その説の眞實なる事を證誠し給へり。このほかに又
0000_,09,552a11(00):いづれの佛の。これらの諸佛にたかひて。凡夫念佛
0000_,09,552a12(00):して往生せずとはの給ふへきぞといふことはりをも
0000_,09,552a13(00):て。おほくのほとけ現しての給ふとも。それにおど
0000_,09,552a14(00):ろきて。さては念佛往生かなふましきかと。信心をや
0000_,09,552a15(00):ぶり。疑心ををこすへからす。いはんや菩薩たちのの
0000_,09,552a16(00):給はんをや。いはんや羅漢辟支等をやと釋し給ひ
0000_,09,552a17(00):て候也。いかにいはんや近來の凡夫のいひさまたけ
0000_,09,552b18(00):んをや。いかにめてたき人と申すとも。善導和尚に
0000_,09,552b19(00):まさりたてまつりて。往生の道をしりたらんことも
0000_,09,552b20(00):ありがたく候。又善導はただの凡夫にはあらす。即
0000_,09,552b21(00):阿彌陀佛の化身也。かの佛我本願をひろめて。あま
0000_,09,552b22(00):ねく一切衆生にしらしめて。决定して往生せさせん
0000_,09,552b23(00):料に。かりに凡夫の人とむまれて。善導和尚といは
0000_,09,552b24(00):れ給ふ也。いはばその敎は。佛説にてこそ候へ。い
0000_,09,552b25(00):かにいはんや垂迹のかたにても。現身に念佛三昩を
0000_,09,552b26(00):えて。まのあたり淨土の莊嚴を見。佛にむかひたて
0000_,09,552b27(00):まつりて。ただちに佛のをしへをうけたまはりて。
0000_,09,552b28(00):の給へる詞とも也。本地をおもふにも。垂迹をたずぬ
0000_,09,552b29(00):るにも。かたくあふひて信すへし。されはたれもたれも
0000_,09,552b30(00):煩惱のこきうすきをかへりみず。罪障のかろきおも
0000_,09,552b31(00):きをも沙汰せず。たた口に南無阿彌陀佛ととなへむ
0000_,09,552b32(00):こゑにつきて。决定往生のおもひをなすへし。その
0000_,09,552b33(00):决定の心をやがて深心とはなづくる也。その深心を
0000_,09,552b34(00):具しぬれは。决定して往生する也。詮するところは。
0000_,09,553a01(00):とにもかくにも念佛して往生すといふ事を。ふかく
0000_,09,553a02(00):信じてうたがはぬを。深心とはなづけて候なり。
0000_,09,553a03(00):三に廻向發願心といふは。是亦別の心には候はす。
0000_,09,553a04(00):わか所修の行業を。一向に極樂に廻向して。往生を
0000_,09,553a05(00):ねがふ心也。かくのごときの三心を具して。かなら
0000_,09,553a06(00):す往生すへし。此心一つもかけぬれは。往生せずと
0000_,09,553a07(00):善導は釋し給へる也。たとひ眞實の心ありてうへを
0000_,09,553a08(00):かざらすとも。佛の本願をうたがはは。すでに深心
0000_,09,553a09(00):かけたる念佛也。たとひ疑心なくとも。外をかざり
0000_,09,553a10(00):て内に實の心なくは。至誠心かけたる人なるへし。
0000_,09,553a11(00):たとひこの二心を具して。かざる心も疑心もなくと
0000_,09,553a12(00):も。極樂にむまれむとおもふ心なくは。廻向發願心
0000_,09,553a13(00):かけぬへし。三心を意えわかつ時には。かくのことく
0000_,09,553a14(00):別別なる樣なれとも。詮ずるところは。眞實の心を
0000_,09,553a15(00):をこして。ふかく本願を信じて。往生をねがふ心を。
0000_,09,553a16(00):三心具足の心とは申也。誠に是ほどの心たにも具足
0000_,09,553a17(00):せすしては。いかか往生ほどの大事をばとげ給ふへ
0000_,09,553b18(00):きや。此心は。申せば又やすき事にて候也。これを
0000_,09,553b19(00):かやうに意えしらねばとて。又え具足せぬ心にては
0000_,09,553b20(00):候はぬ也。その名をだにもしらぬものも。この心を
0000_,09,553b21(00):はそなへつへく候。又よくよくしりたらん人の中に
0000_,09,553b22(00):も。そのままに具せぬも候ひぬへき心はへにて候
0000_,09,553b23(00):也。されはこそいふに甲斐なき人數ならぬものども
0000_,09,553b24(00):の中よりも。たたひらに念佛申すはかりにて。往生
0000_,09,553b25(00):したりといふ事は。むかしより申つたへたる事にて
0000_,09,553b26(00):候へ。それらはみなしらねとも三心を具したる人に
0000_,09,553b27(00):てありけりと意えらるる事にて候也。又年ころ念佛
0000_,09,553b28(00):申たる人の。臨終のわろき事の候は。さきに申つる
0000_,09,553b29(00):やうに。うへばかりをかざりて。たうとき念佛者と人
0000_,09,553b30(00):にいはれんとのみ思ひて。下にはふかく本願をも信
0000_,09,553b31(00):ぜす。まめやかに往生をもねがはぬ人にてこそは候
0000_,09,553b32(00):らめと意えられ候也。されは此三心を具せざるゆへ
0000_,09,553b33(00):に。臨終もわろく。往生もせぬ事にて候也としろし
0000_,09,553b34(00):めすへき也。かく申候へは。さては往生は大事の事
0000_,09,554a01(00):にこそとおぼしめす事ゆめゆめ候まじき也。一定往
0000_,09,554a02(00):生すへしと思ひとらぬ心を。やがて深心かけて往生
0000_,09,554a03(00):せぬ心とは申候へば。いよいよ一定の往生とこそお
0000_,09,554a04(00):ぼしめすへき事にて候へ。まめやかに往生の心ざし
0000_,09,554a05(00):ありて。彌陀の本願をうたがはすして念佛を申さん
0000_,09,554a06(00):人は。臨終のわろき事は大方は候ましき也。そのゆへ
0000_,09,554a07(00):は。佛の來迎し給ふ事は。もとより行者の臨終正念
0000_,09,554a08(00):のためにて候也。それを意えぬ人は。みなわが臨終
0000_,09,554a09(00):正念にて念佛申たらむ時に佛はむかへ給ふへき也と
0000_,09,554a10(00):のみ意えて候は。佛の願をも信ぜす。經の文をも意え
0000_,09,554a11(00):ぬ人にて候也。そのゆへは。稱讃淨土經にいはく。佛
0000_,09,554a12(00):慈悲をもて加へ祐けて。心をしてみだらしめ給はず
0000_,09,554a13(00):ととかれて候へは。ただの時によくよく申をきたる
0000_,09,554a14(00):念佛によりて。臨終にかならす佛は來迎し給ふへし。
0000_,09,554a15(00):佛の來迎し給ふを見たてまつりて。行者正念に住す
0000_,09,554a16(00):と申す義にて候也。しかるに。さきの念佛をむなし
0000_,09,554a17(00):く思ひなして。よしなく臨終正念をのみいのる人な
0000_,09,554b18(00):との候は。ゆゆしき僻胤にいりたる事にて候也。さ
0000_,09,554b19(00):れはほとけの本願を信ぜん人は。かねて臨終をうた
0000_,09,554b20(00):がふ心あるべからすとこそおほえ候へ。たた當時申
0000_,09,554b21(00):さん念佛をは。いよいよ至心に申へきにて候。いつ
0000_,09,554b22(00):かは佛の本願にも。臨終の時念佛申たらむ人をのみ
0000_,09,554b23(00):迎へんとはたて給ひて候。臨終の念佛にて往生すと
0000_,09,554b24(00):申事は。日比往生をもねがはす。念佛をも申さすし
0000_,09,554b25(00):て。ひとへにつみをのみつくりたる惡人の。すでに
0000_,09,554b26(00):死なんとする時に。はしめて善知識のすすめにあひ
0000_,09,554b27(00):て。念佛して往生すとこそ。觀經にもとかれて候へ。
0000_,09,554b28(00):もとよりの行者は。臨終の沙汰をは。あながちにす
0000_,09,554b29(00):べき樣は候はぬ也。佛の來迎一定ならは。臨終の正
0000_,09,554b30(00):念も亦一定とおほしめすへき也。此大意をもて。よ
0000_,09,554b31(00):くよく御心をととめて。意えさせ給ふへく候。又罪
0000_,09,554b32(00):をつくりたる人たにも。念佛して往生す。まして法
0000_,09,554b33(00):花經なとうちよみて。念佛申さんは。何かはくるし
0000_,09,554b34(00):かるへきと人人の申候らん事は。京邊にもさやう
0000_,09,555a01(00):に申候人人おほく候へは。まことにさぞ候らん。
0000_,09,555a02(00):それは餘宗の意にてこそ候らめ。よしあしをさだめ
0000_,09,555a03(00):申べきに候はす。僻事と申さは。をそれあるかたお
0000_,09,555a04(00):ほく候。たたし淨土宗の意。善導の御釋には。往生
0000_,09,555a05(00):の行に大にわかちて二つとす。一には正行。二には
0000_,09,555a06(00):雜行也。はしめに正行といふは。是にあまたの行あ
0000_,09,555a07(00):り。はしめに讀誦正行といふは。これは無量壽經。
0000_,09,555a08(00):觀經。阿彌陀經等の三部經を讀誦する也。次に觀察
0000_,09,555a09(00):正行といふは。これはかの國の依正二報のありさま
0000_,09,555a10(00):を觀する也。次に禮拜正行といふは。これは阿彌陀
0000_,09,555a11(00):ほとけを禮拜する也。次に稱名正行といふは。南無
0000_,09,555a12(00):阿彌陀佛ととなふる也。次に讃嘆供養正行といふ
0000_,09,555a13(00):は。これは阿彌陀佛を讃嘆したてまつる也。これを
0000_,09,555a14(00):さして五種の正行となづく。讃嘆と供養とを二つの
0000_,09,555a15(00):行とする時は。六種の正行とも申也。此正行に付てふ
0000_,09,555a16(00):さねて二つとす。一には一心にもはら彌陀の名號を
0000_,09,555a17(00):となへたてまつりて。立居起臥。晝夜に忘るること
0000_,09,555b18(00):なく。念念にすてざる者を。これを正定の業となづ
0000_,09,555b19(00):く。かの佛の本願に順するがゆへにと申て。念佛を
0000_,09,555b20(00):もてまさしくさだめたる往生の業と立て候。もし禮
0000_,09,555b21(00):誦等によるをは。なづけて助業とすと申て。念佛の
0000_,09,555b22(00):ほかの禮拜讀誦讃嘆供養なとをは。かの念佛をたす
0000_,09,555b23(00):くる業と申て候也。さてこの正定業と。助業とをの
0000_,09,555b24(00):ぞきて。そのほかのもろもろの業をは。みな雜行と
0000_,09,555b25(00):なづく。布施持戒忍辱精進等の六度万行も。法花經
0000_,09,555b26(00):をもよみ。眞言をもをこなひ。かくのことくのもろもろ
0000_,09,555b27(00):の行をは。みなことことく雜行となづく。さきの
0000_,09,555b28(00):正行を修するをは。專修の行者といひ。のちの雜行
0000_,09,555b29(00):を修するをは。雜修の行者と申候也。この二行の得
0000_,09,555b30(00):失を判するに。さきの正行を修するには。心つねに
0000_,09,555b31(00):かの國に親近して。憶念ひまなく。のちの雜行を行
0000_,09,555b32(00):するには。心つねに間斷す。廻向してむまるる事を
0000_,09,555b33(00):うへしといへとも。すべて疎雜の行となづくといひ
0000_,09,555b34(00):て。極樂にうとき行といへり。又專修のものは。十
0000_,09,556a01(00):人は十人ながらむまれ。百人は百人ながらむまる。
0000_,09,556a02(00):何をもてのゆへに。外の雜縁なくして。正念をうる
0000_,09,556a03(00):かゆへに。彌陀の本願とあひ應ふかゆへに。釋迦の
0000_,09,556a04(00):をしへにたがはさるかゆへに。雜行のものは。百人か
0000_,09,556a05(00):中に一二人むまれ。千人か中に四五人むまる。何を
0000_,09,556a06(00):もてのゆへに雜縁亂動して正念をうしなふがゆへ
0000_,09,556a07(00):に。彌陀の本願と相應せさるかゆへに。釋迦のをし
0000_,09,556a08(00):へと相違するがゆへに。諸佛の語にしたがはざるか
0000_,09,556a09(00):ゆへに。係念相續せざるかゆへに。憶念間斷するか
0000_,09,556a10(00):ゆへに。みづからも往生の業をさへ他の往生をもさ
0000_,09,556a11(00):ふるがゆへになと釋せられて候めれは。善導和尚を
0000_,09,556a12(00):ふかく信じて。淨土宗にいらん人は。一向に正行を
0000_,09,556a13(00):修すへしと申す事にてこそ候へ。そのうへは善導の
0000_,09,556a14(00):をしへをそむきて餘行をくはへんと思はん人は。を
0000_,09,556a15(00):のをのならひたる樣ともこそ候らめ。それをよしあ
0000_,09,556a16(00):しとはいかか申候へき。善導のすすめ給へる行ども
0000_,09,556a17(00):ををきて。すすめ給はぬ行をすこしにてもくはふへ
0000_,09,556b18(00):き樣なしと申ことにてこそ候へ。すすめ給へる正行ば
0000_,09,556b19(00):かりだにもなを物うき身にて。いまたすすめ給はぬ
0000_,09,556b20(00):雜行を加へんことは。まことしからぬかたも候ぞかし。
0000_,09,556b21(00):又つみをつくる人だにも念佛して往生す。まして善
0000_,09,556b22(00):なれは法花經なとをよまんは。何かくるしからんな
0000_,09,556b23(00):と申候らんこそ。無下にきたなくおほし候へ。往生を
0000_,09,556b24(00):たすけばこそいみじくも候はめ。さまたげにならぬ
0000_,09,556b25(00):ばかりを。いみじきこととてくはへをこなはんこと
0000_,09,556b26(00):は。なにかは詮にて候へき。されは惡をは佛の心に
0000_,09,556b27(00):つくれとやすすめさせ給ふ。かまへてとどめよとこ
0000_,09,556b28(00):そいましめ給へとも。凡夫のならひ當時のまよひに
0000_,09,556b29(00):ひかれて。惡をつくるは力をよはぬ事にてこそ候へ
0000_,09,556b30(00):まことに惡をつくる人の樣に。しかるへくて經もよ
0000_,09,556b31(00):見たく。餘行もくはへたからんことはちからをよは
0000_,09,556b32(00):す。但法花經なとをよまんことを。一言葉なりとも
0000_,09,556b33(00):惡をつくらんことにいひならべて。それもくるしか
0000_,09,556b34(00):らねは。まして是はなと申すらんことこそ不便の事
0000_,09,557a01(00):にて候へ。ふかき御のりもあしく意うる人にあひぬ
0000_,09,557a02(00):れは。かへりてものならすきこへ候ことこそ。あさ
0000_,09,557a03(00):ましくおほえ候へ。これをかやうに申候へは。餘行
0000_,09,557a04(00):の人ひとははらをたつことにて候へは。御心一つに
0000_,09,557a05(00):意得て。ひろくちらさせ給ましく候。あらぬさとり
0000_,09,557a06(00):の人のともかくも申候はん事をは。耳にききいれさ
0000_,09,557a07(00):せ給はで。ただ一筋に善導の御すすめにしたがひて。
0000_,09,557a08(00):いますこしも。一定往生する念佛の數遍を申そへん
0000_,09,557a09(00):とおほしめすへき事にて候也。餘行はたとひ往生の
0000_,09,557a10(00):さはりとこそならずとも。不定の往生とはきこえて
0000_,09,557a11(00):候めれは。一定往生の正行を修すべきにて候なり。
0000_,09,557a12(00):正行のいとまを餘行にいれて。不定の往生の業をく
0000_,09,557a13(00):はへん事は。且は損にては候はすや。よくよく意え
0000_,09,557a14(00):させ給ふへきことにて候也。たたしかく申候へは。
0000_,09,557a15(00):雜行をくわへん人は。ながく往生すまじなと申事に
0000_,09,557a16(00):ては候はす。いかさまにも餘行の人なりとも。すべて
0000_,09,557a17(00):人をくだし人をそしる事は。ゆゆしきとがおもき事
0000_,09,557b18(00):にて候也。よくよく御つつしみ候て。雜行の人なれ
0000_,09,557b19(00):はとて。あなつる御心候ましく候也。よかれあしか
0000_,09,557b20(00):れ。人のうへのよしあしをは。おもひいれぬがよき
0000_,09,557b21(00):事にて候也。又心ざし本より此門にありて進みぬへ
0000_,09,557b22(00):からんをは。こしらへすすめさせ給ふへく候。さと
0000_,09,557b23(00):りたがひてあらぬさまならん人なとに。論じあはせ
0000_,09,557b24(00):給ふ事はあるましき事にて候。よくよくならひしり
0000_,09,557b25(00):給ひたる聖たりだにも。さやうの事をはつつしみて
0000_,09,557b26(00):おはしましあひて候そ。まして殿原なとの御身にて
0000_,09,557b27(00):は。一定僻事にて候はんするに候。唯御身一つにま
0000_,09,557b28(00):つよくよく往生をねがひて。念佛をはげませ給ひて。
0000_,09,557b29(00):位たかき往生をとげて。いそき娑婆に還りて人をは
0000_,09,557b30(00):みちびかせ給へ。かやうにくはしくかきつけて申候
0000_,09,557b31(00):事も。返返はばかりおもふ事にて候也。あなかしこ
0000_,09,557b32(00):御披露候まじく候。あなかしこあなかしこ
0000_,09,557b33(00):三月十四日 源空
0000_,09,557b34(00):黑谷上人語證錄卷第十三
0000_,09,558a01(00):黑谷上人語燈錄卷第十四
0000_,09,558a02(00):
0000_,09,558a03(00):厭欣沙門了惠集錄
0000_,09,558a04(00):
0000_,09,558a05(00):和語第二之四當卷有九章
0000_,09,558a06(00):大胡太郞の妻室へつかはす御返事第十三
0000_,09,558a07(00):熊谷の入道へつかはす御返事第十四
0000_,09,558a08(00):津戸三郞へつかはす御返事第十五
0000_,09,558a09(00):黑田の聖へつかはす御返事第十六
0000_,09,558a10(00):越中の光明房へつかはす御返事第十七
0000_,09,558a11(00):正如房へつかはす御文第十八
0000_,09,558a12(00):禪勝房にしめす御詞第十九
0000_,09,558a13(00):十二問答第二十
0000_,09,558a14(00):十二箇條問答第二十一
0000_,09,558a15(00):太胡の太郞實秀か妻室のもとへつかはす御返事
0000_,09,558a16(00):御文こまかにうけ給はり候ぬ。まづはるかなる程に。
0000_,09,558a17(00):念佛の事きこしめさんがために。わさと御つかひ上
0000_,09,558a18(00):せさせ給ひて候。念佛の御心さしの程返かえすあはれ
0000_,09,558b19(00):に候。さてたづねおほせられて候念佛の事は。往生極
0000_,09,558b20(00):樂のためには。いづれの行なりといへとも。念佛に
0000_,09,558b21(00):すぎたる事は候はぬ也。そのゆへは。念佛はこれ彌
0000_,09,558b22(00):陀の本願の行なるかゆへ也。本願といふは。阿彌陀
0000_,09,558b23(00):ほとけいまたほとけになり給はざりしむかし。法藏
0000_,09,558b24(00):菩薩と申ししいにしへ。ほとけの國土をきよめ衆生
0000_,09,558b25(00):を成就せむがために。世自在王如來と申ししほとけ
0000_,09,558b26(00):の御まへにして。四十八の大願ををこし給ひしその
0000_,09,558b27(00):中に。一切衆生の往生のために一つの願ををこし給
0000_,09,558b28(00):へる。これを念佛往生の本願と申也。すなはち無量
0000_,09,558b29(00):壽經の上卷にいはく。設我得佛十方衆生至心信樂欲
0000_,09,558b30(00):生我國乃至十念若不生者不取正覺已上善導和
0000_,09,558b31(00):尚此願を釋しての給はく。若我成佛十方衆生稱我名
0000_,09,558b32(00):號下至十聲若不生者不取正覺彼佛今現在世
0000_,09,558b33(00):成佛當知本誓重願不虚衆生稱念必得往生已上念佛
0000_,09,558b34(00):といふは。佛の法身を憶念するにもあらず。佛の相
0000_,09,558b35(00):好を觀念するにもあらす。ただ一心にもはら阿彌陀
0000_,09,559a01(00):ほとけの名號を稱念する。これを念佛とは申也。か
0000_,09,559a02(00):るかゆへに稱我名號とはいふ也。念佛の外の一切の
0000_,09,559a03(00):行は。これ彌陀の本願にあらざるかゆへに。たとひ
0000_,09,559a04(00):めてたき行なりといへとも。念佛にはをよはさる也。
0000_,09,559a05(00):おほかたそのくににむまれんとおもはんものは。そ
0000_,09,559a06(00):のほとけのちかひにしたがふへき也。されは彌陀の
0000_,09,559a07(00):淨土にむまれんとおもはんものは。彌陀の誓願にし
0000_,09,559a08(00):たがふへき也。本願の念佛と。本願にあらざる餘行
0000_,09,559a09(00):とさらにたくらふへからす。かるかゆへに往生極樂
0000_,09,559a10(00):のためには。念佛の行にすぎたる事は候はぬ也と申
0000_,09,559a11(00):す也。往生にあらざる道には。餘行又をのをのつか
0000_,09,559a12(00):さどるかたあり。しかるに衆生の生死をはなるるみ
0000_,09,559a13(00):ち。ほとけのをしへさまさまにおほく候へとも。こ
0000_,09,559a14(00):のころの人の三界を出て生死をはなるるみちは。た
0000_,09,559a15(00):だ極樂に往生し候ばかり也このむね聖敎のおほきな
0000_,09,559a16(00):ることはり也。次に極樂に往生するに。その行さま
0000_,09,559a17(00):さまにおほく候へとも。われらか往生せん事念佛に
0000_,09,559b18(00):あらずはかなひかたく候也。そのゆへは念佛はこれ
0000_,09,559b19(00):佛の本願なるかゆへに。願力にすがりて往生する事
0000_,09,559b20(00):はやすし。されば詮するところは。極樂にあらずは
0000_,09,559b21(00):生死をはなるへからす。念佛にあらすは極樂へむま
0000_,09,559b22(00):るへからさる者也。ふかくこのむねを信ぜさせ給ひ
0000_,09,559b23(00):て。一すぢに極樂をねがひ。一すぢに念佛して。こ
0000_,09,559b24(00):のたびかならず生死をはなれんとおほしめすへき
0000_,09,559b25(00):也。又一一の願のをはりに。若不爾者不取正覺とち
0000_,09,559b26(00):かひ給へり。しかるに阿彌陀佛ほとけになり給ひて
0000_,09,559b27(00):よりこのかた。すでに十劫をへ給へり。まさにしる
0000_,09,559b28(00):へし誓願むなしからず。みなことことく成就し給へ
0000_,09,559b29(00):ることを。其中に念佛往生の願ひとりむなしかるへ
0000_,09,559b30(00):からす。しかれは衆生稱念するもの一人もむなしか
0000_,09,559b31(00):らす。みなかならす往生する事をう。もししからず
0000_,09,559b32(00):ばたれかほとけになり給へる事を信すへきや。三寶
0000_,09,559b33(00):滅盡の時なりといへとも。一念すれはなを往生す。
0000_,09,559b34(00):五逆重罪の人なりといへとも。十念すれば又往生す。
0000_,09,560a01(00):いかにいはんや三寶の世に生れて。五逆をつくらざ
0000_,09,560a02(00):るわれら彌陀の名號をとなへんに。往生うたがふへ
0000_,09,560a03(00):からず。いまこの願にあへる事は。まことにこれお
0000_,09,560a04(00):ぼろけの縁にあらず。よくよくよろこびおほしめす
0000_,09,560a05(00):へし。たとひ又あふといふとも。もし信ぜすはあは
0000_,09,560a06(00):ざるがことし。いまふかくこの願を信せさせ給へり。
0000_,09,560a07(00):往生疑おほしめすへからす。必かならずふた心なく。よ
0000_,09,560a08(00):くよく御念佛候ひて。このたひ生死をはなれ。極樂
0000_,09,560a09(00):にむまれさせ給ふへし。又觀無量壽經にいはく。一一
0000_,09,560a10(00):光明遍照十方世界念佛衆生攝取不捨已上これは彌
0000_,09,560a11(00):陀の光明ただ念佛の衆生をてらして。餘の一切の行
0000_,09,560a12(00):人をは照さずといふ也。但餘の行を行しても極樂を
0000_,09,560a13(00):ねがはば。ほとけのひかりてらして攝取し給ふへし。
0000_,09,560a14(00):なんぞただ念佛のものはかりをえらひててらし給ふ
0000_,09,560a15(00):やとならは。善導和尚釋しての給はく。彌陀身色如
0000_,09,560a16(00):金山相好光明照十方唯有念佛蒙光攝當知本
0000_,09,560a17(00):願最爲強已上念佛はこれ彌陀本願の行なるがゆへに。
0000_,09,560b18(00):成佛の光明かへりて本地の誓願をてらし給ふ也。餘
0000_,09,560b19(00):行はこれ本願にあらざるがゆへに。彌陀の光明きら
0000_,09,560b20(00):ひててらし給はさる也。いま極樂をもとめん人は。
0000_,09,560b21(00):本願の念佛を行して。攝取のひかりにてらされんと
0000_,09,560b22(00):おほしめすへし。これにつけても念佛の大切に候。
0000_,09,560b23(00):よくよく申させ給ふへし。又釋迦如來この經の中に。
0000_,09,560b24(00):定散のもろもろの行をときをはりて後に。まさしく
0000_,09,560b25(00):阿難に付囑し給時に。上にとくところの定善の十三
0000_,09,560b26(00):觀。散善の萬行をは付囑せすして。只念佛の一行を
0000_,09,560b27(00):付囑し給へり。經に云。佛告阿難汝好持是語持
0000_,09,560b28(00):是語者即是持無量壽佛名已上善導和尚この文を釋
0000_,09,560b29(00):しての給はく。從佛告阿難汝好持是語已下正明付
0000_,09,560b30(00):囑彌陀名號流通於遐代上來雖説定散兩門之益
0000_,09,560b31(00):望佛本願意在衆生一向專稱彌陀佛名已上これは
0000_,09,560b32(00):定散のもろもろの行は。彌陀の本願にあらず。故に
0000_,09,560b33(00):釋迦如來往生の行を付囑し給ふに。餘の定善散善を
0000_,09,560b34(00):は付囑せすして。念佛はこれ彌陀の本願なるかゆへ
0000_,09,561a01(00):に。まさしくえらひて本願の行を付囑し給へるなり。
0000_,09,561a02(00):いま釋迦のをしへにしたかひて往生をもとめんも
0000_,09,561a03(00):の。付囑の念佛を修して釋尊の御意にかなふへし。
0000_,09,561a04(00):これにつけても又よくよく御念佛候て。ほとけの付
0000_,09,561a05(00):囑にかなはせ給ふへし。又六方恒沙の諸佛。舌をの
0000_,09,561a06(00):へて三千大千世界におほひて。もはらただ彌陀の名
0000_,09,561a07(00):號をとなへて。往生すといふは。これ眞實なりと證
0000_,09,561a08(00):誠し給ふ也。これ又念佛は彌陀の本願なるか故に。
0000_,09,561a09(00):六方恒沙の諸佛是を證誠し給ふ也。餘の行は本願に
0000_,09,561a10(00):あらざるがゆへに。諸佛も證誠し給はさる也。これに
0000_,09,561a11(00):つけても又よくよく御念佛せさせ給ひて。六方の諸
0000_,09,561a12(00):佛の護念をかふらふらせ給へし。彌陀の本願釋尊の
0000_,09,561a13(00):付囑。六方諸佛の護念。一一にむなしからす。この
0000_,09,561a14(00):ゆへに念佛の行は諸行にはすぐれたる也。又善導和
0000_,09,561a15(00):尚はこれ彌陀の化身也。淨土の祖師おほしといへと
0000_,09,561a16(00):も。ただひとへに善導によるに。往生の行おほしと
0000_,09,561a17(00):いへとも。をほきにわかちて二とし給へり。一には
0000_,09,561b18(00):專修。いはゆる念佛也。二には雜修いはゆる一切の
0000_,09,561b19(00):もろもろの行也。上にいふところの定散等これ也。
0000_,09,561b20(00):往生禮讃に云。若能如上念念相續畢命爲期者十即
0000_,09,561b21(00):十生百即百生何以故無外雜縁得正念故與佛本
0000_,09,561b22(00):願得相應故不違敎故隨順佛語故若欲捨專
0000_,09,561b23(00):修雜業者百時希得一二千時希得五三何以故
0000_,09,561b24(00):由雜縁亂動失正念故與佛本願不相應故與敎
0000_,09,561b25(00):相違故不順佛語故係念不相續故憶相間斷故已上
0000_,09,561b26(00):これは專修と雜行との得失なり。得といふは。往生す
0000_,09,561b27(00):る事をうるをいふ。いはゆる念佛するものは十人は
0000_,09,561b28(00):すなはち十人なから往生し。百人はすなはち百人な
0000_,09,561b29(00):から往生すといふこれ也。失といふは。いはゆる往生
0000_,09,561b30(00):の益をうしなへる也。雜修のものは。百人か中にまれ
0000_,09,561b31(00):に一二人往生する事をえて。その餘はむまれす。千
0000_,09,561b32(00):人か中にまれに五三人むまれて。その餘は又むま
0000_,09,561b33(00):れす。專修のもののみ。みなむまるる事をうるは何
0000_,09,561b34(00):のゆへそ。阿彌陀佛の本願に相應するかゆへ也。釋迦
0000_,09,562a01(00):如來のをしへに隨順せるかゆへ也。雜業のもののむ
0000_,09,562a02(00):まるる事のすくなきはなにのゆへそ。彌陀の本願に
0000_,09,562a03(00):たがへるがゆへ也。釋迦のをしへにしたがはさるが
0000_,09,562a04(00):ゆへ也。念佛して淨土をもとむるものは。二尊の御
0000_,09,562a05(00):こころにふかくかなへり。雜を修して淨土をもとむ
0000_,09,562a06(00):るものは。二佛の御意にそむけり。善導和尚二行の
0000_,09,562a07(00):得失を判せる事はこれのみにあらす。觀經の疏と申
0000_,09,562a08(00):す文の中に。おほくの得失をあけたり。しげきかゆ
0000_,09,562a09(00):へにいださす。これをもてしりぬへし。をよそ此念佛
0000_,09,562a10(00):は。そしるものは地獄におちて多劫苦をうくる事き
0000_,09,562a11(00):はまりなし。信するものは淨土に生れて永劫樂をう
0000_,09,562a12(00):くる事きはまりなし。なをなをいよいよ信心をふか
0000_,09,562a13(00):くして。ふた心なく念佛せさせ給ふへし。くはしき事
0000_,09,562a14(00):は御文にはつくしかたく候。この御つかひ申候へし
0000_,09,562a15(00):正月廿八日 源 空
0000_,09,562a16(00):私云此御文は正治元年己未御使は蓮上房尊覺也。
0000_,09,562a17(00):熊谷入道へつかはす御返事
0000_,09,562b18(00):御文くはしくうけ給はり候ぬ。加樣にまめやかに大
0000_,09,562b19(00):事におほしめし候らん。返かえすありかたく候。まこ
0000_,09,562b20(00):とにこのたびかまへて。往生しなむとおほしめしき
0000_,09,562b21(00):るへく候。うけがたき人身すでにうけたり。あひが
0000_,09,562b22(00):たき念佛往生の法門にあひたり。娑婆をいとふ心あ
0000_,09,562b23(00):り。極樂をねがふ心をこりたり。彌陀の本願ふかし。
0000_,09,562b24(00):往生はたなこころにある也。ゆめゆめ御念佛をこた
0000_,09,562b25(00):らす。决定往生のよしを存せさせ給ふへく候。何事
0000_,09,562b26(00):もととめ候ぬ
0000_,09,562b27(00):九月十六日 源 空
0000_,09,562b28(00):
0000_,09,562b29(00):津戸三郞入道へつかはす御返事
0000_,09,562b30(00):御文くはしくうけ給はり候ぬ。又たつねおほせられ
0000_,09,562b31(00):て候事とも。おほやうしるし申候
0000_,09,562b32(00):一熊谷入道津戸の三郞は。無智のものなれはこそ。
0000_,09,562b33(00):但念佛をはすすめたれ。有智の人には。かならすし
0000_,09,562b34(00):も念佛にはかぎるへからすと申よしきこえて候ら
0000_,09,563a01(00):ん。きはめたるひが事にて候。そのゆへは念佛の行
0000_,09,563a02(00):は。もとより有智無智にかぎらす。彌陀のむかしち
0000_,09,563a03(00):かひ給ひし本願も。あまねく一切衆生のため也。無
0000_,09,563a04(00):智のためには念佛を願し。有智のためには餘のふか
0000_,09,563a05(00):き行を願し給ふ事なし。十方衆生の句に。ひろく有
0000_,09,563a06(00):智無智。有罪無罪。善人惡人。持戒破戒。賢愚男女。
0000_,09,563a07(00):もしはほとけの在世の衆生。もしはほとけの滅後の
0000_,09,563a08(00):このころの衆生。もしは釋迦の末法萬年の後。三寳
0000_,09,563a09(00):みなうせてのをはりの衆生まてもみなこもれる也。
0000_,09,563a10(00):又善導和尚彌陀の化身として。專修念佛をすすめ給
0000_,09,563a11(00):へるも。ひろく一切衆生のためにすすめて。無智の
0000_,09,563a12(00):人にのみかきる事は候はす。ひろき彌陀の本願をた
0000_,09,563a13(00):のみ。あまねき善導のすすめをひろめんもの。いか
0000_,09,563a14(00):てか無智の人にかぎりて。有智の人をへだてんや。
0000_,09,563a15(00):もししからは彌陀の本願にもそむき。善導の御意に
0000_,09,563a16(00):もかなふへからす。さればこの邊にまふてきて。
0000_,09,563a17(00):往生のみちをとひたづね候人には。有智無智を論ぜ
0000_,09,563b18(00):す。みな念佛の行はかりを申候也。しかるに虚言を
0000_,09,563b19(00):構へて。さやうに念佛を申ととめんとするものは。
0000_,09,563b20(00):さきの世に念佛三昧。淨土の法門をきかず。のちの
0000_,09,563b21(00):世に又三惡道にかへるへきものの。さやうの事をは
0000_,09,563b22(00):たくみ申候事にて候也。そのよし聖敎に見えて候也
0000_,09,563b23(00):見有修行起瞋毒 方便破壞競生怨
0000_,09,563b24(00):如此生盲闡提輩 毀滅頓敎永沉淪
0000_,09,563b25(00):超過大地微塵劫 未可得離三途身
0000_,09,563b26(00):と申たる也。この文の意は。淨土をねがひ念佛を行
0000_,09,563b27(00):するものを見ては。いかりををこし毒心をふかくし
0000_,09,563b28(00):て。はかりことをめぐらし。さまさまの方便をなし
0000_,09,563b29(00):て。念佛の行をやぶり。あらそひてあたをなし。是
0000_,09,563b30(00):をととめんとするなり。かくのこときの人は。むま
0000_,09,563b31(00):れてよりこのかた。佛法の眼しゐて。ほとけのたね
0000_,09,563b32(00):をうしなへる闡提のともから也。この彌陀の名號を
0000_,09,563b33(00):となへて。ながき生死をたちまちにきり。常住の極
0000_,09,563b34(00):樂に往生すといふ。頓敎の御法をそしりほろぼして。
0000_,09,564a01(00):このつみによりて。ながく三惡道にしづむなり。かく
0000_,09,564a02(00):のことき人は。大地微塵劫をすぐとも。ながく三惡道
0000_,09,564a03(00):の身をはなるる事をうへからすといへる也。されは
0000_,09,564a04(00):さやうに虚言をたくみて申候らん人をば。かへりて
0000_,09,564a05(00):あはれむへきものなり。さほとのものの申さんによ
0000_,09,564a06(00):りて。念佛にうたがひをなし。不審ををこさんもの
0000_,09,564a07(00):は。いふにたらぬ程の事にてこそは候はめおほかた
0000_,09,564a08(00):彌陀に縁あさく。往生に時いたらぬものは。きけとも
0000_,09,564a09(00):信ぜす。をこなふをみてははらをたて。いかりをふく
0000_,09,564a10(00):みて。さまたげんとする事にて候也。その意をえて。
0000_,09,564a11(00):いかに人申とも。御心はかりはゆるかせ給ふへから
0000_,09,564a12(00):ず。あながちに信ぜさらんは。佛なをちからをよび給
0000_,09,564a13(00):ふまじ。いかにいはんや凡夫はちからをよふましき
0000_,09,564a14(00):事也。かかる不信の衆生のために。慈悲ををこし利益
0000_,09,564a15(00):せんと思はんにつけても。とく極樂へまいりて。さと
0000_,09,564a16(00):りをひらきて。生死にかへりて誹謗不信のものをも
0000_,09,564a17(00):わたし。一切衆生をあまねく利益せんと思へき事に
0000_,09,564b18(00):て候也。このよしを意えておはしますへし
0000_,09,564b19(00):一一家の人ひとの善根に結縁助成せん事。この條左
0000_,09,564b20(00):右にをよはす。もともしかるへき事に候。念佛の行
0000_,09,564b21(00):をさまたくる事をこそ。專修の行には制したる事に
0000_,09,564b22(00):て候へ。人人のあるひは堂をつくり佛をつくり。經
0000_,09,564b23(00):をもかき僧をも供養せんには。ちからをくはへ縁を
0000_,09,564b24(00):むすはんが。念佛をさまたけ。專修をさふる程の事
0000_,09,564b25(00):には候ましき也
0000_,09,564b26(00):一念佛申させ給はんには。心をつねにかけて。口に
0000_,09,564b27(00):わすれすとなふるがめてたき事にて候也。念佛の行
0000_,09,564b28(00):は。もとより行住坐臥時處諸縁をきらはぬ行にて候
0000_,09,564b29(00):へは。たとひ身もきたなく。口もきたなくとも。心
0000_,09,564b30(00):をきよくしてわすれず申させ給はん事は。返返神妙
0000_,09,564b31(00):に候。ひまなくさやうに申させ給はんこそ。返かえす
0000_,09,564b32(00):ありかたくめてたく候へ。いかならんところ。いか
0000_,09,564b33(00):ならんところ。いかならんときなりとも。わすれず
0000_,09,564b34(00):申させ給はは。往生の業にかならすなり候はんする
0000_,09,565a01(00):也。この心なからん人には。をしへさせ給ふへし。
0000_,09,565a02(00):いかならん時にも申されざらんをこそ。ねんじて申
0000_,09,565a03(00):さはやとおもふべきに。申されんをねんして申させ
0000_,09,565a04(00):給はぬ事はいかてか候へき。ゆめゆめ候まじ。ただ
0000_,09,565a05(00):いかなるおりにもきらはず申させ給ふへし
0000_,09,565a06(00):一念佛の行あながちに信ぜざらん人に論しあひ。又
0000_,09,565a07(00):あらぬ行。ことさとりの人にむかひて。いたくしゐ
0000_,09,565a08(00):ておほせらるる事候ましく候。異解異學の人を見て
0000_,09,565a09(00):は。これを恭敬して。かろしめあなどる事なかれと
0000_,09,565a10(00):申たる事にて候也。されはおなし心に。極樂をねが
0000_,09,565a11(00):ひ念佛を申さん人には。たとひ塵刹の外の人なりと
0000_,09,565a12(00):も同行のおもひをなして。一佛淨土にむまれんとお
0000_,09,565a13(00):もふへき事にて候也。阿彌陀佛に縁なく。極樂淨土
0000_,09,565a14(00):にちきりすくなく候はん人の。信もをこらす。ねが
0000_,09,565a15(00):はしくもなく候はんにはちからをよばず。ただ心に
0000_,09,565a16(00):まかせていかならんをこなひをもして。後生たすか
0000_,09,565a17(00):りて。三惡道をはなるべき事を。人の心にしたがひて
0000_,09,565b18(00):すすめ給ふへき也。又さは候へとも。ちりばかりも
0000_,09,565b19(00):かなひぬへからん人には。阿彌陀ほとけをすすめ。
0000_,09,565b20(00):極樂をねがはすへき也。いかに申すともこの世の人
0000_,09,565b21(00):の。極樂にむまれて生死をはなれん事。念佛ならて
0000_,09,565b22(00):極樂にむまるる事は候ましき事にて候也。このあひ
0000_,09,565b23(00):たのことをは。人の心にしたがひてはからふべきにて
0000_,09,565b24(00):候なり。いかさまにも物をあらそふ事はゆめゆめ候
0000_,09,565b25(00):ましき事に候。もしはそしり。もしは信ぜさらんもの
0000_,09,565b26(00):をは。ひさしく地獄にありて。又地獄へ還るべきも
0000_,09,565b27(00):のなりとよくよく意えて。こわからてこしらへすす
0000_,09,565b28(00):むへきにて候。又よもとおもひまいらせ候へとも。
0000_,09,565b29(00):いかなる人申とも。念佛の御心なとたぢろきおほし
0000_,09,565b30(00):めす事有ましく候。たとひ千佛世にいてて。念佛は
0000_,09,565b31(00):往生すべからすと。まのあたりをしへさせ給ふとも。
0000_,09,565b32(00):これは釋迦彌陀よりはしめて。恒沙のほとけの證誠
0000_,09,565b33(00):せさせ給ふ事なれはとおほしめして。心さしを金剛
0000_,09,565b34(00):よりもかたくして。このたびかならす阿彌陀ほとけ
0000_,09,566a01(00):の御まへへ參らんすると。おほしめすへき事にて候
0000_,09,566a02(00):也。かくのこときの事かたはしを申さんに。御心え
0000_,09,566a03(00):候て。わがため人のためにをこなはせたまふへし
0000_,09,566a04(00):九月十八日 眞 觀承
0000_,09,566a05(00):
0000_,09,566a06(00):黑田の聖人へつかはす御文
0000_,09,566a07(00):末代の衆生を。往生極樂の機にあててみるに。行すく
0000_,09,566a08(00):なしとてうたかふへからす。一念十念にたりぬへし。
0000_,09,566a09(00):罪人なりとてうたかふへからす。罪根ふかきをもき
0000_,09,566a10(00):らはす。時くたれりとてうたかふへからす。法滅已
0000_,09,566a11(00):後の衆生なを往生すへし。いはんやこのころをや。
0000_,09,566a12(00):わが身わろしとてうたかふへからす。自身はこれ煩
0000_,09,566a13(00):惱具足せる凡夫なりといへり。十方に淨土おほけれ
0000_,09,566a14(00):とも。西方をねかふは。十惡五逆の衆生もむまるる
0000_,09,566a15(00):ゆへ也。諸佛の中に彌陀に歸したてまつるは。三念
0000_,09,566a16(00):五念にいたるまてみつから來りてむかへ給ふかゆへ
0000_,09,566a17(00):也。諸行の中に念佛をもちゆるは。かのほとけの本
0000_,09,566b18(00):願なるかゆへ也。今彌陀の本願に乘して往生してん
0000_,09,566b19(00):には。願として成ぜすといふ事あるへからす。本願
0000_,09,566b20(00):に乘ずる事は。ただ信心のふかきによるへし。うけか
0000_,09,566b21(00):たき人身をうけて。あひかたき本願にあひて。をこ
0000_,09,566b22(00):しがたき道心ををこして。はなれがたき輪廻のさと
0000_,09,566b23(00):をはなれて。むまれがたき淨土に往生せん事は。よ
0000_,09,566b24(00):ろこびの中のよろこひ也。つみをは十惡五逆のもの
0000_,09,566b25(00):なをむまると信して。小罪をもをかさしとおもふへ
0000_,09,566b26(00):し。罪人なをむまるいかにいはんや善人をや。行は
0000_,09,566b27(00):一念十念むなしからすと信じて。無間に修すへし。
0000_,09,566b28(00):一念なをむまるいかにいはんや多念をや。阿彌陀佛
0000_,09,566b29(00):は不取正覺の詞を成就して。現にかのくににましま
0000_,09,566b30(00):せは。さためていのちをはらん時には來迎し給はん
0000_,09,566b31(00):ずらん。釋尊はよきかなやわがをしへにしたがひて。
0000_,09,566b32(00):生死をはなれんとすと知見し給ふらん。六方諸佛は
0000_,09,566b33(00):よろこばしきかなわれらが證誠を信じて。不退の淨
0000_,09,566b34(00):土に往生せんとすとよろこび給ふらんと。天にあふ
0000_,09,567a01(00):き地にふして。よろこぶへしこのたび彌陀の本願に
0000_,09,567a02(00):あへる事を。行住坐臥にも報ずへしかのほとけの恩
0000_,09,567a03(00):德を。たのみてもなをたのむべきは乃至十念の詞。
0000_,09,567a04(00):信じてもなを信すへきは必得往生の文なり
0000_,09,567a05(00):
0000_,09,567a06(00):越中國光明房へつかはす御返事
0000_,09,567a07(00):一念往生の義は。京中にも粗流布するよしうけ給は
0000_,09,567a08(00):るところ也。をよそ言語道斷の事也。まことにほとほ
0000_,09,567a09(00):と御問にもをよふへからさる事歟。雙卷經の中には。
0000_,09,567a10(00):乃至一念信心歡喜といひ。又善導和尚の疏には。上一
0000_,09,567a11(00):形を盡し下十聲一聲にいたるまても。さだめて往生
0000_,09,567a12(00):する事をうと信して。乃至一念もうたがふ心なかれ
0000_,09,567a13(00):といへる。これらの文をあしく料簡するともからの。
0000_,09,567a14(00):かかる大邪見に住して申候ところ也。乃至といひ下
0000_,09,567a15(00):至といへるは。上一形をつくすをかねたる詞也。しか
0000_,09,567a16(00):るをこのころの愚癡無智のともがらの。おほく偏に
0000_,09,567a17(00):十念一念なりと執して。上盡一形をすつる條。無慚無
0000_,09,567b18(00):愧の事也。まことに十念一念まてもほとけの大悲本願
0000_,09,567b19(00):なをかならす引接し給ふ無上の功德なりと信じて。
0000_,09,567b20(00):一期不退に行ずへき也。文證おほしといへともこれ
0000_,09,567b21(00):を出すにをよはす不足言の事也。ここにかの邪見の
0000_,09,567b22(00):人。この難をうけて答ていはく。わがいふところも。
0000_,09,567b23(00):信を一念にとりて念すへき也。しかりといひて又念
0000_,09,567b24(00):佛すへからすとはいはずと云云。ことばは尋常なるに
0000_,09,567b25(00):似たれども。心は邪見をはなれず。しかるゆへは决定
0000_,09,567b26(00):の信心をもて一念してのちは。又念せすといふとも。
0000_,09,567b27(00):十惡五逆なをさはりをなさす。いはんや餘の小罪を
0000_,09,567b28(00):やと信すへき也といふ。このおもひに住せんものは。
0000_,09,567b29(00):たとひ多念すといふとも。あにほとけの御意にかな
0000_,09,567b30(00):はんや。いづれの經論いかなる人師の説そや。これひ
0000_,09,567b31(00):とへに懈怠無道心のいたり不當不善のたぐひの。ほ
0000_,09,567b32(00):しきままに惡をつくらんとおもひていひ出せる事な
0000_,09,567b33(00):り。又念せすはその惡かの勝因をさへて。むしろ三途
0000_,09,567b34(00):におちさらんや。かの一生造惡のものの。臨終に十念
0000_,09,568a01(00):して往生するは。これ懺悔念佛のちからなり。この惡
0000_,09,568a02(00):義には混亂すへからす。かれは懺悔の人也。これは邪
0000_,09,568a03(00):見の人也。なをなを不可説の事也。たとひ精進のもの
0000_,09,568a04(00):なりといふとも此義をきかはかならす懈怠になりな
0000_,09,568a05(00):ん。まれに持戒の人ありといふとも。この説を信せは
0000_,09,568a06(00):すなはち無慚になりぬへし。をよそかくのこときの
0000_,09,568a07(00):人は。附佛法の外道也。師子身中のむし也。又うたが
0000_,09,568a08(00):ふらくは。天魔破旬のために。その正解をうははれた
0000_,09,568a09(00):るともからの。もろもろの往生の人をさまたげんと
0000_,09,568a10(00):するか。もともあやしむへし。ふかくをそるへし。こ
0000_,09,568a11(00):とことく筆端につくしかたし。あなかしこあなかしこ
0000_,09,568a12(00):
0000_,09,568a13(00):正如房へつかはす御文
0000_,09,568a14(00):正如房の御事こそ返かえすあさましく候へ。そののち
0000_,09,568a15(00):は心ならすうときやうになりまいらせて。念佛の御
0000_,09,568a16(00):信もいかかとゆかしくおもひまいらせ候つれともさ
0000_,09,568a17(00):したる事も候はす。又申へきたよりも候はぬやうに
0000_,09,568b18(00):て。思なからなにとなくむなしくまかりすき候つる
0000_,09,568b19(00):に。ただれいならぬ御事。大事になどばかりうけ給
0000_,09,568b20(00):はり候はんたにも。いま一度見まいらせたく。をは
0000_,09,568b21(00):りまての御念佛の事も。おぼつかなくこそおもひま
0000_,09,568b22(00):いらせ候へきに。まして御心にかけてつねに御たつ
0000_,09,568b23(00):ね候らんこそ。まことにあはれにも。心くるしくも
0000_,09,568b24(00):おもひまいらせ候へ。左右なくうけ給はり候ままに
0000_,09,568b25(00):まいり候て見まいらせたく候へとも。おもひきりて
0000_,09,568b26(00):しばし出ありき候はで。念佛申候ははやと思ひはし
0000_,09,568b27(00):めたる事の候を。樣にこそよる事にて候へ。これを
0000_,09,568b28(00):は退してもまいるべきにて候に。又思ひ候へは。詮
0000_,09,568b29(00):じてはこの世の見參はとてもかくても候なん。屍ね
0000_,09,568b30(00):を執ずるまどひにもなり候ひぬへし。たれとてもと
0000_,09,568b31(00):まりはつべき身にも候はす。われも人も。ただをく
0000_,09,568b32(00):れさきだつかはりめにてこそ候へ。そのたえまを思
0000_,09,568b33(00):ひ候も。又いつまでぞとさだめなきうへに。たとひ
0000_,09,568b34(00):久しと申候とも。ゆめまぼろしいく程かは候へきな
0000_,09,569a01(00):れは。ただかまへてかまへておなし佛の國にまいりあひ
0000_,09,569a02(00):て。はちすの上にて。この世のいふせさをもはるけ。
0000_,09,569a03(00):ともに過去の因縁をもかたり。たがひに未來の化導
0000_,09,569a04(00):をもたすけん事こそ。返返も詮にて候べきとはしめ
0000_,09,569a05(00):よりも申をき候しか。返かえすも本願をとりつめまい
0000_,09,569a06(00):らせて。一念もうたかふ御心なく。一聲も南無阿彌
0000_,09,569a07(00):陀佛と申せは。わが身はたとひいかに罪ふかくとも。
0000_,09,569a08(00):佛の願力によりて。一定往生するぞとおほしめして。
0000_,09,569a09(00):よくよく一すぢに念佛し候へき也。われらが往生は
0000_,09,569a10(00):ゆめゆめわが身のよしあしきにはより候まし。ひと
0000_,09,569a11(00):へにほとけの御ちからばかりにて候へき也。わがち
0000_,09,569a12(00):からばかりにては。いかにめてたく貴き人と申すと
0000_,09,569a13(00):も。末法のこのころ。たたちに淨土にむまるる程の
0000_,09,569a14(00):事はありかたくそ候へき。又佛の御ちからにて候は
0000_,09,569a15(00):んには。いかに罪ふかくをろかにつたなき身なりと
0000_,09,569a16(00):も。それにはより候まし。ただ佛の願力を信じ信ぜ
0000_,09,569a17(00):さるにぞより候べき。されば觀無量壽經にとかれて
0000_,09,569b18(00):候は。むまれてよりこのかた念佛一遍も申さず。それ
0000_,09,569b19(00):ならぬ善根もつやつやなくて。あさゆふものころし。
0000_,09,569b20(00):ぬすみしかくのこときのもろもろのつみをのみつく
0000_,09,569b21(00):りて。とし月ををくりゆけとも。一念も懺悔の心もな
0000_,09,569b22(00):くて。あかしくらしたるものの。をはりの時に。善知
0000_,09,569b23(00):識のすすむるにあひて。ただ一聲南無阿彌陀佛と申
0000_,09,569b24(00):したるによりて。五十億劫があひだ。生死にめくるべ
0000_,09,569b25(00):き罪を滅して。化佛菩薩三尊の來迎にあづかりて。
0000_,09,569b26(00):佛の名をとなふるがゆへに罪滅せり。われきたりて
0000_,09,569b27(00):なんぢをむかふとほめられまいらせて。すなはちか
0000_,09,569b28(00):の國に往生すと候。又五逆罪と申て。現身に父をころ
0000_,09,569b29(00):し。母をころし。惡心をもて佛身をそこなひ。諸宗を
0000_,09,569b30(00):破り。かくのことくをもきつみをつくりて。一念懺悔
0000_,09,569b31(00):の心もなからんそのつみによりて無間地獄におちて
0000_,09,569b32(00):おほくの劫をおくりて苦をうくへからん者。をはり
0000_,09,569b33(00):の時に善知識のすすめによりて。南無阿彌陀佛と十
0000_,09,569b34(00):聲となふるに。一聲にをのをの八十億劫が間生死に
0000_,09,570a01(00):めくるへき罪を滅して。往生すととかれて候めれは。
0000_,09,570a02(00):さほとの罪人だにも。ただ十聲一聲の念佛にて往生
0000_,09,570a03(00):はし候へ。まことに佛の本願のちからならては。いか
0000_,09,570a04(00):てかさる事候へきともおほえ候。本願むなしからす
0000_,09,570a05(00):といふ事は。これにても信じつへくこそ候へ。これは
0000_,09,570a06(00):まさしき佛説にて候。佛の御言はは一言もあやまら
0000_,09,570a07(00):ずと申候へは。ただあふぎて信すへきにて候。これを
0000_,09,570a08(00):うたがはは佛の御そら事と申にもなりぬへく候。か
0000_,09,570a09(00):へりては又そのつみも候ひぬへしとこそおぼえ候
0000_,09,570a10(00):へ。ふかく信せさせ給ふべく候。さて往生せさせおは
0000_,09,570a11(00):しますまじきやうにのみ申きかせまいらする人人の
0000_,09,570a12(00):候らんこそ。返かえすあさましく心くるしく候へ。いか
0000_,09,570a13(00):なる智者。めてたき人ひとおほせらるることも。それ
0000_,09,570a14(00):になおどろかせおはしまし候そ。をのをののみちに
0000_,09,570a15(00):はめてたく貴き人なりとも。さとりことに行ことな
0000_,09,570a16(00):る人の申候事は。往生淨土のためには。中なかゆゆし
0000_,09,570a17(00):き退縁惡知識とも申ぬへき事ともにて候。只凡夫の
0000_,09,570b18(00):はからひをはききいれさせおはしまさで。一すぢに
0000_,09,570b19(00):佛の御ちかひをたのみまいらせおはしますへく候。
0000_,09,570b20(00):さとりことなる人の。往生いひさまたげんによりて。
0000_,09,570b21(00):一念もうたがふ心あるへからずといふことはりは。
0000_,09,570b22(00):善導和尚のよくよくこまかにおほせられをきたる事
0000_,09,570b23(00):にて候也。たとひおほくのほとけ空の中にみちみち
0000_,09,570b24(00):て。ひかりをはなちしたをのべて。惡をつくりたる凡
0000_,09,570b25(00):夫なりとも。一念してかならす往生すといふ事はひ
0000_,09,570b26(00):が事ぞ。信ずへからずとの給ふとも。それによりて一
0000_,09,570b27(00):念もうたがふ心あるべからず。そのゆへは。阿彌陀佛
0000_,09,570b28(00):のいまた佛になり給はざりしむかし。はしめて道心
0000_,09,570b29(00):ををこし給ひし時。われ佛になりたらんに。わが名を
0000_,09,570b30(00):となふる事。十聲一聲までせんもの。わが國にむまれ
0000_,09,570b31(00):ずは。佛にならじとちかひ給ひたりし。その願むなし
0000_,09,570b32(00):からず。すでに佛になり給へり。又釋迦佛この娑婆世
0000_,09,570b33(00):界にいでで。一切衆生のためにかの本願をとき。念佛
0000_,09,570b34(00):往生をすすめ給へり。又六方恒沙の諸佛。この念佛し
0000_,09,571a01(00):て一定往生すと釋迦佛のとき給へるは决定なり。も
0000_,09,571a02(00):ろもろの衆生一念もうたがふへからすと。あらゆる
0000_,09,571a03(00):諸佛みなことことく證誠し給へり。すでに阿彌陀佛
0000_,09,571a04(00):は願をたて。釋迦佛はその願をとき。六方諸佛はその
0000_,09,571a05(00):説を證誠し給へるうへは。このほかになにほとけの
0000_,09,571a06(00):又これらの諸佛にたがひて。凡夫往生せずとはの給
0000_,09,571a07(00):ふべきぞといふことはりをもて。佛現しての給ふとも。
0000_,09,571a08(00):それにおとろきて信心をやぶり。うたがふ心あるへ
0000_,09,571a09(00):からす。いはんや菩薩たちのの給はんをや又辟支佛
0000_,09,571a10(00):をやと。こまこまと善導は釋し給ひて候也。ましてこ
0000_,09,571a11(00):のころの凡夫のいかに申候はんによりて。げにいか
0000_,09,571a12(00):があらんずらんなと。不定におほしめす御心ゆめゆ
0000_,09,571a13(00):め候まじく候。いかにめでたき人と申すとも。善導和
0000_,09,571a14(00):尚にまさりて往生の道をしりたらん事もかたく候。
0000_,09,571a15(00):善導は又凡夫にあらず阿彌陀佛の化身也。阿彌陀佛
0000_,09,571a16(00):のわが本願をひろめて。衆生を往生せさせむ料にか
0000_,09,571a17(00):りに人とむまれて。善導とは申候也。そのをしへは。
0000_,09,571b18(00):申さは佛説にてこそ候へ。あなかしこあなかしこうたがひ
0000_,09,571b19(00):おほしめすましきにて候。又はしめより佛の本願に。
0000_,09,571b20(00):信ををこさせおはしまして候し御心の程見まいらせ
0000_,09,571b21(00):候に。なにしにかは往生はうたかひおほしめし候へ
0000_,09,571b22(00):き。經にとかれて候こときは。いまだ往生の道もしら
0000_,09,571b23(00):ぬ人にとりての事にて候。もとよりよくよくきこし
0000_,09,571b24(00):めししたためて。そのうへ御念佛の功つもりたる事
0000_,09,571b25(00):にて候はんには。かならす又臨終の善知識にあはせ
0000_,09,571b26(00):おはしまさずとも。往生は一定せさせおはしますへ
0000_,09,571b27(00):き事にてこそ候へ。中中あらぬさまなる人はあしく
0000_,09,571b28(00):候なんただいかならん人にても。尼女房なりとも。つ
0000_,09,571b29(00):ねに御まへに候はん人に。念佛申させて。きかせおは
0000_,09,571b30(00):しまして。御心一つをつよくおほしめして。たた中中
0000_,09,571b31(00):一向に凡夫の善知識をおほしめしすてて。佛を善知
0000_,09,571b32(00):識にたのみまいらせ給ふへく候。もとよりほとけの
0000_,09,571b33(00):來迎は。臨終正念のためにて候也。それを人のみな臨
0000_,09,571b34(00):終正念にて念佛申たるに。佛はむかへ給ふとのみ心
0000_,09,572a01(00):えて候は。佛の願を信せす。經の文を信せぬにて候也
0000_,09,572a02(00):稱讃淨土經には。慈悲をもてくはへたすけて心をし
0000_,09,572a03(00):てみだらざらしめ給ととかれて候也。ただの時によ
0000_,09,572a04(00):くよく申をきたる念佛によりて。佛は來迎し給ふ時
0000_,09,572a05(00):に正念に住すと申へきにて候也。たれも佛をたのむ
0000_,09,572a06(00):心はすくなくして。よしなき凡夫の善知識をたのみ。
0000_,09,572a07(00):さきの念佛をはむなしくおもひなして。臨終正念を
0000_,09,572a08(00):のみいのる事ともにて候が。ゆゆしきひがゐんの事
0000_,09,572a09(00):にて候也。これをよくよく御意え候て。つねに御目を
0000_,09,572a10(00):ふさぎ掌をあはせて。御心をしづめておほしめすへ
0000_,09,572a11(00):く候。ねがはくは阿彌陀佛本願あやまたす。臨終の時
0000_,09,572a12(00):かならすわがまへに現して慈悲をもてくはへたすけ
0000_,09,572a13(00):て。正念に住せしめ給へと。御心にもおほしめし。口
0000_,09,572a14(00):にも申させ給ふへく候。これにすぎたる事候まし。心
0000_,09,572a15(00):よはくおほしめす事の候ましき也。加樣に念佛をか
0000_,09,572a16(00):きこもりて申候はんなとおもひ候も。ひとへにわが
0000_,09,572a17(00):身一つのためとのみはもとよりおもひ候はす。おり
0000_,09,572b18(00):しもこの御事をかくうけ給はり候ぬれは。いまより
0000_,09,572b19(00):は一念ものこさず。ことことくその往生の御たすけ
0000_,09,572b20(00):になさんとこそ。迴向しまいらせ候はんすれは。かま
0000_,09,572b21(00):へてかまへておほしめすさまに。遂させまいらせ候はは
0000_,09,572b22(00):やとこそふかく念じまいらせ候へ。もしこの心ざし
0000_,09,572b23(00):まことならば。いかてか又御たすけにもならで候へき。
0000_,09,572b24(00):たのみおほしめさるへきにて候。をほかたは申いて
0000_,09,572b25(00):候ひし一ことばに。御心をととめさせおはします事も。
0000_,09,572b26(00):この世一つの事にて候はじと。さきの世もゆかしく。
0000_,09,572b27(00):あはれにこそおもひしらるる事にて候へは。うけ給
0000_,09,572b28(00):はるごとくは。このたびま事にさきたたせをはしま
0000_,09,572b29(00):すにても。又をもはずにさきたちまいらせ候事にな
0000_,09,572b30(00):るさだめなきにて候とも。つゐに一佛淨土にまいり
0000_,09,572b31(00):あひまいらせ候はんはうたかひなくおほえ候。ゆめ
0000_,09,572b32(00):まほろしのこの世にていま一度なととおもひ候事
0000_,09,572b33(00):は。とてもかくても候ひなん。これをは一すぢにお
0000_,09,572b34(00):ほしめしすてて。いとともふかくねがふ御心をもま
0000_,09,573a01(00):し。念佛をもはげましおはしまして。かしこにてま
0000_,09,573a02(00):たんとをほしめすへく候。返かえすもなをなを往生を
0000_,09,573a03(00):うたがふ御心候ましく候。五逆十惡のをもき罪つく
0000_,09,573a04(00):りたる惡人。なを十聲一聲の念佛によりて往生をし
0000_,09,573a05(00):候はんに。まして罪つくらせおはします御事はなに
0000_,09,573a06(00):事か候へき。たとひつくらせ候へきにても。いく程
0000_,09,573a07(00):の事かは候へき。この經にとかれて候罪人にはいひ
0000_,09,573a08(00):くらふへくやは候。それにまづ心ををこし出家をと
0000_,09,573a09(00):げさせおはしまして。めてたき御のりにも縁をむす
0000_,09,573a10(00):び。時にしたがひ日にしだかひて。善根のみこそは
0000_,09,573a11(00):つもらせおはしますにて候らめ。そのうへふかく决
0000_,09,573a12(00):定往生の法文を信じて。一向專修の念佛にいりて。
0000_,09,573a13(00):一すじに彌陀の本願をたのみて。ひさしくならせお
0000_,09,573a14(00):はしまして候。なに事にか一事も往生をうたがひお
0000_,09,573a15(00):ほしめし候へき。專修の人は。百人は百人なから十
0000_,09,573a16(00):人は十人なから往生すと。善導の給ひて候へは。ひ
0000_,09,573a17(00):とりそのかずにもれさせをはしますべきかはとこそ
0000_,09,573b18(00):おほえ候へ。善導をもかこち。佛の本願をもせめま
0000_,09,573b19(00):いらせ給ふへく候。心よはくはゆめゆめをほしめす
0000_,09,573b20(00):ましく候。あなかしこあなかしこ。ことはりをや申ひらき候
0000_,09,573b21(00):とおもひ候程に。よにおほくなり候ひぬる。さやう
0000_,09,573b22(00):のおりふし骨なくやとおほえ候へとも。もしさすが
0000_,09,573b23(00):のびたる御事にても又候らんえしり候はねは。この
0000_,09,573b24(00):たび申候はではいつをかまち候へき。もしのどかに
0000_,09,573b25(00):きかせおはしまして。一念も御心をすすむるたより
0000_,09,573b26(00):にやなり候とおもひ候ばかりに。とどめえ候はて。
0000_,09,573b27(00):これほとこまかになり候ぬ。機嫌をしり候はねは。は
0000_,09,573b28(00):からひがたくてわびしくこそ候へ。もし無下によは
0000_,09,573b29(00):くならせおはしましたる御事にて候はは。これは事
0000_,09,573b30(00):ながく候へく候。要をとりてつたへまいらせおはし
0000_,09,573b31(00):ますへく候。うけ給はり候ままになにとなくあはれ
0000_,09,573b32(00):におほえ候て。おし返し又申候也
0000_,09,573b33(00):
0000_,09,573b34(00):禪勝房にしめす御詞
0000_,09,574a01(00):阿彌陀佛は。一念となふるを一度の往生にあてかひ
0000_,09,574a02(00):てをこし給へる本願也。かるかゆへに十念は十度む
0000_,09,574a03(00):まるる功德也。一向專修の念佛者になる日よりし
0000_,09,574a04(00):て。臨終の時にいたるまて申たる一期の念佛をとり
0000_,09,574a05(00):あつめて。一度の往生はかならすする事也
0000_,09,574a06(00):又云。念佛申す機は。むまれつきのままにて申す也
0000_,09,574a07(00):さきの世の業によりて。今生の身をはうけたる事な
0000_,09,574a08(00):れは。この世にてはえなをしあらためぬ事也。たと
0000_,09,574a09(00):へは女人の男子にならはやとおもへとも。今生のう
0000_,09,574a10(00):ちには男子とならざるかことし。智者は智者にて申
0000_,09,574a11(00):し。愚者は愚者にて申し。慈悲者は慈悲ありて申し。
0000_,09,574a12(00):慳貪者は慳貪なから申す。一切の人みなかくのこと
0000_,09,574a13(00):し。されはこそ阿彌陀ほとけは十方衆生とて。ひろ
0000_,09,574a14(00):く願をはをこしてましませ
0000_,09,574a15(00):又云。一念十念にて往生すといへはとて。念佛を疎
0000_,09,574a16(00):相に申せは。信が行をさまたぐる也。念念不捨とい
0000_,09,574a17(00):へはとて。一念十念を不定におもへは。行が信をさ
0000_,09,574b18(00):またぐる也。かるがゆへに信をは一念にむまるとと
0000_,09,574b19(00):りて。行をは一形にはけむへし。
0000_,09,574b20(00):又云。一念を不定におもふものは。念念の念佛ごと
0000_,09,574b21(00):に不信の念佛になる也。そのゆへは。阿彌陀佛は。
0000_,09,574b22(00):一念に一度の往生をあてをき給へる願なれは。念念
0000_,09,574b23(00):ことに往生の業となる也
0000_,09,574b24(00):
0000_,09,574b25(00):十二問答
0000_,09,574b26(00):問曰。八宗九宗の外に。淨土宗をたつる事自由の條
0000_,09,574b27(00):かなと。餘宗の人の申候をは。いかが申し候へき
0000_,09,574b28(00):答。宗の名たつる事は。佛の説にあらす。みづから
0000_,09,574b29(00):心ざすところの經敎につきて。そのをしゆる義をさ
0000_,09,574b30(00):とりきはめて。宗の名をは判する事也。諸宗の習み
0000_,09,574b31(00):なもてかくのことし。いま淨土宗の名をたつる事は
0000_,09,574b32(00):淨土の正依の經につきて。往生極樂の義をさとりき
0000_,09,574b33(00):はめてをはします先達の。宗の名をはたて給へる也
0000_,09,574b34(00):宗のをこりをしらざるものの。左樣の事を申候也
0000_,09,575a01(00):問曰。法華眞言等をは。雜行にはいるへからすと人
0000_,09,575a02(00):人の申候をは。いかかこたへ候へき
0000_,09,575a03(00):答。惠心先德。一代聖敎の要文をあつめて。往生要
0000_,09,575a04(00):集をつくり給へる中に十門をたつ。その第九の往生
0000_,09,575a05(00):諸業門に。法華眞言等の諸大乘經をいれ給へり。諸
0000_,09,575a06(00):行と雜行と言異にして意おなし。いまの難者は。惠
0000_,09,575a07(00):心の先德にまさるへからざるもの也
0000_,09,575a08(00):問曰。餘佛餘經につきて。善根を修せん人に結縁助
0000_,09,575a09(00):成し候はん事は。雜行と申候へきか
0000_,09,575a10(00):答。わが心彌陀ほとけの本願に乘し決定往生の信を
0000_,09,575a11(00):とるうへには。他の善根に結縁助成せん事は。また
0000_,09,575a12(00):また雜行になるへからす。わが往生の助業となるへ
0000_,09,575a13(00):き也。他の善根を隨喜讃嘆せよと釋し給へるをもて
0000_,09,575a14(00):意うへき事也
0000_,09,575a15(00):問曰。極樂に九品の差別候御事は。阿彌陀ほとけの
0000_,09,575a16(00):かまへさせ給へる事にて候やらん
0000_,09,575a17(00):答。極樂の九品は。彌陀の本願にあらす。四十八願
0000_,09,575b18(00):の中にもなし。これは釋尊の巧言也。善人惡人一所
0000_,09,575b19(00):にむまるるといはは。惡業のものとも慢心ををこす
0000_,09,575b20(00):へきかゆへに九品の差別をあらせて。善人は上品に
0000_,09,575b21(00):すすみ。惡人は下品にくたると説給へる也。いそきま
0000_,09,575b22(00):いりてみるへし
0000_,09,575b23(00):問曰。持戒の行者の念佛の數遍のすくなく候はん
0000_,09,575b24(00):と。破戒の行人の念佛の數遍のおほく候はんと。往
0000_,09,575b25(00):生の後の位の淺深。いづれかすすみ候へきや
0000_,09,575b26(00):答。居てまします疊ををさへての給はく。この疊の
0000_,09,575b27(00):あるによりてこそ。やぶれたるか。やぶれさるかと
0000_,09,575b28(00):いふ事はあれ。つやつやなからんたたみをは。なに
0000_,09,575b29(00):とか論ずへき。末法の中には。持戒もなく破戒もな
0000_,09,575b30(00):し。たた名字の比丘はかりありと。傳敎大師の末法
0000_,09,575b31(00):燈明記にかき給へるうへには。なにと持戒破戒の沙
0000_,09,575b32(00):汰をばすべきそ。かかるひら凡夫のために。をこし
0000_,09,575b33(00):給へる本願なれはとて。いそきいそき名號を稱すへし
0000_,09,575b34(00):問曰。念佛の行者等。日別の所作にをいて。こゑを
0000_,09,576a01(00):たてて申す人も候。又心に念してかずをとる人も候
0000_,09,576a02(00):いづれかよく候へき
0000_,09,576a03(00):答。それは口にてとなふるも名號。心にて念するも
0000_,09,576a04(00):名號なれは。いづれも往生の業とはなるへし。たた
0000_,09,576a05(00):し。佛の本願は。稱名の願なるがゆへに。聲をたて
0000_,09,576a06(00):てとなふへき也。このゆへに經には令聲不絶具足十
0000_,09,576a07(00):念ととき。釋には稱我名號下至十聲との給へり。耳
0000_,09,576a08(00):にきこゆる程は。高聲念佛にとる也。されはとて機
0000_,09,576a09(00):嫌をしらず。高聲なるへきにはあらす。地躰は聲を
0000_,09,576a10(00):出さんとおもふへき也
0000_,09,576a11(00):問曰。日別の念佛の數遍。相續にいる程は。いかか
0000_,09,576a12(00):はからひ候へき
0000_,09,576a13(00):答。善導の御釋によるに。一萬已上は相續にて候へ
0000_,09,576a14(00):し。但し一萬遍をもいそき申て。さてその日をくら
0000_,09,576a15(00):さん事はあるへからす。一萬遍なりとも。一日一夜
0000_,09,576a16(00):の所作とすべき也。總しては一食の間に。三度ばか
0000_,09,576a17(00):り思ひいださんは。よき相續にてあるへし。それは
0000_,09,576b18(00):衆生の根性不同なれは。一凖なるべからす。心ざし
0000_,09,576b19(00):だにふかけれは自然に相續はせらるる也
0000_,09,576b20(00):問曰。禮讃の深心の中には。十聲一聲必得往生。乃
0000_,09,576b21(00):至一念無有疑心と釋し。又疏の深心の中には念念不
0000_,09,576b22(00):捨者。是名正定之業と釋し給へり。いづれかわが分
0000_,09,576b23(00):には。おもひさだめ候へき
0000_,09,576b24(00):答。十聲一聲の釋は。念佛を信ずる樣。念念不捨者
0000_,09,576b25(00):の釋は。念佛を行ずる樣也。かるかゆへに信をは一
0000_,09,576b26(00):念にむまるととりて。行をは一形にはけむへしとす
0000_,09,576b27(00):すめ給へる釋也。又大意は。一發心已後誓畢此生
0000_,09,576b28(00):無有退轉唯以淨土爲期の釋を。本とすべき也
0000_,09,576b29(00):問曰。本願の一念は。尋常の機にも。臨終の機にも
0000_,09,576b30(00):ともに通し候へきか
0000_,09,576b31(00):答。一念の願は。いのちつつまりて。二念にをよは
0000_,09,576b32(00):さる機のため也。尋常の機に通ずへくは。上盡一形
0000_,09,576b33(00):の釋あるへからす。この釋をもて意うるに。かなら
0000_,09,576b34(00):すしも一念を本願といふへからす。念念不捨者。是
0000_,09,577a01(00):名正定之業。順彼佛願故と釋し給へり。この釋は數
0000_,09,577a02(00):遍つもらんも。本願とはきこえたれは。たた本願に
0000_,09,577a03(00):あふ機の。遲速不同なれは。上盡一形下至一念と。
0000_,09,577a04(00):をこし給へる本願也と意うへき也。かるかゆへに念
0000_,09,577a05(00):佛往生の願とこそ。善導は釋し給へ
0000_,09,577a06(00):問曰。自力他力の事は。いかが意え候へき
0000_,09,577a07(00):答。源空は殿上へまいるべき器量にてはなけれと
0000_,09,577a08(00):も。上よりめせは二度まてまいりたりき。これはわが
0000_,09,577a09(00):まいるへきしなにてはなけれとも。上の御ちから也
0000_,09,577a10(00):まして阿彌陀ほとけの御ちからにて。稱名の願にこ
0000_,09,577a11(00):たへて。來迎せさせ給はん事は。なんの不審かある
0000_,09,577a12(00):へき。わが身つみをもくて無智なれは。佛もいかに
0000_,09,577a13(00):してかすくひ給はんなとおもはんものは。つやつや
0000_,09,577a14(00):佛の願をしらさるもの也。かかる罪人ともを。やす
0000_,09,577a15(00):やすとたすけすくはん料に。をこし給へる本願の名
0000_,09,577a16(00):號をとなへなから。ちりばかりもうたかふ心はある
0000_,09,577a17(00):ましき也。十方衆生のことはの中に。有智無智。有罪
0000_,09,577b18(00):無罪。善人惡人。持戒破戒。男子女人。三寶滅盡の
0000_,09,577b19(00):後の百歳まての衆生みなこもる也。かの三寶滅盡の
0000_,09,577b20(00):時の念佛者と。當時の御房達とくらふれは。當時の
0000_,09,577b21(00):御房達は。佛のことし。かの時の人のいのちはたた
0000_,09,577b22(00):十歳也。戒定惠の三學ただ名をだにもきかず。総し
0000_,09,577b23(00):ていふはかりなきものともの。來迎にあづかるへき
0000_,09,577b24(00):道理をしりなから。わが身のすてられまいらすへき
0000_,09,577b25(00):樣をは。いかにしてか案じ出すへき。ただ極樂のね
0000_,09,577b26(00):がはしくもなく。念佛の申されさらん事のみそ。往
0000_,09,577b27(00):生のさはりにては有へけれ。かるかゆへに他力本願
0000_,09,577b28(00):ともいひ。超世の悲願ともいふ也
0000_,09,577b29(00):問曰。至誠等の三心を具し候へき樣をは。いかかお
0000_,09,577b30(00):もひさため候へき
0000_,09,577b31(00):答。三心を具する事は。たた別の樣なし。阿彌陀ほ
0000_,09,577b32(00):とけの本願に。わか名號を稱念せは。かならす來迎
0000_,09,577b33(00):せんとおほせられたれは。引接せられまいらせんす
0000_,09,577b34(00):るそと。ふかく信して心に念し口に稱するにものう
0000_,09,578a01(00):からず。すてに往生したる心地して。最後の一念に
0000_,09,578a02(00):いたるまてたゆまざるものは。自然に三心は具足す
0000_,09,578a03(00):る也。又在家の者ともは。これ程までおもはされと
0000_,09,578a04(00):も。たた念佛申す者は極樂にむまるなれはとて。つ
0000_,09,578a05(00):ねに念佛をだにも申せは。そらに三心は具足する也。
0000_,09,578a06(00):されはこそいふにかひなきものともの中にも。神妙
0000_,09,578a07(00):なる往生をはする事にてあれ
0000_,09,578a08(00):問曰。臨終の一念は。百年の業にすぐれたりと申す
0000_,09,578a09(00):は。平生の念佛の中に。臨終の一念ほどの念佛をば
0000_,09,578a10(00):申いだし候まじく候やらん
0000_,09,578a11(00):答。三心具足の念佛は。おなし事也。そのゆへは。
0000_,09,578a12(00):觀經にいはく。具三心者必生彼國といへり。必の文
0000_,09,578a13(00):字のあるゆへに。臨終の一念とおなし事也
0000_,09,578a14(00):この問答の問をは。進行集には。禪勝房の問とい
0000_,09,578a15(00):へり。ある文には隆寬律師といへりたづぬへし
0000_,09,578a16(00):
0000_,09,578a17(00):十二箇條問答
0000_,09,578b18(00):問ていはく。念佛すれは往生すへしといふ事。耳な
0000_,09,578b19(00):れたるやうにありなから。いかなるゆへともしらず。
0000_,09,578b20(00):かやうの五障の身まても。すてられぬ事ならは。こ
0000_,09,578b21(00):まかにをしへさせ給へ
0000_,09,578b22(00):答ていはく。をよそ生死をいづる行一つにあらすと
0000_,09,578b23(00):いへとも。まづ極樂に往生せんとねがへ。彌陀を念せ
0000_,09,578b24(00):よといふ事。釋迦一代の敎にあまねくすすめ給へり
0000_,09,578b25(00):そのゆへは。阿彌陀佛本願ををこして。わが名號を
0000_,09,578b26(00):念せんもの。わが淨土にむまれずは。正覺をとらじ
0000_,09,578b27(00):とちかひて。すでに正覺をなり給ふゆへに。この名
0000_,09,578b28(00):號をとなふるものはかならす往生する也。臨終の時
0000_,09,578b29(00):もろもろの聖衆とともにきたりて。かならす迎接し
0000_,09,578b30(00):給ふゆへに。惡業としてさふるものなく。魔縁として
0000_,09,578b31(00):さまたくる事なし。男女貴賤をもえらはす。善人惡人
0000_,09,578b32(00):をもわかたす。至心に彌陀を念するにむまれずとい
0000_,09,578b33(00):ふ事なし。たとへはおもき石をふねにのせつれば。し
0000_,09,578b34(00):つむ事なく。萬里のうみをわたるがことし。罪業のお
0000_,09,579a01(00):もき事は石のごとくなれとも。本願のふねにのりぬ
0000_,09,579a02(00):れは生死のうみにしづむ事なく。かならす往生する
0000_,09,579a03(00):也。ゆめゆめわが身の罪業によりて本願の不思議を
0000_,09,579a04(00):うたがはせ給ふへからす。これを他力の往生とは申
0000_,09,579a05(00):也。自力にて生死をいでんとするには。煩惱惡業を
0000_,09,579a06(00):斷じつくして淨土にもまいり菩提にもいたるとなら
0000_,09,579a07(00):ふ。これは步よりけはしきみちをゆくがことし
0000_,09,579a08(00):問ていはく。罪業をもけれとも。智惠の燈をもて煩
0000_,09,579a09(00):惱のやみをはらふ事にて候なれは。かやうの愚癡の
0000_,09,579a10(00):身には。つみをつくる事はかさなれとも。つくのふ
0000_,09,579a11(00):事はなし。なにをもてこのつみをけすへしともおほ
0000_,09,579a12(00):えす候はいかん
0000_,09,579a13(00):答ていはく。ただ佛の御詞を信じてうたかひなけれ
0000_,09,579a14(00):は。佛の御ちからにて往生する也。さきのたとへの
0000_,09,579a15(00):ごとく。ふねにのりぬれは。目しゐたるものも目あき
0000_,09,579a16(00):たるものもともにゆくがことし。智惠のまなこある
0000_,09,579a17(00):者も。佛を念ぜされは願力にかなはす。愚癡のやみ
0000_,09,579b18(00):ふかきものも。念佛すれは願力に乘ずるなり。念佛
0000_,09,579b19(00):する者をは彌陀の光明をはなちてつねにてらして捨
0000_,09,579b20(00):給はねは。惡縁にあはすして。必臨終に正念をえて
0000_,09,579b21(00):往生する也。さらにわが身の智惠のありなしにより
0000_,09,579b22(00):て。往生の定不定をはさだむへからす。ただ信心の
0000_,09,579b23(00):ふかかるへき也
0000_,09,579b24(00):問ていはく。世をそむきたる人は。ひとすぢに念佛
0000_,09,579b25(00):すれは往生も得やすき事也。かやうの身には。あし
0000_,09,579b26(00):たにもゆふへにも。いとなむ事は名聞。昨日も今日
0000_,09,579b27(00):もおもふ事は利養也。かやうの身にて申さん念佛は
0000_,09,579b28(00):いかか佛の御意にもかなひ候へきや
0000_,09,579b29(00):答ていはく。淨摩尼珠といふ珠を。にこれる水に投れ
0000_,09,579b30(00):は。珠の用力にてその水きよくなるがことし。衆生の
0000_,09,579b31(00):心はつねに名利にそみて。にごれる事がの水のごと
0000_,09,579b32(00):くなれとも。念佛の摩尼珠を投れは。心の水をのつか
0000_,09,579b33(00):らきよくなりて。往生をうる事は。念佛のちから也。
0000_,09,579b34(00):わが心をしづめ。このさわりをのぞきて。後念佛せよ
0000_,09,580a01(00):とにはあらず。ただつねに念佛して。そのつみをは滅
0000_,09,580a02(00):すへし。されはむかしより在家の人。おほく往生した
0000_,09,580a03(00):るためしいくはくかおほき。心のしづかならざらん
0000_,09,580a04(00):につけても。よくよく佛力をたのみ。もはら念佛すへ
0000_,09,580a05(00):し
0000_,09,580a06(00):問ていはく。念佛は數遍を申せとすすむる人もあり
0000_,09,580a07(00):又さもなくともなど申人もあり。いづれにかしたが
0000_,09,580a08(00):ひ候へき
0000_,09,580a09(00):答ていはく。さとりもあり。ならふむねもありて申
0000_,09,580a10(00):さん事は。その心のうちしりがたけれは。さだめが
0000_,09,580a11(00):たし。在家の人の。つねに惡縁にのみしたしまれ。
0000_,09,580a12(00):身には數遍を申さずして。いたづらに日をくらし。
0000_,09,580a13(00):むなしく夜をあかさん事。荒凉の事にや候はんずら
0000_,09,580a14(00):ん。凡夫は縁にしたがひて退しやすき物なれは。い
0000_,09,580a15(00):かにもいかにもはげむへき事也。されは處處に。おほく念
0000_,09,580a16(00):念相續してわすれざれといへり
0000_,09,580a17(00):問ていはく。念念にわすれざる程の事は。わが身に
0000_,09,580b18(00):かなひがたくおほえ候へ。又手には念珠をとれとも
0000_,09,580b19(00):心にはそぞろ事をのみおもふ。この念佛は往生の業
0000_,09,580b20(00):にはかなひかたくや候はんすらん。これをきらはれ
0000_,09,580b21(00):は。この身の往生は不定なるかたもありぬへし
0000_,09,580b22(00):答ていはく。念念にすてざれとをしゆる事は。人のほ
0000_,09,580b23(00):どにしたがひてすすむる事なれは。わが身にとりて
0000_,09,580b24(00):心のをよび。身のはげまん程は。心にはからはせ給ふ
0000_,09,580b25(00):へし。又念佛の時惡業のおもはるる事は。一切の凡夫
0000_,09,580b26(00):のくせ也。さりなからも往生の心さしありて念佛せ
0000_,09,580b27(00):は。ゆめゆめさはりとはなるへからす。たとへは親子
0000_,09,580b28(00):の約束をなす人いささかそむく心あれとも。さきの
0000_,09,580b29(00):約束變改する程の心なけれは。おなし親子なるがこ
0000_,09,580b30(00):とし。念佛して往生せんと志して。念佛を行するに。
0000_,09,580b31(00):凡夫なるがゆへに貪瞋の煩惱おこるといへとも。念
0000_,09,580b32(00):佛往生の約束をひるがへさざれは。かならず往生す
0000_,09,580b33(00):る也
0000_,09,580b34(00):問ていはく。これ程にやすく往生せは。念佛するほ
0000_,09,581a01(00):どの人はみな往生すへきに。ねがふものもおほく。
0000_,09,581a02(00):念するものもおほき中に。往生するもののまれなる
0000_,09,581a03(00):は。なにのゆへとか思ひ候へき
0000_,09,581a04(00):答ていはく。人の心は外にあらはるる事なけれは。
0000_,09,581a05(00):その邪正さだめがたしといへとも。經には三心を具
0000_,09,581a06(00):して往生すとみえて候めり。この心を具せざるがゆ
0000_,09,581a07(00):へに。念佛すれとも往生を得さる也。三心と申は。一
0000_,09,581a08(00):には至誠心。二には深心。三には迴向發願心也。は
0000_,09,581a09(00):しめに至誠心といふは。眞實心也と釋して。内外と
0000_,09,581a10(00):とのほれる心也。何事をするにも。まことしき心な
0000_,09,581a11(00):くては成する事なし。人なみなみの心をもて。穢土
0000_,09,581a12(00):のいとはしからぬをいとふよしをし。淨土のねがは
0000_,09,581a13(00):しからぬをねがふ氣色をして。内外ととのほらぬを
0000_,09,581a14(00):きらひて。まことの志しをもて。穢土をもいとひ淨
0000_,09,581a15(00):土をもねがへとをしふる也。次に深心といふは。佛
0000_,09,581a16(00):の本願を信ずる心也。われは惡業煩惱の身なれとも
0000_,09,581a17(00):佛の願力にて。かならす往生するなりといふ道理を
0000_,09,581b18(00):ききてふかく信じて。つゆちりばかりもうたがはぬ
0000_,09,581b19(00):心也。人おほくさまたげんとして是をにくみ。これを
0000_,09,581b20(00):さへぎれとも。これによりて心のはたらかざるをふ
0000_,09,581b21(00):かき信とは申也。次に迴向發願心といふは。わが修す
0000_,09,581b22(00):るところの行を迴向して。極樂にむまれんとねがふ
0000_,09,581b23(00):心也。わが行のちから。わが心のいみしくて往生すへ
0000_,09,581b24(00):しとはおもはず。佛の願力のいみじくおはしますに
0000_,09,581b25(00):よりて。むまるべくもなきものも生るへしと信じて。
0000_,09,581b26(00):いのちをはらは佛必すきたりてむかへ給へしとおも
0000_,09,581b27(00):ふ心を。金剛の一切のものにやぶられざるかごとく。
0000_,09,581b28(00):この心をふかく信じて。臨終までもとほりぬれは。十
0000_,09,581b29(00):人は十人なからむまれ。百人は百人なからむまるる
0000_,09,581b30(00):也。されはこの心なきものは。佛を念ずれとも順次の
0000_,09,581b31(00):往生をばとげす。遠縁とはなるへしこの心のをこり
0000_,09,581b32(00):たる事は。わが身にしるへし。人はしるへからす
0000_,09,581b33(00):問ていはく。往生をねがはぬにはあらす。ねがふと
0000_,09,581b34(00):いへともその心勇猛ならす。又念佛を賤しと思ふに
0000_,09,582a01(00):はあらす。行じなからをろそかにしてあかしくらし
0000_,09,582a02(00):候へは。かかる身なれは。いかにもこの三心具したり
0000_,09,582a03(00):と申べくもなし。されはこのたびの往生をはおもひ
0000_,09,582a04(00):たえ候へきにや
0000_,09,582a05(00):答ていはく。淨土をねがへともはげしからす。念佛
0000_,09,582a06(00):すれども心のゆるらかなる事をなげくは。往生の心
0000_,09,582a07(00):ざしのなきにはあらす。心ざしのなき者はゆるらか
0000_,09,582a08(00):なるをもなげかず。はげしからぬをもかなしまず。い
0000_,09,582a09(00):そくみちにはあしのをそきをなげく。いそがざるみ
0000_,09,582a10(00):ちにはこれをなげかざるかことし。又このめばをの
0000_,09,582a11(00):つから發心すと申す事もあれは。漸漸に增進してか
0000_,09,582a12(00):ならす往生すへし。日ころ十惡五逆をつくれるもの
0000_,09,582a13(00):も。臨終にはじめて善知識にあひて往生する事あ
0000_,09,582a14(00):り。いはんや往生をねがひ。念佛を申してわが心の
0000_,09,582a15(00):はげしからぬ事をなげかむ人をは。佛もあはれみ菩
0000_,09,582a16(00):薩もまもりて。障りをのそき。知識にあひて。往生
0000_,09,582a17(00):をうへき也
0000_,09,582b18(00):問ていはく。念佛の行者はつねにいかやうにかおも
0000_,09,582b19(00):ひ候へき
0000_,09,582b20(00):答ていはく。あるときには世間の無常なる事をおも
0000_,09,582b21(00):ひて。このよのいくほとなき事をしれ。ある時には。
0000_,09,582b22(00):佛の本願をおもひて。かならすむかへ給へと申せ。
0000_,09,582b23(00):ある時には人身のうけがたきことはりをおもひて。
0000_,09,582b24(00):このたひむなしくやまん事をかなしめ。六道をめく
0000_,09,582b25(00):るに。人身をうる事は。梵天より糸をくだして。大
0000_,09,582b26(00):海のそこなる針のあなをとをさんかことしといへ
0000_,09,582b27(00):り。ある時は。あひがたき佛法にあへり。このたひ
0000_,09,582b28(00):出離の業をうへずは。いつをか期すべきとおもふへ
0000_,09,582b29(00):き也。ひとたび惡道に墮しぬれは。阿僧祇劫をふれ
0000_,09,582b30(00):ども。三寳の御名をきかず。いかにいはんやふかく
0000_,09,582b31(00):信ずる事をえんや。ある時にはわが身の宿善をよろ
0000_,09,582b32(00):こぶへし。かしこきもいやしきも人おほしといへと
0000_,09,582b33(00):も。佛法を信じ淨土をねがふものはまれ也。信ずる
0000_,09,582b34(00):までこそかたからめ。そしりにくみて惡道の因をの
0000_,09,583a01(00):みつくる。しかるにこれを信じこれを貴ひて。佛を
0000_,09,583a02(00):たのみ往生を志す。これひとへに宿善のしからしむ
0000_,09,583a03(00):る也。ただ今生のはげみにあらす。往生すへき期の
0000_,09,583a04(00):いたれる也とたのもしくよろこぶへし。かやうの事
0000_,09,583a05(00):を。おりにしたがひ。事によりておもふべき也
0000_,09,583a06(00):問ていはく。かやうの愚癡の身には聖敎をもみず。
0000_,09,583a07(00):惡縁のみおほし。いかなる方法をもてか。わが心を
0000_,09,583a08(00):まもり。信心をももよほすべきや。
0000_,09,583a09(00):答ていはく。そのやう一つにあらず。あるひは人の
0000_,09,583a10(00):苦にあふをみて。三途の苦をおもひやれ。あるひは
0000_,09,583a11(00):人のしぬるを見て。無常のことはりをさとれ。ある
0000_,09,583a12(00):ひは。つねに念佛してその心をはけませ。あるひは
0000_,09,583a13(00):つねによき友にあひて。心をはぢしめられよ。人の心
0000_,09,583a14(00):はおほく惡縁によりてあしき心のをこる也。されは
0000_,09,583a15(00):惡縁をはさり。善縁にちかづけといへり。これらの
0000_,09,583a16(00):方法ひとしなならず。時にしたがひてはからふへし
0000_,09,583a17(00):問ていはく念佛の外の餘善をは。往生の業にあらず
0000_,09,583b18(00):とて。修すへからすといふ事あり。これはしかるべ
0000_,09,583b19(00):しや
0000_,09,583b20(00):答ていはく。たとへは人のみちをゆくに。主人一人
0000_,09,583b21(00):につきて。おほくの眷屬のゆくがことし。往生の業
0000_,09,583b22(00):の中に念佛は主人也。餘の善は眷屬也。しからは餘
0000_,09,583b23(00):善をきらふまではあるへからす
0000_,09,583b24(00):問ていはく。本願は惡人をきらはねばとて。このみて
0000_,09,583b25(00):惡業をつくる事はしかるへしや
0000_,09,583b26(00):答ていはく。佛は惡人をすて給はねとも。このみて
0000_,09,583b27(00):惡をつくる事。これ佛の弟子にはあらす。一切の佛
0000_,09,583b28(00):法に惡を制せずといふ事なし。惡を制するに。かな
0000_,09,583b29(00):らずしもこれをととめ得ざるものは。念佛してその
0000_,09,583b30(00):つみを滅せよとすすめたる也。わが身のたへねはと
0000_,09,583b31(00):て。佛にとがをかけたてまつらん事は。おほきなる
0000_,09,583b32(00):あやまり也。わが身の惡をととむるにあたはずは。
0000_,09,583b33(00):ほとけ慈悲をすて給はすして。このつみを滅してむ
0000_,09,583b34(00):かへ給へと申へし。つみをはただつくるへしといふ
0000_,09,584a01(00):事は。すべて佛法にいはざるところ也。たとへは人
0000_,09,584a02(00):のおやの。一切の子をかなしむに其中によき子もあ
0000_,09,584a03(00):り。あしき子もあり。ともに慈悲をなすといへとも。
0000_,09,584a04(00):惡を行ずる子をは目をいからかし。杖をささげて。
0000_,09,584a05(00):いましむるがことし。佛の慈悲のあまねき事をきき
0000_,09,584a06(00):ては。つみをつくれとおほしめすといふおもひをな
0000_,09,584a07(00):さは。佛の慈悲にももれぬへし。惡人まてをもすて
0000_,09,584a08(00):給はぬ本願としらんにつけては。いよいよ佛の知見
0000_,09,584a09(00):をははづへし。かなしむへし。父母の慈悲あればと
0000_,09,584a10(00):て。父母のまへにて惡を行ぜんに。その父母よろこ
0000_,09,584a11(00):ぶへしや。なげきなからすてず。あはれみながらに
0000_,09,584a12(00):くむ也。佛も又もてかくのことし
0000_,09,584a13(00):問ていはく。凡夫は心に惡をおもはずといふ事なし。
0000_,09,584a14(00):この惡を外にあらはささるは。佛をばはぢすして。人
0000_,09,584a15(00):目をはばかるといふ物なり。これは心のままにふる
0000_,09,584a16(00):まふへしや
0000_,09,584a17(00):答ていはく。人の歸依を得むとおもひて。外をかざ
0000_,09,584b18(00):らんはとがあるかたもやあらん。惡をしのばんがた
0000_,09,584b19(00):めに。たとひ心におもふとも。ほかまではあらはさ
0000_,09,584b20(00):じとおもひて。をさへん事は。すなはち佛に耻る心
0000_,09,584b21(00):也。とにもかくにも惡をしのびて。念佛の功をつむ
0000_,09,584b22(00):へき也。習ひさきよりあらざれは。臨終正念もかた
0000_,09,584b23(00):し。常に臨終のおもひをなして。臥ごとに十念をと
0000_,09,584b24(00):なふへし。されはねてもさめてもわするる事なかれ
0000_,09,584b25(00):といへり。おほかたは世間も出世も。道理はたがは
0000_,09,584b26(00):ぬ事にて候也。心ある人は。父母あはれみ。主君も
0000_,09,584b27(00):はこくむにしたがひて惡事をはしりぞき。善事をは
0000_,09,584b28(00):このまんとおもへり。惡人をもすて給はぬ本願とき
0000_,09,584b29(00):かんにも。まして善人をは。いかばかりかよろこび給
0000_,09,584b30(00):はんと思ふへき也。一念十念をもむかへ給ふときか
0000_,09,584b31(00):は。いはんや百念千念をやとおもひて。心のをよひ。
0000_,09,584b32(00):身のはげまれん程ははげむへし。さればとてわが身
0000_,09,584b33(00):の器量のかなはざらんをばしらす。佛の引接をはう
0000_,09,584b34(00):たがふへからす。たとひ七八十のよはひを期すとも。
0000_,09,585a01(00):おもへは夢のことし。いはんや老少不定なれは。いつ
0000_,09,585a02(00):をかきりとおもふへからす。さらに後を期する心あ
0000_,09,585a03(00):るへからす。ただ一すちに念佛すべしといふ事。そ
0000_,09,585a04(00):のいはれ一にあらず
0000_,09,585a05(00):これを見むおりおりことにおもひいてて
0000_,09,585a06(00):南無阿彌陀佛とつねにとなへよ
0000_,09,585a07(00):
0000_,09,585a08(00):
0000_,09,585a09(00):
0000_,09,585a10(00):
0000_,09,585a11(00):
0000_,09,585a12(00):
0000_,09,585a13(00):
0000_,09,585a14(00):
0000_,09,585a15(00):
0000_,09,585a16(00):
0000_,09,585a17(00):黑谷上人語燈錄卷第十四
0000_,09,585b18(00):黑谷上人語燈錄卷第十五
0000_,09,585b19(00):
0000_,09,585b20(00):厭欣沙門了惠集錄
0000_,09,585b21(00):
0000_,09,585b22(00):和語第二之五當卷有三章
0000_,09,585b23(00):一百四十五箇條問答第二十二
0000_,09,585b24(00):上人と明遍との問答第二十三
0000_,09,585b25(00):諸人傳説の詞第二十四御歌附
0000_,09,585b26(00):一百四十五箇條問答
0000_,09,585b27(00):一ふるき堂塔を修理して候はんをは。供養し候へき
0000_,09,585b28(00):か
0000_,09,585b29(00):答。かならす供養すへしといふ事も候はす。又供養
0000_,09,585b30(00):して候はんもあしき事にも候はす。功德にて候へは
0000_,09,585b31(00):又供養せねばとてつみをえ。あしき事と申にても候
0000_,09,585b32(00):はす
0000_,09,585b33(00):一佛の開眼と。供養とは一つ事にて候か
0000_,09,585b34(00):答。開眼と供養とは。別の事にて候へきを。おなし
0000_,09,585b35(00):事にしあひて候也。開眼と申すは。本躰は。佛師か
0000_,09,586a01(00):まなこをいれひらきまいらせ候を申候也。これをは
0000_,09,586a02(00):事の開眼と申候也。つぎに僧の佛眼の眞言をもて。
0000_,09,586a03(00):まなこをひらき。大日の眞言をもて。ほとけの一切
0000_,09,586a04(00):の功德を成就し候をは。理の開眼と申候也。つぎに
0000_,09,586a05(00):供養といふは。ほとけに。花香佛供。御あかしなとを
0000_,09,586a06(00):もまいらせ。さらぬたからをもまいらせ候を。供養
0000_,09,586a07(00):とは申候也
0000_,09,586a08(00):一この眞如觀は。志候へき事にて候か
0000_,09,586a09(00):答。これは惠心のと申て候へとも。いらぬ物にて候也
0000_,09,586a10(00):おほかた眞如觀は。われら衆生は。えせぬ事にて候
0000_,09,586a11(00):程に。往生のためには。成へきともおもはれぬこと
0000_,09,586a12(00):にて候へは。無益に候
0000_,09,586a13(00):一又これに計算して候ところは。何事もむなしと觀
0000_,09,586a14(00):ぜよと申て候。空觀と申候は。これにて候な。され
0000_,09,586a15(00):は觀し候へきやうは。たとへはこの世のことを執著
0000_,09,586a16(00):して。思ふましきとをしへて候と見えて候へは。お
0000_,09,586a17(00):ほやう御らんのためにまいらせ候
0000_,09,586b18(00):答。これはみな理觀とてかなはぬ事にて候也。僧のと
0000_,09,586b19(00):しころならひたるだにもえせず。まして女房なとの。
0000_,09,586b20(00):つやつや案内もしらざらんは。いかにもかなふまじ
0000_,09,586b21(00):く候也。御たづねまでも無益にて候
0000_,09,586b22(00):一この七佛の名號をとなふべき樣とて。人のたびて
0000_,09,586b23(00):候ままに信じ候へは。つみはうせ候べきか。なに事
0000_,09,586b24(00):もそれよりおほせ候御事は。たのもしく候ひて。か
0000_,09,586b25(00):やうに申候
0000_,09,586b26(00):答。これさなくとも候なん。念佛にこれらのつみの
0000_,09,586b27(00):うせ候ましくはこそ候はめ
0000_,09,586b28(00):一一文の師をもをろそかに申候へは。習ひたる物の
0000_,09,586b29(00):冥加なしと申候は。まことにて候か
0000_,09,586b30(00):答。師のことはをろそかならず候。恩の中にふかき事
0000_,09,586b31(00):これにすぎ候はす
0000_,09,586b32(00):一心を一つにして念し候はは。心よくなをり候はず
0000_,09,586b33(00):とも。何事ををこなひ候はずとも。念佛はかりにて
0000_,09,586b34(00):淨土へはまいり候へきか
0000_,09,587a01(00):答。心のみだるるは。この凡夫の習ひにて。ちから
0000_,09,587a02(00):をよはぬ事にて候。ただ心を一にして。よく御念佛
0000_,09,587a03(00):せさせ給ひ候はは。そのつみを滅して。往生せさせ
0000_,09,587a04(00):給ふへき也。その妄念よりもおもきつみも。念佛だ
0000_,09,587a05(00):に申候へは。うせ候也
0000_,09,587a06(00):一經の陀羅尼は。灌頂の僧にうけ候へきか
0000_,09,587a07(00):答法花經のはくるしからす。灌頂の僧のうけさする
0000_,09,587a08(00):陀羅尼は。別の事に候。それはおほめしよらざれ
0000_,09,587a09(00):一普賢經に。佛の母を念ずへしと申候は
0000_,09,587a10(00):答。いさおほえす
0000_,09,587a11(00):一百日のうちの。赤子の不淨かかりたるは。物まう
0000_,09,587a12(00):でにはばかりありと申たるは
0000_,09,587a13(00):答。百日のうちのあか子の不淨くるしからす。なに
0000_,09,587a14(00):もきたなき物のつきて候はんは。きたなくこそ候へ
0000_,09,587a15(00):赤子にかきるまし
0000_,09,587a16(00):一念佛の百万遍。百度申てかならす往生すと申て候
0000_,09,587a17(00):に。いのちみじかくてはいかがし候へき
0000_,09,587b18(00):答。これもひが事に候。百度申てもし候。十念申て
0000_,09,587b19(00):もし候。又一念にてもし候
0000_,09,587b20(00):一阿彌陀經十萬卷よみ候へしと申て候は。いかに
0000_,09,587b21(00):答。これもよみつべからんにとりての事に候。ただ
0000_,09,587b22(00):つとめを。たかくつみ候はんれうにて候
0000_,09,587b23(00):一日所作は。かならすかずをきはめ候はすとも。か
0000_,09,587b24(00):ぞへられんにしたがひてかぞへ。念佛も申候へきか
0000_,09,587b25(00):答。かずをさだめ候はねは。懈怠になり候へは。か
0000_,09,587b26(00):ずをさだめたるがよき事にて候
0000_,09,587b27(00):一にら。き。ひる。ししをくひて。香うせ候はずと
0000_,09,587b28(00):も。つねに念佛は申候へきやらん
0000_,09,587b29(00):答。念佛はなににもさはらぬ事にて候
0000_,09,587b30(00):一六齋に。齋をし候はんには。かねて精進をし。い
0000_,09,587b31(00):かけをし。よき物をきてし候べきか
0000_,09,587b32(00):答。かならすさ候はずとも候なん
0000_,09,587b33(00):一一七日二七日なと服藥し候はんに。六齋の日にあ
0000_,09,587b34(00):たりて候はんをは。いかがし候へき
0000_,09,588a01(00):答。それちからをよはぬ事にて候。されはとて罪に
0000_,09,588a02(00):ては候まじ
0000_,09,588a03(00):一六齋は一生すべく候か。何年すべく候そ
0000_,09,588a04(00):答。それも御心によるべき事にて候。いくらすへし
0000_,09,588a05(00):と申事は候はず
0000_,09,588a06(00):一念佛をは。日所作にいくらばかりあててか。申候
0000_,09,588a07(00):へき
0000_,09,588a08(00):答。念佛のかずは。一万遍をはしめにて。二万三万
0000_,09,588a09(00):五万六万。乃至十万まて申候也。この中に。御心に
0000_,09,588a10(00):まかせて。おぼしめし候はん程を。申させおはしま
0000_,09,588a11(00):すへし
0000_,09,588a12(00):一阿彌陀經をは。一日に何卷ばかりあててか。よみ
0000_,09,588a13(00):候べき
0000_,09,588a14(00):答。阿彌陀經はちかひて一生中に。十万卷をだにも
0000_,09,588a15(00):よみまいらせ候ぬれは。决定して往生すと。善導和
0000_,09,588a16(00):尚のおほせられて候也。毎日に十五卷つつよめは。
0000_,09,588a17(00):二十年に十万卷にみち候也。三十卷つつよめは。十
0000_,09,588b18(00):年にみち候也
0000_,09,588b19(00):一五色のいとは。ほとけには。ひだりにとをほせ候
0000_,09,588b20(00):き。わがてには。いづれのかたにていかがひき候へ
0000_,09,588b21(00):き
0000_,09,588b22(00):答。左右の手にてひかせ給ふへし
0000_,09,588b23(00):一佛の名をもかき。貴き事をもかきて候を。あだに
0000_,09,588b24(00):せじとて。やき候は罪をうるに。誦文をしてやくと
0000_,09,588b25(00):申候は。いかか候へき
0000_,09,588b26(00):答。さる反故やき候はんに。何條の誦文か候へき。
0000_,09,588b27(00):しかれどもやくは罪にて候。おほかたは法文をは。
0000_,09,588b28(00):うやまふ事にて候へは。ただきよきところに埋ませ
0000_,09,588b29(00):給ふへし
0000_,09,588b30(00):一戒うけ候時。和尚となり給へ。阿闍梨となり給へ
0000_,09,588b31(00):と申事の候。心え候はす。なにといふ事にて候そ
0000_,09,588b32(00):答。和尚と申候は。まさしく戒うくる根本の師を申
0000_,09,588b33(00):候也。阿闍梨と申候は。戒をうくる時作法をいたす
0000_,09,588b34(00):師にて候也。これをは羯磨阿闍梨と申候也
0000_,09,589a01(00):一齋し候は功德にて候やらん。かならすすへき事に
0000_,09,589a02(00):て候やらん
0000_,09,589a03(00):答。齋は功德をうる事にて候也。六齋の御齋ぞさも
0000_,09,589a04(00):候ひぬへき。又御大事にて御やまひなともをこらせ
0000_,09,589a05(00):おはしましぬへく候はは。さなくとも。ただ御念佛
0000_,09,589a06(00):だにもよくよく候はは。それにて生死をはなれ。淨
0000_,09,589a07(00):土にも往生せさせおはしまさんずる事は。これによ
0000_,09,589a08(00):るべく候
0000_,09,589a09(00):一臨終のおり。阿彌陀の定印なとをならひて。五色
0000_,09,589a10(00):の糸とひかへ候やらん。たださ候はずとも。左右の
0000_,09,589a11(00):手にひかへ候やらん
0000_,09,589a12(00):答。かならす定印をむすふべきにても候はす。ただ
0000_,09,589a13(00):合掌を本躰にてその中にひかへられ候へし
0000_,09,589a14(00):一ちかくてかならすしも。見まいらせ候はねとも。
0000_,09,589a15(00):とをらかにて。ひかへ候やらん
0000_,09,589a16(00):答。とをくも。ちかくも。便宜によるべく候。いか
0000_,09,589a17(00):なるもくるしく候はす
0000_,09,589b18(00):一かならす佛を見。糸をひかへ候はずとも。われは
0000_,09,589b19(00):申さずとも。人の申さん念佛をききても。死候はは
0000_,09,589b20(00):淨土には往生し候へきやらん
0000_,09,589b21(00):答。かならす糸をひくといふ事候はす。佛にむかひ
0000_,09,589b22(00):まいらせねども。念佛だにもすれは往生し候也。又
0000_,09,589b23(00):ききてもし候。それはよくよく信心ふかくての事に
0000_,09,589b24(00):候
0000_,09,589b25(00):一ながく生死をはなれ。三界にむまれしとおもひ候
0000_,09,589b26(00):に。極樂の衆生となりても。又その縁つきぬれはこ
0000_,09,589b27(00):の世にむまるると申候は。まことにて候か。たとひ國
0000_,09,589b28(00):王ともなり。天上にもむまれよ。ただ三界をわかれ
0000_,09,589b29(00):んとおもひ候に。いかにつとめをこなひてか。還り
0000_,09,589b30(00):候はざるへき
0000_,09,589b31(00):答。これもろもろのひが事にて候。極樂へ一たびむ
0000_,09,589b32(00):まれ候ぬれは。ながくこの世にかへる事候はす。み
0000_,09,589b33(00):な佛に成ことにて候也。ただし人をみちびかんため
0000_,09,589b34(00):には。ことさらに還る事も候。されとも生死にめく
0000_,09,590a01(00):る人にては候はず。三界をはなれ。極樂に往生する
0000_,09,590a02(00):には。念佛にすぎたる事は候はぬ也。よくよく御念
0000_,09,590a03(00):佛候へき也
0000_,09,590a04(00):一女房の聽聞し候に。戒をたもたせ候をやぶり候は
0000_,09,590a05(00):んずればとて。たもつとも申候はぬは。いかか候へ
0000_,09,590a06(00):き。ただ聽聞の塲にては。一時もたもつと申候が。
0000_,09,590a07(00):めてたき事と申候は。まことにて候か
0000_,09,590a08(00):答。これはくるしく候はず。たとひのちにやぶれ候
0000_,09,590a09(00):とも。その時たもたんとおもふ心にて。たもつと申
0000_,09,590a10(00):すはよき事にて候
0000_,09,590a11(00):一佛の薄ををして。又供養し候か
0000_,09,590a12(00):答。さ候はすとも
0000_,09,590a13(00):一所作をかきて人にし入させ候は。いかか候へき
0000_,09,590a14(00):答。さなくとも候ひなむ
0000_,09,590a15(00):一卷經を草子にたたむは。罪と申候はいかか候へき
0000_,09,590a16(00):答。つみをえぬ事にて候
0000_,09,590a17(00):一ほとけに具する經を。とりはなちて人にもたぶは
0000_,09,590b18(00):つみにて候か
0000_,09,590b19(00):答。ひろむるは功德にて候
0000_,09,590b20(00):一一部とある經。一卷つつとりはなちてよまんは。
0000_,09,590b21(00):つみにて候か
0000_,09,590b22(00):答。つみにても候はす
0000_,09,590b23(00):一ほとけに厨子をさしてすへまいらせては。供養す
0000_,09,590b24(00):べく候か
0000_,09,590b25(00):答。一切あるまじ
0000_,09,590b26(00):一不輕のことく。人をおかむ事し候べきか
0000_,09,590b27(00):答。このころの人の。え意えぬ事にて候也
0000_,09,590b28(00):一七歳の子しにて。いみなしと申候はいかに
0000_,09,590b29(00):答。佛敎にはいみといふ事なし。世俗に申したらん
0000_,09,590b30(00):やうに
0000_,09,590b31(00):一佛ににかはを具し候がきたなく候。いかかし候へ
0000_,09,590b32(00):き
0000_,09,590b33(00):答。まことにきたなけれとも。具せではかなふまじ
0000_,09,590b34(00):けれは
0000_,09,591a01(00):一尼の服藥し候は。わろく候か
0000_,09,591a02(00):答。やまひにくふはくるしからす。たたはあしく候
0000_,09,591a03(00):一父母のさきに死ぬるは。つみと申候はいかに
0000_,09,591a04(00):答。穢土のならひ。前後ちからなき事にて候
0000_,09,591a05(00):一いきてつくり候功德はよく候か
0000_,09,591a06(00):答。めでたし
0000_,09,591a07(00):一人のまもりをえて候はんは。供養し候へきか
0000_,09,591a08(00):答。せずともくるしからす
0000_,09,591a09(00):一わわくに物くるるは。つみにて候か
0000_,09,591a10(00):答。つみにて候
0000_,09,591a11(00):一經をして供養せすとも。くるしからす候か
0000_,09,591a12(00):答。ただよむへし
0000_,09,591a13(00):一經千部よみては。供養し候へきか
0000_,09,591a14(00):答。さも候まし
0000_,09,591a15(00):一懺悔の事。幡や花鬘なとかざり候へきか
0000_,09,591a16(00):答。さらでも。たた一心ぞ大切に候
0000_,09,591a17(00):一花香をほとけにまいらせ候事は
0000_,09,591b18(00):答。曉は供養法にかならすまいらせ候。ただは花瓶
0000_,09,591b19(00):にさしちらしても供養すへし。香はかならずたくへ
0000_,09,591b20(00):し。便あしくはなくとも
0000_,09,591b21(00):一經をは。僧にうけ候べきか
0000_,09,591b22(00):答。われとよみつへくは。僧にうけすとも
0000_,09,591b23(00):一聽聞ものまうでは。かならずし候へきか
0000_,09,591b24(00):答。せずとも。中中わろく候。しづかにたた御念佛
0000_,09,591b25(00):候へ
0000_,09,591b26(00):一神に後世申候事いかむ
0000_,09,591b27(00):答。佛に申すにはすぐまし
0000_,09,591b28(00):一説經師は。つみふかく候歟。又妻にならんものも
0000_,09,591b29(00):つみふかしと申候は。まことにて候か
0000_,09,591b30(00):答。本躰は功德をうへく候に。末世のはつみをえつ
0000_,09,591b31(00):へし。妻にならんものは。つみ
0000_,09,591b32(00):一麝香丁子をもち候は。つみにて候か
0000_,09,591b33(00):答。かをあつむるは。つみ
0000_,09,591b34(00):一妻。おとこに經ならふ事。いかか候へき
0000_,09,592a01(00):答。くるしからす
0000_,09,592a02(00):一還俗のものに目を見あはせずと申候は。まことに
0000_,09,592a03(00):て候か
0000_,09,592a04(00):答。さまでは不説。ひが事
0000_,09,592a05(00):一還俗を心ならずして候はんは。罪いかに
0000_,09,592a06(00):答。あさく候
0000_,09,592a07(00):一神佛へまいらんに。三日一日の精進。いづれかよ
0000_,09,592a08(00):く候
0000_,09,592a09(00):答。信を本にす。いくかといふ本説なし。三日こそ
0000_,09,592a10(00):よく候はめ
0000_,09,592a11(00):一歌よむはつみにて候か
0000_,09,592a12(00):答。あながちにえ候はじ。ただし罪もえ。功德にも
0000_,09,592a13(00):なる
0000_,09,592a14(00):一さけのむは。つみにて候か
0000_,09,592a15(00):答。まことにはのむべくもなけれども。この世のなら
0000_,09,592a16(00):ひ
0000_,09,592a17(00):一魚鳥鹿は。かはり候か
0000_,09,592b18(00):答。ただおなし事
0000_,09,592b19(00):一尼になりて。百日精進はよく候か
0000_,09,592b20(00):答。よし
0000_,09,592b21(00):一佛つくりて。經はかならす具し候へきか
0000_,09,592b22(00):答。かならす具すへしとも候はす。又具してもよし
0000_,09,592b23(00):一功德は身のたふるほどど申候は。まことにて候か
0000_,09,592b24(00):答。沙汰にをよひ候はす。ちからのたふるほと
0000_,09,592b25(00):一經と佛と。かならす一度にすへ候か
0000_,09,592b26(00):答。さも候はす。ひとつつつも
0000_,09,592b27(00):一錫杖は。かならす誦すへきか
0000_,09,592b28(00):答。さなくとも。そのいとまに念佛一遍も申へし。
0000_,09,592b29(00):あま法師こそありく時。むしのために誦し候へ
0000_,09,592b30(00):一いみの日。物まうでし候はいかに
0000_,09,592b31(00):答。くるしからす。本命日にも
0000_,09,592b32(00):一五逆十惡。一念十念にほろび候か
0000_,09,592b33(00):答。うたがひなく候
0000_,09,592b34(00):一臨終に。善知識にあひ候はずとも。日ころの念佛
0000_,09,593a01(00):にて往生はし候へきか
0000_,09,593a02(00):答。善知識にあはずとも。臨終おもふ樣ならずとも
0000_,09,593a03(00):念佛さへ申さは往生すへし
0000_,09,593a04(00):一誹謗正法は。五逆のつみにおほくまされりと申候
0000_,09,593a05(00):はまことにて候か
0000_,09,593a06(00):答。これはいと人のせぬ事にて候
0000_,09,593a07(00):一死て候はんもののかみは。そり候へきか
0000_,09,593a08(00):答。かならすさるまし
0000_,09,593a09(00):一心に妄念のいかにも思はれ候は。いかかし候へき
0000_,09,593a10(00):答。ただよくよく念佛を申させ給へ
0000_,09,593a11(00):一わかれうの。臨終の物の具。まづ人にかし候はい
0000_,09,593a12(00):かか候へき
0000_,09,593a13(00):答。くるしからす
0000_,09,593a14(00):一五色のいとをうむ事はいかか
0000_,09,593a15(00):答。おさなきものに。うます
0000_,09,593a16(00):一節ある楊枝をはつかはず續帶靑帶無文の帶するは
0000_,09,593a17(00):いむと申候は
0000_,09,593b18(00):答。くるしからす
0000_,09,593b19(00):一服藥のわたは。あらひ候はざらんはいかか候
0000_,09,593b20(00):答。くるしからす
0000_,09,593b21(00):一よき物をき。わろきところに居て。往生ねかひ候
0000_,09,593b22(00):はいかか
0000_,09,593b23(00):答。くるしからす。八齋戒の時こそ。さは候はめ
0000_,09,593b24(00):一月のはばかりの時。經よみ候はいかか
0000_,09,593b25(00):答。くるしみあるへしとも見えす候
0000_,09,593b26(00):一申す事のかなひ候はぬに。佛をうらみ申はいかか
0000_,09,593b27(00):答。うらむへからす。縁により信のありなしによ
0000_,09,593b28(00):りて。利生はあり。この世のちの世。佛をたのむに
0000_,09,593b29(00):はしかす
0000_,09,593b30(00):一ひるししは。いづれも七日にて候か。又ししの干
0000_,09,593b31(00):たるは。い見ふかしと申候はいかに
0000_,09,593b32(00):答。ひるも香うせなははばかりなし。ししのひたる
0000_,09,593b33(00):によりて。いみふかしといふ事はひが事
0000_,09,593b34(00):一月のはばかりのあひだ。神の料に。經はくるしく
0000_,09,594a01(00):候まじきか
0000_,09,594a02(00):答。神やはばかるらん。佛法にはいまず。陰陽師に
0000_,09,594a03(00):とはせ給へ
0000_,09,594a04(00):一子うみて。佛神へまいる事。百日はばかりと申候
0000_,09,594a05(00):は。まことにて候か
0000_,09,594a06(00):答。それも佛法には。いまず
0000_,09,594a07(00):一法花經一品よみさして。魚くはずと申候はいかに
0000_,09,594a08(00):答。くるしからす
0000_,09,594a09(00):一ずずもたず。かけおびかけずして。經をうけ候事
0000_,09,594a10(00):はいかに
0000_,09,594a11(00):答。くるしからす
0000_,09,594a12(00):一齋にまめあづきの御れうぐはせずと申候は。まこ
0000_,09,594a13(00):とにて候か
0000_,09,594a14(00):答。くるしからす
0000_,09,594a15(00):一ねてもさめても。口あらはて念佛申候はんは。い
0000_,09,594a16(00):かか候へき
0000_,09,594a17(00):答。くるしからす
0000_,09,594b18(00):一信施をうくるは。つみにて候か
0000_,09,594b19(00):答。つとめしてくふ僧はくるしからす。せねはふか
0000_,09,594b20(00):し
0000_,09,594b21(00):一神のあたりの物くふは。くちなはと申候はいかに
0000_,09,594b22(00):答。禰宜神主は。ひとへにその身になるにこそ。さ
0000_,09,594b23(00):らぬが。すこしくはんはおもからじ
0000_,09,594b24(00):一僧の物くひ候も。つみにて候か
0000_,09,594b25(00):答。つみうるも候。えぬも候。佛のもの。奉加結縁の
0000_,09,594b26(00):物くふは。つみ
0000_,09,594b27(00):一大佛天王寺なとの邊に居て。僧の物くひて。後世
0000_,09,594b28(00):とらんとし候人は。つみか
0000_,09,594b29(00):答。念佛だに申さは。くるしからす
0000_,09,594b30(00):一齋するあした。御れうあまたにむかふはいかか候
0000_,09,594b31(00):答。くるしからす
0000_,09,594b32(00):一齋をつとめて見そうついかに
0000_,09,594b33(00):答。くるしからす
0000_,09,594b34(00):一戒をたもちて。のち精進はいく日し候
0000_,09,595a01(00):答。いくかも御心まかせ
0000_,09,595a02(00):一聽聞は功德をえ候か
0000_,09,595a03(00):答。功をえ候
0000_,09,595a04(00):一念佛を行にしたるものが。物まうではいかに
0000_,09,595a05(00):答。くるしからす
0000_,09,595a06(00):一物まうでして。經を廻向すべきに。經をはよまで。
0000_,09,595a07(00):念佛を廻向する。くるしからすと申候はいかに
0000_,09,595a08(00):答。くるしからす
0000_,09,595a09(00):一わが心ざさぬ魚は。殺生にては候はぬか
0000_,09,595a10(00):答。それは殺生ならす
0000_,09,595a11(00):一服藥のすすは。あらひ候へきか
0000_,09,595a12(00):答。あらひあらはす。くるしからす
0000_,09,595a13(00):一千手藥師は。ものいませ給ふと申いかに
0000_,09,595a14(00):答。さる事なし
0000_,09,595a15(00):一六齋に。にらひるいかに
0000_,09,595a16(00):答。めさざらんはよく候
0000_,09,595a17(00):一齋のくひ物は。きよくし候へきか
0000_,09,595b18(00):答。例の定行水も候まじ。かねて精進も候まじ。ひ
0000_,09,595b19(00):きいれも。たたのおりのにて候へし。齋の誦文も女
0000_,09,595b20(00):房はせずとも。ただ念佛を申させ給へ。さしたる事あ
0000_,09,595b21(00):りて。齋をかきたらは。いつの日にてもせさせ給へ
0000_,09,595b22(00):一三年おがみの事。し候へきか
0000_,09,595b23(00):答。さらずとも候なん
0000_,09,595b24(00):一齋のさばには。菜を具し候へきか。齋の生飯をは。
0000_,09,595b25(00):屋のうへにうちあげ候へきか。かはらけにとり候へ
0000_,09,595b26(00):きか。わがひきいれのさらにとり候へきか
0000_,09,595b27(00):答。いつれも御心したい
0000_,09,595b28(00):一女のものねたむ事は。つみにて候か
0000_,09,595b29(00):答。世世に女となる果報にて。ことに心うき事也
0000_,09,595b30(00):一出家し候はねども。往生はし候か
0000_,09,595b31(00):答。在家ながら往生する人おほし
0000_,09,595b32(00):一五色の糸を。あまたにきりて。人にたまはんは。
0000_,09,595b33(00):いかか候へき
0000_,09,595b34(00):答。きるべからす
0000_,09,596a01(00):一念佛を申候に。はらのたつ心のさまさまに候。い
0000_,09,596a02(00):かがし候へき
0000_,09,596a03(00):答。散亂の心。よにわろき事にて候。かまへて一心
0000_,09,596a04(00):に申させ給へ
0000_,09,596a05(00):一かみつけながら。おとこをんなの死候は。いかに
0000_,09,596a06(00):答。かみにより候はす。ただ念佛と見えたり
0000_,09,596a07(00):一尼の子うみ。おとこもつ事は。五逆罪ほどと申。
0000_,09,596a08(00):まことにて候か
0000_,09,596a09(00):答。五逆ほどならねとも。おもく見えて候
0000_,09,596a10(00):一尼法師。かみをおほす。つみにて候か
0000_,09,596a11(00):答。三惡道の業にて候
0000_,09,596a12(00):一經佛なとうり候は。つみにて候か
0000_,09,596a13(00):答。つみふかく候
0000_,09,596a14(00):一人をうり候も。つみにて候か
0000_,09,596a15(00):答。それもつみにて候
0000_,09,596a16(00):一精進の時つめきらすと申。又女にかみそらせぬと
0000_,09,596a17(00):申候。いかに
0000_,09,596b18(00):答。みなひが事
0000_,09,596b19(00):一われも人も。さゑもんかく。罪にて候か
0000_,09,596b20(00):答。すごさざらんには。なにか罪にて候へき
0000_,09,596b21(00):一酒のいみ。七日と申候は。まことにて候か
0000_,09,596b22(00):答。さにて候。されどもやまひには。ゆるされて候
0000_,09,596b23(00):一魚鳥くひては。いかけして。經はよみ候へきか
0000_,09,596b24(00):答。いかけしてよむ本躰にて候。せでよむは。功德
0000_,09,596b25(00):と罪と。ともに候。たたしいかけせでも。よまぬよ
0000_,09,596b26(00):りはよむはよく候
0000_,09,596b27(00):一妻おとこ一つにて。經よみ候はん事。いかけし候
0000_,09,596b28(00):へきか
0000_,09,596b29(00):答。これもおなし事。本躰はいかけしてよむへく候。
0000_,09,596b30(00):念佛はせでもくるしからす。經はいかけしてよみ候
0000_,09,596b31(00):へし。毎日よみ候とも
0000_,09,596b32(00):一大根柚は。をこなひにはばかり候と申は。いかに
0000_,09,596b33(00):答。はばかりなし
0000_,09,596b34(00):一尼になりたるかみ。いかがし候へき
0000_,09,597a01(00):答。經の料紙にすき。もしは佛の中にこそはこめ候
0000_,09,597a02(00):へ
0000_,09,597a03(00):一尼法師の紺のきぬ著候はいかに
0000_,09,597a04(00):答。よに罪うる事にて候
0000_,09,597a05(00):一物まうでし候はんに。男女かみあらひ。せめては
0000_,09,597a06(00):いただきあらふと申候は。まことにて候か
0000_,09,597a07(00):答。いづれもさる事候はす
0000_,09,597a08(00):一佛をうらむる事は。あるまじき事にて候な
0000_,09,597a09(00):答。いかさまにも。佛をうらむる事なかれ。信ある
0000_,09,597a10(00):ものは大罪すら滅す。信なき者は小罪だにも滅せす
0000_,09,597a11(00):わが信のなき事をはづへし
0000_,09,597a12(00):一八專に。物まうでせすと申は。まことにて候か
0000_,09,597a13(00):答。さる事候はず。いつならんおりにも。佛の耳に
0000_,09,597a14(00):きかせ給はぬ事の。なじか候へき
0000_,09,597a15(00):一灸治の時物まうでせず。そのおりの著物も。すつ
0000_,09,597a16(00):ると申候は
0000_,09,597a17(00):答。これも又きはめたるひか事にて候。たた灸治を
0000_,09,597b18(00):いたはりて。ありきなとをせぬ事にてこそ候へ。灸
0000_,09,597b19(00):治のいみある事候はす
0000_,09,597b20(00):一ひるししくひて。三年がうちに死候人は。往生せ
0000_,09,597b21(00):ずと申候は。まことにて候やらん
0000_,09,597b22(00):答。これ又きはめたるひが事にて候。臨終に五辛く
0000_,09,597b23(00):ひたる者をはよせずと申たる事は候へとも。三年ま
0000_,09,597b24(00):ていむ事はおほかた候はぬ也
0000_,09,597b25(00):一厄病やみて死ぬる者。子うみて死ぬる者は。つみ
0000_,09,597b26(00):と申候はいかに
0000_,09,597b27(00):答。それも念佛申せは往生し候
0000_,09,597b28(00):一子の孝養おやのするは。うけずと申候はいかに
0000_,09,597b29(00):答。ひが事なり
0000_,09,597b30(00):一産のいみいくかにて候そ。又いみもいくかにて候
0000_,09,597b31(00):そ
0000_,09,597b32(00):答。佛敎には。いみといふ事候はす。世間には産は
0000_,09,597b33(00):七日。又三十日と申げに候。いみも五十日と申す。
0000_,09,597b34(00):御心まかせに候
0000_,09,598a01(00):一沒後の佛經しをく事は。一定すへく候か
0000_,09,598a02(00):答。一定にて候。すへく候
0000_,09,598a03(00):一所作かきてしいれ。かねてかかんするを。さしづ
0000_,09,598a04(00):候はいかに
0000_,09,598a05(00):答。しいるるはくるしからす。かねては懈怠也
0000_,09,598a06(00):一出家は。わかきとおひたると。いづれか功德にて
0000_,09,598a07(00):候
0000_,09,598a08(00):答。老ては功德ばかりえ候。わかきはなをめてたく
0000_,09,598a09(00):候。
0000_,09,598a10(00):一。佛に花まいらする誦文。御らんのためにまいら
0000_,09,598a11(00):せ候
0000_,09,598a12(00):答。これせんなし。念佛を申させ給へ
0000_,09,598a13(00):一いみの者の。ものへまいり候事は。あしく候か
0000_,09,598a14(00):答。くるしからす
0000_,09,598a15(00):一物まうてして。かへさにわがもとへ。返らぬ事は
0000_,09,598a16(00):あしく候か。又魚鳥にやがてみだれ候事いかに
0000_,09,598a17(00):答。熊野のほかはくるしからす
0000_,09,598b18(00):一齋のおりの誦文は。かくし候へしと申候。御らん
0000_,09,598b19(00):のためにまいらせ候
0000_,09,598b20(00):答。齋のおりも。ただ念佛を申させ給へ。女房は誦
0000_,09,598b21(00):文せずとも
0000_,09,598b22(00):一女房の物ねたみの事。されはつみふかく候な
0000_,09,598b23(00):答。ただよくよく一心に念佛を申させ給へ
0000_,09,598b24(00):一桐のはい。かみにつくるは。佛神に申事のかなは
0000_,09,598b25(00):ぬと申候は。まことにて候か
0000_,09,598b26(00):答。そら事なり
0000_,09,598b27(00):一物へまいり候精進。三日といふ日まいり候へきか。
0000_,09,598b28(00):四日のつとめでか
0000_,09,598b29(00):答。三日のつとめでまいる
0000_,09,598b30(00):一物こもりして候に。三日とおもひ候はんは四日に
0000_,09,598b31(00):なしていで。七日とおもひて候はんは八日になして
0000_,09,598b32(00):いで候へきか
0000_,09,598b33(00):答。それは世の人のせんように
0000_,09,598b34(00):一ずずに。さくらくり。いむと申候はいかに
0000_,09,599a01(00):答。さる事候はす
0000_,09,599a02(00):一法師のつみは。ことにふかしと申候は
0000_,09,599a03(00):答。とりわき候はす
0000_,09,599a04(00):一現世をいのり候に。しるしの候はぬ人はいかに候
0000_,09,599a05(00):ぞ
0000_,09,599a06(00):答。現世をいのるに。しるしなしと申事。佛の御そ
0000_,09,599a07(00):らことには候はす。わが心の説のことくせぬによりて
0000_,09,599a08(00):しるしなき事は候也。されはよくするにはみなしる
0000_,09,599a09(00):しは候也。觀音を念するにも。一心にすれはしるし
0000_,09,599a10(00):候。もし一心なけれはしるし候はす。むかしの縁あ
0000_,09,599a11(00):つき人は。定業すらなを轉ず。むかしもいまも縁あ
0000_,09,599a12(00):さき人は。ちりはかりのくるしみにだにもしるしな
0000_,09,599a13(00):しと申て候也。佛をうらみおほしめすへからす。た
0000_,09,599a14(00):だこの世。のち世のために佛につかへんには。心
0000_,09,599a15(00):を至し。實をはげむ事。この世もおもふ事かなひ。
0000_,09,599a16(00):のちの世も淨土にむまるる事にて候也。しるしなく
0000_,09,599a17(00):は。わか心をはづへし
0000_,09,599b18(00):建仁元年十二月十四日。けざんにいりて。とひまい
0000_,09,599b19(00):らする事
0000_,09,599b20(00):一臨終の時不淨のものの候には。佛のむかへにわた
0000_,09,599b21(00):らせ給ひたるも。かへらせ給ふと申候は。まことに
0000_,09,599b22(00):て候か
0000_,09,599b23(00):答。佛のむかへにおはしますほどにては。不淨のも
0000_,09,599b24(00):のありといふとも。なじかはかへらせ給へき。佛は
0000_,09,599b25(00):きよききたなきの沙汰なし。ただ念佛ぞよかるへき
0000_,09,599b26(00):きよくとも念佛申さざらんには益なし。万事をすて
0000_,09,599b27(00):て念佛を申すへし。證據のみをほかり
0000_,09,599b28(00):これは御文にてたつね申す
0000_,09,599b29(00):一家のうちのもののしたしきうときをきらはす。往
0000_,09,599b30(00):生のためとをもひて。くひ物きものたまはんは。佛に
0000_,09,599b31(00):供養せんとをなし事にて候か
0000_,09,599b32(00):答。したしきうときをえらはす。往生のためとおほ
0000_,09,599b33(00):しめして。物たびおはしまさん。めてたき功德にて
0000_,09,599b34(00):候。御つかひによくよく申候ぬ
0000_,09,600a01(00):一破戒の僧。愚癡の僧。供養せんも功德にて候か
0000_,09,600a02(00):答。破戒の僧。愚癡の僧を。すゑの世には。佛のこ
0000_,09,600a03(00):とくたとむへきにて候也。この御つかひに申候ぬ。
0000_,09,600a04(00):きこしめし候へ
0000_,09,600a05(00):この御ことはは。上人のまさしき御手也。あみた
0000_,09,600a06(00):經のうらにをしたり
0000_,09,600a07(00):見參にいりてうけ給はる事
0000_,09,600a08(00):一毎日の所作に。六万十萬の數遍を。すすをくりて
0000_,09,600a09(00):申候はんと。二万三萬をずずをたしかにひとつつつ
0000_,09,600a10(00):申候はんと。いつれかよく候へき
0000_,09,600a11(00):答。凡夫のならひ。二萬三萬あつとも如法にはかな
0000_,09,600a12(00):ひがたからん。ただ數遍のおほからんにはすぐへか
0000_,09,600a13(00):らす。名號を相續せんため也。かならずしもかずを
0000_,09,600a14(00):要とするにはあらす。たたつねに念佛せんがためな
0000_,09,600a15(00):り。かずをさためぬは懈怠の因縁なれは。數遍をす
0000_,09,600a16(00):すむるにて候
0000_,09,600a17(00):一眞言の阿彌陀の供養法は。正行にて候へきか
0000_,09,600b18(00):答。佛躰は一つに似たれとも。その意不同なり。眞
0000_,09,600b19(00):言敎の彌陀は。これ己心の如來。ほかをたずぬへか
0000_,09,600b20(00):らす。この敎の彌陀は。これ法藏比丘の成佛也。西
0000_,09,600b21(00):方におはしますゆへに。その意おほきにことなり
0000_,09,600b22(00):一つねに惡をととめ。善をつくるへき事をおもはへ
0000_,09,600b23(00):て念佛申候はんと。ただ本願をたのむばかりにて。
0000_,09,600b24(00):念佛を申候はんと。いつれかよく候へき
0000_,09,600b25(00):答。廢惡修善は。諸佛の通戒なり。しかれとも。當
0000_,09,600b26(00):世のわれらは。みなそれにはそむきたる身なれは。
0000_,09,600b27(00):たたひとへに。別意弘願のむねをふかく信じて。名
0000_,09,600b28(00):號をとなへさせ給はんにすぎ候まじ。有智無智。持
0000_,09,600b29(00):戒破戒をきらはす。阿彌陀ほとけは來迎し給事にて
0000_,09,600b30(00):候なり。御意え候へ
0000_,09,600b31(00):
0000_,09,600b32(00):上人と明遍との問答
0000_,09,600b33(00):明遍問たてまつりての給はく。末代惡世のわれらが
0000_,09,600b34(00):やうなる罪濁の凡夫。いかにしてか生死をはなれ候
0000_,09,601a01(00):へき
0000_,09,601a02(00):上人答ての給はく。南無阿彌陀佛と申して。極樂を
0000_,09,601a03(00):期するばかりこそ。しえつへき事と存して候へ
0000_,09,601a04(00):僧都のいはく。それは形の樣に。さ候へきかと存して
0000_,09,601a05(00):候。それにとりて。决定をせん料に申つるに候。それ
0000_,09,601a06(00):に念佛は申候へとも。心のちるをはいかがし候へき
0000_,09,601a07(00):上人答ていはく。それは源空もちからをよび候はす
0000_,09,601a08(00):僧都のいはく。さてそれをはいかがし候へき
0000_,09,601a09(00):上人のいはく。ちれども名を稱すれは。佛の願力に
0000_,09,601a10(00):乘じて。往生すべしとこそ意えて候へ。ただ詮ずる
0000_,09,601a11(00):ところ。おほらかに念佛を申候が第一の事にて候也
0000_,09,601a12(00):僧都のいはく。かう候そうろう。これうけ給はりにまい
0000_,09,601a13(00):りつるに候とこれより前後には。いささかも詞なくていてられにけり
0000_,09,601a14(00):上人又僧都退出の後。當座のひじりたちにかたりて
0000_,09,601a15(00):の給はく。欲界散地にむまれたるものはみな散心あ
0000_,09,601a16(00):り。たとへは人界の生をうけたる物の。目鼻のある
0000_,09,601a17(00):がことし。散心をすてて往生せんといはん事。その
0000_,09,601b18(00):ことはりしかるへからす。散心ながら念佛申すもの
0000_,09,601b19(00):か往生すれはこそ。めてたき本願にてはあれ。この
0000_,09,601b20(00):僧都の念佛申せども。心のちるをはいかがすへきと
0000_,09,601b21(00):不審せられつるこそ。いはれずおほゆれと云云
0000_,09,601b22(00):
0000_,09,601b23(00):諸人傳説の詞 御歌附
0000_,09,601b24(00):隆寬律師のいはく。法然上人のの給はく。源空も念
0000_,09,601b25(00):佛の外に。毎日に阿彌陀經を三卷よみ候き。一卷は
0000_,09,601b26(00):唐。一卷は吳一卷は訓なり。しかるにこの經に詮す
0000_,09,601b27(00):るところ。ただ念佛申せとこそとかれて候へは。い
0000_,09,601b28(00):まは一卷もよみ候はす。一向念佛を申候也と。隆寬
0000_,09,601b29(00):毎日に阿彌陀經四十八卷よまれきすなはち意えて。やがて阿彌陀經をさ
0000_,09,601b30(00):しをきて。念佛三萬遍を申しきと進行集よりいてたり云云
0000_,09,601b31(00):乘願上人のいはく。ある人問ていはく。色相觀は。
0000_,09,601b32(00):觀經の説也。たとひ稱名の行人なりといふとも。こ
0000_,09,601b33(00):れは觀ずへへ候かいかん
0000_,09,601b34(00):上人答ての給はく。源空もはしめはさるいたずら事
0000_,09,602a01(00):をしたりき。いまはしからす。但信の稱名也と授手印决答よ
0000_,09,602a02(00):りいでたり
0000_,09,602a03(00):又人目をかざらすして。往生の業を相續すれは。自
0000_,09,602a04(00):然に三心は具足する也。たとへは葦のしげき池に。
0000_,09,602a05(00):十五夜の月のやとりたるは。よそにては月やとりた
0000_,09,602a06(00):りとも見えねども。よくよくたちよりてみれは。あ
0000_,09,602a07(00):しまをわけてやどるなり。妄念のあしはしげげれと
0000_,09,602a08(00):も。三心の月はやどる也。これは故上人のつねにた
0000_,09,602a09(00):とへにおほせられし事也とかの二十八問答よりいでたり
0000_,09,602a10(00):ある時又の給はく。あはれこのたびしおほせはやな
0000_,09,602a11(00):と。その時乘願申さく。上人だにもかやうに不定げな
0000_,09,602a12(00):るおほせの候はんには。ましてその餘の人はいかか
0000_,09,602a13(00):候へきと。その時上人うちわらひての給はく。蓮臺
0000_,09,602a14(00):にのらんまでは。いかでかこのおもひはたえ候へき
0000_,09,602a15(00):と閑亭問答集よりいでたり
0000_,09,602a16(00):信空上人のいはく。ある時上人の給はく。淨土の人
0000_,09,602a17(00):師おほしといへとも。みな菩提心をすすめて。觀察
0000_,09,602b18(00):を正とす。たた善導一師のみ。菩提心なくして。觀
0000_,09,602b19(00):察をもて稱名の助業と判す。當世の人善導の意によ
0000_,09,602b20(00):らすは。たやすく往生をうへからす。曇鸞道綽懷感
0000_,09,602b21(00):等。みな相承の人師なりといへとも。義にをいては
0000_,09,602b22(00):いまたかならすしも一凖ならす。よくよくこれを分
0000_,09,602b23(00):別すへし。このむねをわきまへずは。往生の難易に
0000_,09,602b24(00):をいて存知しかたき物也と
0000_,09,602b25(00):ある時問ていはく。智惠のもし往生の要事となるへ
0000_,09,602b26(00):くは。正直におほせをかうふりて。修學をいとなむへ
0000_,09,602b27(00):し。又ただ稱名不足あるへからすは。そのむねを存す
0000_,09,602b28(00):へく候。たたいまのおほせを如來金言と存へく候
0000_,09,602b29(00):答ていはく。往生の業は。これ稱名といふ事釋文分
0000_,09,602b30(00):明也。有智無智をきらはすといふことはりまた顯然
0000_,09,602b31(00):也。しかれは。往生のためには稱名足ぬとす。學問
0000_,09,602b32(00):をこのまんとおもはんよりは。たた一向念佛して往
0000_,09,602b33(00):生をとぐへし。彌陀觀音勢至にあひたてまつらん時
0000_,09,602b34(00):いづれの法文か達せざらん。かのくこの莊嚴。晝夜
0000_,09,603a01(00):朝暮に甚深の法門をとく也。但し念佛往生のむねを
0000_,09,603a02(00):しらざらん程は。これを學すへし。もしこれをしり
0000_,09,603a03(00):なは。いくばくならさる智惠をもとめて。稱名のい
0000_,09,603a04(00):とまをさまたぐへからす
0000_,09,603a05(00):ある時問ていはく。人おほく持齋をすすむ。この條
0000_,09,603a06(00):いかん
0000_,09,603a07(00):答ての給はく。尼法師の食の作法は。もともしかるへ
0000_,09,603a08(00):しといへとも。當世は機すでにをとろへたり。食すで
0000_,09,603a09(00):に减したり。この分際をもて一食せは。心ひとへに食
0000_,09,603a10(00):事をおもひて念佛しづかならじ。菩提心經にいはく。
0000_,09,603a11(00):食菩提をさまたけず。心よく菩提をさまたぐといへ
0000_,09,603a12(00):り。そのうへは自身をあひはからふへきなりと
0000_,09,603a13(00):ある時問ていはく。往生の業にをいてはおもひさた
0000_,09,603a14(00):めをはりぬ。たたし一期の身のありさまをは。いか
0000_,09,603a15(00):やうにか存じ候へき
0000_,09,603a16(00):答ての給はく。僧の作法は大小の戒律あり。しかり
0000_,09,603a17(00):といへとも末法の僧これにしたがはす。源空これを
0000_,09,603b18(00):いましむとも。たれの人かこれにしたがふへき。た
0000_,09,603b19(00):た詮するところは。念佛の相續するやうにあひはか
0000_,09,603b20(00):らふへし。往生のためには。念佛すてに正業也。こ
0000_,09,603b21(00):のむねをまもりて。あひはげむへきなり
0000_,09,603b22(00):ある人問ていはく。つねに廢惡修善のむねを存して
0000_,09,603b23(00):念佛すると。つねに本願のむねをおもひて念佛する
0000_,09,603b24(00):といつれかすぐれて候
0000_,09,603b25(00):答ての給はく。廢惡修善は。これ諸佛の通誡なりと
0000_,09,603b26(00):いへとも。當世のわれらことことく違背せり。若別
0000_,09,603b27(00):意の弘願に乘ぜすは。生死をはなれかたきものか
0000_,09,603b28(00):ある人問ていはく。稱名の時心をほとけの相好にか
0000_,09,603b29(00):けん事。いかやうにか候へき
0000_,09,603b30(00):答ての給はく。しからす。たた若我成佛。十方衆生。
0000_,09,603b31(00):稱我名號。下至十聲。若不生者。不取正覺。彼佛今
0000_,09,603b32(00):現在世成佛。當知本誓重願不虚。衆生稱念必得往生
0000_,09,603b33(00):とおもふはかり也。われらが分際をもて。佛の相好を
0000_,09,603b34(00):觀すとも。さらに如説の觀にはあらじ。ただふかく
0000_,09,604a01(00):本願をたのみて。口に名號をとなふるこの一事のみ
0000_,09,604a02(00):假令ならざる行也
0000_,09,604a03(00):ある人問ていはく。善導本願の文を釋し給ふに。至
0000_,09,604a04(00):心信樂欲生我國の安心を略したまふ事。なに心かあ
0000_,09,604a05(00):るや
0000_,09,604a06(00):答ての給はく。衆生稱念必得往生としりぬれは。自
0000_,09,604a07(00):然に三心を具足するゆへに。このことはりをあらは
0000_,09,604a08(00):さんがために略し給へる也
0000_,09,604a09(00):ある人問ていはく。毎日の所作に。六萬十萬等の數
0000_,09,604a10(00):遍をあてて不法なると。二萬三萬の數遍をあてて如
0000_,09,604a11(00):法なると。いづれをか正とすへき
0000_,09,604a12(00):答ての給はく。凡夫のならひ二萬三萬をあつといふ
0000_,09,604a13(00):とも。如法の義あるへからす。ただ數遍のおほから
0000_,09,604a14(00):んにしかず。詮ずるところ心をして相續せしめんが
0000_,09,604a15(00):ため也。かならずしもかずを沙汰するを要とするに
0000_,09,604a16(00):はあらす。ただ常念のためなり。數遍をさだめつる
0000_,09,604a17(00):は懈怠の因縁なるかゆへに。數遍をすすむる也
0000_,09,604b18(00):ある人問ていはく。上人の御房の申させたまふ御念
0000_,09,604b19(00):佛は。念念ことにほとけの御意にあひかなひ候らん
0000_,09,604b20(00):とおぼえ候。智者にてましませは。くはしく名號の
0000_,09,604b21(00):功德をもしろしめし。あきらかに本願のやうをも御
0000_,09,604b22(00):意得あるがゆへにと
0000_,09,604b23(00):答ての給はく。なんぢ本願を信する事まだしかりけ
0000_,09,604b24(00):り。彌陀如來の本願の名號は。木こりくさかり。な
0000_,09,604b25(00):つみ見づくみのたぐひごときのものの。内外ともに
0000_,09,604b26(00):かけて。一文不通なるが。となふれはかならすむまれ
0000_,09,604b27(00):なんと信じて。眞實に欣樂して。つねに念佛申を最
0000_,09,604b28(00):上の機とす。もし智惠をもて生死をはなるへくは。
0000_,09,604b29(00):源空なんぞ聖道門をすててこの淨土門におもむくべ
0000_,09,604b30(00):き。まさにしるへし聖道の修行は。智惠をきはめて
0000_,09,604b31(00):生死をはなれ。淨土門の修行は。愚癡にかへりて極
0000_,09,604b32(00):樂にむまると已上信空上人の傳説なり進行集よりいでたり
0000_,09,604b33(00):信空上人又いはく。先師法然上人あさゆふをしへら
0000_,09,604b34(00):れし事也。念佛申にはまたく樣もなし。ただ申せは
0000_,09,605a01(00):極樂にむまるとしりて。心を至して申せはまいる事
0000_,09,605a02(00):也。ものをしらぬうへに。道心もなく。いたつらに
0000_,09,605a03(00):ゆへなきことをいふ也。さいはん口にて。阿彌陀佛
0000_,09,605a04(00):を一念十念にても申せかしと候ひし事也又御往生の
0000_,09,605a05(00):後。三井寺の住心房と申す學生。ひじりに。ゆめの
0000_,09,605a06(00):うちに問れても。阿彌陀佛はまたく風情もなく。た
0000_,09,605a07(00):た申す事也と答へられたりと。大谷の月忌の導師せ
0000_,09,605a08(00):らるとて。おほくの人の中にて説法にせられ候きと
0000_,09,605a09(00):白川消息よりいでたり
0000_,09,605a10(00):辨阿上人のいはく。故上人の給はく。われはこれ烏
0000_,09,605a11(00):帽子もきざるおとこ也。十惡の法然房か念佛して往
0000_,09,605a12(00):生せんといひて居たる也。又愚癡の法然房が念佛し
0000_,09,605a13(00):て往生せんといふ也。安房の助といふ一文不通の陰
0000_,09,605a14(00):陽師か申す念佛と。源空か念佛とまたくかはりめな
0000_,09,605a15(00):しと物語集にいでたり
0000_,09,605a16(00):ある時問ていはく。上人の御念佛は智者にてましま
0000_,09,605a17(00):せは。われらが申す念佛にはまさりてぞおはしまし
0000_,09,605b18(00):候らんとおもはれ候は。ひが事にて候やらん
0000_,09,605b19(00):その時上人御氣色あしくなりておほせられていは
0000_,09,605b20(00):く。さばかり申す事を用ひ給はぬ事よ。もしわが申す
0000_,09,605b21(00):念佛の樣風情ありて申候はは。毎日六萬遍のつとめ
0000_,09,605b22(00):むなしくなりて。三惡道におち候はん。またくさ
0000_,09,605b23(00):る事候はすと。まさしく御誓言候しかは。それより辨
0000_,09,605b24(00):阿はいよいよ念佛の信心を思ひさだめたりき同集
0000_,09,605b25(00):又人ごとに。上人つねにの給しは。一丈のほりをこ
0000_,09,605b26(00):へんとおもはん人は。一丈五尺をこへんとはげむへ
0000_,09,605b27(00):し。往生を期せん人は。决定の信をとりてあひはけ
0000_,09,605b28(00):むへき也。ゆるくしてはかなふへからすと同集
0000_,09,605b29(00):又上人のの給はく。念佛往生と申す事は。もろこし
0000_,09,605b30(00):わが朝の。もろもろの智者たちの沙汰し申さるる觀
0000_,09,605b31(00):念の念佛にもあらす。又學問をして念佛の心をさと
0000_,09,605b32(00):りとほして申す念佛にもあらす。たた極樂に往生せ
0000_,09,605b33(00):んかために南無阿彌陀佛と申てうたかひなく往生す
0000_,09,605b34(00):るそとおもひとりて申すほかに。別の事なし。たた
0000_,09,606a01(00):し三心そ四修そなと申す事の候は。みな南無阿彌陀
0000_,09,606a02(00):佛にて决定して往生するそとおもふうちにおさまれ
0000_,09,606a03(00):り。たた南無阿彌陀佛と申せは。决定して往生する
0000_,09,606a04(00):事なりと信しとるへき也。念佛を信せん人は。たと
0000_,09,606a05(00):ひ一代の御のりをよくよく學しきはめたる人なりと
0000_,09,606a06(00):も。文字一もしらぬ愚癡鈍根の不覺の身になして。
0000_,09,606a07(00):尼入道の無智のともからにわが身をおなしくなし
0000_,09,606a08(00):て。智者のふるまひせずして。たた一向に南無阿彌
0000_,09,606a09(00):陀佛と申てぞかなはんず。なと同集
0000_,09,606a10(00):又上人のの給はく。源空か目には。三心も南無阿彌
0000_,09,606a11(00):陀佛。五念も南無阿彌陀佛。四修も南無阿彌陀佛な
0000_,09,606a12(00):りと授手印にいでたり
0000_,09,606a13(00):又上人かたりての給はく。世の人は。みな因縁あり
0000_,09,606a14(00):て道心をはをこす也。いはゆる父母兄弟にわかれ。
0000_,09,606a15(00):妻子朋友にはなるる等也。しかるに源空は。させる
0000_,09,606a16(00):因縁もなくして法爾法然と道心ををこするゆへに。
0000_,09,606a17(00):師匠名をさづけて法然となづけ給ひし也。されは出
0000_,09,606b18(00):離の志しいたりてふかかりしあいた。もろもろの敎
0000_,09,606b19(00):法を信じて。もろもろの行業を修す。をよそ佛敎お
0000_,09,606b20(00):ほしといへとも。詮するところ戒定惠の三學をはす
0000_,09,606b21(00):ぎず。いはゆる小乘の戒定惠。大乘の戒定惠。顯敎
0000_,09,606b22(00):の戒定惠。密敎の戒定惠なり。しかるにわがこの身
0000_,09,606b23(00):は。戒行にをいて一戒をもたもたず。禪定にをいて
0000_,09,606b24(00):一もこれをえす。智惠にをいて斷惑證果の正智をえ
0000_,09,606b25(00):す。これによて戒行の人師釋していはく。尸羅淸淨
0000_,09,606b26(00):ならされは。三味現前せずといへり。又凡夫の心は
0000_,09,606b27(00):物にしたがひてうつりやすし。たとふるにさるのこ
0000_,09,606b28(00):とし。まことに散亂してうごきやすく。一心しづま
0000_,09,606b29(00):りがだし。無漏の正智なにによりてかをこらんや。
0000_,09,606b30(00):もし無漏の智釼なくは。いかてか惡業煩惱のきづな
0000_,09,606b31(00):をたたむや。惡業煩惱の絆を斷せすは。何そ生死繫縛
0000_,09,606b32(00):の身を解脱する事をえんやかなしきかなかないかか
0000_,09,606b33(00):せんせんここにわがごときは。すでに戒定惠の三學
0000_,09,606b34(00):のうつはものにあらず。この三學の外にわが心に相
0000_,09,607a01(00):應する法門ありや。わか身にたへたる修行やある
0000_,09,607a02(00):と。よろつの智者にもとめ。もろもろの學者にとふ
0000_,09,607a03(00):らひしに。をしゆる人もなく。しめすともからもな
0000_,09,607a04(00):し。しかるあひたなげきなげき經藏にいり。かなしみ
0000_,09,607a05(00):かなしみ聖敎にむかひててづからみつからひらきてみし
0000_,09,607a06(00):に。善導和尚の觀經の疏にいはく。一心專念彌陀名
0000_,09,607a07(00):號。行住坐臥不問時節久近。念念不捨者。是名正定
0000_,09,607a08(00):之業。順彼佛願故といふ文を見得て後。われらがこと
0000_,09,607a09(00):きの無智の身は。ひとへにこの文をあふき。もはら
0000_,09,607a10(00):このことはりをたのみて。念念不捨の稱名を修して
0000_,09,607a11(00):决定往生の業因にそなふへし。ただ善導の遺敎を信
0000_,09,607a12(00):するのみにあらす。又あつく彌陀の弘願に順ぜり。
0000_,09,607a13(00):順彼佛願故の文ふかくたましゐにそみ。心にととめ
0000_,09,607a14(00):たる也。そののち惠心の先德の往生要集の文をひら
0000_,09,607a15(00):くに。往生之業念佛爲本といひ。又惠心の妙行業記
0000_,09,607a16(00):の文をみるに。往生之業念佛爲先といへり。覺超僧
0000_,09,607a17(00):都。惠心僧都にとひての給はく。僧都所行の念佛は
0000_,09,607b18(00):これ事を行すとやせん。これ理を行すとやせんと。
0000_,09,607b19(00):惠心こたへての給はく。心萬境にさへきる。ここを
0000_,09,607b20(00):もてわれたた稱名を行する也。往生の業には稱名も
0000_,09,607b21(00):ともたれり。これによて一生の中の念佛。そのかず
0000_,09,607b22(00):をかんがへたるに。二十倶遍也との給へり。しか
0000_,09,607b23(00):れは則源空は。大唐の善導和尚のをしへにしたがひ
0000_,09,607b24(00):本朝の惠心の先德のすすめにまかせて。稱名念佛の
0000_,09,607b25(00):つとめ。長日六萬遍也。死期やうやくちかづくによ
0000_,09,607b26(00):て。又一萬遍をくはへて。長日七萬遍の行者なりと
0000_,09,607b27(00):徹選擇にいでたり
0000_,09,607b28(00):禪勝房のいはく。上人おほせられてのたまはく。今
0000_,09,607b29(00):度の生に念佛して。來迎にあづからんうれしさよと
0000_,09,607b30(00):おもひて。踊躍歡喜の心のをこりたらん人は。自然
0000_,09,607b31(00):に三心は具足したりとしるへし。念佛申なから後世
0000_,09,607b32(00):をなげく程の人は。三心不具の人也。もし歡喜する
0000_,09,607b33(00):心いまたをこらすは。漸漸によろこびならふへし。
0000_,09,607b34(00):又念佛の相續せられん人は。われ三心具したりとし
0000_,09,608a01(00):るへし念佛問答集にいでたり
0000_,09,608a02(00):又いはく往生の得否は。わか心にうらなへ。その占
0000_,09,608a03(00):の樣は。念佛だにもひまなく申されは。往生は决定
0000_,09,608a04(00):としれ。もし疎相ならは。順次の往生はかなふまし
0000_,09,608a05(00):としれ。この占をしてわか心をはげまし。三心の具
0000_,09,608a06(00):すると。具せざるとをもしるへし同集
0000_,09,608a07(00):又いはく。たとひ念佛せんもの。十人あらんか中に
0000_,09,608a08(00):九人は臨終あしくて往生せずとも。われ一人は决定
0000_,09,608a09(00):して念佛往生せんとおもふへし同集
0000_,09,608a10(00):又いはく。自身の罪惡をうたがひて往生を不定に思
0000_,09,608a11(00):はんは。おほきなるあやまり也。さればとてふてか
0000_,09,608a12(00):かりてわろからんとにはあらす。本願の手ひろく。
0000_,09,608a13(00):不思議なる道理を心えんがため也。されば念佛往生
0000_,09,608a14(00):の義を。ふかくも。かたくも申さん人は。つやつや
0000_,09,608a15(00):本願の義をしらざる人と心得へし。源空が身も。撿
0000_,09,608a16(00):挍別當ともが位にてそ往生はせんする。もとの法然
0000_,09,608a17(00):房にては往生はえせじ。されはとしころならひあつ
0000_,09,608b18(00):めたる智惠は。往生のためには要にもたつへからす。
0000_,09,608b19(00):されともならひたるかひには。かくのことくしりた
0000_,09,608b20(00):るははかりなき事也同集
0000_,09,608b21(00):又いはく。本願の念佛には。ひとりたちをせさせて
0000_,09,608b22(00):助をささぬ也。助さす程の人は。極樂の邊地にむま
0000_,09,608b23(00):る。すけと申すは。智惠をも助にさし。持戒をもす
0000_,09,608b24(00):けにさし。道心をも助にさし。慈悲をもすけにさす
0000_,09,608b25(00):也。それに善人は善人なから念佛し。惡人は惡人な
0000_,09,608b26(00):から念佛して。ただむまれつきのままにて。念佛す
0000_,09,608b27(00):る人を念佛にすけささぬとは申す也。さりなからも
0000_,09,608b28(00):惡をあらためて善人となりて念佛せん人は。ほとけ
0000_,09,608b29(00):の御意にかなふへし。かなはぬ物ゆへに。とあらん
0000_,09,608b30(00):かくあらんとおもひて。决定の心をこらぬ人は。往
0000_,09,608b31(00):生不定の人なるへし同集
0000_,09,608b32(00):又いはく。法爾道理といふ事あり。ほのほはそらに
0000_,09,608b33(00):のほり。水はくだりさまにながる。菓子の中にすき
0000_,09,608b34(00):物あり。あまき物あり。これらはみな法爾道理也阿
0000_,09,609a01(00):彌陀ほとけの本願は。名號をもて罪惡の衆生をみち
0000_,09,609a02(00):びかんとちかひ給たれは。ただ一向に念佛だにも申
0000_,09,609a03(00):せは。佛の來迎は。法爾道理にてそなはるへきな
0000_,09,609a04(00):り同集
0000_,09,609a05(00):又いはく。現世をすぐへき樣は。念佛の申されん樣に
0000_,09,609a06(00):すぐへし。念佛のさまたげになりぬへくは。なにな
0000_,09,609a07(00):りともよろづをいとひすてて。これをととむへし。
0000_,09,609a08(00):いはく。ひじりて申されずは。めをまうけて申へし。
0000_,09,609a09(00):妻をまうけて申されすは。ひしりにて申すへし。住
0000_,09,609a10(00):所にて申されすは。流行して申すへし。流行して申
0000_,09,609a11(00):されすは。家に居て申すへし。自力の衣食にて申さ
0000_,09,609a12(00):れすは。他人にたすけられて申へし。他人にたすけ
0000_,09,609a13(00):られて申されすは。自力の衣食にて申へし。一人し
0000_,09,609a14(00):て申されすは。同朋とともに申へし。共行して申さ
0000_,09,609a15(00):れすは。一人籠居て申すへし。衣食住の三は。念佛
0000_,09,609a16(00):の助業也。これすなはち自身安穩にして念佛往生を
0000_,09,609a17(00):とげんがためには。何事もみな念佛の助業也。三途
0000_,09,609b18(00):へかへるへき事をする身をだにもすてがたけれは。
0000_,09,609b19(00):かへりみはくくむぞかし。まして往生程の大事をは
0000_,09,609b20(00):けみて。念佛申さん身をは。いかにもいかにもはくくみ
0000_,09,609b21(00):たすくへし。もし念佛の助業とおもはすして身を
0000_,09,609b22(00):貪求するは。三惡道の業となる。極樂往生の念佛申
0000_,09,609b23(00):さんがために。自身を貪求するは。往生の助業とな
0000_,09,609b24(00):るへきなり。萬事かくのことしと同集
0000_,09,609b25(00):沙彌道遍かたりていはく。故上人おほせられていは
0000_,09,609b26(00):く。往生のためには念佛第一なり。學問すへからす。
0000_,09,609b27(00):たたし念佛往生を信せん程はこれを學すへし宗要集にいてたり
0000_,09,609b28(00):御 歌
0000_,09,609b29(00):阿彌陀佛といふよりほかはつのくにの
0000_,09,609b30(00):なにはの事もあしかりぬへし
0000_,09,609b31(00):千とせふるこまつのもとをすみかにて
0000_,09,609b32(00):あみたほとけのむかへをそまつ
0000_,09,609b33(00):いけのみつ人のこころににたりけり
0000_,09,609b34(00):にこりすむ事さためなけれは
0000_,09,610a01(00):むまれてはまつおもひてんふるさとに
0000_,09,610a02(00):ちきりしとものふかきまことを
0000_,09,610a03(00):あみたふつと申すはかりをつとめにて
0000_,09,610a04(00):淨土の莊嚴見るそうれしき
0000_,09,610a05(00):しはの戸にあけくれかかるしら雲を
0000_,09,610a06(00):いつむらさきのいろとみなさん
0000_,09,610a07(00):露の身はここかしこにてきえぬとも
0000_,09,610a08(00):心はおなしはなのうてなそ
0000_,09,610a09(00):阿彌陀佛と十こゑとなへてまとろまん
0000_,09,610a10(00):なかきねむりになりもこそすれ
0000_,09,610a11(00):月かけのいたらぬさとはなけれとも
0000_,09,610a12(00):なかむる人のこころにそすむ
0000_,09,610a13(00):
0000_,09,610a14(00):
0000_,09,610a15(00):
0000_,09,610a16(00):
0000_,09,610a17(00):黑谷上人語燈錄卷第十五
0000_,09,610b18(00):拾遺黑谷語燈錄卷中上漢語中下和語
0000_,09,610b19(00):
0000_,09,610b20(00):厭欣沙門了惠集錄
0000_,09,610b21(00):
0000_,09,610b22(00):登山狀第一
0000_,09,610b23(00):示或人詞第二
0000_,09,610b24(00):津戸返狀第三
0000_,09,610b25(00):示或女房法語第四
0000_,09,610b26(00):登山狀
0000_,09,610b27(00):それ流浪三界のうち。いづれの界にをもむきてか。
0000_,09,610b28(00):釋尊の出世にあはざりし。輪廻四生のあひた。いづ
0000_,09,610b29(00):れの生をうけてか。如來の説法をきかざりし。華嚴
0000_,09,610b30(00):開講のむしろにもまじはらす。般若演説の座にもつ
0000_,09,610b31(00):らならす。鷲峯説法のにはにものぞます。鶴林涅槃
0000_,09,610b32(00):のみぎりにもいたらす。われ舍衛の三億の家にやや
0000_,09,610b33(00):とりけん。しらず地獄八熱のそこにやすみけん。は
0000_,09,610b34(00):づへしはづへし。かなしむへしかなしむへし。まさにいま多生曠
0000_,09,610b35(00):劫をへて。むまれかたき人界にむまれて。無量劫を